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第2章 出会い 1

いつもの事ながら不思議な感覚だ──


自分が自分じゃないような──


今この時なら荘周(そうしゅう)の気持ちだって分かる気がする──


自分が蝶になった夢を見たのか──


蝶が自分になった夢を見ているのか──


まあ、そんなことは今この時にはどうでもいいな──


楽しもう、今が自分にとってのリアルであるように──


 気が付くとそこは草原だった。

 雲ひとつ無い青空が広がり、初夏の少し暑いくらいの日の光、辺り一面に広がる腰ほどもあるような背の高い草の波が、これでもかと言うほどに、音も無く静かに揺れ動いていた。

「夢みたいだよな、こんな景色…」

 そこは紛れも無く夢なのだが、歩は図らずともそう呟いてしまった。

 辺りの草に触れてみる、それは草だった──

 歩はその触感に心を躍らせた。

「凄いな、結構はっきりしてる…うやむやな時多いからな……」

 ここは紛れも無く夢の中だった。

 だが今の歩にはその感覚自体は半々あれば良いところだろう。

 夢を夢だと自覚して夢を見られるのは、早々あるべき事ではないのだから。

 それは夢に対して真摯に受け止めている人間である、歩にとっても例外ではない。

 彼自身もこれだけはっきりと自覚が出来る夢というのは、早々あることではなかった。

 だがこれがあるから止められない──

 今、歩は草の感触を実感できており、それを草を触ろうと、自分の意志である程度考え行動を行えていた。

「草、草、草…あー静かだなあ…いいなあこれ……」

 心躍らされる感覚もある、今ここは紛れも無く彼にとってのリアルとなっている。

 訳も無くはしゃぎ、周りの全てを気にせずに、何でもできる。

 ここでは彼が全てであり、全てが彼であった。

 その感覚に線が一つ切れるように、全てと一体になるかの如く歩は駆け出していた。

「…ははは、これこれ、これだよ、これ」

 草を掻き分け、ただひたすらに走る。疲れなど無い、永遠に走っている事だって出来る。ありえない速度で駆け抜けることだって出来る。

 歩は高く飛び、背中から草をクッションにするように、大の字に寝そべろうとした。

 ドン──

 軽い衝撃が背中に走った。

「痛て!……痛い? そんな訳、無いよなあ…」

 普段感じることの出来る感覚──だが夢の中では感じたことの無い感覚を味わい、少し戸惑ったが、すぐに忘れようとした。

「この草はクッションで、ふわっと包み込まれてって……うーん、こういうこともあるよなあ」

 頭の後ろに手をやり、大の字に草の上で寝転がり、周りで自分の体重で折れている草をポンポンと叩きながら考える。

「ちょっと上手くは行って無いかなあ…まあ…いいか」

(でもなんかおかしいな、考えれてる…なんでだろ、普段”なんで?”なんて思えること早々無いし…あっても覚める時…覚める時? 自分で夢だって実感できてる…?)

 おかしなことだった、夢を夢と自覚できること、あるはずの無い痛みのような感覚、言葉を話している自分を理解し、頭で考えるということを理解できている自分。その全てがおかしく思えた。


「あなた、誰?」

 物思いにふけっていると、ふいに頭の上の方向から声を掛けられた。

 視線だけそちらの方にやると、自分の寝そべっている頭の少し上から、覗き込むように一人の少女がこちらを見つめていた。

 中学生くらいだろうか? 白と紺の標準的なセーラー服に身を包み、きょとんとした顔でこちらを見つめている。

 位置が位置だったため、少女のスカートの中が一瞬目に入ってしまい、慌てて目をそらし、起き上がる。

「あ、いや、えーっと……こんにちは」

 恥ずかしさで今まで考えていたことも消え、その場から立ち上がり、少しばつの悪い顔で後頭部を手で掻き、間の抜けた挨拶をした。

「こ、こんにちは」

 相手も何で慌てていたのかわからないような顔で、返事を返してきた。

「…私、夢っていうのあなたは?」

 少しの沈黙をはさみ、少女が言う。

「夢? 夢かあ、ははは───俺、歩」

(って夢に自己紹介してもしょうがないか)

 この夢に対して苦笑を洩らし答える。

「あゆむ?」

 尚も疑問を浮かべた表情のまま少女は言った。

「うん、歩くって書いてあゆむ」

「歩…歩…よろしくね」

 歩の名前をじっくりとかみしめるように言い、夢はにっこりと微笑み握手を求める手を差し伸べてくる。

 その手を握り返し歩も微笑み返す。

(暖かい…まるで生きてるみたいだな…)

 夢の手の感触に触れ、じっと見つめながら思った。

「痛、ちょっと痛いよ歩…」

「あ…ごめん」

 思わず握る手に力が入ったのか、夢は少しこわばった表情をして、手を離す。

「ううん…いいの…ちょっとびっくりしちゃっただけだから」

 夢はきびすを返し、今度は歩の手を引くように、左手を差し出してきた。歩も今度は気をつけながら、その手を優しく握り返す。

「こっち、いい場所あるから付いてきて」

 その手を離さないよう夢に手を引かれながら、草の波を掻き分けるようにただ真っ直ぐと奥へ奥へ進んでいく。

(彼女…いや…妹って居たらこんな感じなのかな?)

 そうふと思った。

 夢の手は小さく、歩からみれば今にも壊れそうにも思えた。

 だが夢がぎゅっと握り返すその手は、気持ちのいい体温の暖かさと感触に満ちている。


 どのくらい走っただろうか。

 一瞬にも感じ、とても長い時間のようにも感じた。

 草原を駆けていると、いつの間にか短い芝生のような長さの、緑色の絨毯が広がっているような小高い丘のような場所に出ていた。

「こっち」

 夢は少し方向を変え、少し走るペースを上げ、その手に引かれ丘の上の方へと進んでいく、すると公園にあるような屋根付きのベンチのような物が目の前に見えた。

 その場所に徐々に近づくにつれ、丘の先と青空の間がスライドしていくように青白く揺れる。

 歩くような速さになり、屋根付きベンチのある辺りまで来た時。歩はそれが何かはっきりと気が付いた。

「海…」

「うん…綺麗でしょ」

 青白く揺れているように見えたのは、日の光を反射した波だった。

 ゆらゆらと、まるで大きな蜃気楼のように揺れ動いていた。

やっとルビ1度つけてみた位、機能の使い方がぎこちないです。

コツコツ頑張ります。

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