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アナタは異世界で何をする?  作者: 鉄 桜
第一章・幼年期から青年期まで。
23/64

第9話

エーデルさん。

訓練風景。

オチ。

の三本です。

12/24誤字修正。文章修正。

皆の感想&評価&ネタ提供が作者の力になっております。


 


 


 こつこつ。こつこつ。

 朝、歩く音が響く。一人、白い廊下を進む音だ。

 ここは地下施設、通称“家”、正式名称を多目的事象観測地下城砦と言う。その施設にある生活区画の廊下を進む一人の影があった。

 彼女の名はエーデル・シュタイン。アオイ・ルメルシエが若干八歳の時に産み出された存在であり今は機械人形(アンドロイド)の上位機種であるガイノイドだ。

 彼女の外見は目も眩むような美人だった。廊下を一歩進むごとにアップテールに結い上げられた彼女の輝く銀髪がサラサラと左右に揺れている。

 服装はシンプルな黒のロングワンピース、その上にレースやフリルが嫌味にならない程度に彩られた白のエプロンドレスを着ていて背後で揺れるエプロンドレスの大きな結び目が目を引く。細くしなやかな手を覆うのは薄手の白手袋。そして頭部に添えられているのはレースの舞う真白なカチューシャだ。

 ここまではまだいい。由緒正しいメイドの姿と言えるだろう。

 だが待ってほしい、この一点だけは異様だった。

 彼女は何を考えたのか頑丈さだけが取柄のような無骨な軍用ブーツを履いていた。軍用ブーツ以外は絵に描いたような完璧なメイドであった。

 だが不思議と無骨な軍用ブーツとメイド服が絶妙に絡み合い洗練された流麗さと無骨な力強さが絶妙に合わさっていた。

 これら全てはアオイ謹製の特別仕様だ。日常生活から戦闘時まで役立つ様々なギミックが満載されている。


「…………」


 暫く歩いたエーデルはとある扉の前に立っていた。この部屋が彼女の目的地だ。

 声を掛け一度二度と扉をノックして部屋の主人が起床しているかを確認するが反応はなかった。

 確認を終えた彼女は扉のキーロック部分を一瞥すると『ピーッ』とロックが解除された音が静かに響いた。

 本来なら鍵を持った者だけが開く事ができるはずだがそこはガイノイドだからこそ出来る芸当だ。システムに認証を求めれば与えられた権限内で開錠する事が可能だった。

 扉が開くとエーデルは静かに部屋に入る。彼女は一度部屋の見渡し右奥にあるベッドに近付いていく。そこに目的の人は居た。

 ベッドの上で眠っている人物を確認した彼女は僅かに表情を緩ませている。


「おはようございます、マスター。ご起床のお時間です」


 淡々と呼び掛ける。ベッドの上で眠っているのはエーデルがマスターと認めたアオイ・ルメルシエだ。今年で十三歳になった彼はエーデルの呼び掛けに『ぅぅ……』と身動ぎしたが反応はそれだけで起きる気配がない。

 彼女はもう一度呼び掛ける事にした。今度は彼の肩に軽く手を乗せて揺らしながら。


「マスター、ご起床のお時間です。マスター?」


 呼び掛ける彼女にアオイは尚も『んー……』と身動ぎして起きる気配すら見せない。

 三度目の正直。もう一度呼び掛ける事にした。今度は少しだけ強く揺らしながら。


「マスター、起きて下さい。ご起床のお時間になりました。マスター?」


 やっと反応があった。アオイが薄目を開けてエーデルを見た……ように思えた。

 それと言うのもアオイは今にもまた寝てしまいそうなほどにウトウトと目を瞬かせているからだ。


「んー……あと、五…………年、ぅー」

「わかりました。それでは五年後にお起こしさせて頂きます」

「ん。よろし、クー……」


 了承した。本来ならおかしいと思うはずなのにエーデルは敬愛する主人の言う事を疑いもせずに了承した。

 ただ、それというのも彼女自身も『悠久を生きる長命種ならこれくらい普通なのかな』という思いもあった事が起因している。

 ここでエーデルは閃いた。


「――はっ。しかし、そうなるとマスターが寝ている間のお身体のお清めが必要不可欠でしょうか?勿論その間の下のお世話もしなければ……ふふ、ふふふ」


 アオイが寝ていて聞いていないのをいい事にエーデルは本音の一部がダダ洩れになっていた。心なしか拳に力を入れて楽しそうにしている。

 もしもアオイがこれを見れば小さなガッツポーズである事がわかるだろう。

 うふ、ふふふ。と相貌を崩して笑うエーデルは妄そ……考えた。


 


 


……。


…………。


 エーデルは甲斐甲斐しくお世話していた。ベッドの上で『スー……スー……』と静かに寝息を立てる主人を何よりも尊い至宝のように手厚く看護してきた。

 そんな彼女、エーデルは大胆にも主人の布団を捲くり下半身を暴き立てた。

 彼女は今“それ”を手に己が主人に触れていた。彼女の呼吸が僅かに跳ね上がる。

 そっと手にした“それ”を主人の“もの”の口にそっと痛くならないように挿入する。


『ぁぁ……。さあマスター、どうぞお出し下さい。一滴残らず私が受け止めましょう。さあ……』


 エーデルは主人の“もの”から早く出るようにと優しく、優しく手で撫でた。

 優しく触れても尚敏感な“もの”は彼女に触れられてピクピクと反応していた。

 徐々に大きくなる“もの”を彼女は優しく丁寧に撫で回した。まるで愛おしいものに触れるように。

 暫くそうして撫でていると主人の“もの”がピクリと震えた。エーデルは嬉しそうに目を細めると撫でる手を少しずつ早くなるように上下に手を動かした。彼女も先程よりも息が弾み、頬は上気している。

