表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/64

それぞれの種族は


ちょっと全話のサブタイトルを一新しようか検討中です。

第~~話では味気ないように思いましたので、昔のようにサブタイトルをつけようかと。

それとこれら断章はちょくちょく増やしていく可能性があります。




 


 


~~竜族の場合~~


 エーデル達と別れたアウレールは古代竜の長としての決定と話し合いの決定を伝えるために一族の許へ戻っていた。大空で待機していた一族は今、管理を任された第三浮遊島ヴァナヘイムの山頂付近にて会合を開いていた。

 竜族はそれほど個体数の多くない種族だ。その代わりに個々の能力がずば抜けて高い事で有名だ。鋭い牙と爪、強靭な身体は頑強な鱗で覆われて守られており、竜の吐息は山をも砕くと言われている。大空を舞いながらでは敵の攻撃すら届かない。

 そのような超越種達が今一堂に会していた。とは言え三桁に届くかどうかといった数だったが。それでも地上に存在する竜族の三分の二ほど集っているのだ。

 アウレールから決定事項を聞いている間は一族の皆が沈黙を守っていたが、それも今は終わり小さく騒めいている。その中で一頭の若い竜が立ち上がる。


「長よ、よいだろうか」

「構わぬ。ここは意見を交わす場だ。発言するがよい」


 竜族の大半が集った場で立ち上がったのはまだ万も生きていない若い雄竜だった。翼や四肢からは若々しさらしき力強さを感じさせられる。


「長よ。決定には従う。だが、本当にこれでよかったのだろうか?」

「その問いに意味はない。事は既に決している。我が一族と他竜族の数頭も意思を同じくした。我ら移住組は種の存続を第一とせねばならぬ」

「それは理解している。しかし、地上に残った同朋をこのまま見過ごしてよいのか疑問なのだ。今からでも助けに行くべきではないかと不安になる」

「その気持ちはわかる。だが彼らは自らの意思で地上に残ったのだ。これに異を唱えるのは侮辱するも同じ。そして侮るな。彼らも我らが同朋である。竜族がこの程度の災害なにするものぞ」

「…………」

「お前の心配もわかる。だがここは彼らこそを信じるのだ。我らは我らの使命を全うするだけでよい」


 問答が繰り広げられる中、アウレールの心は穏やかだった。物事に盲目的にならずこのように疑問を口にできる。その事に竜族の光明を見出していた。

 従うだけではなく自ら考え行動する。言葉にするだけなら簡単だが、実行するとなると難しい。ちょっとした疑問を口にするのすら憚られる世の中で、このような若い雄竜が居ることが喜ばしかった。

 だがその喜びも若い雄竜の次の言葉で崩れさる事になる。


「しかし長よ。そもそもこの事態は奴らが引き起こしたことではないのか。本当に地上を引き裂く必要が――」

「口を慎まぬか!それ以上を口にする事は私が許さぬ!!」


 怒声が衝撃波となって轟き、山頂そのものが揺れた。若い雄竜の言葉は最後まで形になる事はなかった。あまりの事態に喉を鳴らして威嚇音を上げる。


「し、しかし、長よ!」

「黙れ!あのお方達のお気持ちを!そのご子息を案ずる彼女達の思いを!迷いがなかったと思うか!苦しまなかったと思うか!それでも進まざるを得なかったその思いを解さぬなど、誇り高い竜族なら恥を知るがよい!」


 怒声ではなく今度は眼力と魔力を吹き荒して若い竜を威圧した。翼を大きく広げて鋭い爪と牙すら剥いて威嚇している。そこに一切の手加減などはなく全力で意思を乗せた魔力を叩きつけていた。


「も、申し訳、ありません。どうか、どうか、お許し、いただきたい」


 若い竜はその威容にも関わらず喉を引きつらせて怯えていた。他の竜達もアウレールの圧倒的な威圧感に萎縮してしまっている。怒りで我を忘れかけたアウレールは周囲の視線に気付くと大きく息を吸い高まった怒気を吐き出した。竜の吐息は炎となって散っていく。


