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あるはなし

作者: 無花果

冬の童話祭に乗り遅れた、みたいな・・・。

ちょっと、後味の悪さみたいなのが残るかもしれません。


むかしむかしで始まるお話。

あるところに、一人の男の子がいました。

名をジザ、といいます。

ジザはとても綺麗な瞳を持っていました。

その瞳はとても珍しいものでした。

それゆえに、ジザは八歳のときに、両方の瞳を盗られてしまったのです。

ああ、可愛そうなジザ。

もう小さな男の子は、

白い雪を見ることも、熟れた赤い真っ赤な林檎を見ることもできないのです。

そして親も八歳のときに、目と一緒に失いました。

天涯孤独になったジザは、養ってくれる人もいません。

自分でパイを作ることもできません。

畑を耕すこともできません。

今までも、気味悪がって近寄ってこなかった村人は、見てみぬフリをしました。

ああ、自分はもう餓えて死ぬのだなぁ、と幼いながらに聡明なジザは思いました。

しかし、そこに声が聞こえてきました。

「おまえは目が見えないのか」

「はい。少し前に、盗られてしまいました」

ジザは、死ぬ前に人と話せたことがうれしくて、喜んで質問に答えました。

「お前は、目を取り返したいと思うかね?」

「返ってくるのならば」

「そう。では、取り返してあげようか」

声が聞こえなくなりました。

やはり幻聴だったのだな、とジザは思いました。

でも、いい夢を見たようで、ジザはうれしかったのです。

心地よいような、悲しいような気持ちで、何日かを過ごしました。

なかなか死ねないものです。

自分自身、早く死にたいと思っているのに。

ぼんやりとしていると、また声が。

そして、さっきとは違い、何者かの気配も近くにありました。

「ほら、お前の目だ」

微かに血のにおいもします。

手を差し出しているのでしょうか。

目が見えないから、ジザには分かりようもありません。

相手の姿も見えません。

本当に自分の目を持っているのかも分かりません。

でもジザは死ぬ前に、優しさを傾けてくれている、声の主の言うことを信じたいと思っていました。

「ああ、ありがとうございます。

これでゆっくり眠ることができます。

でも、僕は、この瞳を見る目を失いました。

これが僕の両の瞳であるかもわからないなんて。

だから、せめて、綺麗と言われたこの眼を見ることができる貴方にこれを差し上げましょう。

貴方が取り返してくれたのですから。」

くすくすと、声の主が笑いました。

「自分に物をくれたのはお前が初めてだ。

お前、叶えたいことはあるか」

ジザは久しぶりに笑いました。

優しさに触れることがうれしくて、

ふと、自分の目が両方ともないことが、とてもさびしいことに思いました。

「目を取り返してくれた貴方がいてくれたことがうれしくて、もう胸がいっぱいです。

僕はもうお母さんも、お父さんもいません。

でも、もうすぐ再び会うことができます。

この世に未練もありませんし、

目がないこの身体では、願い事もありません。

ただひとつ、願い事があるとすれば、

お母さん達に、会えたとき、片方の目だけでもいいから、

普通の目でいいから、お母さんお父さんを見たいです。」

「そう」

声の主は人を哀れむということをしたことはありませんでした。

それは自分にすがってきた人間が、あまりにも醜かったからです。

力を求めるだけで、なにか自分にくれる、なんて人はいませんでした。

自業自得で不幸になり、自分勝手に見返りだけ求める。

だから気まぐれでこの子を助けました。

ただ珍しい瞳を持っているだけで、たくさんのモノを失った男の子。

欲がない幼子。

そろそろ消えてしまう灯を前に、自分に何ができるでしょう。

いつしか助けると言うことを忘れてしまった自分には、

もう、何もできませんでした。








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