第10話
今年最後の更新です。
アオイのマッド化が加速する……かもしれない。
では、どうぞ。
皆の感想&評価&ネタ提供が作者の力になっております。
とある日の夕方。工房に二人の影があった。部屋の中央にある大きな作業台の前で一人は機械工具を手にモノを作り上げていき、もう一人は作業する者の手伝いをしている。作業する機械音が騒がしく工房に響き渡る。普通なら耳を手で覆いたくなるような騒音の中で二人は手を止める事はない。
作業を進める者達の手には一切の澱みもない。まさに長年を共にしたような、阿吽の呼吸のような手馴れた感がある。
と、作業する彼の者の手が止まった。手伝っていた者の手も止まり、既に清潔なタオルを手にして待機していた。
「で、で、でけたどーっ!」
両腕を天高く突き上げて今感じている喜びを表してみた。どうも、一四歳になったアオイ・ルメルシエです。言葉使いがちょっとおかしくなったのは気にしないでくれ。
たった今、発明品の一つが完成してテンションがマッハで高くなっていたりする。生産プラントで材料は用意したけどそれ以外は全て手作りだ。
「お疲れ様でした、マスター。こちらをどうぞ。お顔を」
「ん?ああ、ありがとね。んーっ」
うっわー、油汚れがすごい。真っ黒じゃないか。
エーデルから渡されたタオルで顔を拭うと機械油と金属粉で真っ黒になっていた。
うん、これはひどい。こんなに汚れがつくまで気にならないとか、どれだけ集中していたんだって話しだな。
「マスター、お飲み物は――」
「緑茶で」
「はい。そう仰られるだろうと思いご用意しております」
ならなぜ聞いたのとは言わない。こういう時は黙って出されたものに手をつければいいんだよ。細かい事とかは気にしなくていいんだ。いや、寧ろ気にしたら負けなんだよ。
だからこそ一言感謝の言葉を述べればいい。
「ありがと。流石だね」
「過分なお言葉、恐縮です。マスターの従者として当然の事でしょう」
あー、そー。当然なのかー。
…………。
あぁ、ダメだな。ここ数週間ほど没頭していた作品が完成したからテンションがおかしくなってる気がする。
ちょっと落ち着いて、すぅぅ……はぁぁ。緑茶を一口啜って、ずずっ……うん、美味い。
「マスター?」
「え?あ、うん。ごめん。ちょっとね。なんでもないから気にしなくていいよ」
「……なるほど。連日の作業でテンションが変になっていたのですね。理解しました」
「わかってるなら言わなくていいからね!?」
少し考えるように沈黙したと思ったらこれだ。意味不明なほど以心伝心するなら敢えて言うのを控えようという気持ちはないものか。言葉にしなくとも気持ちを察してくれるのはありがたく……いや、やっぱり察するのは時々でいいと思う。
女だけじゃなくても男としても隠しておきたい事の一つや二つはあるものだ。
「ご安心下さい。マスターの私事に目を瞑る事も従者として心得ております」
「それは、安心、だけど……!ここはハッキリ言わずに後でさり気なく教えてくれるのが思い遣りじゃないかな!?」
「なるほど、一理ありますね。そういう事でしたら今後は表立った言動は控えさせて頂きます」
んん?妙にアッサリと認めたな。いつもならもう少し捻った事を言う所だと思ったんだけど……。もしかして、何か隠してる?
エーデルの事をジッと疑いの目で見る。
「なんでしょうか?」
ほほう、あくまでも白を切る、と?
エーデルの目に大きな動揺は見られない。言葉にも目立った澱みもなかった。
でも俺は見つけた。エーデルは戦闘時や一部の時を除いて感情の起伏が少ないから普段の様子ならわかり難いかもしれないけど確かに見つけた。
それは右手の人差し指が微かに動くんだ。これはエーデルが隠し事をしていた事を聞かれた時や聞かれたくない事を聞かれた時などに現れる癖のようなものだ。この反応がある時は大抵の場合、彼女は碌な事を考えてない。主に俺にとって。
エーデルは機械人形なのにヒトのような癖があるのか、と疑問もあるだろうけど、これは『ある』と断言しておこう。
なぜならガイノイドであるエーデル・シュタインは重要機関や身体の構成素材を除いて動作的な意味では極めて人間に近く、されど人間以上の存在としてあるのだからヒトのような癖の一つや二つ出てきてもおかしくない。
そんな人間味溢れたエーデルをまたジッと疑いの目で見ながら。
「ふーん。……こっそり楽しもうなんて、考えてない?」
「っ――」
彼女の頬が引き攣るようにほんの僅かに動いた。
それは小さな反応だ、普通なら気付かない程度の。だけど俺にとってそれは確信に至る大きな変化だった。
これでわかった。エーデルは俺のプライベートを覗き見ても何も言わずに観察する気だと!それを見てニヨニヨする気なんだと!いや、もしかしたら最悪の場合は母に密告されてしまうかもしれない!妙に仲いいし!
