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アナタは異世界で何をする?  作者: 鉄 桜
第一章・幼年期から青年期まで。
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第6話・小話


魔法の実践編。

夫婦の暗躍編。

途中挿入です。追加のお話しです。

カカカっ。



 


 


 場所は施設内にある訓練室の一つ。アオイが十歳を迎えた事で魔法や科学、他も座学ばかりだったが寄り実践的に実習も加えられる事になった。

 今日はイングバルドによる初の魔法実習になる。


「それじゃアオイちゃんも十歳になって身体もできてきたし魔法の実践に入りましょうか。前に渡したブローチで出力も安定するから安全だしね」

「そだねー。あははは……(というかもう今更じゃね?今までもバンバン使ってたんだけど)」


 アオイの顔が盛大に引き攣った。シブリィやクスィと泥だらけになるまで遊んだ時に日常的に魔法を使って汚れを落としていたからだ。日常生活に使ってばかりいたから今更だった。


「アオイちゃん。何かしらその顔は?言いたい事があるならハッキリなさい」

「マム、ノーマム!!」

「まむ?……こほん。パパもアオイちゃんの講師をするからこうしてママが教えるのも減っちゃうから時間は無駄にしないようにしましょうね」

「はい!」

「うん、いい返事よ。まあ魔法の基本的な使い方を教えるにしても今更だから少しだけ復習したら応用に入りましょう。まずは基本の四属性の火から、アオイちゃんやってみて」

「はい」


 アオイは普段しているように右手の人差し指を突き出す。必要とする魔力を流して世界へ捧げると赤いマナの燐光がふわりふわり舞う。


「――大いなるマナよ。火よ、灯れ」


 言霊を発すると赤いマナの燐光も収まり指先に蝋燭の火が灯るように燃え上がった。小さくとも決して消えない魔法の火がゆらりゆらり揺れている。


「うん。安定してるし、流れた魔力量もいい塩梅ね。イメージもほぼ完璧。小さいけど暖かい、見ていると安心する火だわ。それじゃ次は風いってみましょう」


 イングバルド。褒める事で教え子の長短を伸ばしていく教育方針のようだ。代わりに講義内容が質と量が共に濃密にして膨大になるという嬉しくも悲しいほどにスパルタだった。優しいのは本当に最初だけ、それがイングバルドクオリティ。

 アオイは手の平を掲げると同じように一握りの魔力を放出し世界へ捧げてた。赤い燐光がゆらゆら、ゆらゆら舞った。


「――大いなるマナよ。風よ、吹け」


 準備が整い仕上げに言霊を発して現象と成す。フワッとした温かい風がアオイの周囲へ吹き流れた。その魔法の風を例えるなら春のそよ風だ。気持ちよさそうに現象と成った風に身を任せるアオイを同じく感受したイングバルドも心地良さに目を細めた。


「うん、いい風ね。ママがアオイちゃんくらいの時はもっとゴーッてやっちゃったのに、アオイちゃんは気持ちのいい風だわ」

「それって褒めてるんだよね?弱いってバカにしてるんじゃなくてさ」

「違う違う。ちゃんと褒めてるわ。木陰で休んでる時に吹いてる優しい風ね、って感じたのよ。風に乗ってる魔力も柔らかいし油断するとこれだけで眠っちゃいそう。本当にいい風ね」


 思わぬ高評価にアオイの頬も緩んだ。今もイングバルドは目を閉じて心地よさそうにしている。

 コントロールについては魔法安定化のブローチの事もあるが、元よりアオイは日常的に魔法を生活のために使用していた。今更この程度の基礎で躓くほうが難しい。

 当初アオイは魔法という未知の技術を前に幾度も躊躇した。個人運用の魔法は過分に感覚的な部分の多いために使用するには危険が多いのだ。加えてアオイは後から知った事だがアオイ個人が保有する魔力量は他と比較しても多い事も関係していた。それでも湧き出る好奇心には勝てず使ってしまった。初めての魔法行使、火の魔法(フォティア・マギア)で蝋燭ほどの火を熾そうとした時などはコントロールを誤って暴発してしまい危うく火達磨になりかけた。傍にシブリィとクスィが居なければ大変な事になっていたのは間違いない。

