↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アナタは異世界で何をする?  作者: 鉄 桜
第一章・幼年期から青年期まで。
20/64

第8話

やっふぅぅぅ!!

いや、ごめんなさい。なんとなくテンション上げてみただけだったりします。

評価も少しずつ上がってきて嬉しいです。

あくまで目安でしかないとしてもわかりやすいですからね。

読者様には本当に感謝感謝です、はい。

さて、今回はアオイと母、エーデルの三人がメインです。

では、どうぞどうぞ。

皆の感想&評価&ネタ提供が作者の力になっております。


 


 


 色々な意味で父と母に殺されかけている(教育的な意味で)俺だけど今年で一二歳になった。そうっ、俺は今も無事に生き残っているんだよっ……まだなっ。

 思い返せば父と母が教師役を買って出るようになってから半年後には一回知恵熱出して倒れた事もあった。

 あれは、そう、まだ七歳の頃の事だ。子供相手に“マナと生命の関連と有用性”とか“亜空間内における時間の加速と遅延”とか色々な論文を一気に説明されてもちょっと理解が追いつかなかった。当時から母は容赦がない事がこの事からもわかるだろ。

 当時は知恵熱なんてもう日常茶飯事だ。三日に一度は引き起こしていたから本当に珍しくもない。まぁ慣れてきたのか不思議な事に一〇歳になったある時を境にぱったりとなくなったけど……。

 一〇歳になってからはなぜか一度も倒れる事がなくなった。相変わらず父と母の教育は容赦というものがないのに、だ。流石にこれはおかしいと思ってそれとなく母と父に聞いてみた。

 父が言うには『ナノマシンで改ぞ……治したんだよ?』と言っていた。

 かいぞ?ナニを言いかけた?なぜどもった?ちょっと気になったから詳しく話しを聞こうとしたけど、のらりくらりと話しをはぐらかされて気が付くと逃げられていた。

 仕方ないので母に、と思えばこっちも既に撤退済みときた。それでもその時の母はなぜか視線を逸らしていたし口元を押さえてなにやら真剣に悩んでいた。なんか『バレた?成長調整薬を投与した事が……』とか『経過は順調。生体強化は上手く行っているようだけど……』とか『アオイちゃんはパパとは違って筋肉とは無縁に……』とか小声でなにか言っていたようだけど、残念ながらその時の俺には何も聞こえなかった。

 父よ、当時一〇歳の俺の身体にナニをしたんだ?

 母よ、貴女も俺の身体にナニをした?

 少しだけ悩みもしたけど開き直ってしまえばなんでもないし、仮に何かされたとしても体調はすこぶる良くなったから問題はなかった。本当に身体が軽くなった、と言うか力が漲る感じだった。農業区画の広場を全力で駆けても息切れもしなくなったし子供とは思えないくらい早く走れるようになった。父との訓練でも激しく拳や剣を打ち交わしても問題なかった。

 毎回打ち負けるけどな!体格的、年齢的に考えて無理に決まってんじゃん!


 そうして様々な困難(主に俺の知らない間に両親によって薬物による肉体強化を受けていた疑いなど)にあったお陰で今では単純に計算も速いし物事への理解力も上がったからバカにできないものだった。同時並列思考も今では最大で一五個の事柄を同時に処理できるまでになっている。まぁこれって頭で考えられるだけであって実際に実用化するには機械の補助がないと最大限の効果は発揮できないけど。


 これからどうなるのかな……。


 


▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽


 


 とある日のお昼での事だ。大きな食堂の中でぽつんとある四人掛けの程よい大きさのテーブルと椅子に母と父、俺が座りアーフの作ってくれた昼食が出来上がるのを待っている。

 さて、ここでちょっと悩みを暴露したいと思う。悩みというのは他でもない、エーデルの事だ。あの子の身体が完成して、後はエーデルの本体情報を移転させる事で真の意味で完成する。そんなめでたい日の今日の午後一時にエーデルの本体情報をガイノイドへ移す移転術式を開始する事になっている。

 今は昼食中だからアーフの作ってくれる昼食を食べ終えてから小休止を挟んだら行動開始だ。


「思えばこの二年なんてあっと言う間だったな」

「実際には半年間ほど足が出ていますが」

「グッ……。それは、ごめん。ちょっと間に合わなかった」


 新型動力炉の賢者の井戸(ピガズィ・ミーミル)を始めとして基本骨格や内臓機関の構成材質の見直しや新規開発などを色々と拘っていたら完成予定より半年も超過してしまっていた。究極の汎用性と限界性能とバランスの反発し合う三つを追及した事で時間が掛かってしまった。

 約束の期間を超過してしまうなど仕事人としては最低だ。それでも俺は自分でも意外だったけどトコトン拘り抜く職人気質だったようだ。

 自分が満足できるものを作るために、どうしてもコストパフォーマンスよりも性能を追及してしまう。その事でエーデルには更に半年も待ってもらう事になってしまったので、とても申し訳なく思ってもいた。


「申し訳ありません。責めるつもりはありませんでした。私が言いたいのは超過した時間相応に最高のものを作り上げて下さった事は私が一番理解しています、という事ですので」