 すると寝ている主人が『ぅ……ぁ、っ』と切なそうに呻いて身体を硬直させて“もの”から“それ”の中に吐き出していた。

 エーデルは頬を赤く染めて吐き出されたばかりの“それ”を見た。

 ふふふ、と笑う彼女は本当に嬉しそうに主人を見ている。その視線は熱く、目は潤んでいた。


『ふふふ。ダメですよ、マスター。出す“もの”が違いますよ。これはこれで私は嬉しいのですが、出すなら“こちら”へ下さいませ。……ふふふ』


 そう言うとエーデルは主人の上に跨ると腰をくねらせ妖艶に微笑んだ。

 エーデルのスカートの中では主人の“もの”と彼女のそれ“が布越しに擦れ合い彼女は時折僅かに身体を硬直させた。


『はぅっ……あっ、あっ……んんっ』


 微弱な快感に打ち震えながらもエーデルは徐々に腰を強く擦り付ける。

 エーデルの呼吸が乱れ、吐息は蜜のように甘い。触れる肌は炎のように熱かった。


『はあはあ……んっ、邪魔ですよね。ねえマスター……?』


 やがて我慢できなくなったかエーデルの手が動いた。主と彼女を隔てる無粋な布を躊躇する事無く足から抜き取るとまだ固い主人の“もの”を自身の“それ”に押し当て……。


『ぁ……』

『ぅ、ぁん。ふふふ、いつまでも私がお側に居りますよ。私の、私だけの、マスター……ふふふ』


 主人が眠りについて二年目。彼女は今日も敬愛する主人の世話をする。

 今がこの世の春、と幸せそうに笑うメイドと何も知らずに眠り続ける主人だった。


…………。


……。


 


 


 と、彼女はこのように妄想した。

 エーデルは心が躍っていた。これから敬愛するマスターのお世話ができる事を、それも自身に全てを委ねられる事を思い軽く昇天してしまいそうなほどに気分が高揚していた。


 と、ここで漸くアオイの意識は覚醒してきたようだ……。


 


▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽


 


 なんだか……騒がし、い?んー……。


「マスター!私、五年と言わず十年でも百年でもお世話致します!」

「パピおんっ!?」


 突然の大声に驚いて掛け布団を天井高く蹴り飛ばしてしまうほどに驚いてしまった。ボフッと落ちてきた掛け布団に再度包まれて顔だけ出して周囲を窺う。

 まさかの敵襲!?音はしなかったと思うけど空爆か!?それとも侵入者!?もしかして、いや、まさか――下着ドロか!?

 お、お、お、俺は男だあああああっっ!!!!


「ぁ……」

「何っ!?何なの!?……え?あ?エ、エーデル?」


 あ、あれ?あれ?一体何がどうした?

 それで意識もハッキリしてきた時にベッドの横で両手と膝を床につけて突っ伏しているエーデルが『ぁ……ぁ……ぁ……』となぜか茫然自失のような状態になっていた。

 彼女の銀髪がサラサラと滝のように流れて顔を隠しているからどのような表情をしているのかがわからない。


「え?な、なに?何しているの?一体どうしたの?」

「な、な、な、なぜ起きられるのですか!?私のドキドキお世話生活はどうなるのですか!?もう二年目までお世話計画を練っているのですよ!?尿瓶とか!!」

「意味がわからない!?何を言っているのさ!?」


 二年目!?お世話計画!?尿瓶ってなんの話し!?いきなりそんな事言われても、その……困るよ!!

 どうも、十三歳になったアオイ・ルメルシエだ。今の俺は朝起きるとエーデルが錯乱していた。俺も突然の事で恥ずかしながら混乱している。

 マジで意味がわからな!!


 それから数分後。なんやかやと騒いでいたけど、やっとの事で落ち着いたわけだ。

 エーデルが今の身体になってから半年ほどが経ったけどほぼ毎日が驚きの連続だった。良くも悪くも突拍子もない行動が時たまあるから目が離せない。


「申し訳ありません。認めたくない現実を前に取り乱しました……」


 本当にね。エーデルは身体を得てから変わったなって改めて思った。お前は本当にアンドロイドなのか、と小一時間ほど問い詰めたくなった。

 今の身体を得た事を切欠に妙に積極的というか感覚的にズレているんだよなぁ。もう本当に意味がわからない行動を取ったりする時があるから、そういう時は俺が一番困る事も多い。

 例えば……。


『お風呂くらい一人で入れるよ!!エーデルも恥かしいでしょが!?』

『私はマスターに見られて恥ずべき部分などありません。それにイングバルド様よりマスターの事を『よろしく、にまにま』と頼まれております。さあ、こちらへ。お身体を清めさせて頂きます』

『何考えてんだ、あの母さんは!?あっ!?だからダメだって言っ……ぁぅ!――へ、変な所に指入れようとするな!!』


 とか……。


『ト、トイレは一人でできるって!!だから介護補助みたいな事はいらないよ!!』

『なりません。これもマスターの下ぼ……従者である私の務めなのだそうです。イングバルド様もご推奨されておりました。さあ、ご遠慮なく、さあさあ』

『クゥゥ!?もう我慢がっ……!ァァ!み、妙な手付きで拭こうとするな!!』


 とかっ……。


『いいから!添い寝とかいいから!と言うか何そのうっすいパジャマは!?色々見えちゃいけない部分までっ――ぅぐっ、鼻がっ……』

『せくすぃネグリジェですが何か問題がありましょうか?イングバルド様より就寝時に女性が着るものだと教わったのですが』

『せくすぃ、って……!子供相手にあの駄母さんは本当に何考えてんだ!?』


 とかっ……!