「許すが良い。私にお前を害する意はない。だが、大恩あるかの方々への暴言を見逃すには余りある。わかるな?」

「は、はい。私も口が過ぎました……」


 この未だに震える若い雄竜には悪い事をしたとアウレールは後悔した。今回の事で変に萎縮してしまわないかが慮られた。

 アウレールはゆっくりと語りだす。


「そもそもの原因は人間族の愚かな闘争の果ての結果にすぎぬ。慈悲深い御方達の温情を勘違いしたあれらが選択した結果だっただけの事よ」


 竜族は最後まで関わる事はなかったが、人間族の闘争にはエルフ族と獣人族、他にも多くの種族が巻き込まれた。召喚された悪魔などの魔族も戦場に多くの混乱を撒き散らした要因でもある。遠からずアース大陸全土に闘争の災禍は広がり、やがては生物の生きられない地となってしまうのは自明の理であった。

 短命ゆえの愚かさか、彼らは多くの物を、多くの命を、その他にも多くのものが消費された。全てが灰燼に帰してしまう事は必至だった。だからこそ竜族と精霊、他にも幾つかの種族がイングバルドとクロードのラグナロク計画に賛同したのだ。

 今一時、不毛の大地にしたとしても、それは未来への可能性を残すために。

 命や物、犠牲は多い。されど黙って滅ぶよりはいい。葛藤がなかったわけではない。こんな独善的な救済など誰が望むものか。それでも成し遂げなければならない。未来の子らのためにも。

 理由はもう一つある。言い方は悪いが、見返りにこうして安全な地を得た事だ。

 地上に残された、または残った種族がこれからどう生きるかによるが生存は不可能ではない。多くはないだろうが生き残れるかは各人の努力と執念次第だろう。


「我らは種族を絶やしてはならぬ。選択を誤る者は死に、正しき選択をした者は系譜を連ねるのだ」


 思慮深くあれ。短慮は慎め。我ら誇り高き竜族なり。


 


▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽


 


~~精霊の場合~~


 豊かな森林と小さな水源のある第二浮遊島アルフヘイム。この地の管理を任された精霊達は思い思いの場所へ散っていった。

 地上から上がってきた精霊は相当数に上る。四属性の火水地風、上位の雷光闇の三属性。専属契約を結んでいない下位精霊から上位精霊まで多くの精霊が今ここアルフヘイムに集っている。

 地上、引き裂かれつつあるアース大陸はやがて幾つかの大地に別たれ新しい地上世界を作るだろう。その時に地上に残った精霊達が命の輪廻を歌い続けるだろうが、それだけでは生み出すマナの総量が大きく足りない。多くの精霊が地上を去った今、大地の活力が衰えていく事は目に見えている。

 それは世界的なマナ不足に陥る事を指す。命の源であるマナの不足による砂漠化と生物の出生率の低下など問題は今後多くなる一方だと予想できた。

 エーデルの話では一万年も耐える事ができたなら大地の再編も完了しているとのことだった。その後は環境を調整して元の命溢れる大地に生まれ変わる。これには精霊の協力が必須であり、全面的な協力が得られるのでもっと早いかもしれないとも言っていた。

 そうして新たな地上世界の創造が果たされた時こそが精霊達の本番だ。命は巡り巡ってマナからマナへと帰る。そしてまた新たな命として生まれるのだ。マナを生み出す精霊はそれら調整者といえる。

