第11話
――第一準備室。人工地の下、つまりキャンパス・シップの地下にあたる部分に、それは存在する。人工地以下の大部分はエンジンなどで占められているのだが、緊急時のための食料を保管しておく格納庫や、生徒が増えた時など何かあった時のための準備室が存在している。
ツバサ自身、地下へ行くのは初めてだった。一般的に生徒が踏み入れない場所である。
無機質な蛍光灯に照らされた銀色の廊下を進み、ツバサは地下一階の第一準備室の扉をスライドさせる。そこには、既にカノンもラックも待機していた。カノンは端に寄せられていた複数の机の一つに座り、脚をブランブランと前後させ、ラックは背中部分から机に体重を預けている。
「よっ!」
カノンが手の平をツバサに向ける。それに対し、会釈で返す。
第一準備室は、三十人が入る通常の教室と同じくらいの広さ、同じ設備をしていた。ただし窓はない。正面には授業で使用するデジ板(=デジタル板。触れれば、ビリジアン色だった板面が白く変色し、データを入力すればそれを映し出すこともできる)、机には全てモニターが取り付けられている。
「なあツバサ」
扉を閉め、ツバサはラックの隣の机に寄りかかった。するとラックは物凄い勢いで、ツバサの両肩を掴んで揺らしにかかった。ツバサの視界が上下にぶれて、脳がガクンガクンする。肩に乗っていたモカはすぐにツバサの頭上へ移動した。
「聞いてくれよ! クラスの奴らがさ、『ミッションも果たさず、命欲しさに帰還するなんて、さすがE判定常連のカノン班だよな。テストなんてどうせ死なないのに、戦うことを放棄して逃げ帰るなんて俺らにはできない芸当だよな』とか話しててよ! 俺めっちゃ腹立って、そいつの胸座掴んで言ってやったんだよ! 『テメェらもう一回言ってみろ』ってな。したらそいつ、本当にもう一回同じこと言いやがってさ! もう頭きて、そいつ殴ってやったんだ!」
「……それで、どうなったんですか?」
「教官にめっちゃ怒られた」
「……まあそうなりますよね」
ツバサはラックの両手を掴んで下ろし、呆れ返って深く溜息をついた。
「いつも言ってるじゃないですか。いくらムカつくことを言われても、最終的に手を出した方が悪くなるって」
ツバサの言葉に、ラックが肩を竦める。それを見て、ツバサは再び溜息を漏らした。
「……とは言っても、先輩の気持ちはよく解ります。だからお礼を言います。その場面見てないですけど――、スッキリしました」
「ツバサ……」
笑顔を向けるツバサに、ラックは顔をくしゃりと歪め、次いでガッシリとツバサの体を掴んだ。腕ごと体をがんじがらめにされたようで身動きが取れない上に、苦しい。
「せっ、センパイ……、くるしい……です。死……ぬ……」
ツバサはやっとの思いでラックを引き離し、肩で呼吸をする。対するラックは嬉しそうに満面の笑みを浮かべている。




