第4章 胎動 1
そこは何かの研究所のようだった。
広い空間に乱雑に配置されたオブジェのような資材や機材の合い間を、みな同じ白衣を来た人間が動き回っていた。十数人ほどいるだろうか、中には今にも倒れそうに虚ろにデスク作業をしている者や、笑みをこぼしながら、数人で専門的な会話を仲交わしている者たちもいた。
各々何らかの作業に取り組んでいる。
「チーフ、被験体ナンバー、A−012のPGO波に、今までにない反応があります」
「データをこちらに転送してくれ、確認する」
その一人が、不規則に並んでいる機材の中で、ひときわ大きなデスクで作業をしている人物へと声をかけた。
チーフと呼ばれた青年──というには少し語弊があるのかもしれない、痩せこけた面構えに、無造作に伸びている無精髭や、全く整えられた形跡がない長髪の御蔭で実年齢が特定しにくい為である。
整った顔立ちをしているように思えるが、だらしない外見でそれも台無しである。
そのチーフと呼ばれた人物は、そう言いながら、デスク上に置いてあった冷めたコーヒーに口をつけながらデータの転送を待った。
「これは…」
「今までにも微弱なのは多々ありましたが、ここまで起伏が激しいのは初めて確認されましたね」
データが送られてきて、彼はそれを確認した。
幾つかの資料書類を運んできた、先ほどデータを送ってきた研究者の言葉が耳に届いていないように、画面を凝視する。
「…まるで、不規則に何かに対して反応しているように見えますね」
資料を手に持ちながら、PC上に移る画面を見て淡々とした感想を述べた。
「ああ」
言葉に反応するように、少し画面から座ったまま背筋を伸ばしたが、画面からは目を離す様子はない。
「常時興奮状態に近く、所々浮き沈みしてるな、まるで思春期の子供が異性と話してるときみたいな、そんな風にも見えないか?」
画面から目を離さずに、傍で立っている研究者に語りかける。
「はは、文学的ですね、さしずめ恋でもしてる夢でも見てるんですかね」
「そうだな、この被験者がこうなったのは、確か中学生くらいの頃だろ?」
苦笑しながら言い、冷めたコーヒーを喉に流し込み、背後に立っていた研究者から資料を受け取る。手渡した研究者は、自分のデスクのある方へと戻っていった。
ざっと、手渡された資料と、データの表示されている画面を見やり、もう空になっているコーヒーカップをすすった。
空になっているコーヒーカップを見やり、資料をデスク上に置き、カップを手にして重苦しいように立ち上がる。
腰と肩をコリをほぐすように少し動かし、歩き始める。
ふと、室内の中央の方へと目を向け、そちらの方へと進路を変える。
中央には大きなガラス張りの円柱状の空間があった。
その中の部屋には、様々な機器を取り付けられ、ベットの上で眠いっている、幾人もの男女が居た。
彼は円柱の端をなぞるように移動しながら、一人の女性が正面に見える位置まで移動した。
暫く中で様々な機器を取り付けられながら、すやすやと眠っている女性を眺める。
寝息が今にも聞こえてきそうな、穏やかな表情をしている。
綺麗な女性だった。真っ白な1枚の布切れのような服が体のラインをしっかり見せて、その線の細くも滑らかな肢体がくっきりと窺える。真っ白く病的なまでに綺麗に透き通った肌があたかも人形のように見て取れ、ベットの上を黒く長い髪が白と黒のコントラストを強調させるように広がっていた。
「…眠り姫は、王子様のキスで目を覚ましたいのかな?」
ガラスに手をやり寝ている女性を見ながら言う。
「ちょっと台詞が臭いなこれは」
見たままの印象を口に洩らしたのだが、自分の言った事に苦笑を洩らしながら、背を向けてその場を後にした。
少し短いですが次話投稿です。
これから徐々に話が色々と進展していけたらいいなと思います。
色々な方に読んでいただければ幸いですし、何か感じたことがあれば、是非評価等お願い致します。