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アナタは異世界で何をする?  作者: 鉄 桜
第一章・幼年期から青年期まで。
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第15話その1・幕間


 


 


 ミッドガルドに唯一存在するアース大陸。その大陸には大陸中央部の大砂漠を囲んで東西南北に大小様々な国があるが、その中でも特に強い勢力が大きく分けて四つの大国が存在した。


 北部のキシュリア法国。

 この国は古き時代、まだ大陸が混迷の真只中にあった時に、悲嘆に暮れる人々の先頭に立ち導いたとされる聖人アガレスを崇めた宗主国を中心とした巨大国家群だ。

 北部に位置する事から冬が長く夏が短いために食糧生産に難があり食糧不足に喘ぐ事も多い。しかし、それも強靭な信仰心の下で辛うじて統治されている。

 帝国との戦線も南部と連携を取る事ができるなら現状を有利に進められるのだが、宗教的な関係で人間至上主義の面が大きな影響を及ぼしているために、南部との連携が取れず決定打に欠け膠着状態に陥っていた。


 東部のミロス帝国。

 錬金術を基本にした機械によって魔力を運用する魔導技術を発展させた技術国家にして軍事国家。近年は新型の高出力魔導機関を搭載した航空戦闘艦は強大な力の象徴として周辺国を次々に併合、隷属させていった。

 それによって広大な領土と国力を手にしたが、しかし力で無理に併呑したことで反乱軍やレジスタンスが多く蔓延ることになり小規模だが内乱が多発している。


 西部のガロリア小国家同盟。

 数多くの小国家が集まり互助協力する同盟を結んだ国家群であり、その歴史は古く横の繋がりもまた強い。しかし近年は同盟とは名ばかりの実利を貪る亡者の如くとなっていた。

 反面、政略結婚などで血筋的な繋がりがあり横の関係は強固だ。それにより複雑な関係を生んでいるので紛争や内乱の内容が複雑化している。今も複数の小さな内乱が多発する真只中にあり内部分裂の危機に陥っているために外へ目を向ける余裕そのものがない。


 南部の多民族連合国家。

 亜人と獣人などの少数部族が集いて外敵に対応しようとする異種族連合国家。部族の代表からなる議会と、その中から選ばれた国家代表が今の連合を引張っている。種族ごとに思想や習性の違いから小さな衝突もあるが今は些細なものだ。

 激減する領土に反比例して流れ込む難民が多く居るために人口は増加の一途を辿っている。それでも肥沃な大地がまだある事で食糧難にならずにいられる。


 以上の四ヶ国が代表的な大国だ。ただし内輪もめに忙しい同盟は既に覇権争いから脱落しているも同然。次に法国も食糧不足による飢餓と衰退が激しい、帝国との戦線も辛うじて拮抗しているのみ。

 ゆえに現状は残りの二国に焦点は絞られることとなる。

 激しく繰り広げられる戦闘。各戦線は拡大の一途を辿っている。

 帝国は新たな戦力、航空戦闘艦を前面に押し出し空軍と陸軍を強力に支援することで破竹の勢いで進撃を開始している。

 皇帝陛下の意向もあり現在の戦力は南部に集中しているが、それでも食糧難に喘ぐ法国を相手取るには十分に対応が可能であった。拮抗状態を演じるほどに。

 帝国の圧力に戦線を下げた連合は個人技に長けた戦士団と魔導技術を用いた戦車部隊や陸軍が地上で戦い、元からある空軍と魔導技術を用いた新設の航空部隊が空を防衛する。

 北部戦線は辛うじて拮抗中なのに対して、南部戦線は帝国が怒涛の勢いを持って押し込み、連合は領土の半分近くを奪われた。

 技術力と軍事力、そして生産能力に優れた帝国は南北二つの大国を相手取って尚どちらも優勢に戦線を進めているのだ。

 現在のアース大陸の覇権は帝国に傾きつつあると言っても過言ではない。


 


▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽


 


 南部戦線の最前線基地。そこは、元は連合の基地だったものを再利用して作られたものであり、航空戦闘艦の発着場や修理するための乾ドックを増設した帝国軍基地となっていた。

