第14章 亀裂 2
少女が零した涙を拭う素振りを見せながら立ち上がる。突然の動きに驚き、少女の姿を追い視線を上げた矢先だった────
キィンと、再度何かが頭を突き抜ける。
痛みと神経を逆撫でするような不快感に襲われながら、抗えず頭を抱えうずくまる。
徐々にぼやける視界の中で、暴れるように動く少女の姿を薄っすらと捉えた。頭を掻き毟り、地団太を踏む。癇癪声を上げるように口を大きく開け、焦点の定まらない物憂げな表情をしていた。
(また……! 何なの…)
必死に思考をめぐらすが痛む頭に邪魔をされ即座に霧散する。少女が駄々をこねるように暴れる度に、甲高い痛みが頭を幾度も突き抜けた。何が起こったのか分からない、考えることなど出来ず、薄れそうな意識を保つだけで精一杯だった。
先程とは違い痛みが何度も駆け巡った。時には二度三度と連続で襲われ。頭が今にも張り裂けそうだ。
突然周囲から、パリーンと高い音が複数聞こえた。視線だけを探るように周囲を一瞥する。校舎のガラスが何枚も次々に割れていた。
「くぅう……ぅ……か…ぁ」
徐々に激しくなる痛みに耐え切れず、菖蒲は頭を抱えながらその場にぐったりと倒れ込んだ。呻き声を上げながら、胃液が逆流しそうな嗚咽を繰り返す。目尻に零れ落ちそうな涙が溜まる。じたばたと溺れるようにもがき、中庭の土に爪をたてる。
胃液の逆流に耐え切れず嘔吐する。何も入っていない胃からは、ただ粘膜のような胃液だけが零れ落ちる。喉に熱い痛みを感じ続け、それを全て吐き出す。
今にも糸が切れて崩れ落ちそうだった。息を荒げ必死に抵抗をする。この場から逃げ出そうと這いずるが、前に進めているのかは分からなかった。
(も……ダメ……)
這いずる気力すら失い、ギリッと奥歯を噛み締め痛みに耐える。
「はぁ……はぁ……」
どの位この痛みは続いていたのだろうか、意識も失いかけた時、痛みが和らぐ感覚が徐々に全身に広がっていった。
すぐには理解することが出来なかった。痛みが消えたのがいつなのか理解できず、次第に軽くなってきた体を寝返りを打つように動かし、虚ろに空を見上げた。
未だ荒げる吐息と、酷い二日酔いに掛かったような頭が重く圧し掛かってくる。
首だけを動かし辺りを見やる。少女の姿はもうそこには見当たらなかった。
見える限りの校舎のガラスが殆ど割れている。
(何だったんだろう……)
まだ靄の晴れない頭を抱えながら立ち上がりる。
頭に響いた感覚、割れたガラス、白昼の幽霊、断片的に頭に浮かぶが、それ等を繋がりにするには些か情報が不足する。
短い更新かつ、約1ヶ月ぶりの更新です。
コツコツ頑張ります。