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アナタは異世界で何をする?  作者: 鉄 桜
第一章・幼年期から青年期まで。
37/64

第14話・小話

こんなに遅くなって申し訳ありません。

全ては某エロゲー会社の魔導●殻が悪い。

作者の好きなジャンルだったのが災いでした。

ちくしょー。いい仕事するぜぃ。え●しゅりー。


さてさて、今回はちょっとした小話です。

ここにきてなぜ小話か?

短いからです。それ以上でもそれ以下の意味もありません。

第一章は作者の都合により一話辺り一年毎に話しが進んでいるのでその埋め合わせですかね。

日常ではこんな事をしてるんだぜぃ!……みたいな。

ではどうぞ。


5/25 大幅に加筆しました。


 


 


 朝食を取り終えて両親は既に席を立ち、アオイだけが食後の緑茶を飲んでいる。傍にはいつもの如くエーデルが控えて甲斐甲斐しく世話をしている。

 アオイが話しを切り出したのはそんな時だった。


「光子の収束実験をしようと思うんだ」

「収束実験という事ですがレーザー関係でしょうか?」

「そう。この前過去の実験記録に目を通していたんだけど、その時に見つけた記録を元にアイゼンとペルレ、それにマグノリエとで意見交換したんだ」

「あの三体とですか。……え?(私は?)」


 一瞬だけエーデルの身体が止まった。一体いつの間にそんな事が、と思った。自分が傍を離れている僅かな時にそんな事を話し合っていたとは知らなかったのが少なからず衝撃だったようだ。

 アオイがエーデルの僅かな不自然さを感じていた。


「あの、エーデル?どうかした?」

「っ、失礼しました。少々思うところがありまして。もう大丈夫です。ご安心を」

「そ、そう?」


 緑茶を飲み干したアオイは歩きながら話そうか、と言うとエーデルを伴って食卓を後にした。埃一つない白い廊下を歩く二名は三歩ほど前に出たアオイが先導する形で進む。主従らしい位置関係だ。


「まだ試作品なんだけど新しい光子収束機の臨界実験をしたくてさ。これが成功したら収束率が今よりも4%向上するはずなんだ」

「まあ、それは素晴らしい事です。そうなれば速射性能も向上しますね。では臨界実験はどちらでなさいますか?やはり実験区画でしょうか」

「いや、今日工房(アトリエ)でやる事になってる。予めアイゼン達に言って必要な機材も用意してあるから直ぐにでも始められるようになってる」

「それは、ですがそれでは万が一の時に危険ではないでしょうか?実験区画のほうが安全性も確保されている以上やはりそちらで行なわれたほうがよろしいかと思われます」


 エーデルも何の根拠もなく不安視してるわけではない。アオイの行なってきた実験の数々で過去に何度も大小様々な爆発事故や空間収縮による異常な歪曲現象、単純な所では高出力レーザーで一際頑丈なはずの白の結晶アルブス・クリュスタルス製の壁を貫通させて大穴を開けた事もあった。勿論失敗や事故ばかりではなく成功例も数多いが危険な事には変わりがない。

 最近は生命工学や遺伝子工学などが実験の主になっているために直接的な被害はないが潜在的な危険は潜んでいるというのがアオイの周囲の見解だ。それを知っているはずの本人は今、楽観的に笑っていた。


「ははは。それは皆にも言われたな。でも大丈夫だと思うよ。臨界実験とは言っても極々小規模なものだから何かあったとしても……うん、大丈夫のはず」


 訂正しよう。笑ってはいても内心で不安視している事が言葉の端々に見て取れた。エーデルは呆れつつもいざとなれば何を犠牲にしても守ればいいのだ、と考え直し話しを続ける。


「ご自身でも不安なのではないですか。また爆発事故ですか?それともまた壁に大穴が開きますが?」

「またって言った!?」


 それでも辛辣な言葉が出てくるのは守る立場の者から見てどうしても一言は物申してしまうものだ。守られる側にも守られているという意識がなければ万全は望めないのだからここで意見を出し渋るつもりもない。苦言とは耳に痛いから苦言なのだ。