 前線司令部。執務室で渋い顔をする司令官の男と、その司令官を前に報告する将校の、二人の姿があった。


「それは事実なのか?」

「はい。定時報告の後に消息を絶ちました」


 帝国の次の侵攻目標であるプリーゼ村を偵察するために先行していた部隊が一個小隊いたのだが突如として消息が途絶した。


「通信は雑音がひどくて聞き取れた情報は僅かですが、正体不明の敵と接触してから僅か十数分で偵察小隊は壊滅しています」

「それは先程も聞いた。私が言いたいのはこのふざけた報告の部分だ。相手は女が一人とあるが。たかだか女一人に我らが帝国の一個小隊が壊滅したというのか?ありえんよ」

「司令閣下。お言葉ながら、これは事実です」


 将校の断言に司令官は渋い顔を更に歪めた。報告書から事実だと理性は理解しても個人の感情は納得ができない。

 今報告のあった偵察小隊は危険な敵地での活動を目的としたこの基地の最精鋭部隊といえるものだった。それが敵の正体も掴めぬままに僅かな時間で五十人弱の部隊が壊滅した。

 納得などしたくなかった。

 司令官の男は息を深く吸うとゆっくりと吐く。個人の感情を取り払い冷徹な判断のできる軍人としての思考を始める。


「敵の正体は不明ではあるが、考えようによっては脅威を早期に発見できたともいえる。事前に知っていれば対応も可能だ」


 一つ頷くことで同意した将校が司令官の言葉を待っている。司令官は報告書を机に置くと静かに断言する。


「大筋において作戦に変更はない。しかし、今になって現れたこの小さな脅威を迎撃する部隊が必要だ。わかるな?」

「はい。司令閣下」

「よろしい。では、貴官が部隊を率いて迎撃に当たれ。規模は一個中隊。ただし作戦遂行に影響がないようなら一個増強中隊までなら許そう。作戦開始時間も迫っているため出発は準備が完了し次第直ぐに先行して、以降は現地で作戦開始まで待機だ。わかったな?」

「了解。準備が出来次第先行して出発し、作戦開始まで現地にて待機します」

「貴官の奮闘に期待する」

「はっ!」


 踵を返して執務室を出て行く将校の背中を司令官は見送ると深い溜息を吐いた。

 司令官は思う。非現実的な事だが土壇場になって今回の作戦は嫌な予感に苛まれていた。

 その証拠に司令官が担当する戦線では精鋭といえる偵察小隊が正体不明の女一人を相手に壊滅させられたという不吉な報告がたった今挙げられた。

 司令官は窓から見える空を見上げて願わくは無事に作戦が終わるようにと信じてもいない神に祈った。


 


▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽


 


 深い森の奥深く。緑と土の匂いが色濃く香る中に一人の女性が寝惚け眼のまま静かに立っていた。

 年の頃は二十代前後、十二分に美貌と言っていい顔立ちに肩に掛かるくらいに短くした銀髪。全体的にスレンダーな身体つき。綺麗というよりも可愛らしい女性だ。

 服装は黒地に赤の縁取りがされたミニスカの忍者服。細かく編みこまれた鎖帷子に包まれた胸元や肩。露出する白くしなやかな腕はそのままに、短い裾から伸びる足はニーソックスで太股まで隠されている。

 頭部には“忍”という文字が掘り込まれた額当てをし、手先から肘までと爪先から膝までを覆う黒い手甲と脚甲を装備している。手甲と脚甲は拳部分や膝と肘の部分に突起がついている。更に腰の後ろには忍者刀を差していた。

 齢を重ねて太く大きな木々の生い茂る森の中で女性、ネルケがポツリと溢す。


「ん。せっかくの初仕事なのに、ハズレだったかも……」


 緑の多い森の中、命溢れるはずの森の中なのに、不思議な事に生き物の気配が一切しなかった。鳥の鳴き声どころか虫の声すらしない。

 その原因はネルケの周囲にあった。彼女の周囲は赤く彩られていた。地面には人型をしていたナニかが多数散乱していた。

 ヒトの死体だ。

 多くは人間族や獣人族。数にしておよそ五十人前後の死体が無造作に転がっていた。どの死体も急所を一撃で仕留められており綺麗なまま死んでいる。

 これら全てをネルケはただ一人で片付けた。

 なぜネルケがこのような森の中に居たのか。それは今アオイの居るプリーゼ村に危険分子が近付かないように、影ながら排除するために隠れ潜んで警戒していたのだ。

 そして小型無人偵察機による監視体制を布いていた時に、この集団を察知し問答無用に殺害した。今のネルケの任務は危険と思われるものの強制排除であり情報収集ではなかったために、より安易な方法として殺害を選択したのだった。