……ん?あ、れ……?は、母にバ バっ バレるっ?この前作ったアレとか?まさかその前に作ったアレとかも!……いや、それよりもアレかっ!?
あわっ、あわわわっ。
そ……そっ……そッ――それだけはイヤアアアァァアァァアァァッッ!!??
フリフリはっ!ヒラヒラはっ!レースはっ!もうイヤァァアァアァアっ!!俺もう一四歳になったの!子供ならともかくっ、もう似合わないっての!!
…………フッ。
自分で言ってて思ったけど、あれだね。自爆した感じがする。フフフ……。
「そ、そのような事よりも今回の作品はどのような代物なのでしょうか?すごく気になります。ささ、マスター、是非ご説明下さい」
「ふぅふぅ、ふぅぅ……なんか、誤魔化されたような気がするけど。……まぁ、もういいか」
「はい。それがよろしいかと存じます、マスター」
ちょっと想像もしたくない事が頭を過ぎった事で混乱しているようだ。さっきまでなにしていたのか記憶があやふやだ。
まぁその事はいい。今はエーデルの言うように今回の発明品についてだ。ここ数年エーデル・シュタインを手掛けた事を切欠にモノ創りの楽しさにすっかり嵌まり込んで意味もなく色々と作ったりした。その中では悪戯アイテムを作ったり既存の物を自分の手で作ってみたり、前世の銃器や兵器っぽいものを再現してエーデルに貢いだりしている。
あ?最後のだけはなんか違うような気がしてきたような?……いや、別にいいか。エーデルも喜んでたしな。
「さて、今回作ったのは何を隠そう強化服だ!初期開発名は“シロ君”だったけどそれを改めて“白騎士”と名付けてみた!どうかな!?エーデル!!」
中央の作業台に寝かされていた白騎士も今は台座自体が変形して立ち姿を披露している。
全体的なフォルムは全身を白い装甲に覆われた二mを越える大柄な騎士甲冑だ。極力出っ張りをなくして滑らかな流線型を取り入れたことで腕や肩、足などの稼動部分が柔軟な動きを可能にしている。加えて拡張性も高いから今後の発展性も確保しているし外観にも無駄に拘ったから無骨さよりも流麗さが際立って見える。
自画自賛だけど一目見たら思わず『う、美しい……』と言ってしまいそうなくらい綺麗な形状をした強化服だ。
あっ、因みに他にも“アカ君”と“クロ君”がある。そっちはまだ完成してないけど……あと少しだ。
さて、今の世界基準から考えると俺の作った強化服なんか外観の作り自体は古いけどな!この世界の強化服って部分的に機械が付いた全身タイツみたいな薄いタイプなのに性能は段違いに高いからなぁ……。
「不遜な言動は重々承知で申し上げますが敢えて申しますなら、外観から推測しますと些か、いえ十数世代ほど型は古いようですが性能は如何程なのでしょうか?」
「よくぞ聞いてくれた!形こそ大型で古い型に見えるけど性能そのものに最新の物に劣る所はない!いや、小回り的なものはコンマ数秒くらい劣るかもしれないけど……そんなものは気にならない膂力がある!!」
この世界基準の強化服の性能は人間の膂力や、走行時や反応速度などの速さを爆発的に向上させる。俺が作ったのはそれに優るとも劣らない代物だ。逆に言うと外観が変わっただけで性能的には殆ど向上もしていないというオチがあるけど……そこは今後の創意工夫でなんとかなる、かな。
それでも着装者の体格に合わせて自動調節されるし、全身を装甲で覆われている事からこちらのほうが心理的な安心感や頑丈さと防御力は格段に違うと自負している。
まぁ物自体はちょっと優れた防弾ベストくらいに考えればいいさ、と軽くエーデルに話すと彼女はなにやら神妙に頷いていた。
「理解しました。それとこれはどうでもよろしいのですが、先程から白騎士が完成して嬉しいのは察せられますが声量を今少し抑えられたほうがよろしいかと。お話されるご様子がクロード様にソックリです」
「なん……だと……?」
あの喧しい父とソックリ?……え?