 色々思い起こしていたアオイは場が静まり返っている事が気になった。


「…………」

「母さん?」


 静かに瞑目したままイングバルドは微動だにしていない。互いに立ったまま向かい合っているのだが一声かけても反応がないために様子がわからない。


「…………」

「母さん?ねえ?」

「……すぅぅ、すぅぅ」

「寝てるっ?ちょっと母さんッ」

「はっ!ね、寝てないわよ?アオイちゃんの風に包まれて気持ちいいなんて考えてないわ。本当よ?」

「は、はあ。そうすか……」


 返事をしつつも立ったままで寝るとか無駄に器用な事をしたイングバルドにアオイは内心で呆れていた。


「それじゃ次は水ね。ほら、がんばって」

「はい……」


 取り繕うようなイングバルドだったが、今はそれよりも魔法実習だとアオイは考えを改めた。基礎から始まった復習はまだまだ先は長い。


 


▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽


 


 一通り七つの属性と無属性の計八つを確認したイングバルドはアオイに休憩を言いつけた。今はアーフの淹れた緑茶を飲みながら一服している。茶菓子に出されたオレンジが瑞々しく輝いていた。

 イングバルドはさてどうしたものかと考え始めた。先程までアオイに基礎魔法を復習ついでに実践させたのだが行使に当たって不備は見られなかった。まだ基礎魔法のみだったので仮に暴発しても危険性は少ないのだが、それゆえにコントロールの精度は如実に現れる。少々荒い所はあるがそれは今後の指導で改善可能な範囲だ。

 魔法師の行使する魔法とは明確なイメージと高い精度の魔力コントロ-ルが基本だ。基礎さえシッカリしているなら後は応用力さえ養えばどうとでもなるのだった。逆に言えばそれができなければいつまで経っても大成する事はない。アオイの場合は歳の割りに多くの魔力を保有しているからこそ少々の難しさがあるようだがそれこそ今後の指導でどうとでもなるものだ。


「魔法行使は問題なくできてるし、そうね、今後の指導方針は基礎を詰めていきましょう」


 暫くは地味なコントロール向上の修練になるから退屈かもしれないわね、と今日の評価でアオイの指導方針を決定したイングバルドがいかにも楽しいというように笑った。その視線の先には甲斐甲斐しく世話を焼くアーフを相手に笑っているアオイが居た。

 魔法行使に当たって幾つかの例で説明するなら現象発現に必要なイメージの明確化し術式を構築する事、必要な魔力を無産させる事なく世界に捧げる事、稀だが魔法が発現する時に世界の歪みを最低限に抑えて影響を最小化する事などが挙げられる。他にもあるが関係分野が多岐に渡るために省略する。


「まあ詰め込めるだけ詰め込んでみましょうか。幸いにして私達の脳の限界値は高いのだしなんとかなるわよ、うん」


 億単位の年月を生きてきた彼女だが、なにぶん初めての出産や子育てで勝手がわからない。どの程度の段階で教育をするのかも過去の文献を漁ったり他種族の育児方法を参考にしたりと全てが手探りだ。ゆえにたまにやりすぎてしまう事があるのが玉に瑕だった。


「よーしっ。これからもがんばるわよーっ!」


 その日、アオイは集中が切れるまで実習をする事になり脳が情報を処理しきれずに倒れた。目を回すアオイの横で慌てふためくイングバルドをアーフが呆れたような目で冷たく見ていた。


 


▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽


 


 突然だが十歳を機に始まった実技訓練は白熱するイングバルドとクロードのせいである日ついにアオイは倒れた。

 アオイは日々の講義に加えて実技訓練をタジタジになりながらもなんとかついていったのだが肉体的に疲労し、更には教授される膨大な量の情報を処理しきれずに脳がオーバーフローを起こした。未だ幼いアオイの肉体には度が過ぎていたのだ。結果その後もアオイは何度も倒れてはアーフに看病される事になっていた。