 ただし、襲撃してみれば大した抵抗もなく決着がついてしまった。一人ひとり確実に仕留めていけば、始まりからものの十数分で片が付いたほどだ。返り血すら浴びなかった。

 余りにも弱卒なので襲撃した途中から『こいつらは囮では?』と考え、念のために周囲五百m以内を小型無人偵察機に探らせてみたが誰も居ない。囮の線はすぐに掻き消した。

 脅威と呼ぶには値しなかったかなとネルケは半分呆れと半分脱力していた。


「んー、変な集団が居たからつい殺っちゃったけど、このヒト達って帝国軍だよね?なんでこんなところに。ここはまだ連合の領域なのはずなのに」


 この惨状を作り上げてからネルケが持ち物を調べると、死体の服装は帝国軍の野戦服であり、銃器や弾薬、刀剣類に応急薬などの装備品はどれも帝国軍の正式装備だった。

 彼らの任務の関係上か、部隊表や認識票などの個人や所属を示すものはない。

 それでも、推測でしかないが帝国の軍人である可能性が最も高いのも事実。もしくはそのように見せかけるためかもしれないが、そのような事をする手間と意味が今は見出せない。

 ちょっと情報を“吸い出させてもらおうか”と考えて、こんなことなら一人くらい――できれば隊長各を――情報源として確保して置けばよかったと後悔している。

 録に準備もない即興だが登録された拷問方法も試してみたかった、とネルケは寝惚け眼を細めて嗤った。

 なにせ生まれたばかりのネルケは今回が初任務だ。他の同僚と違って実践経験が少ないのだ。だからこそ今回の任務で稼働経験を蓄積するためにも、試せる事や実行できる事は全てやっておきたかった。


「ん。定時報告じゃないけど、一応知らせようかな。エーデルに判断を仰ぎたいし。……できれば殿様の身辺警護を換わってほしい。自分達だけ殿様とイチャラブするなんてずるい」


 その寝惚け眼に小さな嫉妬の炎を宿らせてネルケは拳を握った。できるなら護衛を任ぜられたイリスと役割を交代したいのが嘘偽りのない本音だ。

 エーデルに見せ付けるように腕でも組めたらサイコーだとさえ妄想した。

 表面では取り付くっていても内心では歯軋りしているとわかっていれば、これほどからかって楽しい遊び相手は居ない。

 もっともアオイとイチャイチャすることが最優先目標なので、そちらは本当にもののついで程度だ。


「緊急、緊急。こちらリトルフォックス(ネルケ)マザーグース(エーデル)、応答されたーし」


 機械人形(アンドロイド)間を繋ぐ常時接続ネットワークを通して本任務を統括するエーデルに呼びかけ、数秒すると複数の存在が接続した感覚があった。

 音声通信のみの通信方法。一つはエーデルとして残りは、イリスとリーリエだった。


「受諾。こちらマザーグース(エーデル)、感度良好。定時報告は終わったばかりですが何用ですか?」

「我、プリーゼ村より東北東およそ二km地点にて帝国軍と思われる一個小隊規模を発見。これを撃滅しせり。装備品から強行偵察、もしくはなんらかの破壊工作活動を目的としていた模様。対応指示を求む。……にんにん」


 ちょっと口が滑って出た。にんにん。

 どうにも普段から言葉が少ないネルケにしては珍しく長台詞を通して言えたと思えば、これである。

 通信越しにエーデル達の呆れた雰囲気が伝わってくる。


「……ネルケ。某国の旧陸軍ごっこがやりたいのなら最後まできめなさい。イリスとリーリエも呆れて貴女のいる方角を凝視しています」

「ん。殿様の知識にあったから、ちょっとやってみたかった。次から気をつける」


 ネルケの言ったアオイの知識とはそのままの意味である。アオイの知識は転生関連や前世などの一部を除いて全てをデータ化してあるのだ。

 これはまだ情報生命体としてのエーデルを作る際にデータ化した知識情報をインプットして円滑なコミュニケーションを目的としたためだ。

 お陰でアオイが前世の英語や和製英語、造語などをぽろっと口をついて出ても違和感なく円滑な会話が可能になっている。

 ただし両親などからは時たま飛び出る“アオイ語”に首を傾げる事がある。

 独特のイントネーションを持つ単一言語(オランシュ)では意訳できないものも多く、また比較的英語に近い大陸共通語(ランティシュ)でも微妙に発音や単語が異なったりするので意訳することがひどく面倒なのだ。