エーデルの冷静な指摘に俺は自分自身に驚いた。自身で気が付かなかっただけでこの世界の父と母からシッカリと血を引いているらしい事が判明したからだ。
特にあのあらゆる意味で暑苦しいマッチョ父に似ていると言われた事がショックで仕方がない。どちらかというと母親似の姿をしているだけに尚更ショックだった。
ちょっと頭冷やそうかな。びーくーる、びーくーる。
「あの、マスター?そんなに落ち込まれなくともよろしいかと」
「あー、うん、そだね、うん。あははは……」
「笑いが虚ろなのですが……」
ごめん。ちょっとだけでいいから時間をちょうだい。直ぐに立ち直るから。ちょっとだけほっといて……。
あれから調子を元通りにするために工房を後にした。時間も夕飯時だったから家族と団欒を囲んで母の言動にゲンナリしたり父に哀れみの目を向けたりして少しだけ気分的に回復した。それから癒し要員としてシーちゃんとクーちゃんにも会いに行って戯れた事で完全に復活した。
父と似ていると言われただけで心にどれだけダメージを受けてるのかね……。
あー、ただ一つ気になる事があった。農業区画へ会いに行くとエーデルと二頭は顔を合わせる度になぜか高確率で火花を散らしている。あれは何?挨拶的な何かかね?それとも従者と使い魔のライバル意識とかかね?
いつだったか聞いてみても最後まではぐらかされるからよくわからない。
まぁ今それらは横に置いておくとして、だ。ここからは気を取り直して行こうと思う。
場所は工房に戻って、今は機能面や構造、総合的な性能の説明を改めてエーデルにしている所だ。それも終盤になってる。
「――というわけで全天候に対応!更に装備によっては空戦や水中、宇宙空間すら活動可能!更に、更にぃぃ!戦闘時は通常兵装から重装備、後方支援まで変更可能で――」
「マスター、少々お待ちを。それは今のものでも数世代前から可能ではなかったかと。私に記録されている情報が確かなら装備類では装備変更なしで全て対応可能のはずです。わざわざ旧世代の装備変換方式にした理由はなんなのでしょうか?」
「な、な、な……っ。こ、こ、こ……っ」
二の句が出なかった。残念だ。エーデルはロマンがわかってない。自分だって火薬式の銃器や兵器を愛用しているのに、俺の気持ちをわかってくれていないとは、実にショックだっ。言ってしまえば装備変更する事にこそ意味があるのに……!
確かに装備変更なしは使う者からすると便利だから魅力的かもしれないけどここは敢えて“装備変更”する事に意味があると思うんだ。まぁ極端な話し、ただの遊びだけど。
大体、必要なら装備変更なんて腕輪やエーデルみたいに亜空間格納庫の機能を付けてしまえば格納領域から呼び出してその場でササッと変更できるんだから大して変わらな――あっ。
「そうか、今から付けちゃえばいいじゃん」
「はい?あの、何を付けると?」
「エーデル、準備を!!」
「は、はい!?ただいま!」
大げさに作業するわけじゃない。幸いにも白騎士には拡張性を高く確保した設計になっているからモジュール化した部分にモノを差し込むだけだ。手の掛かった部分と言えば亜空間格納庫の機能を詰め込んだ基部を作る事のみで終わった。実にお手軽だ。
これで通常戦闘だろうと局地戦闘だろうと機体に不良がなければその場で装備変更が可能という事だ。
つまり結局の所は、だ。戦闘や緊急時にロマンを求めるのは間違いだと考え直す事にした。やっぱり実用性こそが最高。変な拘りは趣味の時だけに出せばいいやって事だな。仕事場に遊びを持ち込んじゃダメだ。
……遊び心はちょっとくらいならいいけど(ボソッ)。
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数日後。
と言うわけでエーデル・シュタインを切欠に色々と作成して、ついこの間も白騎士を作り終えたわけだけど、それから最低限の武装も作ってシッカリと搭載したので今日はその白騎士の実動試験をしようと思う。ハッキリ言ってしまえば模擬戦だ。
……とりあえずは父を相手に。
「――というわけで父さん、相手を頼むね。エーデルは記録を」
「了解致しました。細部に渡り記録させて頂きます」
前回と同じ第三訓練室にて恒例となった父との訓練を行なう時に、二人にそうお願いした。
白騎士は装着していない。今は前と同じ訓練着と腕輪だけだ。父も腕輪以外は似たような格好だ。
あの後で考えて白騎士を直ぐに装着できるようにした。所謂あれだ、変身ヒーローのように一瞬で装着できるように設定し直した。そして白騎士は腕輪の中に格納されている。
「何がどういうわけか知らないけど、愛息子の願いだ!父さんにドンと任せなさい!」
「あはは。よ、よろしく……」
いつも通り暑苦しいなぁ、なんて思ってない、よ?