「そっか。約束は守れなかったけどエーデルの期待は裏切らずに済んだのか……」


 それならいい、と話しを終わらせた。これ以上は愚痴になりそうだったからサッサとお昼ご飯を食べてしまおう。

 エーデルと話していると静かにササッと本当にいつの間にか昼食が用意されていた。恐るべきアーフの隠密給仕スキルだ。と言うか隠密の意味は何さ……。

 今日の昼食は柔らかく焼き上がった白パンと瑞々しい彩り野菜のサラダ、お肉がぽってりしたジューシーな腸詰、サッパリしたジャガイモのポタージュ。デザートはフルーツの各種盛り合わせだった。お好みでジャムとバターを白パンに塗ってよし、そのまま食べてよし、パンに切れ目を入れて腸詰を入れてもよし、と楽しい仕様だ。

 それではさっそく、いただきます、と内心で言ってから食べ始めた。食事中の食卓は特に話す事がない場合は静かだ。

 あむっ……んー、うまうま。今日もアーフ作の手料理は絶好調のようだ。腸詰うまー。


 食べ始めて暫く、粗方食べ終えてデザートのフルーツ各種盛り合わせの中から葡萄を一房取ってモグモグ食べていた。果汁が滴るほど濃厚で甘みも強い。うまうま。

 この段階になるとポツポツと家族間でお喋りが始まる事が多い。

 葡萄を食べ終えて次に手を出したのはカットされた林檎だ。それを手に取った時にふとエーデルに聞きたい事があったのを思い出した。


「そう言えばエーデル、なんで母さんにサポートを頼んだのさ?」

「それは――」

「んむ?アオイちゃんモグモグ呼んだ?んぐんぐ」

「呼んでないから、呼んでないからね?それと物を口に入れたまま喋らない。行儀が悪いよ?」

「んぐっ。うふふふ。あらあら、ごめんなさいね」

「いや、いいけどね。美味しそうに食べてる所とか幸せそうだし。アーフも嬉しいだろうし、俺も言う事ないし」


 側で給仕をそつなくこなしていたアーフが『恐縮です』と言って頭を浅く下げていた。

 アーフの手料理は俺も好きだ。何気に母の手料理よりもアーフの手料理のほうを多く食べている事から、少なくとも俺の中ではお袋の味に並んだ料理だと思っている。


「流石は愛息子!母さんのいい所をよく理解しているな!」

「うん。父さんはもう黙ろうか?今だけでいいから喋らないで?ね?」

「愛息子っ、ひどくないっ!?」


 はいはい、無視無視。父が何か騒いでいるけど、ここで構っていたらいつまで経っても終わらないからな。

 その父も母の笑顔によって黙らされている。今は大人しくご飯中でした、っと。


「それでエーデルはどういうつもりでサポートを頼んだの?」

「はい。万全を期しての事です。無いとは思いますが万が一の事態があっては大変でしょう。……他意はありません」

「そう……」


 先程の会話からもわかるようにエーデルは独自に母へ協力を要請していた。

 確かにこの子の言う通り万が一の事がないとは言わない。だけどこの日のために万難を排して準備してきたし万全を尽くしてきた。

 それでも母を呼ぶエーデルに思う所がないとは言えなかった。それは、なんとなく、その……お、俺の事を信じてもらえていないのでは、と思えたからだ。

 ちょっとシュンとしてしまった。心なしか齧っている林檎も美味しく感じられない。こんなに甘いのに……。


「マスター」

「……なに?」


 なぜか味気ない林檎も食べ終わり、次にライチを手に取った時にエーデルが神妙そうに話しかけてきた。正直言ってテンションが少しだけ下がり気味だから今は放っておいてほしい。

 かぷっ……瑞々しいし果汁も多いけど、やっぱりなぜか美味しく感じられない。ハズレだったのかね。


「勝手にも私の独断でイングバルド様に助力をお願いした事でマスターをご不快にさせている事でしょう。その事については謝罪致します。ですが、どうかご理解下さい。私がイングバルド様に助力を願い出たのは私個人の勝手な願いによるものなのです。決してマスターに思う所などありません。どうかそれだけは信じてほしいのです」

「…………」


 ちょっと驚いた。いつもは簡潔にまとめているのに、こんなにも言葉を続けて連ねてくるのは珍しい事だったから。いつも通りの凡庸なマシンボイスのはずなのにその声もどこか誤解されないようにと慌てているようにも感じられた。

 エーデルの真摯な気持ちは確かにそこに、あったと思う。だけど……。


「アオイちゃん。エーデルの事を責めちゃダメよ?この子はこの子なりに貴方を喜ば――」

「っ、イングバルド様ッ!それ以上はなりませんっ」

「あらあらあら。エーデル“ちゃん”に怒られちゃうからママは先に行ってるわね~♪」

「え?あっ、ちょっと母さんっ?」


 そう言うと飄々としてダイニングから出て行く母を見送る事になった。気が付いた時にはもう母の背中は扉の向こうへ消えていて、本当にあまりにも自然に出て行くから止める間もなかった。

