第2話・そして場は沈黙に包まれた。
どうしよう。どうしよう。どうしよう。
すっごく遅れました。
積みゲー処理してたらこんな時間!
それに新話を書き上げるのにすっごく手間取りました。
ホント申し訳ない。
では続きです。
ぺたぺた。さわさわ。
微睡みの中、ごそごそと物音がする。くすぐりにも似た優しい感触のする何かが身体に触れているのを、アオイは浅い眠りの中で感じ取った。
「っ……ん?」
妙に腰回りが気怠いように感じた。なんだと思い、目を開けるとそこは薄暗い真っ白な部屋だった。先程、目が覚めて何かないかと探ったのと同じ部屋。何もないし扉も開かない、何もできなくてそのまま不貞腐れて二度寝してから変わりはない、と思ったが違った。
ぺたぺた。さわさわ。
(部屋が明るい?照明が点いたのか?)
一度目に起きた時と違いはっきりと明りに照らされていた。部屋が白に統一されている事から尚明るく見える。
どういうことだと考えを巡らせようと頭を働かせるが寝起きの頭には少々無理があった。
ぺたぺた。さわさわ。
「てか、さっきから何?」
考え事をしているのに先程から今まで身体を触られている感覚がある。まるで軽いボディタッチのようで、くすぐったくて少しもどかしいものの不快感はない。それでも気になるものは気になった。
ぺたぺた。さわ……。
身体を触れられる感覚がなくなった。それでも離れる気配はなくて、逆に近寄ってくる。
寝惚けた頭で考えていたが徐々に意識がはっきりとしてきた。一度二度と頭を軽く振って眠気を散らした。
「……ん、殿様起きた?」
「あ?この声は……ネルケ?」
「ん。おはよ」
目を覚ましたそこには最後に見たネルケと殆ど変わらない姿で微笑んでいた。
姉妹機であるエーデルと瓜二つの顔と綺麗な銀髪、金の目は変わらない。髪は多少伸びているが、忍と書かれた額当てをつけており、慎ましい胸部を覆う細めの鎖帷子、その上に超ミニの忍者服を着ている。手足には手甲と脚甲、腰の後ろには忍者刀が差されていた。
「……は?」
完全装備じゃないか、とアオイは驚いて目を見開いた。
空間格納庫内臓ゆえに持ち物からは推定できないが、今のネルケの武装から察するに現状はアオイが思う以上に危険な状況にあるのかもしれないと戦々恐々した。
……ぺたぺた。さわさわ。
さてどうするかと考えていると、ネルケは挨拶もそこそこにアオイの身体を触り始めた。その手付きは優しくて、触診するように隅から隅まで――。
「いやいやいや。待て待て待て。ちょっと待って」
がしっとネルケの手を取って止めさせた。少し忘れていたが今のアオイは全裸の裸族だ。そんな状態で女の子に身体を弄られるのは一男としてどうなのか。ダメだろう、とアオイの頭脳は即座に答えを弾き出した。
「ん?」
「いや、なんでそんな不思議そうにするかな。女の子がそんな簡単に男の身体に触るもんじゃないでしょ?」
「問題ない。殿様だから平気。ん……ぽっ」
「俺が平気じゃない……!」
両手で取っ組み合うように押しやるが、いかんせん、ネルケの腕力はアオイを上回っていた。徐々にネルケの魔の手は伸びており間もなくアオイの身体を蹂躙するのも間近だ。
「ぐへへ。抵抗は無駄。天井のシミでも数えてればすぐ終わるって。……ん?シミがなかったら何を数えるの?」
「知らねえし!そんな台詞どこから覚えてきた!?女の子なら恥じらいを持とうな!というかなんで俺は襲われてるの!?」
「ん?襲ってない。これは立派な医療行為」
「医療、行為?」
「ん。直接肌に触る事で体表や内部に異常がないかを探す。問題ない」
ふと抵抗が緩んだ。ネルケのほうもきょとんとした顔で言葉少なに説明してくれた。
つまり触診だ。患部に触れて診察する方法の一つ。
なるほど確かに医療行為だとアオイは納得する。
「そうだったのか。それは悪い……いやいや、診察ならスキャンがあるんだから触る必要なくね?」
納得したが次の疑問が湧いた。ミドガルドの、というよりもアオイの周辺の医療レベルは非常に高いものだ。主な怪我や病気は重度か低度に関係なくナノマシンを使って細胞レベルで治療するので、メスなどでお腹を切り開くなどはまずしない。
診察も同様で、複合的なスキャンにより患者の異常部分を発見する事ができるので直接触れる必要がない。