 と言うか主に母が関わると本当に碌でもないな!!俺のエーデルに何を吹き込んでくれてやがるのか!!お陰で被害は俺ばかりにきてるじゃないか!主に理性的な意味で被害がハンパない!!

 だけど子供の身体だと反応すら示さないという事実(笑)。前世の分も含めると精神年齢的には立派な大人の男だから本当に耐え難い屈辱だ……!

 ふ、ふぅぅぅぅ……ダメだ。冷静になれアオイ・ルメルシエ、冷静に。『そのような事実はございません(失笑)』や『鋭意捜査中(邪笑)です』の精神だ。前世の故郷たる日本の日和見政治家のように自身の心をお茶に濁すんだ。

 誤魔化せ、誤魔化せ、誤魔化せ……ふぅぅぅ。

 さて、色々とぶっ飛んだ行動をする事が時々あるエーデルだけど、だからと言って俺が彼女の事が嫌いになるかと聞かれれば実はそうでもない。

 今もエーデルの事は大好きですが何か?因みに文句は言わせない。


「まぁ、それはいいんだけど何が――」

「それではお支度下さい。クロード様が第三訓練室にてお待ちです。多少時間も押しておられるのでお急ぎになられたほうがよろしいかと思われます」

「あっさり流された!?しかも割と正論だ!!」


 俺はただ『何があったのか』と聞こうとしただけなのにエーデルによって問答無用に話しを切られた。しかも実際にちょっとだけ時間が押してるから微妙に正論だった。

 今のエーデルは凛とした雰囲気を醸している。その姿を見ると先程まで痴態を晒していた事こそが嘘のようだ。

 今度は俺がベッドの上にくず折れた。どこで育て方を間違えたのだろうか、と思い起こされたからだ。自分なりに諭し時には叱りもして出来る限りの愛情を注いできたつもりだったのに、本当にそれは“つもり”だったようだ。


「さあ、マスター。起きたのでしたらそこへお立ち下さい」

「え?あ、うん」


 なんとなく逆らえなくてベッドを出てエーデルの前に立ってしまった。何気に寝起きの今はゆったりとしたパジャマ姿だったのを思い出してしまい少し羞恥心が込み上げてきた。


「結構です。それではそのまま両手を挙げて下さい。はい、どうぞ」

「うん、わか――った、とでも言うと思ったか!?いいよ!!自分で着替えるから!!」


 危なかった!エーデルの余りにも自然な行動に俺もついいつもやってる事だと錯覚してしまった。よく見るとエーデルの頬が微かに赤く上気しているし目もウルウルと潤んでいる。ハァハァと放熱の呼吸もいつもよりも多くなっていた。

 こいつ(エーデル)、何か知らないけど興奮してる!?


「いけません、マスター!これは私の大事な役目なのです!イングバルド様もそう仰せになられました!そう、これは――と て も 大 事 な の で す!!」

「二回も言った!?しかも二回目はこれでもかと力強かった!?しかもまだ母さんか!!これくらいはいいから!自分でできるから!エーデルは外で待ってて!ねっ!?」


 強く言い聞かせるとエーデルはビタターッと硬直して止まった。錆びたブリキ人形のようにギギギっと振り返るエーデルの表情は硬かった。


「……それは、どうしても、でしょうか?」

「ものすごく不満気!?いや、それはいいか。どうしても!だからお願い、外で待ってて。ね?」

「わかり、まし、たっ……!ですが!御用の際は遠慮なくお申し付け下さい!!」


 血の滲むように区切りながら了承するエーデル。しかも目からブワッと流れるのは赤い滂沱の涙……って!?


「血涙!?そこまでするほど無念なの!?それってどうよ!?一体エーデルの何がそこまでさせるのさ!?」

「そんな事はどうでもよろしいのです!!御用の際はお申し付け下さい!よろしいですね!?」

「は、はぃ。わかった。うん、その時はお願いするから。だから泣き止もう?な?」


 多くの部分を生体ナノマシンで構成されているとは言え血涙とか芸が細かい。しかも今のエーデルは絶世の美人メイドさんだから血涙を流す姿は妙に迫力があってとても怖い。もしも夜中に廊下で出くわしたらまず間違いなく恐怖で腰を抜かすかもしれないほどだ。


「それでは真に不本意ですが外でお待ち致します、不本意ですが」

「また二回も言った!?もうそれはわかったから外に出てよ。あっ、こっそりと覗くのもなしだから。わかった?」

「なっ!?それは!!それだけはどうかお許し下さい!!ちょっとだけでも!!」

「何が『お許し下さい!!』なんだよ!?『ちょっと』ってなに!?ダメに決まってんだろが!!と言うか覗くつもりだったのか!?」


 俺の着替えなんて覗いてもいいことなんて一つもないっての、まったく。男の裸なんて見ても何も楽しくないじゃないか。

 どうせならかーいー女の子のゴニョゴニョを見たい!!