 ただし苦言を聞かされたアオイはそれをわかっていても面白くはないのも事実。実験がいつも失敗してるような言い方は真に不本意だった。故に不貞腐れたようにもなる。


「今までのは意図したものじゃなくて不慮の事故とかじゃないか。必ず穴開けてるような言い方はやめてくれ」

「ああ、マスター。それは大いなる誤解です。誰もそのような恐れ多い事は言っていません」

「なんかわざとらしいなあ……」


 言いつつもわざとだとわかっている。ただしここで踏み込むほどバカではないつもりだ。エーデルもそれがわかっているからこその軽口なのだ。いつも通りの距離感とお互いを理解し合えているという心地良さ。ここが落とし所だろう。


「そういうわけだからこれから工房で実験するんだけどエーデルは」

「勿論、私もご一緒します」

「そっか。それじゃもう準備も終わってるはずだから行こうか」

「はい、マスター」


 話していたらいつの間にか工房は目と鼻の先だった。さてこれから実験だ、とアオイが張り切っていた。エーデルはその後ろから僅かに目元を緩ませると優しく見守っていた。


 


 


 


 


 


「出力安定。目標出力に達成しました。実験は成功です」

「んー、もうちょっと収束率を上げられそうじゃない。――ポチッとな」

「あっ!?」


 結果。

 アオイが調子に乗って出力を上げた事で壁に大穴が開きました。それでも当初予想されたよりも高い5%の性能向上という成果を叩き出したので一応の成功となった。

 おっわーれっ。ちゃんちゃん。


 


▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽


 


 いつもの食卓。いつもの食後のティータイム。いつものアオイとエーデルが居た。


「エーデル。ちょっと実験をしようと思うんだ」

「マスター。また、爆発ですか?それとも壁貫通ですか?」

「あれはっ……いえ俺が調子に乗ったからですごめんなさい許して下さい」


 若干据わった目を向けたエーデルにアオイはいっそ卑屈なほど謝罪した。今のところエーデルの戦闘能力はアオイのそれを凌駕するものなので強く出るには相手が悪すぎた。勿論理不尽な危害を加えられる事はないという信頼も大いにあるからこれは反省しているという姿勢(ポーズ)以外の何ものでもない。


「まあよろしいでしょう。それで今度の実験内容はどのようなものなのでしょうか?」

「よく聞いてくれました!今回は反物質の収縮実験だ。ほら、反物質機関ってのがあるじゃないか。対消滅反応を起こす事で膨大なエネルギーを作り出す動力機関」


 反物質とは通常物質と同質量、同じスピン角運動量でそれぞれの構成要素を持つ電荷が通常物質と正反対の物質のことを言う。簡単に言ってしまえばプラスとマイナスで正反対の性質を持つ物質の事という事だ。

 仮定だが、発生するエネルギー量は物質の質量がプラスとマイナスを合わせて1gmだとする。そうすると実におよそ90兆ジュールもの膨大なものになる。これは原子力発電で使用される1gm辺りのウラン235でおよそ820億ジュールだからおよそ一千倍以上に相当する。天文学的なエネルギー量を発生させる夢の動力機関だ。

 エーデルは自身にインプットされた情報と過去の記録を瞬間的に検索して更に関連項目にまで意識を伸ばした。この瞬間僅か数秒の短い時間だった。


「はい。存じております。現在の主用とするエレアボス機関より数世代も前の大出力機関です。外宇宙探索のために高効率のエネルギー生成を目的として作られ、対消滅反応を利用した兵器にも転用されたと記憶しております」