そのはずなのだが、なぜネルケはそのようなあからさまな嘘を吐いたのか。
「ん?ワタシが触りたいだけ」
「なん、だと……?」
それが何か、というようにネルケは疑問を口にしてのけた。おまけに小首を傾げてさもなにが悪いのかわからないという風に。
「ん。そーい」
「あっ、ちょっ!?」
呆けたアオイはここで油断した。ネルケが一瞬の隙にアオイに馬乗りになりマウントポジションを取ったのだ。
この体制は流石に色々とマズイと思ったアオイは抵抗した。しかし、身を捩ったり手を押し出したりと色々と試したが今の体勢やネルケの膂力が優っている事からどれも不発に終わる。
「んふふ。大丈夫。痛くしない。寧ろ気持ちいいかも?」
「いいから!そういうのはいいから!てか、なんでこんなに手馴れてるのさ!?」
「ん。捕縛術や無力化は得意」
「それって犯人の逮捕術じゃん!ぐぎぎぎ!?」
つっこみで気が抜けたところへネルケが一歩抜きん出た。押し込まれて劣勢になったアオイは最後まで踏ん張るが抵抗は弱まっていく。
というかアレだ。今の体勢は本格的にマズイ。全裸のアオイの上にネルケが馬乗りしているわけだが、力んだ事でアオイの男の部分がオッキしてしまっている。ネルケもネルケで息を荒げて頬を上気させているのだが、取っ組み合いで忍者服が乱れて胸元や裾が露わになっていた。
男女の立場が逆転している点を除けばどう贔屓目に見てもレイプ現場だった。
「もう、諦めるべき。殿様は、ワタシが……嫌い?」
「その聞き方はずるいなああっ!」
「ん。それなら問題ない。だから……」
「ちょっと!?これ以上は流石に洒落にならないって!誰か来てくれええええっ!!」
アオイが最後に叫んだと同時に部屋に唯一ある扉が轟音とともに吹き飛んだ。
「っ!!」
「なに!?今度は何さ!?」
扉が吹き飛んだ時の粉塵が舞っている。アオイの上から跳んだネルケは着地と同時に忍者刀を抜いて扉の向こうを警戒していた。
突然の事態に混乱しつつもアオイは、粉塵の奥に二つの金の輝きと揺れる銀を見た。
カツンと破片を蹴る音がした。粉塵の中の金と銀がゆっくりと動き出して姿を現した。
「やっぱり来たね、姉者」
「ネルケ。何を、しているのですか?」
向かい合う二名。片や忍者刀の柄を握り腰だめに構え警戒し、片や悠然と立ちその冷厳とした瞳で他を睥睨している。
「エーデル……?」
呆然と呟いたアオイが言うように、粉塵の奥から出てきたのはアオイのよく知る人物、エーデル・シュタインだった。
表情や身体的なものは記憶にあるエーデルと変わらない。アオイの記憶にあるように、エーデルは黒のワンピースに白いエプロンドレスとカチューシャというスタンダードタイプのメイド服を着ている。足元だけは頑丈さが売りの無骨な軍用ブーツという、完璧から少しずれた様相のエーデルは、これこそが完璧であると言うように堂々としている。
ついでに言うなら白手袋で覆われた手は固く握られており、いつも以上に表情が硬い。だというのにネルケはこのようにどこ吹く風だ。
突然の登場で思い出した怒りや憤り、悲しさなどの感情が吹き飛んでいた。同時に一触即発の殺伐とした状況に心の中で涙したのは内緒だ。
「ちょっとした診察。医療行為だよ」
「ほう、医療行為ですか」
「ん。やだな、姉者ったら。何を期待したの?」
「…………」
「……ん?」
更なる重苦しいプレッシャーが部屋に充満した。流石にこれはネルケも冷や汗を流さずにはいられない。それでも面には出さないのは意地だった。
「警告します。即刻この場から退出しなさい。これは命令です」
「やだ。理由がない」
僅かな逡巡すらない見事な切り返しだった。そこに意地も何も関係ない。純粋に不満が出ただけのようだ。答えた本人も驚いたように口元を押さえている。
「確認です。命令を拒否すると、そう仰るのですね?」
「そこまで言ってない。もしかして、嫉妬?」
「……言葉の意味が分かりません」
ネルケの目がキラーンと妖しく輝いた。その表情は、まるでネズミを前にしたネコのようだ。
「んふふ。ワタシの目は誤魔化されないよ」
「意味が分かりません。視覚素子の点検と交換を強く推奨します」
本気で睨み付けるエーデルが極寒を思わせる空気を撒き散らしながら言った。いつの間にか手には抜身の大太刀が握られており妖しく輝いている。
余計な事は言うな。斬るぞコラ?