 何も言わずに母の使っていた食器を片付けるアーフがちょっとシュールだ。

 ……あれ?そう言えばエーデルの事をちゃん付けで呼んでなかったか?今まではただ“エーデル”としか呼んでなかったのに、なんで今日になって……。


「マ、マスターっ」


 今度は何さ?今ちょっと大事な事っぽい事を考えていたような気がするんだけど。

 母が何を言いたかったのか理解できなくて暫しの間を唖然としていたらエーデルが普段とは似つかわしくもないくらいに慌てて呼んできた。


「エーデルどうしたの?今はちょっと母さんが言った事が気にな――」

「なんでもありませんからっ。どうか、お気になさらずに願います」

「は?いや、でもなんか大事な事っぽい気がして――」

「なんでも、ありませんから。どうか、お気に、なさらずに、願います」

「あ、う?わ、わかった。……え?これって俺が悪いの?」


 一度ならず二度言って更に二度目は態々一言ずつ区切って言ってきた。しかも今のエーデルからは正体不明のとても逆らい難い強力なプレッシャーが襲い掛かってくるからますます意味がわからない。

 とにかく今のエーデルには逆らってはダメだという事だけは本能的に理解できた。


「ご理解頂けたようで何よりです。……ああ、そうでした。マスター?」

「な、何かな?」

「そろそろ私の移転術式のお時間です。もっと言うならイングバルド様をあまりお待たせしないほうがよろしいかと愚考致します」


 ちょっと血の気が引いた。母を待たせるという事実にちょっと血の気が引いた。大事な事だから二度言った。

 父の二の舞だけはゴメンだ。拳による肉体言語でボコボコと、遠回しな言葉使いでチクチクと口撃されるなんて……ガクブルガクブルっ!な、なんとしても回避しなければならないっ!


「マズイっ!急ぐよ、エーデル!ごめん、アーフ。後はお願い!」

「はい。坊ちゃま」

「はい、マスター。……と言っても私は運ばれるだけで走れないのですが(ボソッ)」

「それは言わない約束だよ、エーデル……」


 後片付けをアーフにお任せした俺は携帯端末(エーデル)を掴み取ると急いで研究区画にある自分の工房(アトリエ)に向かった。

 何か忘れている気がするけど……うーん?まぁ思い出せないという事は大した内容じゃないだろ。大事な事なら直ぐに思い出すさ。


 


 


 イングバルドとアオイが居なくなった食堂にて……。


「あれ?ねぇ?もう、ボク喋っていいの、かな?ぅぅ……」

「っ!?……まだ居たのですか?早くお食べ下さい。食器が片付けられませんので」

「はぅわっ!?」


 父……っ。

 そしてアーフ、何気に容赦がない。


 


▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽


 


 できる限りの手段を用いて急いで来た。時には壁を蹴り、天井を走った。自分でも流石にどうかと思ったけど、さながら野生児のように廊下を走り抜けたな。

 ナノマシンェ……。

 こんな事ができるようになったのもきっと、たぶん、おそらくは父と母のせいだと思っている。確信はないけど、きっと俺の身体に何かをしているはずだ。……と、思うんだけどなぁ。それとなく探ってみたけど二人ともなかなか尻尾を出さないからわからない。

 本当に今の俺の身体はなんなんだ?明らかに普通の一二歳の子供の体力じゃない。……いやいやいや、これくらい普通、普通だって。普通、だよな?


「目的地に到着しました。お疲れ様でした」


 エーデルの無機質なマシンボイスが無感動に伝えてくる。

 暫く通路を走って区画を区切る扉を潜ったら研究区画の一角にある自分の工房(アトリエ)の前に到着した。


「母さん、ゴメン!遅れた!」

「あらあらあら、大丈夫よ。ママも寄り道してたからそんなに待っていないわ」

「そう、それならよかった。それじゃ中に入って。もう準備はできているから直ぐに始められるよ」


 工房へは万全を期して網膜、指紋、静脈、は基本としてDNA、骨格、その他のセキュリティが厳重に施してある。その中でも『うわっ、ファンタジー(笑)だ。いや、SF(笑)か?』と思えるのが魔力反応だった。ヒトが保有する魔力には個人によって反応の強弱はあるし細かい変化だけど特定の波形がある。魔力反応とは言うなれば指紋のようなものだ。だけど指紋とは違いこれはそのヒトが存在している限り決して変わる事がない。個人を特定するには持って来いのものだった。無論、誤魔化す方法などいくらでもあるけど……まぁそんなの今はいい。

 ともかくそれらの厳重なロックを解除して母と一緒に工房へ入った。


 工房内に入ると壁際にある二つの円筒状の装置に近寄った。円筒状の装置は特殊強化ガラスで作られておりそれぞれの中には一体ずつ機械人形が直立の姿勢のまま鎮座していた。中央の円筒状の装置の左右には一回り小さい円筒状の装置があり中にはキラキラと白く輝く白の結晶《アルブス・クリュスタルス》製の生体ナノマシンで満たされていた。

 円筒状の装置の名を揺り篭(クレイドル)と言う。二つ並ぶ右側が女性型ガイノイドの機械人形で左側が男性型ガイノイドの機械人形だ。これこそがエーデルの身体となる機械人形(アンドロイド)の上位機種であるガイノイドだ。結局エーデルが男女を明確化しなかったからぶっつけ本番でエーデル本人にこの場で決めてもらう事にした。

 今のガイノイドの姿は人間の骨格を模したものであり基本素材には高密度合金が使われている。高密度合金とは分子以上の単位で限界以上に高圧縮されて密度を突き詰めた事で無類の頑丈さを誇る金属だ。欠点として重量がやや嵩張るのが難点と言えば難点か。