父からも快く了承を得られたので早速白騎士を装着しようと思う。装着する意志を腕輪に集中して白騎士を転送した。
別に『へんしん!!(笑)』とか叫ぶ必要はない。情報端末のようにただ触れて思考操作すればいい。
一瞬だけ強く光る中で俺の身体に高圧縮合金で構成されたフレームと人工筋肉、神経素子、装甲版が順に展開されて白騎士が装着された。今の俺の身長が一六○cm強のだからその体格にフィットされた白騎士は本来のものとはやや小さくニm未満の大きさになっている。
父は俺が白騎士を装着した姿を見ると一言だけ『ほう』と感心したように呟くと次にはニヤリと獰猛な笑いを顔に浮かべていた。
「それを使って相手になれと言うのか?愛息子よ」
「父さん相手ならこの程度は可愛い玩具だよ。ただの稼働試験だし、それに父さんならどうって事ないと思ったんだけど、ダメならいつも通りやるけど……どうする?」
「クッ、はーっはっはっはっはっ!!その粋やよし!!構わないとも!!このまま始めようじゃないか!!」
豪快に笑いながら父は面白そうにそう言った。
確かに少しだけ挑発紛いの事をしたけどさ、今回は動作試験が主だからそこまでやる気を出さなくてもいいかなぁ、なんて思うのだけど。
「さあ!愛息子の準備も出来たようだから始めようか!!父さん、ちょっと張り切っちゃうぞ!!」
「ぅぇー……」
「ん?」
「わ、わーい。うれしーなー。よろしくねー(棒読み)」
「ああっ!!父さんに任せろ!!はっはっはっはっはっ!!!」
どうしよ。父さんって肝心な所で加減を間違える事が多々あるからなぁ。母にお説教されてからはそれも少しだけ落ち着いて、最近は安心できるようになってきたんだけど今回は父のやる気を無用に煽っちゃったから……あれ?そう考えると今の俺ってマズくね?
と内心で困惑していたらいつの間にか父は光剣を右手に構えていて、って!?
「さあ、さあさあ!構えろ!!――行くぞ!!」
「っ!!」
白騎士に設定した武装を転送した。手元が光り輝くと白騎士の身長と同程度の長さを持った両手剣が手元に現れ、それを両手で握って父の光剣を防いで凌いだ。
「いきなり不意打ちとかっ。これは動作試験だってのに何考えてんのさ!?」
「はっはっはっはっ!それでもシッカリと反応できたじゃないか!――それにな?この程度が出来ないようならそんなもの装着している意味はない!!」
「ぐっ!?なんで、こんなっ……この馬鹿力があああっ!!」
「父親に向かってバカとは何事かああっ!?」
「そういう意味じゃなーいっ!!ぐぅぅっっ!!」
やっぱり父は少々脳筋の嫌いがあると思う。頭のいい脳筋って性質が悪いな。
再度斬り掛かられて、しかも今度はそのまま連続で斬り掛かって来るから対応が大変だ。それに父は母以上の馬鹿力を出してくるからまともに受けると腕が痺れてしまう。受ける時は剣で逸らすように弾くか避けるしかない。
それでも白騎士は装着者の動作と意志をシッカリと反映して最適な回避運動と防御、センサー類は父を常にロックして居場所と次に取る最も高い行動予測を出してくれる。時に隙が見られれば反撃も繰り出した。防がれるけど……。
「ところで……いつもの小太刀じゃないけどなぜなのかな!?」
「気にする所がそこ!?なぜもなにもこのスーツの体格で小ぶりな小太刀は使い辛いからだけど。それがなにさっ?」
「ただ気になった!!」
「心底どうでもいい理由だった!?」
「はっはっはっはっはっはっ!!!」
このようにふざけた会話もしているけど、その実、並行して何度も剣を合わせている。光剣と両手剣が打ち合うたびに火花を散らしているところから両者の尋常ではない膂力をわかってもらえるだろうか。
つまり!一瞬でも!気を抜くと!俺が!危ないんだよ!こんチクショー!!