 その時までにアルフヘイムにてマナを蓄えて淀んで穢れないように適度に循環させるのだ。予定総量を満たしたなら蓄えたマナを解き放ち、元以上に地上を命の光で満たすのだ。


「――とまあ、もっともらしいこと言ってるけど、実際は過ごしやすい場所を確保したかったのよね。なはは」


 この光精霊、ぶっちゃけすぎである。

 しかしそれもまた事実だ。精霊は命溢れる中にこそ心地よさを感じる。ならば今後著しく生命力の低下する地上よりも生命力の満ちているアルフヘイムこそが今は相応しい。


「しかし、英断かと。私達精霊に死の概念はなくとも、多くの同朋が救われ未来へ繋がりました。後の世に楽しみも残されていますし」

「そのためにはたっくさん歌って、マナを溜めておかないとね。新しい地上世界に命の光を一斉に解き放つためにね。あっ、ちゃんと循環させて澱なんか生まないようにしないとダメだよ?」

「承知しておりますよ。マナの収集する場所は私達水精霊の住む泉ですもの。穢れて毒沼になられては困ります」

「うんうん。フェリちゃんは真面目で大変結構だね。……これでもう少し融通がきいたら尚結構だったのに」


 ぼそりと呟かれた一言。それを耳にした水精霊の目がキラリと光る。

 気のせいか、温度が数度下がった気がした。


「エーヴ。今何か?よく聞こえなかったのだけど」

「な、ななななな何でもないよぉぉ?あるわけないじゃない」


 言葉が震えて語尾が裏返っている。

 それでも敢えて気づかないふりをするべきか、と考えて……。


「そうですか」


 見逃す事にした。この程度いつもの事と割り切ってしまえば何の事はない。

 対してエーヴはブンブンと音が鳴るほど頷いてみせた。これもいつもの事だ。


「あとフェリちゃんはやめてください。私の名前はフェリシテ・アンジェリク・バルバラ・エメです。勝手に縮めないでください。不愉快です」


 どこか冷めていた視線が今は凍てつく氷のような視線に一瞬で変わっていた。

 薄青色の衣を揺らして水精霊フェリシテが光精霊エーヴへ近づいてその頭部をがっしりと片手で掴み上げた。

 美女が美少女の頭を掴み持ち上げる。あまり目にしたい光景ではない。


「えーっ!なんでなんでなんで!?可愛いよ?フェリちゃん可愛いよ?ほら可愛い!違うの?」

「そ・れ・で?」

「あばばばばっ!?頭が割れる割れる割れるぅぅぅ!!」


 頭を掴んだ手元からギリギリと嫌な音がした。可愛いと言われても頬を染めるどころか小動すらしていない。逆にだからどうしたと冷めてさえいる。

 そのままギチギチやってから解放されたエーヴは涙目だった。


「あうあうあう。ぐずっ、こわかったよぉ。えぐえぐっ、いたかったよぉぉ」

「ああ、そういえばそんな事よりも気になる事があるのですが」

「そんな事!?ひどいよフェリちゃん!とっても痛かったのに!ひどいよ!」

「気になったのですが……コホン。向こうでは、その、ご子息にはお会いになられたのですか?」

「全無視!?ガン無視とかフェリちゃんって鬼畜だね!」

「答えないと毟りますよ?」


 なにを、とは口が裂けても言えない。


「ごめんなさい!でも会ってません!」


 ビシッと敬礼の真似事をするエーヴだがそれを見るフェリシテの視線は依然として冷たい。どこか呆れの感情もあるのかもしれない。


「そう、ですか。……使えない子ですね」


 そう言うと最後にチッと舌打ちを残して吐き捨てた。勿論聞こえないように小さくだ。

 するとガチガチに緊張していたエーヴが思い出したというようにあっと声を上げた。


「でもね、ヴァナヘイムとアスガルドへの移動は立入禁止区域を除いて基本的に自由だって言ってたよ。もしかしたらそのうちに一目見られるかも!」

「ほう……」


 興味深い。そのような意味合いの吐息だった。

 何が楽しいのかエーヴはニコニコ笑っていた。


「え?なになに?興味あったりしちゃった?恋?ねえ恋?素敵!精霊とヒトとの間に芽生える恋物語だね!」

「違います。恩人にして盟友のご子息とは言え、会ったこともない者にそのような気持ちを抱くなど有り得ません」

「えー、じゃあじゃあなんで?興味ありげだったじゃない!違うの?」

「……そ、そんなことはありません。ええ、ありません。ただ、これからお世話になるお方ですし、できればご挨拶でもと思っている次第でして、だから……それだけの事です。ええ、そうですとも」