 高密度合金の骨格の胸部と腹部には動力炉や冷却装置、亜空間格納装置、重力制御装置その他諸々の重要機関が搭載されている。だけど頭部の中は空っぽだ。それはなぜかと言えばクレイドルの左右にある生体ナノマシンに理由がある。この生体ナノマシンは、あー、難しい事は省いて一言で言うなら“一つ一つが脳細胞であり体細胞の役目をも果たす”からだ。記憶媒体や思考演算という最も重要な役目を生体ナノマシンが担っている。移転後はこの生体ナノマシンこそがエーデルの本体と言っても過言じゃない。

 見た目はヒトそのものに酷似しているはずだ。


 で、俺と母さんはクレイドルを前にして色々と準備しているのだけど、部屋に入る前、正確には工房の前で合流した時から気になっていたものがあった。それは――。


「ところで母さん、そのケースはなんなの?」

「あぁ、これ?これは、んー……うふふっ、教えてもいいんだけど、まだ秘密かしらね」

「はぁぁ、秘密、ね。……それはいいけど危険はないよね?」


 これ以上言ったらエーデルちゃんが怖いわ、と妙にキャーキャーした雰囲気で言った。

 一見ふざけているように思える(実際半分はふざけている)がこうなると母は梃子でも喋らない。それだけあのケースの中には重要なものがあるという事だ。

 さてどうしたものか、と思いもう一度だけ母の持つケースをよく観察してみた。

 ケースはそれほど大きいものじゃない、小型の旅行カバン程度だ。ただ、やはりと言うか作りがとてもSFっぽい。表面は白を基調としたもので所々にある機械とケーブルがとてもメカメカしい。

 しかも、なんでこんなにも厳重なロックがかかってるの?いやらしい事に承認のないヒトが勝手に開けたら何かの“呪い”が発生する仕様だ。この“呪い”がなんの作用を齎すのかわからないのがまたいやらしい。

 流石は母といったところだな。

 なんかよくわからない呪いがあるようだし、とは言わなかった。変に突っ込んでトバッチリに遭うのがイヤだったから。いや、マジで。

 それに俺ヤダよ?ここまで入念に準備してきたのに、意味もわからない事故で失敗するなんて。悔やんでも悔やみきれない。


「もう、やぁね。ママがそんなものを持ち込むわけがないじゃないの。今日はエーデルちゃんの大切な日なのよ?尚更、ね。うふふふ」

「そう……まぁ母さんがそういうならいいけど」


 それよりも今はエーデルの事だ。母がこう言っている以上は大丈夫だろう。もしも何かあった場合は……いや、それは全力を尽くせばいいだけだ。考えるだけ無駄というものだった。

 それに移転術式はエーデルとガイノイドを接続したら後は自動で処理されるように準備してある。

 そう考えると少しリラックスできた。それとともに気になる事が一つあったのを思い出した。


「それでエーデルは男女の分岐はできてるの?俺の予想では男だ――っ!?」


 ガクブルガクブルっ!

 男だと思ってる、と言おうとしたらとてつもない寒気が背筋に走った。なぜか冷や汗がヤバイくらいに溢れて止まらない。

 この悪寒の発生元はエーデル……と母っ!?


「もう、アオイちゃんったらダメダメねぇぇ。エーデルちゃんは――」

「イングバルド様」

「あら?あらあら、何かしら?」

「よいのです。流石に少し、ええ、思う所がないとは申しませんがこれも想定通りでしょう。だから、今は、よいのです」

「エーデルちゃん……ふぅぅ、そうね。後は実際に見てもらって驚かせてやりましょうね。うふふふふっ」


 何この会話?二人だけで理解し合うとか俺だけが蚊帳の外?やめてよねー、寂しいだろー。仲間外れとかかっこ悪いって。


「あのー、話しの意味がわからないんだけど?つまりはどういう事?」

「気にしないで下さい、マスター」

「そうよ、気にしたらダメよ。アオイちゃん」

「え?はぁ、まぁ気にしなくていいならいいけど……」


 あれ?いいのか?母の見えざる威圧に屈した気がしないでもないけど、ってそんなのは後で考えよう。今はそれよりもエーデルの移転術式の事だ。そっちが大事だ。


「はい!二人とも作業始めるよ!母さんはこっちでバイタルを見てて異常があったら知らせて。もう本当に、少しでもおかしかったら直ぐに教えて」

「ええ、任せてちょうだい。それじゃ始めましょうか。それにしてもアオイちゃんは過保護さんねぇ。ママ驚いちゃったわ」

「マスター、イングバルド様。どうかよろしくお願いします。ですがマスターは少し落ち着いて下さい。不安になります」


 ちょっと気合入れてみたらこれだよ!二人ともちょっと酷くない?

 母さん、俺は過保護なんかじゃない。ちょっと初めての作業だから何事にも万全を期したいだけだ。別に何かあった時に何をも犠牲にしようなんて……考えて、ない、よ?