「そうそう、それ。でさ、反物質燃料は今あるものを使うとして昨日のうちに皆に言って機材とか諸々はもう用意してあるから後は実験を始めるだけなんだ」

「皆?え?(またですか?また私に黙って?え?)」


 ぶるりっ。前回の比ではないほどの冷気がエーデルを中心に巻き起こった……ようにアオイが感じ取った。脱力して俯いた事で顔には髪が垂れて影となり表情が伺えない。なんとなく今の彼女には声を掛けづらい印象がある。


「エ、エーデル?どうしたの?なんかその、変、だよ?」

「……いえ、そろそろマスターやあの者らを再教育するべきか悩んでいただけですので」

「再教育!?なんか不穏な言葉が出たんですけど!逃げてー!みんな逃げてー!!」


 恐怖よりも狂気を感じたアオイは半ば取り乱してしまっていた。席を立つと扉へ駆け寄り開いて叫んでしまうほどに。


「どうかお気になさらずに。……ですが今度から実験する時は私にもお声を掛けて頂きたく思います」

「あ、はい。え?」


 とはいえ当のエーデルは極めて冷静でありいつも通りの彼女だった。今までの冷気こそが錯覚ではないかとアオイは混乱した頭で考えるも答えが出ない。だからこそ疑わしげにジッと見詰めてしまう。


「……なにか?」


 少し目を細めたエーデルが言った。普通にはわかり難いが微かに頬を染めたエーデルがそこにあった。大部分は不機嫌だがその中には幾分かの羞恥心がアオイには見て取れた。おそらく前回に引き続き今回の実験も二度にわたって自分だけ知らされていなかった事に仲間外れにされたような寂しさを感じたのかもしれない。大人びているようでエーデルにもまだ子供らしい部分があったようだ。

 さて、そうとわかればアオイに怖がるものはない。サッサと実験を済ませてエーデルとお茶でもしようと実験後を考えた。


「ははっ。いやなんでもないよ。そうだね。今度からは一緒にしよう。ずっと一緒だ」

「はい、マスター」


 サッと顔を逸らされた。そのまま無言でそわそわと落ち着きなく茶器の片付けを始めたエーデルをアオイは見詰めていた。エーデルが今どんな表情をしているのかはわからないが雰囲気だけは柔らかくなったので一応はよしとした。


「それじゃまあもういい時間だから行こうか」


 丁度席も立っている事だ。時計の針も八時を越えているのでそろそろいい時間だった。エーデルが片付けを終えた時を見計らってアオイが歩き出した。エーデルも一言了承すると追従する。


「今回は実験区画で行なうのですか?」


 白い廊下を歩いている時にエーデルが確認するように問う。アオイの背中には自信満々であると見て取れた。根拠はないがやる気はあるようだ。こういうところが可愛いなとエーデルはいつも思うのだ。


「いや、工房(アトリエ)でやるよ」

「失礼ながら今激しく不安に駆られました……」

「本当に失礼だったな!?俺だって何度も爆発なんて起こさないって!」

「それが事実ならよろしかったのですが……マスター、現実って非常ですね」

「哀れみの目が心に痛いな、おい!?」

「今までの結果から統計的に導き出された純然たる事実です」


 過去の実験データから成功や失敗は別として六割近くの確率で爆発ないし事故が起きていた。その内の二割は誰かが調子に乗って不用意に出力を上げたりしたから起きている。


「現実って辛いな!」

「理不尽こそ世の平等ですよ、マスター」

「イヤな世界だ……」


 ある意味で至言だった。世界は平等ではないというがエーデルの言もまた事実であるとアオイは肩を落としてイヤイヤ同意していた。

 さあこれから実験だとアオイが暗い空気を振り払うように声を上げた。

 今日は無事に実験が終了しますようにとエーデルは白と精霊に祈りを捧げた。


 


 


 


 


 


 