 さっと顔を逸らした。それも自然を装って。

 言い訳染みたその物言いで本人は否定しているが何かしらの興味はあるようだ。よく見ないと分からないだろうが頬も少し赤く染まっている。

 それを目にしたエーヴはへえと声を漏らす。天真爛漫はそのままに今の彼女は慈愛すら見せている。フェリシテがどのような意味でアオイを見ているのか、とても興味があるがそれを今聞くのは野暮、無粋というもの。


「よくわかんないけど、がんばれ!フェリちゃん!」

「意味がわかりません。あとフェリちゃんと呼ばないでください。不愉快です」

「なはは」


 ちょっと拗ねたように返すフェリシテが可愛い。普段が生真面目なだけにこういう時は特にそう思えた。

 これから過ごすこの地は楽しい日々になりそうだと感じたエーヴは声を上げて笑った。


 


▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽


 


 この世には多くの種族が存在する。

 歌を奏でる事で命の源マナを生み出す精霊。純マナ存在にして強大な魔力を持つ竜族。世界のあらゆるものに宿る妖精。

 それらの反存在たる魔族。獣がカルマナに侵されて変じた魔獣。純カルマナ存在にして強大な魔力を持つ悪魔。粗暴で狂暴、残念な事で知られる妖鬼。

 正と負。陰と陽。マナとカルマナ。相反する力の源をそれぞれに魔力へ変換する事で力を得たのが彼らだ。

 人間族は高い汎用性と繁殖力が特徴と言えるかもしれない。突出した能力がないゆえに一定の段階まで万能にこなせるように適応した種族といえる。

 エルフ族は美男美女であることで有名である。身体能力は他種族よりやや劣るが生まれつき多く魔力を内包している事から魔法関係では高い技量を発揮する。

 獣人族は多くの支族がある。犬系や猫系が代表的だが、他にも狼系などもあるのだ。一部を除いて高い身体能力を持っている。反面、魔力保有量が低い。

 種族全体的の割合は人間族が約七割、その他の種族が残り約三割となっている。これ以外に魔族が居るがこれは例外だ。遥か昔に仄暗い地の底ヘルヘイムに封印、隔離されており、現在の彼らの総数は未確定とされているからだ。

 最も多いのが人間族、次いで獣人族、その次にエルフ族やドワーフ族。他数多くの種族がアース大陸で日々を営んでいた。

 今までは。

 人間族を中心とした闘争が大地を蝕み、空を汚染した。感情豊かな、正と負の感情のどちらも併せ持つ人間という種を愛していた。ゆえにイングバルドとクロードは苦しむ人々を支援するため旅の商人を装い密かに各地を回り援助した。だが争いは減る事がない。それどころか激化する一方であった。

 それらを見て聞いて感じたイングバルドとクロードは大いに悲しみ憂いた。何度も悩み悩んで時に葛藤し時に逃避した。そして漸く出した結論にも疑問は残るものの、鉄の意志を胸に最後の最後に最大の手段に打って出た。

 独善的と言える救済に意味があるのか。犠牲を多く出さずとも救えたのではないか。考え悩んで、また考えて苦しんだ。それでも綿密に考えられた計画の下に大陸を割り大多数の種族の存続を大目標としたのだ。

 そして今、大災害に見舞われたアース大陸は、嵐の中の木船のように翻弄され四方に引き裂かれた。内一つ、完全な八つ当たりで西方部が消滅した事で三つに別たれた。

 無理矢理に活性化させた大陸プレートが動き出した事で大地震や崖崩れで地上部は滅茶苦茶にした。荒れた海が大陸と大陸の間に流れ込み沿岸部同様に大地を削り押し流した。活性化した大地により火山噴火が多発し裂けた大地からは溶岩が噴き出した。地震洪水火災、この世にある全ての災害が一度に襲いかかった。