「私にはご褒美以外の何ものでもありません!!」

「心を読むなよっ!?頼むから!!後そんなご褒美はドブ川にでも捨ててしまえ!!」

「そんな!?私はそれだけで軽く千年は戦えます!!」

「想像以上に壮大な時間だった!?もういいから外に出てってよ!着替えられないでしょうが!!」


 結局その日は父の訓練に遅刻した。

 父は母と違い事情をちゃんと話せば許してくれる事もあるのでその点は少しだけど安心だ。だけど、こうも連日続くと流石にいい訳っぽく聞こえてしまいそうだと思うわけで……。

 うん、これ以上問題行為が多いようなら本格的にエーデルを躾ける必要性が出てくるな。


 …………悦んだりしないよな?よな?


 


▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽


 


 これは数年ほど前の、まだエーデルがただのAIとして携帯端末に宿っていた時の事だ一所懸命にガイノイドの設計に精を出していた時に彼女が突然とある願いを持ってきた。


「――はあ?武装関連を充実させてほしいだって?」

「はい、マスター。その通りです」


 要するにこういう事だった。もう少しでエーデルの身体が出来上がるという時に武装関連の設計もしてくれないか、と相談された。


「むぅぅ……」

「お忙しいのは理解しております。ですが、いついかなる時にマスターが危機的状況に遭遇するかもしれません。そのような時に私が盾となり剣となってお守りできればと愚考致します」

「なるほど、それは確かに。でも早々危険があるのかを考えると――」

「できれば実弾を用いた銃火器が好ましいです。原始的ではありましょうがあの轟音、あの迫力、あの重厚感……是非とも使ってみたい」

「そっちが本音だろ、オイ!?」


 どこか恍惚としたようなマシンボイスを半ば聞き流そうとして考える。

 最近、矢鱈と過去の戦争の記録情報を閲覧していたと思えば“そういう”資料探しだったのか。妙に納得した心中でどうしようもないほど脱力した。

 前世では最新兵器とも呼べる代物もこの世界<ミッドガルド>では遠い過去の骨董品程度のものでしかない。

 しかも、いつだったかその遠い過去の時点で戦車や戦闘機は二線級に成り下がっていると知った時には、前世の現代を生きた俺には衝撃的な事実だったのをよく覚えている。

 色々と気が遠くなるような事柄を懐かしそうに思い出しているとエーデルが幾つかの空間ウインドウを展開していた。


「マスター、見てください。これを見てマスターはどう思いますか」

「……黒くて、硬そうで……すごく、大きいです……」


 エーデルが提示したそれは七.六二mm弾を使用するミニガンなんて代物じゃなかった。戦艦に搭載される近接防御火器システム(CIWS)のように二○mm弾を使用したごっついバルカン砲だ。前世で見たアメリカのレイセオン・システムズ社のファランクスのようなごっつい代物だ。

 これは……大きいで、って!?


「そんな事どうでもいいよ!何言わせるかな、この子は!!」

「ガトリング砲と言うそうです。束ねられた八つの銃身が電動モーターで回転して銃弾を連続発射する仕組みなのですが、これを見るとなんと言うか……そう、燃えません?」

「俺の話し聞けよ!?何ちょっと男のロマン的な話題にしようとしてんのさ!?燃えるけど!!」


 ガトリング砲もいいけど回転ならドリルだよな!!同じ近接戦ならパイルバンカーもいいけど俺は断然ドリル派だ!あの独特のフォルムも好きだけど何よりもギュインギュインと回転している時の音が堪らない!!

 ……ぅ……うーん、いや、やっぱりパイルバンカーも捨て難い!

 ロ マ ン に 貴 賎 な し!!

 …………あれ?ガトリング砲の話しだったかな?


「作ってください。是非とも。今も十分にお忙しいのは重々承知しておりますが他にも幾つかあるのでそちらもお願い致します」


 な、な、なんですとーっ!?ぐぬ!?今でもアンドロイド開発で十分に急いでいるというのに、更に新規開発をしろと言うのか!ぐぬぬぬっ!!

 ――クッ!しかしロマンの誘惑が激しいのは否定できない!!


「……はぁぁぁ、わかった。作るよ!こうなったら全部作ってやるよ!もう!楽しみに待ってろよ!?このっ!!」

「ありがとうございます、マスター」


 ちょっとロマンに燃えていたら畳み掛けるように了承させられてしまった。それでも作ると言ってしまったからにはキッチリ作るのが大事だろう。そうじゃないと信用に関わる。約束とは守るものだ、うん。

 だけどエーデル、その代わりアンドロイドの開発が遅れるのは覚悟しろよ?そこまですると本当に手が足りないんだから。

 はぁぁ。でもなぁ、流石にニ○mm弾は大きすぎるから一ニ.七mm弾を使用しよう。……はぁぁ。


 ほんの出来心で孫の手を武装として追加してしまったのは今でもエーデルには内緒だ。


 


▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽


 


 十歳を機に始まった父との訓練。極めて実践的思考の癖に意外にも座学が多い母と違い、少し……あー、少し?脳筋と言える父は豪快な気性通りに実践講義が多い。

 基本的な体術を始めとした柔術、短剣や片手剣を用いた剣術、実践的な魔法の使い方、銃火器を用いた射撃術、暗器術、意外にも薬学や機械工学の実験の実習監督なんかもする、その他諸々など……などっ……などっ!

