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アナタは異世界で何をする?  作者: 鉄 桜
第一章・幼年期から青年期まで。
27/64

第10話・幕間


感想&評価&お気に入り登録、感謝感謝っ!

もう幕間こそが本編っぽい感じだ。

幕間はイングバルドとエーデルの語りが多くなる予感が、がががっ。

皆の感想&評価&ネタ提供が作者の力になっております。



 


 


 これはアオイの作り出した白騎士の稼働試験から一週間と少しが経ったとある日の夜の事だった。

 場所は夫婦の寝室、二人はイングバルドのベッドの上で膝を突き合わせていた。


「――それで一週間も食事やお風呂以外は缶詰になっていた、と?」

「はい」

「それで今アオイちゃんは連日の徹夜が祟って死んだように眠っている、と?」

「はい」


 問い詰めるのはイングバルド、答えるのはエーデル。問答が始まって彼是小一時間が経過していた。

 なぜこのような構図になっているのか、それは今日の夕食時に突如としてアオイが倒れた事が発端になっている。

 その場で慌てたイングバルドとクロードの両名は急いで傍へ駆け寄った。そしてテーブルに突っ伏したアオイに何があったのか軽く診るとただ寝ているだけだとわかり肩の力が抜けたのを二人は感じた。

 こうなると二人の視線はアオイの従者であるエーデルに向く。今の彼を一番傍で見ているのは彼女なのでそれも当然だろう。

 因みにこの場にはクロードは居ない。彼は定期的に外へ出る用事がありこの日がまさにそれだったために断腸の思いで出て行っていた。

 片やうふふと微笑みながら、片や無表情に淡々と説明するという今の状況がある。


「それで、エーデルちゃんは止めようとは思わなかったのかしら?」

「当然考慮致しました。ですがマスターがとても楽しそうでしたのでなぜか憚られました。本当に楽しそうでしたので」

「あらあら、まあまあ……」

「不思議です。前は止める事もできたのですが今は楽しそうなマスターを見ていると言い出せませんでした。不思議です」

「まあまあ、うふふふ……」


 うふふと微笑むイングバルドと淡々と説明するエーデルの構図は崩れない。

 だが注意して見るとイングバルドの目の奥は笑っていなかった。表面上は笑顔であり雰囲気も明るいから見落としてしまうほどに小さいから違和感にも思えない。

 それでもエーデルは偶然か必然かその違和感に気がついた。本人はよくわかっていないがそれでも何かが拙い事を感じた。

 そしてそういう時の対応はアオイに教えられていた。まずは突き合せていた膝を一歩引いて、そして地面――ここはベッドの上だが――に手をついて静かに頭を下げた。


「――申し訳ありません」


 キッチリした美しい土下座だった。イングバルドも思わず見惚れてしまいそうなほどに。

 因みにアオイは知らなかったのだが土下座や正座の文化はこの世界にも存在する。アース大陸の東方にあるいくつかの国の文化だ。ルメルシエ一家、特にクロードは東方に何度も足を運んでいるために少々影響を受けていた。だからこそイングバルドも知っている。


「うふふ、今回はもういいわ。幸いな事に大事になったわけではないものね。次からはちゃんと止めてくれればいいわ」

「了解致しました。マスターの体調管理も兼ねて注意致しましょう」


 頭を上げたエーデルはまた膝を突き合わせてイングバルドと話し合いを続けた。彼女の力強い肯定にイングバルドも満足そうに頷いている。


「お願いね。あっ、でも体調管理に託けてアオイちゃんに変な事しないでね、いい?」

「変な事、でしょうか?そのような事は致しませんが。私は誠心誠意マスターにお仕えするのみです」


 それが当然です、と真顔で言い切るエーデル。幻だろうが彼女の周囲がキラキラ輝いているように見えた。

 それを見たイングバルドは本当にこの子には条件付けが施されていないのかと疑問に思う。だが何度確認しても根幹システムの部分はダミーデータのみで実質的に空白領域だったのだから納得する他にない。