 そしてエーデル、不安とは何事か。今まで一緒に準備してきたじゃないか。どこに不安要素がある?……尤もエーデルは女性型ガイノイドのほうであれこれと注文出してきただけだけどな。

 そんなに注文出すならせめて男女の分岐くらいハッキリしてよ……。


「はいはい。いいから始めるよ、もう。ほら、母さんも配置について」

「はーい。ママ頑張っちゃうわね」


 母は軽く言うとその場で自分の携帯端末を操作して瞬時に数十個の空間ウインドウを展開した。俺よりも多くの情報を扱えて尚且つ正確に操作する姿を見ると流石としか言いようがない。

 起きてほしくないけど、これならもしも何かあっても安心して任せられるってものだ。

 そのまま母に移転術式の最終確認を任せると、俺はエーデルの本体情報が入った携帯端末を手に話しかけた。


「エーデル」

「はい」

「その、アレだ。不安は、ないか?」


 最後の確認だ。ここでエーデル自身が不安を感じているなら次回に延期してもいいし、俺の手腕を少しでも信頼できないなら母と父に任せる事もできる。

 いくら全ての作業を自動化したとしても何か間違いがないとは断言できないのだから、より成功率の高い方法を模索する事こそが合理的だ。


「先程の事でしたら」

「いや、それはわかってる。ただ緊張を解そうとしてくれただけだって。俺が言いたいのはそうじゃなくって、ただ――」


 本当にいいのか、と聞こうとして最後まで言葉にならなかった。食卓での事を蒸し返すようであれだけど、いざ作業を始めようとしたら急に心配がぶり返してきた。


「……マスター」

「ん、なに?」


 ちょっとらしくもなく不安に駆られてる所なんだけど。今からでも父も呼ぶかと真剣に悩みそうなんだけど。


「大丈夫です、マスター。私に不安などありません。なぜなら最も信頼しているマスターが手掛けて下さるのですから。心配する必要などどこにありましょうか」


 なんだよ……なんだよ、ちょっと、いやかなり勇気が出てきたじゃないかよ。不安になってた自分がバカみたいだ。

 本来なら不安を感じる側のエーデルに励まされるなんて本当に情けない。これで奮起しないようなら男じゃないだろ。


「――そっか。そうか……」

「はい」


 無機質なマシンボイスなのに、それはとても信頼感に溢れたものだった。

 うん、まぁ、ここまで言われたらもうやるしかない。ここで逃げたらエーデルの信頼を裏切る事になるし、なにより寝覚めが悪い。


「よし、やるか。じゃあちょっとケーブル繋ぐからな」

「はい。んっ……ぁぁ」


 ――ちょっと、待て。

 待って、お願いだからちょっと待って。なに?今の声は何?

 クレイドルと携帯端末をケーブルで繋ごうとプラグを差し込んだらエーデルから妙に色っぽい声がした。それに気のせいかもしれないけどその時だけは若い女の子の甘い声のように聞こえた気さえした。しかもものすごく俺好みの声だ。未熟な少女と艶のある女の中間にあるような実に瑞々しく色っぽい声だった。

 欲求不満なのかなぁ。……いやいやいや、俺はまだ一二歳だからないない、ないよっ。


「……変な声出すなよ」

「も、申し訳ありません。マスターにプラグを挿入された瞬間に正体不明の刺激が、ぁぁ……きもち――」


 やめて!それ以上は言わないで!

 なんで喋る時は普段通りのマシンボイスなのに、あれの時だけはそんなに色っぽい声なんだよ!?いつものマシンボイスはどうした!?


「だから変な声を……いや、もういい。作業を進めよう。はぁぁ」

「は、ぃ。んっ」


 はぁぁ……。マシンボイスだ、エーデルの声はマシンボイスなんだ。俺好みの色っぽい声に聞こえるけどそれは気のせいだ。心頭を滅却すれば火もまた涼し、の精神だ。

 エーデルにケーブルを接続していくたびに『あっ……』とか『んんっ、ぁぁ』とか悶えるような声を出したように聞こえたけど、それは、全部、気のせいだ。

 それらを母がなんとも表現し難い感じに生温かく見てくるけどそれも全て、全部、気のせいだ。

 そうして色々な事に耐えながら接続作業を終わらせて、いよいよ移転術式が始められる。


「それじゃエーデルの移転術式を始めようか」

「あらあら。もういいの?なんだったらママ、一時間くらい外で時間潰してくるわよ?」

「いいから!そういう気遣いとかいらないから!ほらっ、早く終わらせるよ!」


 一時間も時間貰ってナニをしろと!?妙にリアルな数字言わないでよ!それにまだ一二歳の子供相手に言う事じゃない!!

 別に如何わしい事なんて何も……何も、なかった、よ?……ないよな?

 ど、動揺なんてしてないしっ?事実だしっ?疚しい事なんて何もなかったしっ?


「もう、アオイちゃんったらテレちゃって可愛いっ。――あ、あらあら?そんな怖い顔しないの、もうホントに可愛いわねぇ」


 ハッキリ言おう。どうせ言われるならカッコいいと言われた……いや、それもいい。一度くらいは言われてみたいと思わなくもないけど自分自身をカッコいいと思った事なんて一度もないし。

 はぁぁ、空しくなるからこれ以上はもうどうでもいいよ。……うぅぅ。美形の父と母が羨ましいなっ、こんにゃろー!