 十三歳になった今も続いている……三年……さんねんっ……ふふっ。

 だっしゃああああっ!!どれだけやらせるつもり!?確かに身体を動かす事も鍛える事も好きだよ!?好きだけど、物には限度というものがあると思うわけよ!

 しかも、しかもっ……うぅぅ、これだけ鍛えてるのに全くと言っていいほど筋肉がつかないとかどういう事さ!?ほっそりとしたスレンダーボディとかただでさえ童顔で“少々”女顔かもしれないのに、このままだと色々とマズくない?!なんとなく、こう外見的に弱そうというかなよなよしい感じがするから嘗められる的な意味で!

 体質か?母の遺伝子を強く引いているとか?何が原因なのかがわからない……。

 だけど身体は細部に渡って鍛えられている事実が不思議。細マッチョ……いやいや、そこは程よくでいいんだよ、マッチョは父だけでお腹一杯だ。それにほら、俺はまだ一三歳の子供だから極端なトレーニングは身体に悪いし。


 と、まぁ色々ぶちまけたけど別に今の生活に不満があるわけじゃない。鍛えられているのは確かな事実なわけだし、ちゃんと実になっている。普通の一三歳の子供と比較しても今の俺なら体力はある、と思う。

 訓練室は訓練する所だ。当然それらしい格好をしている。今着ているのは黒い防護スーツであり、重要部分を中心にハードシェルで覆っていて肌に張り付く感じがするスーツだ。武器は左手にしている格納庫としての機能を持つ腕輪の中にある。

 あー、それに何より今は。


「ターゲット、インサイト。一斉砲撃、用意……そこです!ファイエル!!」

「っ!!やるな、エーデル君!!流石は愛息子の従者を自称するだけはある!!」

「っ!!訂正を!!私が忠実なる従者である事はマスター公認であり、イングバルド様公認です!!決して自称ではありません!!」

「イングバルドが!?――おおっ!?あぶっ、危なっ!!今掠った!!」

「そのまま当たって下さればよろしいでしょうに。……残念です、本当に」

「本気で悔しがるのやめてくれないかな!?」


 父の訓練にエーデルも参加するようになったから割と楽しく訓練している。

 今は防護フィールドの中で父とエーデルが絶賛決闘ちゅもとい、死合げふんげふんっ、試合中だ。

 エーデルは機械人形の驚異的な膂力と緻密な空間操作で実体弾を使用した大型の銃火器、と言うか兵器を両手に持って振り回し、背中から肩にかけて大型の銃火器を固定して扱い弾幕を張る。まさに今の彼女は独り軍隊と化して容赦なんて欠片も見せずに父に対抗している。

 どれもこれも前世とは数段桁違いのミッドガルド標準である強力な火器だ。ガトリング砲やロケット砲、ミサイルが父目掛けて飛んでいく光景はある種壮観だ。

 いいぞ、もっとやれ。――なんて思ってないよ?

 …………こほんっ。

 父は父で刀身が光を凝縮させて出来たような光剣で自身に当たりそうな実体弾のみを切り払って他は全て回避している。しかもエーデルに少しでも隙があると嬉々として火や風の魔法を放っていた。

 どうでもいいけど父のあの光剣って某宇宙戦争みたいだ……と見えたのは気のせいだと思いたい。

 訓練している第三訓練室の床や壁、天井がどんどんボロくなっていく。ただしそれは表面上だけそう見えるだけであって特殊加工されたこの訓練室は実際には傷一つ付く事はない。精々が煤や埃で汚れるくらいのものだ。


「流石ですね、クロード様。マスターのお父上である事はあります。ですが私はまだ実力の三割も出していません!」

「ほほう!そうかそうか!だが、それはボクもだ!まだ二割しか出していない!」

「っ!ふふふ!よく考えましたら一割五分でした!!」

「なんだとっ!?はは、はっはっはっはっ!すまないな!実は一割だった!!」


 え?何この空気……。

 よくわからないけど意地の張り合いなんて止めようよ。今の試合もいい勝負だったじゃないか。見ていてとてもハラハラさせられたけどさ。


「…………」

「…………」


 だからさ、二人とも黙るなって。睨み合うなって。視線で火花を飛ばすなって。

 普段は暑苦しいくらいに喧しい父が光剣を右手に構えてジリジリとエーデルとの間合いを詰めている。左手には魔力の高まりを感じ取れた。たぶん、あれは風の魔法(アネモス・マギア)だ。不自然にならない程度に大気が動いて集まっている。

 エーデルも今まで使用していた銃器は弾切れしたために投げ捨てて新たに転送(コール)した銃火器を装備している。

 彼女に搭載されている機能の一つに亜空間格納庫がある。そこから格納された装備を転送(コール)、簡単に言えば亜空間から呼び出して装備する事が可能だ。今は俺が再現した銃火器や爆弾、兵器が多数格納されている。

 この世界では形としては数世代前の代物だからもう見る事もなくなった兵器達がエーデルの願いから俺が作り今ここに活躍の機会に恵まれている。

 ああ、そうさ!エーデルの注文通りに作ってやったさ!!