「圧縮率上昇。力場境界面の安定を確認。反物質の収縮を完了。発生するエネルギーは通常と比較して11%の上昇を記録しました。実験は成功です」

「うんうん。いい感じいい感じ。でも向上した数値の切りが悪いな。もう少し圧縮率を高めようか。――ポチッとな」

「ああっ!?」


 結果。

 またもやアオイが調子に乗ったために圧縮された反物質が急速に膨張し連鎖的な対消滅現象を引き起こしかけた。すぐさま障壁で区切られた対象空間ごと宇宙空間へ緊急転送し危険を逃れました。

 エーデルの祈りは届かなかったようだ。この日エーデルは無神論者になった。

 おっわーれっ。ちゃんちゃん。


 


▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽


 


「ネルケ。どこだー?」


 アオイファミリーの新規メンバーとしてネルケが無事に誕生(ロールアウト)されてから数週間が経ったとある日の事、地下施設内を歩いてアオイがネルケを探していた。捜し始めてから一時間、既に時計の針はお昼近くを指していた。

 当初アオイはとりあえず歩いてればいつかは会えるだろうと高を括っていた。そのままあてどなく白い廊下、各施設を虱潰しで当たっていたのだがまだ目的の人物は探し出せていない。

 もういい時間だ。それに歩き詰めでお腹も空いてきたアオイは食堂に目的地を変更して歩き出した。この場所は食堂にも程近いので注して時間も掛からない。


「むぅぅ。少し話しがあったのに一体どこに居るんだろ」

「……呼んだ?」

「お?――うひゅおっ!?」


 思わず変な声が出た。それもそのはず、いきなり背後から二本の腕が伸びてきて抱き締められたからだ。かと思えば次の瞬間には首筋を湿った生温かいものが這った感触があった。首を捻って見やるとそこには舌を出した胸の乏しいお色気女忍者事ネルケが居た。首筋を這った感触は彼女の舌だったようだ。例の如く寝惚け眼のままだが今はそれに加えていたずらっ子のように笑っていた。


「な、なんだネルケか。脅かさないでよ、もう」

「ん?殿様が呼んだ。だから参上した。にんにん?」

「あー、確かにそうなんだけど、まあいいや。それでだ、ネルケに話しがあるんだけどさ」

「ん、なに?……夜伽?」

「違うから!そういうのは将来好きな人としなさい!わかった!?」


 ネルケの目がキラキラしていた。寝惚け眼なのにキラキラしていたとはこれいかに?それに対してアオイはネルケを振り解くと全力でツッコミを入れた。アオイ曰く『女の子なんだからもっと自分を大事にしろ』との事だった。本当にチキン、ヘタレである。

 この世界にてアオイももう十八歳なのだから性欲も人並みにあるはずだとネルケは予想していた。幸いにも今の身体は所謂“そういう事”が出来る仕様にもなっている。故にこれを使わない手はないとネルケは誕生してから今まで虎視眈々と機会を狙っていた。尤もその度に誰かしら(ネルケ以外全員)の妨害を受けて成就には至っていない。


「んっ。なら大丈夫。ワタシ殿様好きだよ。ぽっ」

「この子わかってねえええっ!!!」

「ん?んん?間違ってる?」

「い、いや一概に間違いと言ってるわけじゃなくてだな。もう少し時間を掛けてお互いを知ってからのほうがいいじゃない?」


 邪推なく本当の意味で純粋な疑問だからこそアオイは頭を悩ませる。誰かネルケに性教育をしてやってくれと半ば本気で願い始めていた。どうもネルケの行動を切っ掛けにしてエーデルを筆頭に他の者もスキンシップが過剰になっているような気がしてならないのだ。お陰でここ暫くはただでさえ磨り減らしていた理性がガリガリと今まで以上に削られている。この男、本気でチキン・オブ・へタレである。