 ネルケの言い分にエーデルも内心では同意しつつも意識はキッチリ切り替える。


「気持ちはわかりますが仕事中は控えなさい。それで、帝国と思われる者達が居たという事ですが、“彼らの記憶は洗ったのですか?”」

「んーん、まだ。やる前に判断を仰ぎたかった」

「では速やかに情報の強制抽出を始めなさい。その後ネルケはプリーゼ村に秘密裏に潜入、イリスとチャイルドに合流し任務を引継ぎなさい」


 この瞬間ネルケは無意識に拳を握り、ぐっと引いた。小さなガッツポーズ。これもアオイの知識の影響だ。

 春の訪れ。花開く命の輝きのようにネルケの纏う空気が明るい。


「やたっ。ということはワタシが殿様の護衛役?やたっ」

「違います」

「しょぼーん。即答だった。燃え尽きたよワタシ。楽しみが消えた……」


 一転して闇夜に包まれた。もう地獄の底まで気分は落ちきった。気のせいだろうが彼女の身体から陰鬱な瘴気が垂れ流されているようにさえ思える。


「ネルケ、これは仕事です。真面目にやりなさい」

「ん、わかってる。しょぼーん……」

「貴女ってヒトはなぜ、そうなのですか」


 エーデルが軽く発破をかけてもネルケの気分は沈んだままだ。

 流石にこのままでは仕事に支障をきたすとエーデルも思ったのか、次の手に出た。


「……いえ、そうですね。ではこうしましょう。真面目に仕事をするなら貴女の活躍をマスターに強調して報告しましょう。あわよくば直接お褒めの言葉を頂けるかもしれません」

「っ!」


 反応あり。映像はなくとも期待に息を呑む感覚だけは伝わってきた。

 エーデルが気取られぬように内心だけでほくそ笑む。更にこのまま畳み掛けるために動いて、最後の一手を繰り出した。


「お言葉だけではなく更には頭を撫でてもらえるかもしれませんね」

「やる!お仕事、なにっ?」


 にやり。

 近くに何も知らないアオイが居るために表情には出さないが今のエーデルの感情を語るならその三文字が適切だろう。

 番犬が餌に食いついた。後はこのまま思考を上手く誘導してしまえばいい。

 声に感情が出ないようにいつも通りの口調で次の指令を出した。


「……村内に居るどこかの国の工作員の排除を頼みます。今の情報からおそらくは帝国の者でしょうが、マスター達が村に入ってから不自然にも活発に動いているようです。念のためにそれとなく消えてもらいましょう」