 大災害は七日七夜の間続きアース大陸は厄災に侵された。

 人工的な大陸分断による闘争の緩和と種の存続を目的とした大陸再編計画。

 救済計画、大陸再編計画。様々な略称で記されているが、一番明確な名はこれだろう。終末を意味するラグナロク、この計画は完全に遂行され次の段階へ移行する。

 災害の影響が下火になり、少しずつ収まるまで要した時間はおよそ千年、その間に激減した生物は細々と生き長らえていた。

 地上は危険があるために多くの人々は安全な地下で生活していた。まだアース大陸が戦乱の真只中であった時に作られた大規模シェルターが多数残っていて、その中で嵐が過ぎるのを震えながら待っていた。

 地上で食料を確保するのも多大な苦労を強いられた。減り続ける食料、先行きの不透明な情勢、何より絶望していた。人々の不安は日に日に募っていく。それでも絶滅しなかったのは奇蹟に等しい。だがそれは彼女達の調整による計画通りだからだ。最低限、種の絶対数を割らないように調整したのだから当然と言える。

 そうして長く続いた災禍が落ち着きを見せた頃から徐々に環境調整のための手入れを増やした。山を砕き、谷を作り、川を整備した。それらを何度も何度も何度も繰り返した。

 そうして約千年かけて繰り返された工程で漸く大地に緑が戻り始めた。

 この時から人々は徐々に地下シェルターから出てくるようになる。元のようにとはまだ言えなかったが、それでも地上で生活できる環境に戻りつつあった。皆がその事実に喜んだ。

 そしてその日を境にして三つの大陸で一斉に命が咲き誇った。アルフヘイムの精霊達が蓄えに蓄えたマナを一斉に解き放ったのだ。それからの地上は長い冬が明けた春のようだった。枯れるばかりだった蕾が次々と咲き誇り、新しい命が花開いていた。

 明日への道、未来を閉ざしていた暗い霧が晴れた瞬間だ。

 それからまた暫し数千年の時が経ち、アオイが眠らされてから一万年の時間が経過した。その間に多くの出来事が観測された。

 最初に地上にぽつぽつと小さな村が作られていく。これは数十名の小さな村から、多くとも百名余りの村だ。アース大陸時代の村では万単位で村人が居た頃とは比較にもならないほど小さなものだった。住居となるものも木造のログハウス程度の粗雑な作りでしかない。

 だが生活基盤を根本から破壊された現状で集団生活、社会構造の再構築という点から見るなら大きな一歩と言えた。同時に、国家という概念が生まれた瞬間でもある。


「今日は記念すべき日だ!暗い穴蔵より出て地上へ舞い戻った!」


 とある人間族の宣言だ。改めて日の光の下で生きる事を許された皆が歓喜した。

 命の息吹が世界を駆け巡り各村では次々に新生児が誕生する。それにより人口も増加した事で村の統合化が進められ町が起こった。これも千名単位の小さなものだったが、それは徐々にだが人口数を増していく。

 建物も木造に石材を加えた作りを取り入れるなどして建築技術を向上させていた。他にも農業関連が発達した。村の時のような小規模のものではなく、町が大きくなるにつれて食料の確保が重要だったからだ。

 そして三つの大陸から遠い海の上、その更に上空に悠然と浮かぶ島を彼らは目にした。

 遠くからでは本当に小さくにしか見えない。だが彼らの中の何かが強烈に訴えかけてきた。

 あの浮島には何かある。力強い何かがあるのだと。

 この頃から地上の人々は誰ともなく浮島をヴァルハラと呼ぶようになる。強者達の集う最後の楽園の意味を持つその名に誰もが憧れた。

 そして時は流れて……。


「我を求めよ!さすれば我は汝らを守ろう!」


 王の誕生だ。より豊かな生活を求めた人々は強く、そして優れた指導者を求めた。国家という概念が明確なものとなったのだ。

 多くの指導者は庇護下にある者達の期待に応えるために万進した。小競り合いが稀にある事から武力を必要とした。これが軍事力の誕生だ。軍需は産業を加速化させる。織物、鉄鋼などの工業の発展の始まりである。