それから数十合ほど切り結んで、もう少しで三桁に達するという所で父が大きく後退して光剣を降ろした。
「うん!近接戦闘についてはこんなものか!それじゃ次は中距離から遠距離における動作の試験と行こうか!!」
「開発者の俺よりも責任者っぽい!?その判断は俺がするべきじゃないかな……」
「じゃあ愛息子よ。まだ続けるのか?」
むっ。そう言われると言葉に詰まった。
エーデルに視線を移すと彼女と目が合い、無言で一度だけ頷いていたのが見えた。この事から豊富にデータ取りが出来たかはともかく一定のラインを超えたということだろう。
ならば次の試験項目に移っても問題はない、よな。
父に視線を移すと苦笑しながらこちらを見守るように見ていたから妙に居心地が悪い。
「むむむ……。次の試験に、移る」
「そうだろう、そうだろう!それじゃ――行くぞ!!」
「だかっ――がっ!?ぅ、くぅぅ!だから不意打ちは止めろってば!!」
宣言と同時に一瞬で展開して解放された風の魔法で訓練の室内に展開された防護フィールドの壁まで吹き飛ばされていた。
気が付いた時には吹き飛ばされていたけど、辛うじて防御姿勢と激突の瞬間に受身は取る事ができていたからダメージそのものは殆どないけど、これは父の手加減したからの結果だ。父なら風の魔法でただ吹き飛ばすなんてマネはしないで風を圧縮してカマイタチのように真空の刃で容赦なく切り刻みに来る。今回は稼働試験だから吹き飛ばされただけで終わったんだ。
輪切りにされる自分の姿を想像してゾッとしたから、ってわけじゃないけど……絶対に後で母にチクる。それと、今気が付いたけどエーデルの父を見る目が怖いわけじゃ断じてないっ!
「(ブルルッ)っ!?――なんかすっごい寒気がした気がする!!」
(知らないよ!!)
相変わらず勘が鋭いったらない、まったく……。
両手剣を格納して新たに遠距離戦の兵装を転送した。選択したのはエーデルとお揃いのガトリング砲だ。ただし弾薬はバラ撒けるように大量に用意したために背中に背負うような大きな弾薬タンクを背負う事になってしまったから不恰好に見える。それでもこの兵装にした事には理由がある。速射性と集弾性に難があるけど連射性と弾がバラけるから弾幕を張るには最適の兵器だからだ。
要は『俺に近付くな!バカ野郎っ!!』って事だ。
ガトリング砲の二丁を白騎士の腰部分にあるハードポイントに接続して固定して重心を安定化した。でもやはり背中に背負う弾薬タンクが大きくて嵩張るから重心がぶれて仕方ないのでここは要改良、っと心の中でメモを取るとエーデルからなぜか通信があった。出てみると『ご安心を。メモは取りました』と言って直ぐに切られた。
あの子は一体どこまで……いや、ここは便利と割り切って深く考えるのは止めておこう。
トリガーに指を掛けてガトリング砲の照準を余裕そうに構える父に合わせたら引き金をスイッチし、半秒後には束ねられた六本の銃身が電動モーターによって高速回転を始めて射撃体勢に入った。
「こほこほっ。クッ、お返しだ!――これでも食らえっ!!」
「なんのこれしき!!はいはいはい!!はああああああっっ!!」
二機のガトリング砲から撃ち出される数百から数千発の一二.七mm弾が弾幕を張るも父に襲い掛かるも、それら尽くが回避されるか光剣で叩き落とされてしまった。
エーデルの時の攻防を間近で見ていたから数で圧倒できるなんて思ってなかったけど、一発くらいはヒットしてほしかった。これは稼働試験だからちゃんと動作するのかの確認が取れれば問題ないのだけど、やはり勝ちたいと思うのが人情だとも思う。
今まで一度も父に勝った事ないし!従者のエーデルが一度は白星を飾ってるのに主人の俺が一度も勝てた事がないとか。……フフフ。俺って雑魚いな。
それにしても大型の銃器がこんなにも取り回し難いとは思わなかった白騎士を装着しているから重量的に不満はないけど大きくて嵩張るから接近されると対応が遅れがちになる。
一層の事、ガトリング砲に特製のシールドか銃剣、もしくはその両方を取り付ける事で接近戦では振り回して敵を薙ぎ払う事も考えるべきかもしれない。
今は遠距離戦闘の試験中なんだけどね!