言葉にはしなくとも目がそう言っている。多少の偏見はある語訳だろうがネルケは間違っていないと確信していた。
「これが最後です。出ていきなさい。私はマスターにお話ししなければならない事があるのです」
ここにきてようやくネルケはエーデルの内心を察した。否、察していたが今の今まで引き摺っていた事に呆れていた。警戒も解いたらしく忍者刀から手を放していた。
「姉者。まだ気にしてたの?」
「これは私の罪です。あの時からマスターを騙し続けた私の……」
「騙した?……ゴメン。ちょっと意味が分からないんだけど」
ここにきて不穏な言葉にアオイも黙ってはいられなくなった。至極真剣に二名に問いかけた。ただし、全裸なので恰好はつかなかったが。
エーデルもこの場で言い争うのは不謹慎と思い、ネルケに一時休戦を申し出た。ネルケもこれを了承し、無事に事態は収束する。同時に上に居るシブリィ達へ連絡し捕縛命令を解除した。
そうしてエーデルがアオイの着替えと装備の入った腕輪を手渡して漸く一息吐いた。
「ご復活、心よりお喜び申し上げます。些事だったとはいえ、マスターへのご挨拶が遅れました事、真に申し訳ありません」
「いいから。それよりさっきの騙した云々って、その、どういうこと?冗談だよな?」
笑い飛ばそうとしてもぎこちなく、どこか空回りしている。そんなアオイを前にしたエーデル達は先程のやり取りが嘘のように表情が硬い。
「全てお話しさせていただきます。途中お怒りになられるかもしれません。ですがどうか最後までお聞きくださいますようお願いいたします。お話が終わりましたら私の処分はご自由になさっていただいても構いませんので」
「……わかった。今がどうなってるのか知りたいし、エーデルの事は信頼してるけど、あの時の事は俺も……ちょっと思う所も、あるし」
「マスター……」
「いや、まずは話を聞かせて。何があったの?」
「はい。事の始まりはマスターがお生まれになってから数年経った時まで遡ります――」
それから語られる真実にアオイの心は散々として乱れた。
イングバルドとクロードの思いや考え、深い愛情について。
二人の遠い過去の原罪を清算するためだった事。
アオイに隠れて裏で進められていた数々の計画について。
これら計画にはアオイ以外の全員が関わっていた事。
計画の全てがアオイとミドガルドの未来を守るためだった事。
アオイが眠ってから二万年と少しの歳月を経ている事。
現在の世界情勢や傾向、特に時代背景について。
エーデルの告白は多岐に渡った。その全てを現在の情報として受け入れられた事を不思議に感じていると、それに理由があり細かな部分は眠っている間にナノマシンを通した情報転送で脳に直接知識として植えつけていたのだ。これにより違和感なく現代に適応できるとの事だった。
重苦しい中でアオイは冗談で『洗脳?』と言い少しでも笑おうとした。それに対して律儀にもエーデルが『応用すれば可能です』と答えた事で笑うに笑えなくなり顔を引き攣らせた。
気まずい空気が流れたが、ネルケが『殿様にやるわけがない。絶対』とフォローした事で緊張は和らいだ。
そうして、最後に手渡された両親からの手紙を受け取った時、アオイは家族との別離を実感できずにいた。緩慢な動作で手紙の封を切った手付きは震えるばかり、やっとの事で中の紙片を取り出し読み始めた。
長い年月を経て開封された手紙には見覚えのある筆跡で書かれた文章が目に入った。
父の無骨な角張った筆跡。母のお気に入りの香の匂い。全てが昨日のように思えた。明日にはまたあの両親に振り回される日々なんだと思ってしまう。
そんな事はもうありえないのに……。
手紙は謝罪文から始まり、次に突然の別れに対する説明があった。その所々に思い出話が差し挟まれており、手紙の文字が不自然に滲んでいる。涙ながらにこの手紙をしたためていたのだろうと、やや呆然とした頭ながらアオイにそう思わせた。
そして最後の文脈に目が行き、そこで手紙を読む気力が潰えた。混乱する中で脳は状況を整理しようとするも心が停止を訴えていたのだ。
頭を抱え蹲るアオイを心配してエーデルとネルケが左右から寄り添い介抱した。
アオイの額から溢れ出る汗をハンカチで拭い、吐き気を覚えたアオイの背を落ち着くように優しく撫でた。寒そうに震える身体を抱きしめて、何度も声を掛けて必死に勇気付けもした。
