第1話・幕間
活動報告で書きましたがちょっとしたお詫び投稿。
日記風にしてみました。
視点はアオイの父親クロード氏です。
では、どぞー。
PS.
2013/3/6加筆修正しました。
皆の感想&評価&ネタ提供が作者の力になっております。
▼月⊇日
日記は初めてつける。研究日誌ならやった事はあるがこういうものは初めてのために勝手がわからない。
ついに今日待望の子供が生まれた。それも元気な男の子だ。名前をアオイとした。黒髪黒目は種族特有のものだけど、その綺麗な顔立ちはイングバルドのそれを受け継いでいる事がわかった。目元はボクのものなのか鋭く男らしく感じたのは親バカなのだろうか。
ともかくこれでルメルシエ家に長男が産まれたわけだ。本当にめでたい!
出産時になかなか出てこなかったので引っ張り出そうとしたが頭が引っ掛かり大変だった。無事に生まれた時は妻であるイングバルドも出産で疲労した身体なのに本当に嬉しそうに産まれたばかりのアオイを抱き上げていた。泣いていた我が子もやがては安心したように眠っていた。
それらを見た時、ボクは顔面の筋肉をだらしなく緩ませてしまっていた事が自分でもわかったのは恥かしくもあったが嬉しくもあった。
そして心の隅では不安があった。ボク達は夫婦になって幾億年の歳月を共にしてきたけど子供ができたのは初めてだった。だからこそ子育ての経験もない。頼りになるのは古い文献と人間族や亜人族などの子育てを参考にするくらいだった。ボク達よりも年配の方々に相談できればよかったのだが訳あって今この惑星にはボクとイングバルド以外の同胞は居ない。
が、がんばって子育てしないとっ……。
僕達の長命種はその尽きる事ない生命を持つからこそ滅多に子供は産まれない。肉体の構造は人間族のそれに近いものがあるけど内在する生命力が他の種族とは桁違いだ。生命力とはマナそのものでありマナを体内で魔力に変換したものを高純度、高濃度という質と量を兼ね備えている。
個人の資質にもよるが強大な力を有する竜族すら超える者も多いのがボク達長命種だ。反面、その桁違いの生命力を宿す事から新しい命は生まれ難い弊害がある。
そしてその資質を産まれたばかりの我が子は幼いながらも強い生命力の輝きを宿していた。
遠い将来に我が子がその産まれ持った強い力に振り回されないか親としては心配でならない……。
▼月〓日
堅苦しい表現は面倒になったので以降の日記は普通にしようと思う。
翌日、イングバルドに抱かれると直ぐに眠ってしまったアオイが目を覚ました。イングバルドが我が子にミルクを与えてる姿を見た時は自分の頬が緩むのがなんとも言えなかった。
今は『あ~』や『う~』と声を上げている。実に和む光景だった。また頬が緩むのを止められない。
だけど、二〇時間以上も眠っていたためになかなか起きない事実を前に僕とイングバルドは大いに慌てたものだ。それはもう大いに慌ててしまって資料区画で埃を被っていた育児関連の文献や他種族の子育ての情報を引っ掻き回したものだ。その様は正に万軍の強敵を前に孤軍奮闘する気持ちだった。
アオイが目を覚ました事から今にして思えばなんでもない事だったとわかった時はイングバルドと二人して脱力したのはいい思い出だ。
だけど目を覚ましたアオイは無気力状態のように脱力してしまっていた。存在感そのものが薄まったような姿はまるで消えてしまいそうに思えてしまい激しい不安に駆られた。
尤もそれも数時間も経ったら元の元気な姿に戻っていたけど……。
本当に子育ては難しいと思った。
■月◆日
嬉しい事があった!なんと生まれて数ヶ月にしてアオイは言葉を口にしたんだ!最初が『まま』だったのは悔しかったけどっ!イングバルドの勝ち誇った顔を見た瞬間に言葉にできない敗北感を覚えたけどっ!でもっ、その後っ、直ぐにっ『ぱぱ』とアオイは呼んでくれたっ!まだ拙い言葉遣いだったけど本当に嬉しかった!この子が呼んでくれるなら僕はまだ十億年は余裕で戦えるっ!