「はいはい、そうだねぇ。それよりも今日は大事な日なんだからちゃんとやってよ、もう」

「うふふふ、ごめんなさいね。それじゃ、と……はぁい、ママのほうは準備できたわよ。アオイちゃん、何かあってもママが何とでもしてあげるから精一杯がんばりなさい!」


 グッとサムズアップしてくるお茶目な母。こんなにおちゃらけた母だけど割と頼りにしてる。この母って何気にリアルでチートだからなぁぁ。

 本当にいざという時は頼むね。さて、と準備も整ったし……。


「エーデル、やるぞ」

「はい、マスター」


 さあ、お仕事の始まりだ。


 


▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽


 


 結果から言うとエーデルの移転術式は滞りなく成功した。

 高密度合金の骨格に生体ナノマシンが纏わり付き基本構成が形成されてからエーデルの本体情報がインストールされた。クレイドルの特殊強化ガラスにフィルターが掛かり中の様子は遮断されて見えなかったけど全てのバイタルデータは母が逐一確認していた事で状況の推移は確認できていた。

 これら全ての作業工程を自動化していたお陰もあって作業自体は一時間もかからずに終わった。……終わったのだけど、俺は今ちょっとだけ呆然としている。

 それはなぜか?

 クレイドル内に居るエーデルが女性型ガイノイドになっているからだよ!

 なに!?この事実は!?あんなに理想の女性について語り合ったのにその本人であるエーデルが実は女でした、とか!結構自分の好みの女性を暴露したし、その後も色々と赤裸々に語っていた俺は赤っ恥もいい所なんだけど!?男性型ガイノイドはどうした!?


 マジでこれはどういう事でぃしゅかあああっ!?!?


 う、うぅぅうっさいよ!何が『ちょっwwコイツ噛みやがったww』だ!?それだけ動揺してる事くらいわかれよ!画面の前に顔突き出せよ!ぶん殴るからさ!

 ふぅぅ、ふぅぅ……ダメだ。焦りすぎて変な幻想が見えた。なんだよ、画面の前って?……まぁそれらはいいか。

 大体さ、それだけでは俺もこうまで無様に取り乱す事はしないし焦らないっての。俺をこんなに動揺させている理由は実に簡単な理由だ。それは今のエーデルの姿が実に、実に実に俺好みの女性に合致しているからだ。

 銀髪と金目はアンドロイドとしての特徴としてあるのでこれはいい。寧ろごちそげふんげふんっ、好みだからいい。銀髪は腰よりも長く背中を隠すほどだった。顔もまるで造形美に粋を凝らしたようで目は大きく鼻もスッと整っていて、唇なんて瑞々しいサクランボのようだ。

 処女雪のようにまるで穢れを知らない身体は出る所は出て引っ込む所は引っ込んでいるという世の女性が羨み男は見惚れてしまうだろう均整の取れた理想の身体そのものだ。

 今クレイドルの中で眠るように居るエーデル・シュタインというガイノイドは正に見る者全てを魅了してしまいそうなほどに整った容姿を持つ女性だった。

 クレイドルの中で一糸纏わずに眠っている姿はどこか幻想的ですらある。

 ……ばかっ、誤解するなっ。大丈夫だっ、ちゃんと大事な部分は特殊強化ガラスのほうでフィルターが作用して隠す仕様になっているからなっ。所謂『見せられないよ(笑)』のような状態だ。曇りガラスだ。


 こほんっ。エーデルの姿は俺が散々赤裸々に言い聞かせていた“俺の理想の女性像”に尽く合致していた。

 これは新手の嫌がらせか?俺はエーデルを怒らせるような事をしたのか?そこまでして俺を動揺させたかったのか?からかいたかったのか?

 今の俺の動揺をわかってもらえるだろうか?きっと同性だろうと思っていた相手に自分の好みを赤裸々に包み隠さずに語ったのに、その語った相手が実は異性だったとか。

 ハハハ……俺、ヤバくね?同じ男性人格だと思ったから全てを曝け出していたのにそのエーデルが実は女の子でしたとか……ない、ないってばー。

 クレイドルの中で眠るエーデルを見て想像する。彼女が目を覚ました次の瞬間に俺を見て直ぐに軽蔑の眼差しを向けてくるんだ。そんな事をされるかもしれないと思うと重度の鬱病になりそうだった。


 そんな風にエーデルの眠るクレイドルを前に呆然としていると、この部屋にはまだ母が居た事を思い出した。

 母が居るのに俺はエーデルに見とれていた。それも“素っ裸のエーデルを”だ。大事な部分はフィルターで隠されているとは言っても一二歳の子供が女性の身体(エーデル)をジロジロといつまでも見ているのは流石に紳士を自称している俺としてはどうなのか?客観的視点で考えてみた。

 …………あー、これは……。

 うん!傍目からするとただのエロガキにしか見えないな!