「ん?なんで?ワタシ殿様の事知ってる。よく知ってる」

「は?」

「お風呂で身体を洗う時は必ず右腕から洗う。ベッドに入るともぞもぞと動く。トイレする時に必ず六回はプルプル振――」

「だああああっ!?!?何を言い出すんだこの子は!ていうか妙に具体的だったけど見てたの!?」

「んっ、バッチリ。眼福だった。ぽっ」

「うぼぁぁぁぁぁ……!!」


 ネルケの盗撮、というか覗き告白にアオイの羞恥心がブッチギレた。余りの恥かしさにその場でくず折れてしまった。シクシクと泣いている。

 泣き崩れたアオイにネルケが更に告白を続けた。


「殿様。大丈夫。誇っていいと思う。立派立派」

「もうヤメテ!俺のライフ(精神)はもうゼロだから!」


 ナニかの太さを表すように指でわっかを作ると手を上下に振りながら言うネルケにアオイの羞恥心が天元突破した……下に。テンションは上がっても精神的には急降下している。

 それから暫しの時を経て漸く場が収束へ向かった。


「殿様、話しってなに?」

「漸く本題か……」

「ん?殿様とお話し楽しかった。ダメ?」

「ああ、いやなんでもない。こっちの事だから、ホント気にしないで」

「んん?そう」


 アオイももう一杯一杯の様子だった。これ以上余計な話題を振りたくない。少しだけネルケが残念そうにしているように見えた。


「んんっ。それで話しなんだけどエーデルの通常服は今忍者服だよな?」

「ん。これがワタシの仕事服にして戦闘服。裾も短いからお色気も兼ねてる。……見る?」

「見ないよ!?ってそれはもういいんだって、もう……」

「むぅ、殿様はイケズ。もしかして……不の――」

「それ以上は言わせないし違うからな!?毎日本能と戦ってる俺を嘗めんなよ!?」


 アオイは言葉にせずとも強く主張したかった。自分は十九歳なのだから現役だ。ビックリするくらいビンビンだぞオイ。ずっと我慢が続いてるからホント辛いくらいだ。

 この男ここまでなって未だ誰にも手を出さないとは本当にキング・オブ・ヘタレである。彼女達の好意に気が付いていながら後一歩が踏み出せないらしい。それもそのはずで意外とロマンチストであるらしいアオイは女性にある種の幻想を抱いているようだ。


「むむむっ。解せぬ」

「いや解せぬじゃないから。はいはい。もういいから話しを続けるぞ」

「……ん、了解」

「その間がなんか引っ掛かるなぁ。で、だ。ここからが本当に本題なんだけど……」

「…………」

「…………」


 長い沈黙が続いた。アオイの目は今までにないほど真剣だった。ネルケは気圧されたのか背中を冷や汗が一筋流れた。


「……ごく」

「普段はメイド服を着てもらえないだろうか!?」

「ん、わかった」

「え?いいの!?」


 稀に見ぬ即答だった。コンマ数秒も間がない。そして本気でどうでもいい内容だった。


「ん、問題ない。でもそんなのでいいの?」

「何を言う子猫ちゃん!ネルケならメイド服は絶対に似合うと俺は確信してる!そして是非とも見たい!!」

「っ!そ、そう。ならミニスカ――」

「あっ、ミニスカメイドだけはヤメテ。あんな邪道は認められないから」


 ここにもアオイのよくわからない拘りがあったようだ。あるいはサクシャの――禁則事項により削除されました――。


「そう……。殿様はスカート丈が長いほうが好き?」

「大好きだ」

「ん、わかった。ならそうする」


 返答に何の迷いも見せないアオイに余程好きなのだなとネルケは思った。

 とはいえ、ここまで喜んでくれるのならこの青年の好みに合わせるのも吝かではない。

 だって可愛いじゃないか、とは言葉にはせずにネルケはクスクスと笑っていた。


 


▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽


 