 因みに諸悪の根源となるイングバルドとクロードはアーフが静かに激怒した事でゴツゴツした地面に正座する事になり痛みに耐えながら延々と三時間ほど説教される事になった。

 そんなある日の事、イングバルドとクロードは薄暗い小会議室で小さなテーブルを挟んで向かい合っていた。


「このままだといけないと僕は思うんだ」

「そうね。私もそう思うわ」


 薄暗い照明に浮かぶ二人はズーンと沈んでいた。

 当時、初めてアオイが倒れたその日の夜にイングバルドとクロードは思いを一つにしていた。必要な教育だったとしてもアオイが何度も倒れた事には流石にやり過ぎたと痛感したのだ。

 当然ながらこのままではアオイにいらぬ負担をかけてしまうので改善策や対処案を捻り出すために今日まで激しく議論した。そしてアオイが倒れてから数度目かの今日、激論に激論を重ねた結果とある結論に至った。


「やっぱりナノマシンによる生体強化案がまず急務だと僕は思うんだ」

「賛成。今まではアオイちゃんの健康維持しか目的としてなかったけどそっちの方面からもアプローチしましょう。魔法の面では殆ど意味ないけど上手くやれば無理なく肉体面で成長できるわ」


 ナノマシンでは単純に肉体面の強化しかできない。生物としての格、純粋な保有魔力は元々の素質に依存し伸び率はその後の年月の経過と地道な鍛錬、即物的な所では霊薬の類で向上する。

 イングバルドの言にクロードは頷いてから何かを思い出すように考えた。


「……今って何してたっけ?」


 わけあってアオイには常日頃から多くのナノマシンを秘密裏に投与している。食べ物に混ぜたり食事の後に栄養剤などと称して服用させたりしている。ナノマシンには役目を終えると自然に排泄されるものと半永久的に循環されるものがあるので常に把握する必要がある。

 イングバルドが紅茶のカップを片手に携帯端末で確認する。


「今は……骨格調整と血流操作による健康維持。それに筋組織の質的向上による体重制限、よ。その前は免疫力の向上化と毒物耐性の付与、他十数個の細々としたものがあったわね」

「そこに身体強化関連のナノマシンを追加か。となると他のナノマシンが干渉しないように調整するとして最初はどこからやるつもりかな?」

「骨格かしら。骨密度を今後の成長に支障がない程度に高めて頑強にする。次に筋肉組織、今実行してるものをステップアップして筋一本一本を細くして密度を高めて頑強にするつもりよ。それらが終わってから内臓関連ね」


 アオイも十歳になった。身体強化は今後の成長に無理ないように計画実行していく必要がある。

 ナノマシンによる生体強化は筋力や五感、反射神経、免疫機能、内蔵機能など身体面のあらゆる部分が強化される。具体的な例として一般的な成人男性の軽く数倍の身体能力の向上が得られるのだ。

 反面、生体強化には繊細なナノマシン操作が必要だ。本来ならルメルシエ夫妻のように片手間感覚で複数のナノマシンを投与する事こそありえない。またはそれだけ高い技術力を持っているとも言える。

 あぁ哀れなアオイ。本人の与り知らぬところで生体改造を受ける羽目になっていた。


「なるほどね。それじゃ明日から始めるとして少しずつ進めて行くから完了まで大体数年は掛かるかな」

「ええ、そうね。でもアオイちゃんには知られずにやるから前後一年~二年の誤差は見ておいたほうがいいかもしれないわ」


 短時間で一度に行なう事もできるがそれをするには身体への負担が大きく激しい苦痛も伴う。無数のナノマシンによって体組織を電子レベルで作り変え、更には部分的に遺伝子操作するのだから当然だ。だからこそ年単位の時間を掛けてジックリと余裕を持ってアオイの身体を作り変えるのだった。


「やれやれ、愛息子に隠し事とは心が痛む思いだな。正直に話せたならどれ程気楽なものかな」

「クロード……」


 クロードが肩を竦めてわざとらしくおどけた。自身も加担しているがつい苦笑してしまった。イングバルドが眉間に皺を寄せて瞑目していた。不快感、というよりも自分達の不甲斐なさに思いを馳せているようだ。