 一体エーデルの何がアオイに変質的なまでに執着しているのかが気になるイングバルドだった。

 そしてイングバルドはふと考えた、一応ここで釘は刺しておくかと。その……まだそういう行為は早いと思うから、とは母の思いだ。


「あらあら、まあまあ。あまりオイタしちゃダメよ?」

「ご安心を。イングバルド様のご教授もありマスターにはとてもお喜び頂いております。……ただ、最近はお恥かしいのかよく追い出されてしまいますが」

「あ、あらー……(まさか本当に実行したの?お風呂とかトイレとか、ベッドとかっ?)」


 過去の自分の行ないがここで返ってくるとは流石に思いもしなかった。半分未満冗談のつもりで言ったのに、とは戦々恐々とするイングバルドだった。

 一方そんな頬を引き攣らせているイングバルドを見たエーデルは不思議そうに見詰めている。


「……何か?」

「い、いいえなんでもないわよ。それよりもアオイちゃんは今大丈夫なのよね?」

「???はい、それは間違いなく」


 あからさまに話しを摩り替えた。それに素直に乗るのも内面が未熟なエーデルだからだろう。彼女も陰謀や策謀が絡まなければただの素直ないい子だ。


「ただの疲労と睡眠不足が原因ですので、今は医務室にて医療ポッドに収容、以後は栄養補給と快眠措置を処置中です。お休み頂ければ時機に回復されましょう」

「そんなになる前にちゃんと寝て欲しいものよね、本当に……」

「申し訳ありません……」

「あっ、いいのよ。私のほうこそグチグチとごめんなさいね。それで今アオイちゃんは誰が看てるのかしら?」


 こんなになるまで気がつかない自分達は親として失格なのではないか、とイングバルドは悩む。しかもエーデルに対してまるで責めるように愚痴ってしまうから更に自己嫌悪してしまう。それでも今後は気に掛けようと、気をつけようと子育てに思いを新たにした。

 しかしエーデルに振った話題が悪かった。その証拠に彼女の無表情が僅かに歪んでいる。


「……今はアーフが看ております。本来なら専属従者である私がマスターのお傍に侍りお世話するのが当然なのですがイングバルド様への報告も疎かにできませんので仕方なくアーフに譲った次第です。ええ、仕方なく」

「そ、そう。なんかごめんなさいね、本当に……」


 なぜだろう、今イングバルドにはエーデルから禍々しくはないがドロドロとした黒いオーラが噴き出ているように思えてならなかった。珍しくもイングバルドが気持ち押されている。


「いえ、マスターをお一人にはできませんでした。早くマスターの許へ戻りたいですが私もこれが最善であると判断します。早くマスターの許へ戻りたいですが」

「あらあら。うふふふ。もう、エーデルちゃんったら」

「???」


 やはりエーデルはエーデルだった。二言目には既に私情がダダ漏れだ。表情からは読めないがどこか悲しそうに見え纏っている黒いオーラもへにゃっと弱体化しているようだ。

 その姿を見て微笑ましく思ったイングバルドだった。


「それじゃお喋りはここまでにして早速始めましょうか。エーデルちゃんも早くアオイちゃんの許へ戻りたいでしょうしね」

「はい」

「……本当にこの子はアオイちゃん以外にはテレもしないわね(ボソッ)」


 先程までの体が嘘のようにエーデルは瞬時に姿勢を正して間髪入れずに答えた。迷いのない返答は正式稼働してまだ十年も経っていないからかエーデルは時々こうして素直な反応をする。その事にイングバルドは可愛らしいと思うのと同時に苦笑してしまう。

 そんな風に考えているイングバルドを不思議そうに見るのはエーデルだ。いきなり黙るのだから気にもなる。


「イングバルド様?」

「なんでもないわ。ふふふ。それじゃ私から、まずは――」


 ここからが本題だ。イングバルドとエーデル。ベッドの上で突き合せた膝。正した姿勢。そして真剣な目。

 最初にイングバルドから語られたのは主に地上の事だ。その中で人間族の社会情勢や軍事力だった。

 現在のアース大陸を制しているのは人間族の主導する国々である事は最早説明するまでもない事実だが、その情勢はひどく不安定だ。大陸の覇権を握るために争い始めて既に百年以上を戦い続いている。長らく続く戦争や紛争は国を疲弊させており国民の中では厭戦感情も高まっていた。

 このままなら今後十年前後で軍事的にも経済的にも破綻するとイングバルドとクロードは予測している。

 戦争、それも苛烈な戦争は人間族の科学力や魔法学を高めた。それは軍事力に直結するものであるほどに技術力を大いに発展させていた。技術が大いに発展したなら国にそして民に還元する事こそが寛容なのだが、戦時ゆえに民間に還元される事は滅多にない。