その日は“祝!初めての言葉記念日!!”として盛大に祝った。正直に言ってイングバルドのノリが激しくて僕の祝い方が霞んでいないか不安だった。渾身の剣舞を披露したつもりだったけど愛息子は喜んでくれただろうか。
それにしても初めての子供か。それも利発そうで将来が楽しみな男の子だ。ここ数十億年に長命種の子供は生まれなかったから子育ての知識なんて磨耗してる。どれくらいで喋るのか。どれくらいで立ち上がり歩くのか。どれくらいで走るのか。新しい資料はあっても黄金時代のものばかりだ。それでもわかってる事は20歳を過ぎるまでは人間族と同じように成長する事とそれ以降は容姿に変化がない事くらいだ。病気や怪我なんかの治療法はわかるのにこんな事もわからないとは親として不甲斐ないばかりだ。
否、待て。人間族と同じだって。……そうか、なるほど、彼らの子育てを参考にするのはどうだろうか。全てがどうのとは言わないけど参考にはなるかもしれないじゃないか。これは是非ともイングバルドとも相談してみよう。
はーっはっはっはっはっ!!あー!どうしよう!!愛息子が可愛すぎて生きてるのが辛い!!これが子を持つ親の気持ちというやつなのか!?こうなったらもうイングバルドと一緒にアオイを愛でるしかないのか!それでは早速――!!
イングバルドーっ!一緒に愛息子を愛で――なんで自分だけ愛息子を抱いてるのさ!?ズルイよ!!
▲月★日
さて、我が愛息子たるアオイだけど親バカだろうけど天才かもしれない。言葉を喋りだしたのを切っ掛けにして精力的に動き回っている。イングバルドに絵本を読む事をせがんでは言葉を覚えようと内容に指差しては質問していた。立ち上がれるようになってからは自分で本棚から本を取り出してその場で眠くなるまで読み耽っている事も多々あったくらいだ。
ああ、そういえばあの時は大変だった。イングバルドが本棚の前でぐったりしていたアオイを見つけた時に何かの病気と勘違いしたようで半狂乱になって泣いたものだ。しかもアオイの足を持って振り回していた。あれには僕も大いに慌てたものだ。右手でイングバルドを押さえて左手でアオイを遠ざけた。あのままだと振り回されたアオイの首が折れていたかもしれない。
そんな事があっても子は育つもので今も色々な事に興味津々のようだ。特にアーフにも懐いているようだし。
ああっ!アオイ!我が愛息子よ!お前はどうしてそんなにも愛らしいのか!!いや、そう思うのも我が子可愛さの贔屓目だからなのかもしれないし、ただの親バカだからなのかもしれない。
はははははっ!!どちらでもいいじゃないか!!我が子は可愛い!!それこそが正義なんだ!!
そんなわけで愛息子ーっ!父さんと遊ーびーまーしょーっ!!なっ!?アーフの膝枕で寝ている、だと!?あっ、ごめんアーフっ!大声出したのは謝るから空間操作で僕の大事な場所を潰そうとしないで!!アーッ!!
◆月▲日
アオイが4歳になるとより活発に動き回るようになった。よく学びよく食べよく動きよく寝る。今では文字を覚えてからは絵本など見向きもしないで専門書ばかりに興味を示している。子供の理解力とはこんなにも急激に変化するものなのだろうか。しつこいようだけど『やはりこの子は天才か!』と思ってしまうのは(以下略)。
アオイが世界地図を見たいと言ってきた。そう、愛らしいその姿で可愛らしく!はぁはぁはぁ!
…………はっ!?
しまった、また愛息子が愛らしすぎて意識が飛んでいたようだ。僕はどうしたのだろうか?遥か昔に子供ができた長命種は家族を命懸けで大事にすると老人達は言っていたけどこれがそうなのか?
望む所じゃないかっ!はーっはっはっはっはっはっはっ!!!