げぇっ!?弾が切れた!!
「はーっはっはっはっはっ!!それで、終わりかな!!愛息子よ!?」
「ま、まだまだあああっ!転送っ!!」
ガトリング砲の弾薬を格納領域から補充すると左手のガトリング砲を格納してから新たにロケット砲と、空いた左肩に誘導性を重視した小型の一二連装型地対地ミサイルを転送した。
ガトリング砲で弾幕を張って父を牽制して動きを封じ込めて、小型ミサイルで包囲網を敷き、単純だけど大威力のロケット砲で追い討ちをかけた。
なのに……っ!!
「はーっはっはっはっはっ!!この程度ではまだまだ父さんに掠りもしないな!!」
グッ!なんでこの父はその尽くを避けたり斬ったりするのかな!!
この人は本当に人間なのだろうか?一二歳の誕生日に長命種がどうのこうのと話された時はドン引きしたけどあの話しは本当だったのかな。そう考えればこの理不尽な光景も半ば納得できるんだけど……。
銃弾や砲弾、ミサイルやロケットの弾頭を実際に三枚におろすとか普通なら生身の人間じゃまずできない。……できない、よな?
「亜音速で飛ぶ弾を斬るとか……この出鱈目人種が!!」
「何を言ってるんだ、愛息子よ!?お前も出来るだろうが!!」
「――え?」
「え?やってたじゃないか!実体弾じゃなくて魔法だったがな!!あれには父さんも驚いた!!」
「ちょっ!?なにそれ、怖すぎる……」
最初の頃は無我夢中で小太刀を振り回していたけどそんな事していたなんて知らないって!何かの間違いじゃ……は?そこ!何を『事実です、マスター』などと密かに秘匿通信を送ってきやがりますか!!――ばっ!?いいよ別に!その瞬間を捉えた記録映像とかいらないって!リピートするなって!
ともかくっ、俺はそんな人外じゃない!“あの”父母と違って俺は普通人なんだ!エーデルなら信じてくれ――ああっ!?
「ちょっとエーデル!なにその『え?今更ですか?』みたいな顔……はいつも通りか、目は!?俺は父さんみたいな人外じゃないよ!!ねえ、そうだろう!?」
「マスター……っ、既に手遅れなのですよ」
「泣くマネするほどなのか!!」
と言うか手遅れって何!?何が手遅れなのさ!?――いや、待て。もしかして母と父が俺に盛っていた正体不明のナノマシンが入った錠剤やカプセルの事か!?俺が人外染みた事をやれたのもそれが原因だったのか!!
「いえ、それは違います」
「キッパリ、バッサリ切られたーっ!?」
じゃあ何さ!?あの錠剤やカプセルは何なのさ!?
――え?健康維持と体型を調整するナノマシンと他にも“色々”、だと……。あれ?じゃあ何?俺がちょっと女顔やほっそりした体型なのってそれのせい?
…………。
おい、こら?ちょっとだよ!ガッツリ女顔じゃないよ!何でよりにもよってエーデルはそこに反応するかな!?それと態々意外そうな顔作って言うのもやめような?ちょっとムッとしたから!
「どうでもいいけど愛息子は父さんの事を何だと思ってるのかな!?流石に傷つくぞ!」
「何って、人外?俺的に考えて」
「人外ですね。そこは間違いないかと」
「二人して即答!?」
いや、コンマ数秒は考えたよ?……たぶん。
そう言いつつも二人して視線は父から横に逸らして絶対に合わせようとしない。
察しろ?いい加減、父の高笑いがウザくなった……わけじゃないよ?