「わかってる。時間がないって言いたいんだろ。僕もわかってるんだ。こうするしかないってね」

「遠い昔に必要だったとは言え争いの手段を齎したのは私達よ。私達の罪は私達で清算する。アオイちゃんには残したくないもの」

「そう、だね。でもイングバルドまで僕に付き合う必要はないよ。あの子にはまだ母親が必要だろうし、君はこのまま」

「却下。それ以上は言わない約束よ。私は私の意志であなたについて行くんだから今更そういう事言わないの。アオイちゃんも……きっとわかってくれるわ」


 どちらも苦虫を噛み潰したような顔をしている。表情には悲観や諦観、後悔など色々な感情が入り混じっていた。

 時代の変わり目。今代の文明は百年ほど前より魔法師の数が減少している事を切っ掛けに魔導機械技術が発展した。ルメルシエ夫妻曰く『精霊も決断した。精霊の加護を取りやめる事を。争いの一原因にもなった魔法が衰退するなら少しは争いが減ると考えたのだろう』と。魔法技術文明から魔導機械文明へ移り変わっているのが現状だ。

 当時ルメルシエ夫妻以外の長命種が遠く星の海を渡り、果ては次元を越えた世界へ旅立ってから幾億年が経った。気が遠くなるほどの太古の時代から現代まで人類を観察してきた。数多の文明が時代の闇に滅びたところを目撃し、数多の文明が発展していく様もつぶさに観察してきた。初期頃には魔法技術が皆無の時代もあった。

 その後もルメルシエ夫妻は幾つかの課話し合いを続けていた。二時間に及ぶ話し合いは深夜を前に過不足なく終わった。


「うーんっ。それじゃ今日はここまでにしようか」

「ええ、そうね。クロードは明日“外”に用事があるから朝早いのよね?」

「ああ。ちょっと西のミロス帝国がキナ臭くなってきたから様子見がてら農村に物資の援助に行ってくる」

「物資は食料と医薬品だけ?それと変装はするのよね?」

「うん、そう。変装はいつも通りに旅の行商人。今回はチョビ髭でも付けてみるかな」

「ぶふっ。ちょっと、もうやだっ。ふふふ」


 クスクスと笑っていたイングバルドはハンサムでガチマッチョのクロードがチョビ髭を付けた姿を想像して堰を切ったように笑い出した。


「あははは。この前ちょっとした冗談で愛息子に見せたら大爆笑されたんだよ。衝撃的とも言われたなあ」

「もう、クロードったら。ふふっ、うふふふ」


 少し真面目な話しだが不安定な現代でルメルシエ夫妻は主に旅の行商人として“外”に出ている。長年続く争乱で多くの人々は貧困に喘ぐ事が多い。情報収集と人類の経過観察などの目的とほんの少しの同情心から物資を卸す行商人として活動しながら食料品や医薬品、衣料品などの物資を怪しまれない程度の捨て値で受け渡していた。

 ただし悪化する治安から盗賊や追い剥ぎが襲い掛かってきたり理性の飛んだ凶暴な魔物が襲ってきたり各国の諜報組織や軍事組織に狙われたりするのだが、その全てを撃退しているせいで戦闘能力の面でも悪目立ちしている。

 余談だが『戦えば常勝無敗の行商人とかマジ勘弁ww』とは夫妻を追っている軍上層部の間で囁かれる愚痴だ。

 真面目な話しに暗くなった雰囲気をクロードがアオイをネタにした冗談で吹き飛ばして話し合いを終えた。イングバルドが冷めた紅茶を淹れなおしたものを二人して飲みながら暫し和やかな空気が夫妻の間を流れた。

 暫しの優しい沈黙。


「ふふ、こんな時間がいつまで続くのかしらね」


 寂しげに微笑むイングバルド、疑問のようで確認の呟きだったそれにクロードは咄嗟に言葉にできなかった。口を開いては閉じるを繰り返し、なんとももどかしさに苛まれる。


「そうなね……」


 一言答えたが結局はそんな当たり障りもないものだった。イングバルドがしょうがないなというように笑った。

 夫妻とアオイの別離まで残り十と数年余り……。








前々から話しに出していたナノマシンによるアオイの生体強化ですがこの行為に悪意はありません。完全なる夫妻の厚意です。程度の差はあれど長命種では一般的な処置です。

ええ、ですから人体実験とか非道徳云々は該当しませんっ。

だって、だってこれはフィクションですから!!(ばばばーんっ)

ではでは。


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