 新たにネルケを仲間に加えてからのとある日の事。エーデルを筆頭にレギオンシスターズとネルケといったアオイを除いた全員が一堂に会していた。

 雰囲気作りのためか薄暗い部屋にて顔を合わせる彼女達は一様に不思議そうな顔を今回の会合の主催者であるエーデルに向けている。


「それでお姉様、なぜこのような会合を開かれたのですか?わたくし達も暇ではありませんのよ」

「本当ッスね。早く終わらせてほしいッス。アタシこのあと親方の手伝いがあるんスよ」

「なんだとアイゼン!密室で閣下と二人っきりになってナニをするつもりだ!?」

「何って、普通にもの作りッスよ。それの何が……あっ、はは~ん」

「な、なんだ?突然笑い出して、気色悪い」


 いきなりニヤニヤと笑い出したアイゼンにイリスが眉を顰めた。

 周囲はまた始まったかと苦笑している者や無関心な者、茶々を入れる者と様々だ。


「ぐふふ。イリスはナニを想像したんスかね~?」

「何って、っ!そんな破廉恥な事が言えるか!ばかーっ!」


 瞬間沸騰もかくやと言わんばかりにイリスは赤面した。異常発熱したためか頭からは湯気も出ている。


「破廉恥?アタシは何も言ってないんスけど?あれ~、イリスは何か破廉恥な想像してたんスかね~?ほらほら、正直に話してみるッスよ。ぐふふ」

「ば、ばばばばか者っ!そのようなこと言え、もとい!想像すらしてないわ!」

「本当ッスかね~?」


 もう墓穴を掘りすぎてる気がしないでもないが、これが二体の関係だ。

 というよりもイリスと他の面々の関係とも言える。一方的にからかわれるのが今のイリスだ。

 そうだとしても今日はエーデルの呼び掛けで集まったのだから、いつまでも雑談ばかりしてもいられない。皆もそれぞれに仕事があのだから早めに終わらせるべきだ。


「もうそのあたりにするのですよ、アイゼン。話しが始まらないのです」

「はーい。ごめんッス。ぐふふ」


 止めたのはリーリエだ。レギオンシスターズの中で一番幼い外見しているのとは打って変わって、冷静に二体の間に入って止めていた。


「イリスもバカ正直に反応するから体よく遊ばれるのです。普段の沈着冷静な武人の精神はどうしたのですか?」

「ぐっ。だがなリーリエ、元はといえばこいつが」

「言い訳は聞かないのですよ。今はそれよりもなんでボク達が集められたか、なのです」

「そうでございますとも。私達レギオンシスターズは増殖した個体がいるので構いませんが、エーデルお姉様とネルケは一個体のみでございますからそうもいきません。あまりお時間を取らせるというのも悪いとは思いませんか?」