 そして次の瞬間には二人で示し合わせたかのように駆け出していた。


「この勝利をマスターに捧げましょう!!我が宝石(エーデル・シュタイン)の名に懸けて!!」

「ああ、来るがいい!!これで決着としようじゃないか!!愛息子の愛はボクのものだ!!」

「マスターは誰にも渡しません!!!全武装解放!!――そこです!!全力攻撃っ!!ファイエルッ!!!」

「はっはっはっはっ!!奪えるものなら奪ってみろ!!はぁぁああああっ!!ちぇすとおおおおおおッ!!!」


 エーデルからは銃弾と砲弾に始まり、手榴弾や対人地雷、浮遊機雷などの爆発物、更にミサイルにロケット弾の各種誘導弾や非誘導弾が飛び出していく。

 父は左手から局地的な暴風を解き放ってエーデルの一斉射撃によって生じた銃弾や砲弾、爆風を更なる強風で弾き飛ばして、右手に構えた光剣で一点突破して彼女までの道を文字通り切り拓こうとする。

 驚くべき事にエーデルはあの父を相手に、戦いは拮抗していた。

 激しくぶつかり合う両者を見ている俺の心境としては『ねーよ……』の一言だった。

 いや、父やエーデルに家族愛は勿論あるけど、そんな堂々と愛を叫ばれても困る。好きだけどそういうのとはちょっと……わからない。

 まぁどうせ愛を囁くなら暑苦しい父よりも美人メイドさんのエーデルのほうが断然いいよね、とは思ってる。男なら誰だって美人の女の子のほうがいいに決まってるさ。


 ――あっ、決着がついた。


 


▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽


 


 色々な意味で白熱したエーデルと父との死あ、もとい試合はエーデルの勝利で幕を閉じた。エーデルの足技が決め手だった。

 なんかいつの間にか多分に私情が含まれていてどことなく俗っぽい感じになっていたように思えるけど、とりあえず見応えだけはある訓練だったかな。

 訓練という事で父も全力は出していなかったとは言え、確かに本気だったのにエーデルは見事に白星を獲得した。

 エーデルが身体を得てから、これで十数度目かになる試合だったけど、これは驚くべき結果だ。

 俺もまだ父には勝てた事がないのにっ!

 はぁぁ……その父はと言えば。


「ぐぉぉぉっ、まさかあそこで足技がくるとはっ。割れるぅぅ、脳が割れるぅぅ」


 父さん、脳は最初から右脳と左脳で分かれてるよ……。

 なんて事は言わずにこうして床を転げ回っている父を生温かく見守っている。

 エーデルによる見事な足技で父は右側頭部を強烈に蹴り倒されて、首の筋肉が伸びきった所で更に左側頭部にもう一撃蹴り技を放っていた。大きく頭部を左右に激しく揺さぶられた事で脳がカクテルのようにシェイクされた父は数秒間棒立ちになり前後不覚になると豪快に倒れた。軽い脳震盪だったようだ。

 で、ある程度回復すると今度は思い出したように頭の痛みに転げ回っていた。


「フッ、私の装備一式は全てマスター謹製のものです。この結果も当然の結末でしょう」

「なんと!流石は愛息子じゃないか!父さんは誇らしいぞ!!ぁぃたたた……」


 いやいや、装備よりもこの場合はエーデル自身の実力だよな。手加減されていたとは言えあの父から一本取って見せたのだから、自身で意識を持ってからまだ年齢一桁なのに大したものだ。

 と言うか、なぜ父はこの時だけ復活しているのか。――あっ……。


「父さん……頭」

「なに?……っ、ぬおおおおおっ!?血がっ、血がああああっ!?」


 すごいな。母のお仕置きにも耐えられるほどの頑丈な“あの”父の頭を割る(割れてない)とか、誰にでもできる事じゃない。本当にすごい威力だ。

 ともかく今は父の治療を優先しないと。なんか普通ならヤバイくらいに血がドクドク出てるし。


「父さん……治療するからこっち座って」

「ああ!頼むぞ、愛息子よ!優しく、丁寧にな!ぁ、あぁああ、血がぁぁ……」

「はいはい。それじゃジッとしててね」


 水の魔法(ネロ・マギア)にある治癒系魔法でもいいけど、ここは訓練室にある備え付けの医療キッドを使おうと思う。

 医療キッドの中から治療用ナノマシンと止血剤、消毒などが複合された医療スプレーとガーゼ、包帯を取り出した。最初に水の魔法で患部を洗って血を洗い流して医療スプレーをシュッシュッと数回吹き掛けた。


「あいたーっ!?しみ、沁みるっ。ま、愛息子よ、もう少し優しくしてくれないかな!?」

「大の男が何を言ってるのさ。もしかして父さんって思ってたよりも軟じゃ――」

「はっはっはっはっ!!痛くも痒くもないな!!さあ、続けてくれ!!」

「はいはい。父さんはいい子、強い子だよねぇ……」


 変な所で意地っ張りだ。治療する側としてはとても扱い易いからいいけど。

 医療スプレーを吹き掛けた所が程よく乾いたのでガーゼを当てて包帯を巻いていく。この時緩過ぎず、しかしきつ過ぎず巻く事が肝要だ。

 尤も十数分もあれば治療用ナノマシンが傷口を塞いで治しちゃうからガーゼと包帯は本当にオマケ程度のものであり、もしもの場合を考えての事だからそれ以上の意味はない。

 包帯を巻き終えて、父に巻き方が弱かったり逆に強すぎたりしてないかを確認する。


「ふむ、よく出来ているな!流石はボクの愛息子だ!」

「お世辞はいいってば。包帯とガーゼはとりあえず三〇分経ったら取っていいから。それくらいで治ってるでしょ」

「ああ、わかってるとも!」


 サムズアップしながら父がそう言うと『それじゃ三十分の休憩だ!!』と高笑いしながら訓練室を出て行った。残るのは一試合終わったばかりとは思えないくらい凛と佇んでいるエーデルと医療キッドに使ったものを戻している俺の二人だけだ。

 片付け終わってから、ふと思った。あれだけ激しい試合を繰り広げたのだからエーデルの身体にも何かしらの問題が出ているかもしれない、と。何分アンドロイドなんか初めて手にかけたから心配だった。

 チラッと伺うようにエーデルを見ると彼女は『なにか?』とすぐさま見詰め返してきた。……隠れて、さり気なく、自然を装って覗き見たつもりだったのに、なぜ即バレしたんだ?


