Time to say “ Re:start”
何か大切なものを失ってしまった気がする。
でも、同時に失っていない気もする。
まだ俺の手の届く範囲の何処かにあって、俺自身気付いていなくても確かにそこに存在している。そんな気がする。
それを思い出そうとすると、まるで冬の海の底に居るような感覚に陥る。音も光もない、閉鎖された世界。寒くて、とても息苦しい。
ここにはない。俺は本能的に感じ取って、意識をさらに深い所へと巡らせる。深海の、さらに奥へ。
暫くすると、息苦しさはなくなる。無意識のうちに閉じていた瞳を開くと、淡い光を放つそれがある。多分これが俺が探し求めているそれに関する記憶なのだろう。それにしても、何だがとても懐かしくって暖かい。無意識に、俺の腕が伸びる。それは、俺の手が触れる前に小さく揺らめいて消えてしまう。そうすると元の暗闇の支配する世界に逆戻り。
あくまで、これは俺のイメージ。
いつからかはわからないが、気付いた時には俺はこのイメージに支配されていた。だからといって日々の平穏な日常に支障をきたすものでもない。夢でたまに現れるくらい。きっと漫画の読み過ぎからくる妄想癖だろうとこの頃ではあまり気にしていない。
ありふれた存在の俺こと榊原泰介の、他人とちょっと違う点はこれくらいだ。
だから俺も他人と同じようにごく当たり前に平穏な生活を手にしていると思っていた。
それが、一人の少女による命懸けの犠牲の上に成り立っている儚いものであるとは思いもせずに。