それから暫くの時を掛けて、それらの行為が功を奏したのかアオイは少しだけ落ち着きを取り戻していた。顔色はまだ青いものの立ち上がるだけの気力を見せていたのがその証拠だ。
「マスター。言い訳は致しません。全ては私の独断によるものです。いかなる処分も受ける覚悟です」
「っ……!」
片膝で跪いて謝罪するエーデルは深く深く頭を垂れていた。その隣ではネルケも同様に跪いている。最悪、廃棄処分される事も覚悟しているのだと嫌でも理解させられた。
それに対して彼女達を見下ろすアオイの顔色は青褪めており、極度の緊張が見られた。手は固く握られて震えており、唇は固く結ばれている。
「お前が……!」
アオイの心に渦巻く感情は複雑だ。騙されたという悲しみ、守られていたという喜び、愛する両親との別離の哀しみ、これからに対しての不安などが激しく絡み合い鬩ぎ合っていた。
信じてる。でも信じられない。それでも信じたい。大切な彼女達だから。
「エーデル、お前が……!」
エーデル達の裏切りともいえる行為。しかし、それにはアオイを守るという明確な理由があり、アオイの両親も賛同していた。アオイだけが蚊帳の外に居た。その事実を前にまるで足元が崩れ落ちるような錯覚に囚われた。
やり場のない憤りだけが行き場を失い、固く握られていた拳が振り上げられる。
「お前が……!!」
殴れ。殴ってしまえ。これは罰だ。殴ってしまえばいい。
ダメだ。殴って何になる。余計に傷付くだけじゃないのか。
色々な感情が鬩ぎ合い、頭の中が混乱している。それでもアオイはこのまま拳を下す事ができずにいた。
「遠慮はいりません。どうかお気の済むまで。それでマスターの御心を少しでも晴らせるなら本望です」
「ん。右に同じ」
「お前達は……!」
なんでそんなに、澄んだ目をしているんだ。
エーデルだけでなくネルケも透き通るような目をしていた。それはある種の覚悟を決めた色であり、覚悟を決めた者の目はアオイの乱れた心を更に掻き乱した。
振り上げられた拳が震える。震えは拳から腕へ、腕から身体へと伝わり散々に乱れた感情が、ついに――。
「できるわけ、ないだろう……!」
振り下ろされる事はなかった。固く握られた拳は力を失いだらりと下ろされた。
できない。彼女達もアオイの大切な者達なのだ。できるはずがない。
彼女達のした事には憤るものはあるし言いたい事も多々ある。それでもそれらは全てアオイを慮っての善行であり悪行だった。しかし、それを責める資格が自分にあるのかとアオイは更なる苦悩を重ねた。
「一つ、いや、二つだけ聞かせてくれ」
「はっ。なんなりと」
ああ、と零してぎこちなく笑う。こんな時でもエーデルはいつも通りなんだなとアオイは何とはなしに思った。
「父さんと母さんは、どうなったの?」
「わかりません。あの時、私共は別の場所にて作業しておりました。強い魔力反応で状況の把握も困難でしたので、詳細は不明です」
「そう。……そっか」
まあ、わかってたことだ。イングバルトとクロードは、もう居ない。どこにも。
アオイが聞いたのも他者から見た意見を聞きたかったのと自分なりに割り切るための儀式のようなものだ。
「二つ目だけど、今回の一連でエーデルに、エーデル達に悪意はあった?」
「それはありません!!!」
「っ!?」
今のエーデルは感情を爆発させた。積もり積もった感情の蓄積は激情の本流となりアオイの内なる芯に強く響いた。
「それだけは絶対にありえません!私達のした事にお怒りなのは十二分承知しています!しかしながら一連の計画はマスターをお守りするためのもの!私を初め皆が俗物にも等しい私欲、我欲に囚われた者は誰一人として居りません!皆がマスターを思っての事!それだけは!それだけはどうかご理解いただきたい!」
冷徹非常の仮面をかなぐり捨てて感情を露わにしたエーデルの訴えにアオイは絶句した。
立ち上がり身振り手振りを交えて訴えるエーデルはいつになく強い感情に突き動かされていた。
「姉者!落ち着いて!殿様、驚いてる!」
「っ!ぁ、う。ぶ、分も弁えず取り乱しました事、重ね重ね申し訳ありません」
「あ、え? あ、ああ……」
「真に申し訳、ありません……」
感情を露わにした事を恥じてエーデルは元の跪いた姿勢に戻った。
エーデルは一見冷徹そうに見えてしまうがその実身内には厳しくも優しい娘だ。しかし感情を表に出す事を酷く苦手としているために誤解されやすい。レギオンシスターズも最初は内心で少し怖かったと言っていたのを思い出した。