「むっ」


 ペルレの言には一理あった。忙しい中で時間を作って集まっているのだから、このまま無用に時間を浪費するのは意味がない。

 アイゼンは後でいくらでも締め上げればいいのだから、今は矛を収めるべきだ。


「すまない……確かに、そうだ。姉上も、無用に場を騒がせてしまいすみませんでした」

「構いません。次から気をつけて頂けたらよいのですから」


 イリスは片付いた。残るはアイゼンだ、と思えばその彼女は我慢していたものを吹き出しておかしそうに笑っていた。


「ぐふふふ!イリスが怒られてるッス。あははは、あいたーっ!?」

「そういうアイゼンが一番反省するのです。まったくもう、なのです」

「ぐ、ぐぉおぉ。まさか鉄鞭でお尻を叩かれるとは思わなかったッス。お尻が割れるぅぅ……!」


 リーリエの手にはいつの間にか長さ五十cmほどの鉄鞭が握られていた。

 握りの部分をよく見ると“愛と鞭くん”と彫られている。

 読んで字の如し。燃える鉄の如く熱い愛と硬い鉄から繰り出される暴力は叩いた者を更生させる、という意味を持つ。

 だが、その実はただの鉄の棒。つまり、痛いだけだったりする。


「アイゼン。お尻は元から割れてるのですよ?それとももう一度なのですか?今度はエーデルお姉ちゃんにお願いするのですよ?」

「いやいやいやいやっ!わかったッス!もう結構ッス!ごめんなさいッス!エーデル姉ぇにやられたら今度こそお尻が割れちゃうッスよ!」

「わかればいいのですよ」


 それらを見ていたイリスは最初から素直に謝ればいいのに、と思ったが口には出さない。

 誰だって厄介事に巻き込まれるのは嫌がるものだ。

 そんな中で一体だけ空気が違う。彼女の周りだけが、なにやら柔らかくのほほんとした雰囲気だ。


「ん。とても賑やか。皆、仲良し。いいことだね。にんにん」


 お色気女忍者ことネルケだ。

 彼女はどこか楽しそうに納得したというように頷きながら言うが、同意する声は終ぞ挙がらなかった。


「さて、雑談はそこまでにしてもらいましょう」

「やっと本題ですか。それでお姉様、今日はどのようなご用向きで?」


 このままでは風変わりなお茶会になってしまうとマグノリエが無理矢理に話しを進めようと動いた。

 その背後にはまだアイゼンがお尻の痛みに喘いでいたが、それは無視された。こういう時は気にしたら負けだ。


「今日、集まってもらった理由ですが、それは……」


 全員を見渡したエーデルの目がギラリと妖しく輝く。

 妙な緊張感に誰からがゴクリと喉を鳴らす音がした。


「それは?」

「メイド服の規格統一化を図りたいと思います。主に私の使うものを正式なものとします」


 一拍、間が開いた。

 なんとも言えない沈黙が部屋の薄暗さも手伝って重いものに変えていた。


「……は?え?あの、姉上、今なんと?」


 それでもイリスは逸早く立ち直った。普段からからかわれているから衝撃に強いらしい。

 きっと今のは聞き間違いだ。そうだ。そうに違いない。

 彼女達は続々と立ち直り、イリスの疑問に皆一様に目に光を取り戻した。


「メイド服の規格統一化を図りたいと思います。主に私の使うものを正式なものとします」


 だが現実は悲しいかな。一言一句違えずにエーデルは淡々と伝えた。

 メイド服の規格統一化。つまり、機能は別として外見は統一しようという事だ。

 再度、現実を目の当たりにした全員は目と口を丸くして驚きを露わにした。


「ええっ!?」

「えー?……ん?」


 皆が一様に驚きの声を上げた。

 約一名の女忍者は意味がわかっていない様子だが、彼女達全員が今は気にしている余裕がなかった。

 マグノリエが、ドレスのように草食されたメイド服をふんわり翻して言った。


「そんなの横暴ですわ!それならわたくしのメイド服を採用していただいたほうがずっと有意義なものとなりますわ!」


 イリスが、大胆に背中の開いたメイド服を強調するように胸を張り言った。


「いや!やはりここは私のメイド服だろう!戦闘時において機動性を高めるのだぞ!」


 リーリエが、軍用ブーツ以外はエーデルのものとほぼ同じメイド服を弄りながら言った。


「ボクは別に今のままでもいいと思うのです。というより変える必要があるのですか?」


 ペルレが、スカート裾と袖口がゆったりしたメイド服を揺らして言った。


「困りましたわ。私はこのままでもよろしいと思うのですが。何か特別な理由がおありでございますか?」


 アイゼンが、袖を捲くったメイド服の胸元を摘んで引張りながら言った。


「アタシはそれでも構わないッスよ。ただ!それよりも誰もアタシのお尻を心配してくれないのが問題ッス!」


 どういうことッスか!と叫ぶアイゼンだけは当然ながら無視された。

 個々に主張する自分なりのメイド服を必死に説明する中でエーデルが手を上げて騒がしくなる場を宥めた。


「皆、異論があると、そう言われるのですね?」


 意図が掴めないネルケを除いた全員が示し合わせたように頷いた。

 エーデルは全員が頷いたことを確認して、なぜ今回の提案をしたのか説明する事にした。


「そもそもの切っ掛けはマスターがネルケにメイド服を着るように進めた事です」

「ん?ワタシ?……見てたの?」

「それが何か?私はマスターの忠実なる従者。いついかなる時にお声が掛かってもいいようにマスターの行動は常に把握していて当然でしょう。……いつ、悪い()が付くかもわかりませんからね」