「う、う、ううっ!母さーんっ!愛息子達がボクをいじめるよーっ!!」
「あっ!父さん!?」
多大な誤解を招くような事を叫びながら廊下を爆走するのは止めてくれない!?
止める間もなく訓練室から出て行く父の背中を慌てる俺と我関せずといった風のエーデルはただ見送る事しか出来なかった。
それよりも大の大人、それもマッチョなナイスガイが泣きながら走って行く姿というのはあまり見目麗しいものじゃない。逆にちょっとしたショック映像だ。
信じられるか?あれでも俺の実の父親なんだぜぃ。ハハハ……。
「流石です、マスター。実の父親ですら精神的に追い詰めて泣くまで苛め抜くとは。未だ若輩者である私には到底できない事でしょう。大変勉強になります」
「人聞きが悪過ぎる!?」
違う、違うよ!そんなつもりは毛ほどもなかった!それにできないもなにもエーデルは今俺相手にやってるじゃないか!何よりもそんなものを勉強しなくていいよ!そんなの覚えて今後の何に活用する気かな!?
その当のエーデルは今、何事もなかったかのように試験の撤収作業に入っている。作業を淡々と進める彼女の姿を見ていると先程までの言動や行動が嘘のように思えてしまう。
結局、稼働試験も中途半端に終わってしまった。動作不良は見られなかったけど予定していた項目も半分も埋められていない。こればかりはもう一度試験を実施する必要がある。
はぁぁ……がんばろ。
と言うか父のあれはマジ泣きだった、のか?
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白騎士の稼働試験を中途半端に終える事になった俺は工房にてエーデルと暫しの休憩を挟んでから反省会へと洒落込んだ。
例えば現時点まで収集された稼働時の情報を整理して白騎士自体を改良したり最適化したりや武装面ではエーデルも使用しているガトリング砲の弾薬タンクを白騎士でも使い易いように改良したり新武装の開発案を考えたりなどしていた。
特に新武装の考案時にはエーデルが、勿論意訳だけど『是非とも八八cm砲を作りましょう!』と目をキラキラ輝かせながら強く勧めてきた時はどうしたものかと頭を悩ませたものだ。
俺も今まで色々と作った。機械人形や強化服用に実弾兵器、レーザーやビームといった光学兵器から相転移砲やMBH砲などの大規模破壊兵器まで色々と。それらを個人兵装とした後になって『え?これってどうよ?』と思ったけどさ。
前に言っていたんだけどエーデル曰く『マスターは作業時に興が乗りますとよく暴走しますね』との事だ。本当に自覚がないから自分で自分がこわい。
そんなこんなで一通りの作業を終わらせた次に取り掛かったのが白騎士とは別アプローチで作った強化服である“クロ君”と“アカ君”だ。
シロ君事白騎士は形状の説明は省くとして性能面を紹介するならこうだ。あらゆる環境に対応可能の汎用性に重点を置いた高性能機であり、過不足なくどのような状況でも正面から殴り合える機体だと断言しよう。シンプルな仕様だからこその強みを持つ、実に使い勝手がいいのが白騎士だ。
クロ君は鋭角的なフォルムを持つ黒い全身装甲だけどフード付きマントのような装備で覆われていて、白騎士に比べるとやや小柄で全体的に細身の形状をしている。
いくつかある機能を紹介するなら熱光学迷彩や静穏性能があるけど、特に優れているのは迅速な任務遂行と離脱能力を視野に入れた高速機動能力を有している事だ。白騎士すら凌ぐその高速機動能力により高い離脱能力を有している事から隠密性に優れた特化型になった。更に各種手裏剣や煙幕、暗器などなど忍者っぽいギミックも満載している。
クロ君は仮の開発名称だから正式名称に決めるとするなら、そうだな……黒い暗殺者か。
ハハハ、見たまんまの名前だな、これって。
さてと、最後にアカ君だけど、これだけが毛色は違う。仕様そのものは白騎士と大きな違いはないけどアカ君の装着者はヒトではなく元から身体能力的に遥かに優れている機械人形を対象にしていて、更なる強化を目的とした機体だ。白騎士よりも一mほど大柄で攻撃的で先鋭的なフォルムをしている真赤な全身装甲で覆われたアカ君は機械人形、この場合はガイノイドであるエーデルのような機械人形が装着する事を前提にしたものだけれど、これは強化服と言うよりも強化外装を呼ぶほうが正しいかもしれない代物だ。