「……ところでエーデル、随分派手に動いてたけど身体にはどこか問題とかある?」


 エーデルの静かな眼力に負けた……わけではない。ただ単に確認したかっただけだ。本来の疑問を解消したかっただけだ。

 それだけだ。


「否定。全機能オールグリ……いえ、エラーを数件発見しました」

「え?どこそれ?あの程度でエラーが出るとは思えないんだけど」


 エーデルは目を閉じて刹那の間、沈黙すると数件のエラーがある事を報告してきた。

 そんなわけはない、と彼女を産み出した自分としては断言したかったけど、そんなちっぽけなプライドなんかよりも優先しないといけない事はある。勿論、事実確認は今からするがエーデルは『エラーがある』と報告してきたのだから、これは事実として受け止めないと一技術者としては二流以下だ。


「それは……」


 エーデルは何を考えてかそっと近付いていた。わざわざ気配を消して足運びまで静かに慎重を期していたから目の前に来るまで気付けなかったほどだ。見事な隠密技術だと感心すらしたし、いつの間にそんな技を身に付けたと呆れもした。


「ココと、ん……」

「???なにな――ぶ゛っっ!?」


 目の前にエーデルが居る。それはいい、だけど少しだけ待ってほしい。彼女はあろう事か襟元を緩めてやや前屈みになり視線を合わせてきた。今の俺は一三歳の子供だ。どうしても今の身長だと彼女よりも断然に低いのは認めよう。だけど、これはどうよ……。

 エーデルが前屈みになった事で緩めた胸元が露わになっていた。

 何度も言うけどエーデルの容姿は一目見ればハッと目の覚めるような美人だ。そんな彼女が自分から襟元を緩めて胸元を少しとは言え露わにしてプルンとした白い乳房を見せ付けてくるかのように前屈みになっている。

 目線の高さ的に考えて丁度俺の目の前にはその白くて柔らかそうなオパーイがある、わ、け、で……!!


「ココが、ぁ……」

「ちょっ!!」


 しかもそれだけでは飽き足らずに彼女は身体を起こすと更なる行動に移った。

 エーデルは自身のメイド服の裾を摘むと少しずつ、少しずつ持ち上げていく。最初に膝まである無骨な軍用ブーツの全貌が見えて、次に白のレースで彩られた黒のガーターに包まれた白い足が露わになった。あと少しでも持ち上げてしまうとムフフなデルタ地帯が白日の下に明らかになってしまうかもしれない。

 これを見たら普通の男なら、なんと言うか……辛抱堪らないんじゃなかろうか。

 いきなりだったから動揺激しく無理矢理に視線を上に動かすとエーデルの顔があり、彼女の目は潤み、頬を淡く染めていた。吐息も熱が篭っているように思える。

 もう一度言うが普通の男なら今の彼女を見たら、もう辛抱が堪らないんじゃな――って、違う違う!!


「待て待て待てーっ!?それ以上はダメだって!!だから――!!」

「はぁはぁ、申し訳、ありません、マスター。も、もう、待てそうに、ありません。どうか、このまま、マスター……ふふふ」


 このまま……何をする気かなっ!?最後の聞こえた、小さかったけど今『ふふふ』って笑ったよな!?確信犯か、このっ!!

 ……クッ、子供の身体である事がここまで恨めしいとは、思わなかった……!!もう十三歳なのにピクリとも反応しないとはなぁぁ。……はぁぁ、勿体な――だから違うって!!


「だ、だからダメだって。エーデル、ね?少しでいいから落ち着こう?な?」

「あぁ、私のご主人様(マイマスター)……ふふふ、最後にココを――」

「あわ、あわわわっ!?」


 エーデル、聞いてなーいっ!?

 メイド服の裾が見えるか見えないかのギリギリのラインまで持ち上げられた。捲し上げられた裾は彼女が手を放しても空中で固定されてその場に留まっている。普通ならギョッとする光景だけど、空間制御技術を使っているからだ。

 空間制御。超重量の銃火器や兵器を振り回すために、空間そのものを限定的に操作して重量軽減を可能にしている。出力にもよるけどその気になれば山のような大岩を持ち上げる事もできる。

 搭載された機能を無駄に使用していると思うのは俺だけだろうか?

 それはともかく、エーデルは右手の指で自身の唇をなぞり、何を思ったのか空いた左手をスカートの裾の中へ――。

 スライド扉から空気の抜けるような音がした。


「はっはっはっはっ!!遅れてすまない!ちょっと母さんに捕まってしまって、って、ん?何かあったのかな?」

「えっ!?い、いやー、何もなかった、よ?」


 いよいよマズイと思った時に父が戻ってきた。忘れていたけどいつの間にか三十分が経っていたようだ。

 そこで思った、今のエーデルの色気立つ着崩した姿こそがマズイのではないだろうか、と。

 慌てて父からエーデルへ素早く視線を移すとそこにはいつの間にか服装を元に戻していた、いつもの“清く正しく美しいメイドさん”になっていた彼女の姿があった。先程までのやり取りなどまるで嘘だったかのように何も感じさせない事に内心で複雑な驚きを覚えた。

 とりあえずの安堵を得たので視線を元に戻すと父は不思議そうに俺を見ていた。


「どうかしたのか?」

「え゛っ?なにも?気のせいじゃないかな?」

「そうか。……何かあったらちゃんと言うんだぞ?」

「あは、あはは。うん、わかってるって」


 笑って誤魔化す以外にどうしろと?誤魔化し笑いですが何か?