「にまにま」

「……なに、母さん?今ちょっと構ってる余裕がないんだけど」


 てか口に出してにまにま言うなって、母と言えども流石にイラッとするから。

 自分でもちょっとデリカシーに欠けていたと反省してるから何も言わないでよ。後、その獲物を見つけた猫のような表情もやめて。俺に父のようなM気は皆無だから。


「べぇつにぃぃ。ママは『ああ、これがアオイちゃんの理想の女性像なんだ』って思っただけよ~。うふ、うふふふ」


 母が悪戯好きの猫みたいな顔で笑ってる。言葉からも『やっべ!弄るネタゲットしちゃった!』みたいな感情が読み取れた。こういう時の母や女の人は絶対に碌な事考えてない。前世の経験と今世の母を見てまず間違いないと確信している。

 ……いや、ちょっと待て。今、母は『ああ、これがアオイちゃんの理想の女性像なんだ』って言ったか?いやいや、待て待て。そもそもだが、それは誰から聞いた?


「ちょっと、今“これ”って言った?ねぇ、“理想像”って言ったよね?なんで?なんで母さんがそんな事を知ってるの!?……まさかっ!まさかッ!?」

「アオイちゃん。たぶん今考えたのが正解っ!そう、ママはエーデルちゃんから聞いているのよ!全部を、ね!」

「のぉぉおおおおぉぉぉぉおおおぉぉぉおおおおぉおぉぉぉ……!!!!」


 やああぁあっぱぁあぁりぃぃかああぁぁあっっ!!なぜだ、エーデル!?なぜよりにもよって母に話したんだああああっ!?!?

 魂の底からの絶叫だった。今世に生まれ変わってから初めて出したような悲鳴だったに違いない。


「でもママ驚いたわ。アオイちゃんって女の子について自分の理想をシッカリ持っていたのね。しかも年上趣味?今のエーデルちゃんの外見年齢は大体二○代前後かしら?ほんっとうにママ驚いちゃった。意外にオマセさんだったのね!もうママなんて言ったらいいのか……にまにまにまにま」

「うっさい!うっさいよ、母さん!?一々にまにまって口に出さなくてもいいって!しかも増えてる!?」


 マシンガントークだった。圧倒的な口撃だった。本当にもうなんでこんな事に……。

 大体なんでこういう時の女の人のお喋りは止まらないのかが不思議でならない。特に色恋ネタや甘い物、装飾や服飾関係はすごい。


 さて、この母をどう処理したものか、と頭を悩ませているとクレイドルの特殊強化ガラスのフィルターが薄れて元の透明になった。

 この時に色々と見えちゃったけどそれは不可抗力だからな?ちゃんと直ぐに視線も逸らしたし、必要なら後でちゃんと謝罪もする。


「ん、んんっ……」

「っ!?」

「あらあら、エーデルちゃんのお目覚めのようね」


 などと埒もない事で頭を悩ませていたら特殊強化ガラスが上へスライドして開放されていた。クレイドルはそのまま可変を進めて最終的にはメンテナンスベッドになった。

 エーデルの、その、色々と露わになってしまっていたから慌ててソファーベッドに駆け寄り放置されていた薄手のシーツを手に取ってそれをエーデルに掛けた。

 もう直ぐにエーデルが目を覚ますはずだ。


「か、母さんっ!服はっ!?服はどうしよう!?俺ずっとエーデルは男だと思ってたから用意してないよっ!」

「アオイちゃんったら、もう……慌てた所も可愛いわねっ!これだけでもご飯三杯は軽いわっ!」

「そんなのどうでもいいから!あぁぁああっ、本当に服をどうしよう!?」


 不味い、まずい拙いマズイ!このままでは『マスターは気の利かないダメな人ですね』なんて蔑んだ目で見られてしまうかもしれない!それって最悪じゃないか!!

 チィィ、てっきり俺はエーデルを男だと思っていたからシンプルな男性用の衣服しか用意していない。やっぱり女の子なら可愛い服や綺麗な服のほうがいいかもしれない。非常手段をとるなら母の服を拝借するか、アーフが普段から着ている真白な近未来的な機械化ボディースーツを借りてくるしかない。

 個人的には後者を推したい!エーデルの我が儘ボディがピッチリボディースーツによって色々と強調された所なんて是非とも一度は見てみたいものだ。

 くそぉぉ、こんな事ならメイド服も用意しておけばよかったと今更ながらに後悔した。きっと今のエーデルなら見事に着こなしてくれる事だったろうにっ。なんて言ったって俺の理想通りなら間違いなくメイド服が似合うはずだからな!

 そう、そうだ。同様にワンピース系統も似合うはずだっ!想像する。赤、青、白、緑などのワンピースを着せ替えた所を。

 …………ぅわー、ぃぃ。

 これは、いいねっ!ちょっと想像してみたけど実にいいよっ!これはもうエーデルのために服飾関係にも学習の手を伸ばして――はっ!?