 それとなく目星のついている人物にはエーデル達の手によって発信機(マーカー)を付けてあるというオマケつきだ。これほど楽な仕事はない。

 しかし、極力目立たぬように実行とはいうが、どうしたものかとネルケは考える。

 暗殺において処理とは人目につき、また後で発見されたとしても極力、事故や自然死を装って行うことが穏便であり最良といえる方法だ。

 ただし、今回は下準備が万全とは言い難い状況であるために、緊急時においてはこの限りではない。最優先はアオイの安全であり、その他は些事として迅速に処理するのが吉だ。

 脳裏で結論の出たネルケは相手に見えていないとわかっていても頷いて返答とした。


「んっ、了解した。任せてっ。だからっ」

「わかっています。約束は守りましょう。だから貴女も役目を果たしなさい」

「んっ!」


 やる気に満ちた返答にエーデルは満足げにして通信を切った。

 ネルケは両手を上げて伸びをすると高揚した気分を落ち着けるように一気に脱力した。


「ん。それじゃパパッと終わらせようかな、っと」


 新しい任務を前にしたネルケは嬉々としてスキップをしながら周囲に転がる死体の一つに歩み寄るとしゃがみこみ手を当て観察する。


「ん?このヒトが指示してたから隊長さん?認識票も階級章もないから判断が難しい」


 ネルケの観察する死体は人間族の男で軍人らしくガッシリした体つきと短く刈られた髪、帝国人らしい彫の深い顔立ちのヒトだった。

 襲撃時の立ち居振る舞いからこの男が隊長で間違いないはずだが、個人や所属を特定するものは皆無のために判断を迷わせていた。


「ん。それじゃ、イタダキマス」


 死体の頭部に軽く手を当てる。ネルケの手から特殊なナノマシンが死体に流れ込み“侵食”を開始した。

 それが脳へ辿りつき――途端、死体が跳ねた。

 浜に打ち上げられた魚のように跳ねるも、ネルケは一向に気にした風もない。表情もいつも通りの寝惚け眼で、道端に転がる石ころを目にしたように無関心だ。

 ネルケの脳裏に知らない誰か、様々な場面が、複数の映像となって投射される。


 それは、戦争に行く夫を心配し涙する女の顔があり。

 それは、抱き上げた幼い我が子の笑顔であり。

 それは、年老いた両親の葬式であり。

 それは、どこかの執務室で上官が作戦命令を伝えている姿があり。

 それは、戦友が戦場にて敵の掃射を受けて散る姿であり。

 それは、気がつくと自分の心臓が貫かれた場面であった。


 死体の最期に見たものは苔むした地面と目の前が暗くなる映像だった。その映像を最後にネルケの内に流れ込む誰かの記憶、否“記録”がブラックアウトすることで無事に収集されたのだと理解した。

 最後に一際大きく跳ねるともう動く事はなくなった。ネルケも手を放して立ち上がる。


「……ゴチソウサマ。ん、これが人生碌の暴食(ベルゼビュート)の感覚。ん、不思議。雑多で複雑、殆どが無意味な情報の集まりなのに、とても興味深い」


 数回頷きながら、つい先ほど死体から取得した“記憶”を整理した。無駄な情報を削除して必要な情報のみを取捨選択して報告書を脳内で作成する。


 人生碌の暴食(ベルゼビュート)

 諜報、暗殺に特化したネルケに搭載された特殊兵装の一つにして、アオイが考えた情報を奪取する手段の一つ。

 とある特殊なナノマシンを注入して電気信号と一時的な活性化により他人の脳から直接情報を抽出する方法だ。

 ただし欠点も幾つかあり、一つは死体の劣化が進みすぎると脳がナノマシンの処理に耐えられずに焼き切れてしまう。情報も穴開きだらけになるので信頼性が極端に落ちる。二つ目は記憶を抽出した対象自体が偽情報を本物と思い込んでいた場合だ。これは真偽を確認するために裏付け捜査をする必要性が生じる。


 隊長と思われる一人の記憶だけでもいいのだが、間違いがないように念のためにもう二人か三人ほど記憶を奪っておく。時間も限られているので早速開始した。

 それから同じ工程を繰り返して記憶を奪ってから報告書を修正し、常時接続ネットワークへ最終報告のデータを挙げた。

 この場での作業は終わった。あとは現場から証拠となる痕跡を消してしまえば完了となる。ネルケは徐に一辺五cmの正立方体を取り出すと表面に指を走らせた。すると後を追うように青緑色に発光する。

 設定を確認してからその正立方体を無造作に死体の集団の中心に投げ入れた。

 もうこの地に用はなくなった。


「ん。発現まで三分。バイバイ」


 来世ではもう少し強くなれるといいね。

 そんな哀れみとも励ましとも取れない言葉を残して、ネルケの姿は景色に溶けるようにして消えた。


 三分後、黒い発光現象が巻き起こった。

 現象が収束した頃、そこにはまるで森を大地ごと大きなスプーンでくり抜いたように大きなクレーターがあるのみで、他は全てが消滅していた。

 後に消息を絶った部隊を捜しに来た帝国軍は、そこで大きなクレーターと中心に向かって吸い込まれたような跡を発見したが、彼らが行方不明の部隊の痕跡を見つける事は今後一切なかった。



















 帝国の帝都。

 豪華な部屋に豪奢な服を纏った年老いた男と軍服を着た壮年の男、二人の人間が居た。


「我が戦女神が!それは事実なのだな?間違いないのだな!?」

「はい。連合のプリーゼ村にて戦神と他数名と共にその姿を確認したと工作員より知らせが入りましてございます」

「そうか。そうかそうかそうかッ!!ククク、クハハハハ!!よいぞよいぞ!長らく消息を掴めなかったがようやくか!!クカカカッ!!」

「……現在、別途作戦で集結している一軍がプリーゼ村を攻略するために進軍中。これに乗じて連合に潜ませていた部隊を急行させております」

「ククク。よろしい。早急に我が戦女神をここへ連れて来るのだ。失敗は許さぬ。よいな?」

「御意。我が命に代えましても。皇帝陛下……」


 帝国の闇が蠢いていた。









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