 民が疲弊すると国が傾く、国が傾くと民を養えない、それらに対応できない王は憤った民に排除される。巡り巡って最後には国は滅ぶ。

 残念な事にその兆候は見えていた。大国と大国の間に挟まれた小国や都市連合国家のいくつかが経済的、軍事的な理由から崩壊を始めており発展途上国並に国力を下げるか大国に併合されるなどの状況に陥っている。

 しかも崩壊した国は経済も生産も色々と破綻している事から支配下に置いても旨みがない。それどころか復興する義務も発生するために資金も人材もただ食うばかりでお荷物にしかならない。大半は大国間の緩衝地域として放置するのが今の状況だった。

 百年前と現在を比較して既に十数の小国や都市国家が何らかの理由で消えている。そして崩壊の兆しは大国にも影響を及ぼし始めている。

 王達は力を求めた。破綻し始めた現状を覆し得る力を。最早今のアース大陸には困窮した民を救おうとする殊勝な王は存在しない。己が欲望に貪欲であるばかりだ。

 従順な民も我慢の限界を迎えつつある今、近い将来にきっと牙を向いてくる。それを回避するには目に見える戦果が必要だ。それも疲弊し困窮する民の目を逸らせるほどの大きな戦果が。

 奇しくもその矛先はルメルシエ夫妻に向いた。幻のように現れては困窮する民に僅かばかりの施しをする。または戦火に巻き込まれた民を救わんと戦神の如く戦場を駆け抜ける。そして終われば誰に知られる事なく消えていく。

 勿論二人が姿を現したのは争いの場だけではない。祭事があれば共に歌い、共に踊り、共に笑った。共にあった二人は民の荒んだ心を優しく慰撫し時には叱咤激励した。

 大国の王達はそんな二人に目を着けた。

 僅かな施しも数多続けばそれは膨大なものとなる。ではその莫大な物資はどこから来たのか、と王達は考えた。最後には無限に湧き出るかのような物資を奪い我が物にせんとした。

 数千から数万の軍団がぶつかり合う戦場で第三勢力としてか弱い民を守りきる実力を持っている。当然その圧倒的とも言える力を利用できないか、と王達は考えた。荒ぶれる嵐のような武力を得んがために動いた。

 考えた。動いた。考えた。動いた。考えた。動いた。百年以上を歴代の王達が何度も考えた。そして現代、ここ十数年になってその考えが表面化した。実力を持って二人を従えようとしたのだ。

 尤もその勧誘の尽くは失敗に終わり、酷いものは容赦なく返り討ちにあっていたが。

 アオイが誕生してからはその勧誘も悪化しており今では誘っているのかそれともただ単に殺しに来ているのかわからないところだった。

 ここまで話してイングバルドはタメ息混じりに言葉を切った。


「――とまぁ、こんなところね。こうなると十年以内にはここにも足を伸ばしてくるかもしれないわ」


 もう一度タメ息を吐いた。子育てに力を入れていただけでなぜにこうも目の仇にされなければいけないのか。やはり少々助力が過ぎたのだろうかと考えずには居られなかった。

 人間族の王も馬鹿ではない。アース大陸を虱潰しに探している時にイングバルドの潜伏先の範囲を絞っているはずだ。いずれはこの南西の突端に位置する風が吹き荒れ険しい山岳の多いこの地にも訪れる事だろう。


「地上は騒がしいのですね。これではマスターもお心安らかに出来ないでしょうに」

「あら?その物言いだとアオイちゃんが外に興味があるような言い方ね」


 エーデルの呟きとも取れる言葉にイングバルドは気に掛かった。好奇心は悪い事ではない。アオイは幼い年齢に反して聡明だ。その子が“外”に興味を寄せているような物言いは聞き捨てならなかった。


「……以前マスターが仰っておられました、少し息が詰まると。自分の目で青空を見たいとも」

「そう、そんな事を、ね……」


 イングバルドはエーデルの言葉を聞いて微笑を陰らせた。今は愛する息子に対して申し訳なく思い寂しそうな表情をしている。

 エーデルは思い出す。いつだったかアオイが作品を作っている時に外について話す機会があった。


『え?外?んー、勿論興味はあるよ。こうして地下にばかり篭っていると息が詰まるしね』

『外に出たいとは思われないのですか?』

『ん、危ないって言われてるしね。出来る事なら外に出たいとは思うけど、母さん達を心配させたくないし』

『お優しいのですね、マスターは』

『ありがと。お世辞でも嬉しいよ。でも、そうだね。もしも外に出られたら広くて青い空を見たいかな……』


 あの時の寂しそうに笑うアオイの表情を思い出すとエーデルはズキズキと思考回路の一部にエラー警告が出るような不快な気持ちになる。できる事ならアオイの願いを叶えてあげたいとエーデルは考えるが今後の安全にはイングバルドとクロードの許可が必要だ。