 父になんて言えばいいと?仮に『エーデルが十三歳の子供を誘惑するんだ(笑)』なんて言っても子供の悪戯と思われて信じてもらえるはずがないじゃないか。

 フフフ。せめてあと七年は我慢だ。子供の身体じゃ何もできない。……抵抗すらまともにできないし!

 それにしても今思い出すと父はまるで図ったかのようなタイミングで入ってきたように思えるのだけど……まぁそこは助かったから気にしない方向で。意識の片隅の更に遠い部分に投げる事にした。

 と、父と話していたら背後から刺すような冷気を感じ取った。ゆっくり振り返るとそこには凍えるような空気を纏い感情の消えた能面のエーデルが居た。


「…………」


 エ、エーデルさーん?なぜか、とても冷たい、よ?雰囲気的な意味で。なぜに父を呪殺できそうな目で見て……睨んでいるのかな?父もエーデルを見て戸惑っているじゃないか。

 まるで訓練室全体がエーデルを中心にして冷気に包まれたような錯覚が襲ってきた。

 ブルブル。ここはいつからツンドラ地帯になった……。


「えーと、愛息子よ。父さん何か間違えたかな?なんかものすごく睨まれているように思えるんだけど」

「さ、さあ?それよりも少し肌寒くない?気温設定間違えてない?間違って弄ったのかな?」

「いやいや、愛息子よ!現実を見よう!明らかに父さん、エーデル君に睨まれてるから!すっごい睨まれてるから!なんか呪われそうな感じで!!」


 それでも敢えて父を無視するのが俺クオリティ。


「あっ、エーデル。気温設定は通常?ちょっと寒い気がするんだけどさ」

「マスター、設定は適温を維持しております。現在、当施設の管理システムは一部を除いて私の管理下に置いております。管理システムを走査しましたが異常は検知されておりません。……必要でしたら温めましょうか?」

「暖める?いや、それはいいかな。まぁ直ぐに身体動かす事になるから。でも、ありがとね」

「父さんの話しを聞こう!?ねぇ!?と言うか今エーデル君が怖いこと言ったように思えるんだけど!管理システムがどうのって!!」


 あっ、それは俺も初めて知った。いつの間に管理システムにハッキングと言うかクラッキングと言うかを仕掛けて権限を奪取していたのかね。

 しかし、今の俺達が言う事はそれじゃない。


「父さん、うるさいよ……」

「クロード様は騒がしい方ですね」

「ひどっ!?こんな時だけ意気投合するなんて!!」


 はいはい。わかったから次の仕合を始めるよ。次は俺の番なんだから、サッサと始めようよ。

 父の手を引いて訓練室の中央へ連れて行く。位置に着いたのを確認してエーデルに目配せすると防護フィールドを展開してくれた。

 ふっふっふっ。父よ、これでもう逃げられないよ?……逆に俺も逃げられないけどね!


「え?あの?あれ?」


 エーデルの機能とほぼ同じである腕輪型の亜空間格納庫から小太刀を取り出して右手に持ち、左手に魔力を収束させて火の魔法(フォティア・マギア)を顕現させる。


「はい、それじゃ始めるよー。エーデル、合図お願いね」

「え?ちょっ?だからっ」


 戸惑う父はこの際だから無視。扱いがひどいって?いいえ、これは息子からの愛です。


「承知致しました。それでは――始め!!」

「デストローイっ!!」

「え?えっ?ええっ!?」


 左手の火の魔法を解放した。燃え盛る魔法の焔が父へ襲い掛かった。父を炎に包まれた瞬間に右手の小太刀と左手の拳を構えて突撃した。

 今度こそ勝つ!エーデルだって勝ったんだから俺も勝ってみせる!


「マスター……。それは敗北フラグです」

「うるさいよ!?勝つったら勝つんだよ!」


 試合結果……負けました。惨敗しました。ボロ負けでした。ボッコボコにやられました。あは、あははは、はぁぁ……いつもの事だけどね。


「まだまだ愛息子に負けてなどやらん!!父は強し、だ!はーっはっはっはっ!!」


 チ、チ、チクショー!!絶対にいつか勝つからな!?







アオイの訓練風景は全カットでお送りしましたww

今回はエーデルさんが主役っぽくなったですね。

でも、ここまでエーデルさんやってるけど作者的にはまだヒロインじゃないのですよ?

たぶん、ですけどね!


現時点での強さ表は

母>>>父>エーデル>>アーフ>>シブリィ=クスィ>アオイ>>その他

になりますね。

母はリアルチート。

父は準チート。

エーデルはこれからも成長予定。

アーフは標準的なアンドロイド。

シーちゃんとクーちゃん、アオイの三人(一人と二頭)はまだまだ一三歳の子供だから仕方がない。


何気にアオイが一番弱いとか、もう……プッ。

アオイ「あ゛っ###!?」

で、ではでは~。


次の更新はクリスマス!


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