 丁度この頃からアース大陸時代の遺跡に注目が集まる。遺跡からは叡智の結晶たる魔導機械技術や魔法技術で作られた遺物の発掘が行われ始めたのだ。

 数多ある遺跡を発掘する者達を人々は探索者と呼んだ。彼らは個人や国を問わず依頼されたものを遺跡から持ち帰った。

 ただし発掘に際してどうしてもその遺跡のある土地の利権や発掘者個々の思惑などが複雑に絡んで言い争いになる事も多々ある。最悪、国と国の間で小競り合いになる事もあるので危険な仕事だ。

 それからは時代が進み発展と衰退を繰り返していたが幾つかの町には多くの人が集まり、やがて都市となった。

 発掘で手にした魔導機械技術も遅まきながら解析が進み、それらの技術は農業や工業にも取り入れられた事で大きく発展した。

 農業では機械化と効率化が進められて生産数を大きく増加させた。工業から重工業へ移り変わり大きく質を向上させた。

 建物も木造から石造りのものが主流となり地面は石畳が敷かれ、大通りには魔導機械技術で作られた街灯が立ち並び暗い夜を明るく照らした。

 自動車などの乗り物が普及し始めた。高価ゆえに富裕層にしか普及していないが、魔導機械技術を実用段階で取り入れている証拠となった。更には魔力波を応用した通信技術が発展した事で、遠隔地との情報のやり取りを可能としたのは革新的ですらあった。


「我らは過去に失われた技術を復活させた!我が国こそが大陸を統べるに相応しい!」


 大国の王となった者が大陸全土に放った宣戦布告ともいえる宣言だった。

 最も人間族の多い大陸の一つで行われたこの宣言に同大陸内の国々は大きく動揺した。

 宣言と同時に軍事侵攻を開始した大国を相手にそれ以下の国力しか持たない小国では戦っても敗北は必至。既に幾つかの国が滅ぼされ併呑された頃になって、漸く小国家連合を組織するようになりこれに対応した。

 数えきれないほどの戦場で戦いは起きた。しかし時既に遅く、大陸の大部分が王国の支配下に入り戦火は下火となり戦争は終結の兆しを見せていた。

 王国の勝利。圧倒的な技術力と軍事力を背景に進軍した王国の前に敵はなかったのだ。

 大陸を統一した王国は以降、数百年に渡って支配していた。だがそれも長くはなく内紛と独立戦争などで王国は内から分裂した。

 それからも闘争と平穏を、誕生と滅亡を繰り返した。幾つもの国が、民族が立ち上がり歴史を塗り替えていったが、その歴史の裏にはいつも必ず彼女達の影があった。

 これが一万年の間に起きた事の大半だ。

 それから更に一万年ほどの歳月が流れて、アオイが眠らされてから二万年と少しが経った頃、地上の人々は空へと目を向けた。

 あの大空を飛びたい。鳥のように、竜のように、思うままに飛びたい。

 大空海時代の幕開けだ。

 止まっていた時計はゆっくりと動き出す。物語は漸く紡がれようとしていた。








フリーメー●ンか!とか言わないで!

違うから!あんな高度なことできないから!にゃーっ!?

…………コホン。失礼しました。

さて、断章とか今さらいるのかと思われるかもしれませんが、第二章に入ると説明文が過多になってしまったのでその緩和の意味で導入しました。

もうホントに似非とは言えファンタジーは説明文が多くて困る。

書いてて楽しいけどね!

頭の中であれこれ想像するのが好きなんです。ははは。

ではでは。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