ああ、そうなんだ。エーデルは変わってない。あの頃から何も。冷静そうに見えて実は意地っ張りで寂しがりや、たまにちょっと我儘で、気配りやで優しくて。
でも、時計の針を止めたようにエーデルの感情は凍り付いていたのだ。それが今、感情の爆発を切っ掛けに動き出した。そう考えるとアオイの心の澱が大分和らいだ気がした。
だから、これだけは最後に聞きたかった。
「――うん。エーデル」
「はっ……」
「俺はお前達を信じていいんだな?」
「それでは!ぁ……」
アオイの思わぬ問いに歓喜を乗せて面を上げた。しかし、そこに居たのはいつもの優しいアオイ・ルメルシエではなく、彼女達の創造者としてアオイ・ルメルシエだった。
記憶に一つもないアオイの顔を見たエーデルはなぜか泣きたくなるほどに悲しくなった。
「嘘偽りなく真実を答えろ。エーデル・シュタイン」
「っ、はっ!私達の全てはマスターただ御一人の御為にあります!」
「二度とこのような事はないと信じていいな?」
「全てはマスターの御心のままに!全身全霊、このエーデル・シュタインを初めアスガルド一同が誓います!」
エーデルの宣誓に同じく跪いたネルケも同様に頭を下げた。アオイは二名を前にじっと見詰めた。一分かそれとも一時間か、少なくない時間が経過したと錯覚してしまいそうな沈黙の後でアオイは一つ二つと頷いた。
「……うん。ならいいや。ちょっとまだ整理がついてないけど、許すよ」
「っ!?ます、たぁ……!」
面を上げたエーデルの口から出る言葉が形を成さない。ネルケも言葉にはしないが顔を両手で覆い肩を震わせている。床には滴が濡らしていた。
そんな二人を前にアオイは頭を掻きながら何ともばつが悪そうな顔をした。
「まあなんだ?またよろしく」
「っ、はいっ!幾久しく、お傍にてお仕えいたします!ますたー……う、ぅぅ!!」
体面も取り繕えずにぼろぼろと涙が溢れた。それか哀しみではなく喜びの涙だ。幼い少女のように泣きじゃくるエーデルに、アオイは歩み寄り労わるように優しくその頭を撫でていた。
「もう泣くなよ。仕方のない奴だな。許したんだから笑えって」
「うぅ。は、い。ありがとう、ございますっ。ますたぁ……!」
アオイが慰めるが涙が止まらない。それどころか次々と涙が溢れてくる始末だ。
それも当然だ。ずっと、ずっとずっと不安だった。
自分の罪だ。アオイの気が晴れるなら、慰めになるなら何をされてもいいと覚悟はしていても、心では許されたい、またお傍に置いてほしいという浅ましい願いが燻っていた。そんな浅ましい願いを何度も何度も打ち砕いて二万年以上も心の奥底に封じてきた。
叶うはずがない。恨まれている。そう思っていた。思っていたのに。
それなのにその罪は他ならぬアオイによって許されたとなれば、エーデルの喜びは一体どれほどのものか。本人をして把握できるものではない。
それでも一つわかる事があるとするなら、それは嬉しいという感情だろう。
「ああ、また泣いて。お前さ、前よりも泣き虫になってないか?」
「ますたぁ、ますたぁ、ますたぁ……!」
「あー、もー。よしよし」
傍で慰めるアオイの胸に顔を摺り寄せて涙する。アオイが慰めれば慰めるほどエーデルの凍り付いた心は歓喜の涙となって甘く溶かされていく。まるで幼い少女が大好きな人に甘えるようだ。
幼子のように泣きじゃくるエーデルを胸に抱いたアオイは仕方ないなと困ったようにぎこちなく笑うと彼女の髪を梳くように撫でて優しく慰めた。
そんな一人と一体をすぐ傍で見ている一対の目があった。
「あれ?ワタシは……?」
ネルケの一言に場が凍り付き、少しだけ気まずい空気が流れた。
ここで宣言しよう。
作者はシリアスが大の苦手だと!
シリアス?いやいや好きなのはシリアルだから。
でもまあ、ちょっと急展開に過ぎたかもしれません。
本当はですね。もっとエーデルとアオイの関係をドロドロしたものにしようと思ったのですよ。
でもそうすると話数がとんでもない事になって第二章の文字数がそれだけで半分は埋まってしまいそうだったのです。
それだけはマジで勘弁だって。無理無理。それは無理だって。作者の精神を考慮したらまず無理。
作者はダーク系よりもハートフル系が好きなのです。
ハッピーエンド最高!ご都合主義万歳!愛とお金と幼女が世界を救うのだ!
ではでは。