仮にエーデルがアカ君を装着したとするなら防御面は基本として膂力や俊敏さなどスペックが飛躍的に向上する。強化外装自体にも独立した動力炉を積んでいるから装着者と接続すれば総出力なんかも上乗せされる。それに緊急時には装着者が機能停止するような事態に陥っても強化外装の動力炉からエネルギーを供給してくれるという素敵仕様だ。
正式名称にするなら赤の処刑人かね。安直だけど自分では悪くないと思ってる。
とまぁこの三機を製作する理由は至極単純なものだ。ぶっちゃけただの思い付きだった。そうして三機を開発していたわけなんだけど。はてさて、我が事ながら思い付きによる突発的な行動って怖いね。あははは。
さてと、肝心の白騎士の稼働データも全てを取り終わったわけじゃないけど、それでもそれら殆どは些細なもので然程気に掛けるほどでもない。それなら一層の事、残りのクロ君とアカ君も九割方出来上がっているんだから、そちらを稼働試験まで持って行くようにするのも一興だ。それほどの手間でもないのだから。
このまま白騎士に集中するか、それともクロ君とアカ君も並行して作業を続けるか。
さてさて、どうしたものか……。
「幸い手間になる工程はありませんので同時進行なされてはいかがでしょうか?私もお手伝いいたしますので」
本当にこの子は、まるで俺の考えを読んだかのように聞いてくるな。
ちょっとこの後どうしようかな、と考えていたらエーデルが緑茶と芋羊羹を差し出しながらそう言ってきた。
言い忘れていたけど工房内の隅の一角には寛ぎ空間として二畳の畳みが敷かれていてその上には小さな炬燵がある。因みにこの炬燵も畳みも元々この世界にあったものだ。エーデルが持ってきた緑茶や芋羊羹もこの世界にあるものだ。芋羊羹もそうだけどこれはエーデルがレシピを元に自作してくれたものだ。
前にちょっと調べてみた事があるのだけど、どうやらアース大陸の東のほう、海に面した隅に江戸か明治に相当した文化形態の国が幾つかあるようだ。
米がある事から期待していたけどここまで前世と似通っているのには驚きと同時に喜びを感じたものだ。生前慣れ親しんだ日本食が食べられる、ってな。
っとと失礼失礼、つい話しが脱線した。えーと、あぁそうそう、読心術を駆使してるっぽいエーデルの事だったな。
「エーデルって本当に俺の考えを察してくれるよね。本当にすごい」
「マスターの従者として当然でしょう。従者たる者、常に主の先を読み備えるもの……とイングバルド様よりお教え頂きました」
お陰で未来予測の演算確率値がコンマ数%ほど向上致しました、と言ったエーデルがどこか得意気に言ったように見えた。
またかっ、また母なのかっ!いい加減に俺のエーデルに変な事を吹き込むのを止めてもらいたいものだ。これまでの経緯から考えるとまだ他に吹き込まれているかもしれないのか?
…………。
あ、頭が痛いなぁ……。
「マスター、どうされました?マスター?」
「っ、ああ。ごめんごめん。何でもないさ。ちょっとあの母さんをどうしてやろうか考えてただけだから」
母の事を考えても仕方がない。対策を取ってもあの母なら物ともせずに食い破ってくるだろうし。
話しは戻って三機の事だけど、もうこの際だから開き直って全部の作業を同時進行しよう。大した手間にもならないだろう。実際に手が足りないだけで。ふむん、“手”、か……ふむふむ。
「???よくわかりませんが……」
「いいのいいの。エーデルはわからなくていいから。それよりも次の発明品でちょっと相談なんだけど――」
――軍団シリーズってどう思う?
なんとなくわかるかもしれませんがアオイは苦労性のツッコミ属性持ちですww
そしてそれは母イングバルドとエーデルが主な原因です。これは仕様です。(キリッ)
更にアオイは父クロード似なのは間違いないですね。
ではでは。
次の更新は年越しの瞬間かな。
なんてww