 ご、ごめん。ちょっと興奮した……。


「はいはい、落ち着きなさい。大丈夫よ、エーデルちゃんに頼まれていたから母さんがちゃんと用意してあるわ」

「そ、そうなの?よ、よかったぁぁ……」


 母の言葉にここまで安堵した事はなかった。一種の恐怖は散々に味わってきたけどね、主に書類や課題的な意味で。


「もうアオイちゃんったらしょうもない子ねぇ。でもエーデルちゃんも随分変わった服を注文してくれたものよねぇ。デザインの指示が一々細かいのなんのって」


 え?それはどういう事?と母に問い返そうとしたらエーデルの口から微かに声が洩れた。

 メンテナンスベッドとなったクレイドルの上で寝ていたエーデルを見ていると彼女の瞼が微かに揺れだした。どうやら目覚めのようだ。


「ぅ……んんっ……あ、れ?マス、ター……?」

「あらあら、最初に気にするのが自分じゃなくてアオイちゃんだなんて。うふふ」

「ん……ぁ、イン、グバル、ド、さま?」


 残念。エーデルを覗き込んでいるのは母だった。俺は後ろを向いてエーデルには背中を向けていた。壁のシミを数えて……いや、シミなんて一つもないけどさ。

 流石に何かあった時のために部屋から出るわけにはいかないけど素っ裸を薄手のシーツで隠しただけのエーデルを無遠慮に見るなんて悪いだろ、と思っての配慮だった。


「うふふふ。おはよう、エーデルちゃん。調子はどうかしら?」

「は、い?ぁ、ええ……んっ。ええ、もう大丈夫です。身体のマッチングも問題なく行なわれています」


 母の問い掛けにエーデルは数瞬ほど黙り考えるようにすると上半身を起こした気配がした。こういう時のシーツの擦れる音ってイヤに想像力が駆り立てられるから困る。

 何より姿だけでなく声すらも俺の理想とする女性のものだった。鈴を転がした少女のような声の中に芯のある女の声だ。もうこうなってくると俺も内心で色々と悶える事になった。

 そんな事なんて知ったことではないエーデルはお構いなしに当初の設計通りにリアルタイムで身体の微調整を自身で行なっているようだった。


「そう、それはよかったわ。こっちでもモニターしていたけど問診して本人から確認したかったから。……うん、安定してるわ。これなら安心ね」

「お手数をお掛けしてしまい申し訳ありません、イングバルド様」

「あら、いいのよ~。これもアオイちゃんのためだもの。これくらいなんでもないわ」

「それでも感謝します。これでやっと私は、マスターのために、お役に立てるでしょうから」

「あらあら。アオイちゃんったらエーデルちゃんにこんなにも好かれていたのね。うふふふ」

「???それは当然なのでは?」

「この返しは予想外だったわ……」


 母よ、いいからサッサと用意したという服をエーデルに着せてやってくれ。いい加減に俺の理性がヤバイ。

 子供ゆえに身体の反応がイマイチなのが救いだったけど、それでも精神的にはもう三十代なんだ。多少は肉体に精神が引張られていようと男の子じゃなくて男のつもりだ。だからお願いだからナントカしてくれよ、もう……。

 だというのに母は冗談まじりの問診ばかりでエーデルに服を着せようとしない。ここは早く服を着せるように少しばかり催促するべきか……。


「どうでもいいけど二人とも」

「「???」」


 背中越しで声をかけていても理解した。今二人は『なんで背中向けてるの?』とか『どうしたの?』といった表情をしてるに違いない。

 いや、この場合、二人は悪くない、のか?二人は同性だから気にしてないんだ。だからこっちに気を回していないというだけで……。

 まぁ母さんから見れば俺はまだまだ子供だけどな!

 だからこそ、ここは俺がこんな二人のため、主にエーデルのためにもちゃんと言わないといけないと思った。


「いい加減にエーデルに服を着せてよ!目のやり場に困るんだよ!!」

「「あっ……」」

「あれ!?マジで気が付いてなかったの!?」


 今更思い出したような雰囲気が背中越しに伝わってくる。母がガサガサ、ガチャガチャと持っていたケースの鍵を急いで取り外しているのを感じた。余程急いでいるのか聞こえてくる音が荒くてうるさい。

 なんのために母は持ってきたのさ。こういう時のために用意したんだろうに。パパパッと着せて終わらせてたら素直に尊敬できたのに、もう……。


「私はマスターになら見られても構いませんが。……ご覧になりますか?」

「本当にっ、マジで勘弁してくれないっ!?俺まだ一二歳の子供だからッ!!」

「???それが何か問題がありましょうか?」

「わ か っ て ねえええっ!?」

「あらあらあらあら♪最近の子供は進んでるのねぇぇ」


 母さん!そんな『うふふ、いい獲物(ネタ)見っけ♪』みたいな顔しないでよ!!俺は父のように弄られて悦ぶような奇特な性質は持ち合わせてないっての!!

 それと母よ、その言い方だとオバ――っ、ナ、ナンデモナイデス……。

 こほんっ、エーデルの言葉を聞いて俺は切実に今後エーデルに羞恥心を学ばせなくてはならないと考えさせられ、それ以上に覚悟もした。


 一連の作業も終わった事で母も自分の仕事に戻り、工房内でエーデルが母から渡された服を着ている時の事だ。


「マスター」

「ん、なに?」

「これからもよろしくお願い致します」

「……ああ、よろしく」


 背中越しの会話。

 言葉数も少ない会話。

 味も素っ気もない会話。

 だけど……どこか暖かい会話だった。


 


 


 


 オマケ話……。


 エーデルが着替え終わってから直ぐの事だ。


「――なんでメイド服なんだよ!?俺が作りたかった!!」

「メイド服……お好きですよね、マスター?」


 否定はしない!!俺得です!!本当にありがとうございました!!

 今度は俺自らが作る!!スゴイの作ってやる!!







エッチくないよ!(え?)

アオイ母が大活躍だった。主にからかい的な意味で。


ではでは。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。