そう言えばミッドガルドの世界地図を見ていた愛息子はなにやら苦悩した風の表情をしていたけど何か悩み事があるのだろうか?父さんはその事だけが気掛かりで仕方がない。今度それとなく聞いてみようと思う。
◆月★日
愛息子が外に出たいと言い出した。
ボクとイングバルドは申し訳ないと思いつつもなんとか言い聞かせる事でその場をやり過ごす事しかできなかった。
外、か……どうしたものかな。何を見聞きして外に興味を持ったのかわからないけど今の時代の外はとても危険だ。力を得て勢力を拡大させた人間族が他種族をも巻き込んでアース大陸の覇権を求めて争っている。
争いの絶えない時代、それが今だ。そんな時代の最中、外に愛する息子を出すだって?とてもじゃないけど無理だ。僕にはそんな事はできそうにない。
アオイの潜在能力が高い事は認める。ちゃんと育てば将来はきっと大成するに違いない。だとしても今はまだ幼い子供だ。大きな力を持っていても使い方を知らないのなら意味がない。それなら使い方を教えてみてはとも考えるけど、これはイングバルドと話し合った結果幼い息子にはまだ早いという事で時機を見て教える事になっている。
今でも思い出す、残念そうにションボリとしたアオイの背中を。あれを見るとものすごい罪悪感に苛まれたけど、そこはグッと我慢した。
ものすごく辛いけどっ!我慢、したっ!
あぁ、愛息子を悲しませてしまうなんて、こういう場合は親としてどうなのか。これが正しい親の姿なのだろうか?普段は星の海へ旅立った老人共を煩わしくも感じていたけどこういう時ばかりは先達から直接教えを乞いたい気持ちになった。
◆月〓日
外に出られないとわかった愛息子は地下施設の中を探索しているようだ。それだけでなく読み書きの勉強にも精力的に、それも見ているほうが心配になるほど真剣に取り組んでいる。
ある程度言葉や読み書きを修めるとデータバンクから様々な学術関連を読み漁っていた。子供の好奇心は旺盛で尽きる事がないらしくアオイはわからない事があると直ぐにアーフに沢山の事を聞きたがった。それをアーフから聞いて『私にも聞いてほしいわ』とイングバルドがいじけていたのには不覚にも笑ってしまった。
その後で暗い倉庫の奥へ連れて行かれたけど……記憶がない。
それにしてもアーフ、か。あれはイングバルドの専属機械人形だけど今は一時的にアオイの世話をするようにとイングバルドにお願いされたらしい。これでは妻も困る事が出てくるかもしれないから、近い内に愛息子にも専属の機械人形を宛がったほうがいいのだろうかと考えてしまう。
いや、愛息子は機械技術、特に機械人形関連やナノマシン工学、亜空間力学などに強い興味を示しているようだったからそう遠くない将来に自分だけの機械人形を作り上げるかもしれない。
とりあえずこのまま自然に触れられないのは不憫だ。こうなったら保護した魔物も居るけど農業区画を開放してそこで愛息子が思いっきり遊べるように手配するか。
そうと決まればまずはイングバルドとそうだんしよう。
イングバルド~!
◆月‡日
農業区画を開放しようと相談したらイングバルドが既に実行していた。愛息子はその事で大層喜んで眩しいくらいの笑顔だったと妻から嬉しそうに自慢された。
相談すらされなかった事が悲しかったから今日は不貞寝した。
ボクだって愛息子の喜ぶ顔が見たかったっ!
はぁぁ、寝よ。
◆月‡日
あの衝撃的な『農業区画だったら開放しちゃった。てへぺろ♪事件』から数日が経った。今思い出しても少し……いや、なんでもない。
愛息子は僕達が心配する必要がないほど元気に走り回っているらしい。その中でも気難しい事で有名なグリフィンの子供と凶暴な事で知られているグレイハウンドの子供と仲がいいと息子から聞いた時にはボクは驚きで唖然としてしまった。
グリフィンは魔物の中でも高位の魔物であり知性も高い事から人の言葉も理解する個体も多い、その知性の高さから気位が高く気に入らないと即座に排除に出る事も間々ある。しかもその武力もドラゴンほどではないにしても高い実力があるものだから尚更気難しい一面があった。
グレイハウンドは成体になると大柄の馬ほどの大きさになる獣型の魔物で、膂力も然る事ながら鋭い爪と牙からの一撃は岩をも粉砕する威力がある。そしてその巨体からは信じられない俊敏さもある。群れで行動し生活する、そして群れは長に向ける忠義心が篤い事から騎士からは忠臣のように例えられる魔物でもあった。
この二頭と仲良くしている?ボクは思わず『どうやってその二頭を従わせたのか?』と聞いてしまうと、愛息子は複雑そうな顔をして『最初は襲われたけどそのままじゃれ合ってたら仲良くなった』と言っていた。だけど直ぐに破顔一笑して『それでも今では親友だよ』と嬉しそうにしている。
無意識に身体能力を無属性魔法で強化していたのか知らないけど子供とは言え魔物相手にじゃれ合った?しかもその後は仲良くなった?