「……悪趣味」

「失礼な事を言わないで下さいますか。ちゃんとマスターの私事(プライベート)は守っています」

「――――」

「――――」


 ネルケの寝惚け眼とエーデルの冷たい眼が、静かに睨み合う。

 どちらも険呑というほどではないが威圧感がひどく強い。気のせいかもしれないが空間がピシリと音を立てているようにさえ思える。


「んんっ!お姉様、ネルケも。今はなぜこのようなご提案をなされたか説明中ではないかしら」


 と、重苦しい空気に抗って、果敢にもマグノリエが皆を代表するように二体の間に切り込んだ。

 四つ二対の視線が僅かにマグノリエに向けられたがまた睨み合う形に戻った。

 しかし、それも長くは続かずに両者から同時に威圧感が消え去りこれにて終止符となる。


「……そうでしたね」

「……ん」

「この決着は後で行ないます。逃げないように」

「ん。そっちこそ」


 それでも最後に言葉の矛を合わせてしまうのは二体らしいことだった。

 周囲からの視線が呆れたように冷たい。それに気がついた二体は取り繕うように咳をした。


「こほん。切っ掛けは先の話した通りです。そして、これを機に効率化を目的とした規格統一を図りたいのです。絶対に、何が何でも、私のメイド服を正式装備にします。ではなく、できれば完璧ですね」

「うわっ。エーデルお姉ちゃんがブッチャけたのですよ。自分の願望がダダ漏れだったのです」

「しかもご自分の中ではもう決定事項っぽいでございますよ。どうしたらよろしいのかしら、このエーデルお姉様は」

「アタシはもうどうでもいいと思うッスよ。別に服装が変わったからって親方の見る目が変わるわけでもないッスからね」


 口々に文句を言う中で、提案した本人のエーデルが動いた。その手には肉厚で大振りなナイフが握られて手持ちの砥石でシャリシャリと見せ付けるように研いで見せていた。


「私の提案に、何か、異論があるのですか?」


 文句があるなら掛かって来いや。

 言葉の裏に真実ありとはよく言ったものだ。言葉よりも態度にありありと意味を乗せて話しているのだから。

 壊れされる覚悟で行くならやってやれない事はない。元よりレギオンシスターズは群で行動して初めて効果を発揮するのだから、数さえ揃えれば時間は掛かるだろうがいつかは勝利できるかもしれない。

 だが如何せん。この狭い室内では大きな効果は期待できない。徒に部屋を壊すわけにもいかないのだから尚更だ。涙を呑んで自重した。

 唯一、単独で戦えそうなネルケは寝惚け眼をやる気満々に輝かせていたが自分の着るメイド服を決めるのだと考えて、こちらも自重した。仕事着はお色気忍者服という強みを持っているという考えもあったのかもしれない。


「…………」


 だからこそここに居る全員が口を閉ざすしかなかった。

 今日、この日にてメイド服はエーデルの着ているもので統一された。

 この事をアオイが知った時に驚きつつも呆れたのはそれから間もなくの事だった。







実験その1。

実験その2。

ネルケはメイド忍者?

の三本でお送りしました。

加筆したメイド服は私のものだ!を加えてお送りしました。


あー、それと反物質云々の部分はチョーてきとーです。

うろ覚えな部分が多くて関連資料を簡単に漁って短くまとめました。

なんとなく『すげーものだ!』と思ってもらえれば作者は満足です。

詳しくはウィキペディア先生かグーグル先生に聞こう!

ジュールって単位は久しぶりに見ましたww

久しぶりすぎて『これ何?ww』って混乱したのは内緒ですよ?

ではでは。


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