 エーデルの実力を以ってすれば外に出るだけならできない事はない。だがその後の危険が多すぎる。戦乱渦巻く今の時代では特に。

 やはりアオイの安全を第一に考えるなら止めるべきだろう。が、それでも、とエーデルは愚にもつかない事を考えてしまう。アオイに青空を見せてあげたい、と。

 やや雰囲気を暗くするエーデルを目にしたイングバルドは三度タメ息を吐いた。ただし今回は苦笑の意味合いが強い。


「一度折を見て一緒に外に出掛けてみるべきかしら?」

「っ、それがよろしいでしょう。当然その時は」

「ええ、エーデルちゃんもね。わかってるわ。離れ離れは寂しいものねー?」

「イングバルド様。私はマスターの従者なのですから常に一緒に行動するのは当然の事でしょう」


 つんと澄ましているがこうして膝を突き合わせて話していると見えない事も見えてくる。イングバルドは産まれたばかりのアオイに初めて触れた時のような温かい気持ちになるのを覚えた。


「エーデルちゃん、貴女ってわかりやすいわね……」

「何がわかりやすいのでしょうか?」

「アオイちゃんに関する事だとわかりやすいって話しよ。ふふ、ふふふ」


 イングバルドの笑い声が響く中でエーデルは自分が笑われている事を理解しているから憮然とした態度を露わにしている。それを見て更に笑う、対してますます憮然とするという繰り返しだった。


 


▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽


 


「――ああ、もう一つ報告がありました」


 それから暫く膝詰め談義を続けてそれも終わりという頃にエーデルが思い出したように言った。寝室から出る間際、扉の前に立った時の事だ。そのままイングバルドの傍まで移動する。

 イングバルドは粗方“外”の現状などを話し合ったためにそれを不思議そうに見ている。


「あら、なにかしら?」

「マスターが新しくレギオンシリーズというものを作成されるようです。詳細は未だ不明ですが人手不足を解消する手段であるとか」

「人手不足と解消?アオイちゃんったらまた何かやらかすの?」


 イングバルドは『また』と言った。実はアオイが引き起こした問題は多々ある。

 例の召喚術に始まり夫妻が教育を担うようになってからはアオイの工房(アトリエ)から爆発音が轟き響く事や白の結晶アルブス・クリュスタルス製の頑丈な壁に高出力レーザーで大穴を開ける事などが時々あり、更には今も悪戯アイテムと称して色々作っている様子だ。

 今度は何をしてくれるのかとイングバルドは楽しみ、もとい警戒していた。


「構想段階のご様子でしたが半無限に増殖するナノマシン式の機械人形群との事でした。いくつかの役割に特化させて個ではなく群で運用する事を前提にしているとも仰せでした」

「あらあら、無限増殖なんて。ここもまた賑やかになるのかしらね?」

「おそらくは。まだ仮ですが今の段階で六種類になるかと思われます。検討段階ですので一~二種は削られるかもしれませんが」

「まあまあ。それは……え?多くない?そんなに作ってアオイちゃんって将来何になりたいのかしら」


 つい最近エーデルがロールアウトされたばかりだというのに十年も経たずに六種類の機械人形が増えると言う。流石のイングバルドも絶句した。

 半無限に増える戦力を手にしてアオイは何を考え、何を目的にしているのかそしてそれらを用いて将来何になるつもりなのか、よくわからなくなるイングバルドだった。

 そんな彼女を他所にエーデルはなにやら得意気に頷いていた。


「きっと天下を取られるための準備だと思われます。ええ、違いありません」


 が、口から出たのは突拍子もない内容だった。エーデルの言う『天下を取る』とはアース大陸を制覇し統一するという意味だ。存在を秘匿している長命種にはあるまじき行ないだ。