その時の光景を想像すると眩暈がした。
場合によっては保護した魔物は別区画に移そうと考えていただけにこの状況は想定外だ。
だけど今回の事で愛息子の他種族との親和性がとても高い事が容易に想像できた。おそらく相性的にいいのは魔族では魔物や悪魔、そして精霊では属性を選ばずに心を交わせる事ができると思う。もしかしたら創造主以外には服従しない魔法生命体とも条件次第では交流が持てるかもしれない。
後でこっそり愛息子にどの魔物がお気に入りなのか聞くと『アルミラージかな。モフモフしてるから』と教えてくれた。額に角が生えた大きな兎型の魔物がアルミラージだ。
…………え?本当に?
まさかのアルミラージだ。肉食の魔物ために用意した餌用に大量に育成していた下級の魔物がお気に入りだとは……。
それを聞いた僕の顔は引き攣った笑いにしかならなくて言葉にならなかった。
仲良しのグリフィンとグレイハウンドの子供に食べられている場面に出くわさなければいいけど、とお父さんとしては願わずにはいられない。
幼い間に血生臭い光景を見て精神に傷でも負ったら悔やんでも悔やみきれない。
…………いっそ殺るか?
◆月∴日
例の魔物達と仲良くなる数日前、度々農業区画の一角から魔法が発動したかもしれない微弱な魔力反応が検知されていた。その理由が今日わかった。アオイがボク達に隠れて魔法の訓練を一人でしていた、一人で。
なぜだ?なぜ僕達に言ってくれない?一言言ってくれたら何を置いてもなんでも教えてあげるのに。
監視映像を確認すると基本の四つの属性魔法は属性を選ばずに満遍なく使えるようだった。上位三つの基礎魔法も拙いながらも行使できていたのは少なからず驚いた。
教本データがあったとしても独学でここまでできるようになるとは子供の成長率とは凄いものだと思い直した。
ただし大きな魔法を使いそうになったら禁止してでも止めさせるつもりだ。子供の内に魔法を使うのは身体への負担が大きいのだから。
この事は妻と相談しないといけない。
…………あっ。もう抜け駆けはさせないからな!
■月¶日
アオイが6歳になった。二年間も魔法行使の訓練に励み、魔物達と駆け回って遊び、他にも様々な学問も齧っている。魔法に関しては加減が絶妙で禁止する口実がなかなか見つけられない。
しかも変な所で頑固だから投げ出す事なく全てを吸収する勢いで学び続けていた。本当に愛息子の好奇心に尽きるという事がない。
色々学んでいるようだけど愛息子は将来何になりたいのだろうか?
■月〃日
愛息子が召喚術に興味を持ったようだ。閲覧している教本データの使用ログを確認するとそうだとわかった。
まさかとは思うけどイングバルドにそれとなく気を掛けてもらえるように言っておこう。
いつか悪魔や精霊を呼び出す召喚術の実習をするのもありかもしれない。
日記風にしたのは実験。どんな感じなのか一度やってみたかった。
やりやすいけど、もうしない。
これは作者にとって文章力が著しく低下しそうで怖い手法だった。
なんと言うか怠けてしまいそう?色々と。
…………フッ。
短いとか言うなし、作者自身もそう認識しているし。(あわわわっ)
やはり一万字書かないと一話分書いた気がしないですね。
だけど幕間くらいでそんなに字数を盛っても仕方ないとも思うのですよー。
第一章では幕間が多く挟まれます。いや、そういう予定ですけど。
ではでは。