「流石にそんな……アオイちゃんに限ってそれはないと私は思うのだけど」

「いいえ、間違いありません。信じられませんのでしたらこれをご覧下さい」


 困惑するイングバルドの前にエーデルはいくつかの空間ウインドウを展開した。それはとある計画を記したものだった。

 イングバルドは読み勧めていくにつれて徐々に頬を引き攣らせていく。


「これは……え、ええ?これは、だって……浮遊大陸化計画?冗談よね、エーデルちゃん?」

「否定。実行はされておられませんがこの通り計画書として存在します。これは数ある計画の一つですが、それら全てをマスターご自身がご計画されたものになります」

「それでも、ええ?一〇〇km以上の大地を浮かべるなんて、不可能ではないけど、えー……」


 それは大地を一つの船として見立てて空中に浮かべようとする計画だった。

 方法としては第一段階で数十から数百箇所の地中深くに浮遊装置を設置して空中へ浮上させる。第二段階で移動用と保全兼防護用に浮遊大陸の外周部と数箇所の内部や船底に重力波推進機関と空間制御装置を設置する。第三段階で各種施設を地上と地下に建造する。

 これは大まかに説明したものであり、この後も防衛関係や生産関係などを含めた第四段階第五段階と続く。

 最終的には大陸そのもの防護フィールドで覆ってミッドガルドから宇宙空間へ転送して大気圏離脱を果たす事まで計画されている。

 方法は単純、されど無茶苦茶だ。そもそもだがミッドガルドから大陸を持ち出す事などしなくとも近隣にある小惑星を改造してしまえばいい。それなのにアオイは態々余計な手順を踏まえる工程を取った。

 しかもこれが実現不可能でない事が参った。ふと気を緩めると深いタメ息が零れそうになる。

 更に言うならまるで頭痛を堪えるように頭を抱えるイングバルドを前にエーデルは然も自信満々といった風にしている事か。


「これらは侵略拠点とするための計画の一つとしておられるのでしょう。他にもこの地下基地や生産拠点のようなものもあれば海上や海中に基地を建設するなどの計画もあります」

「あらあら、困ったわね……あら?それなら地上は?地上に関しての計画書はないの?」


 もうこの際だ、長命種の秘匿云々はこの際だから横に置いておくとしたイングバルドは陸・海・空・宙の陸だけが欠如している事が気になった。

 何のつもりかエーデルは次々と空間ウインドウに展開している。先程までの報告会よりも幾分イキイキしているように見える。

 そのどれもが突拍子もない計画だからこそ見ている分には楽しい。だがそれがアオイの手掛けたものだとわかっているだけに楽しんでいるだけではいられなかった。

 これではまるで昔々の秘密組織のようではないか。

 あら?なんとも心が躍るじゃないかと内心で満更でもないイングバルドだった。


「いくつかはあります。ですがそれも一つ二つでした。いえ、だからこそマスターは“外”にご興味を寄せておられるのでしょう。記録された情報ではなくご自身の目で直接確認したいのだと思われます」

「そう……」


 心躍っていたがエーデルの後半の台詞を聞いて浮かれそうになる心は消沈した。

 おそらくこの計画は“外”への関心が胸の内に溜まりに溜まった影響が出ているのではないかとイングバルドは考えた。

 だとしても、何度でも言うが現状のアース大陸は危険に満ちている。そんな“外”に出たとしてアオイに万一が起きたら事だ。かといってこのまま軟禁生活のような状態は望ましくない。

 できれば一万年くらいは自分達の手の届く場所で育てたいが、それも幼いのに聡明なアオイには必要ないかもしれない。

 ならば、とイングバルドは考える。


「やっぱり一度は“外”に連れて行ってあげないとかしらね」


 結局の所はそこなのだった。


「確かに。ですが必要とあれば、でお願い致します。マスターがお気にされますので」

「ええ、わかっているわ。それにしてもアオイちゃんももう少し我侭を言ってくれてもいいのだけど」


 悪戯もする。自分も通す。だけど肝心な部分で大きく迷惑になりそうになると途端に遠慮する嫌いのあるアオイだ。イングバルドは元よりクロードもそれが気になっていた。

 だからだろう、クロードは葵の前ではいつも以上にはしゃいでバカみたいな事をする。イングバルドも甘えさせようと色々と無茶もした。例の可愛い服を着せようとするのも……いや、あれはただの趣味だ。間違いない。


「そこがマスターのいい所です」

「親から見ると同時に悪い所でもあるのよねー」


 今日一番の優しい雰囲気のエーデルと困ったような誇らしいような気持ちになったイングバルドだった。








もうすぐアオイが外に出られるような予感です。

ミッドガルドに唯一存在するアース大陸とはどのような文明なのでしょうね?

ふっふっふっ。

ではでは。


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