第6話・周辺諸国
途中挿入その2です。
この方法だとメインの更新記事とならないから宣伝が難しいですね。
活動報告くらいが関の山です、ええ。
それでもお気に入り登録が少しずつ増えたから読んではもらえているようです。
嬉 し い な!コンチクショー!
皆の感想&評価&ネタ提供が作者の力になっております。
ここは帝国に数ある造船場の一つ。その内の一つを部分改築して作られたのが帝国初の航空艦造船場だ。今その航空艦造船場に一隻の艦船が鎮座していた。
工員が騒がしくも慌しく動き回る中で二人の男が航空駆逐艦を眺めている。
一人は帝国戦略研究部にある兵器開発局の一部門たる第三設計局の開発部局長。もう一人は彼の上司に当たる帝国戦略研究部の総責任者だ。
「ほう、これが航空戦艦の一番艦か。この大きさと武装だと駆逐艦規模になるのかね?」
「ええ、その通りです。航空駆逐艦一番艦。帝国の新しい力となる船です」
「新しい力か。ふむ……」
彼らの前には魔導機関の球体部分を中心に船尾に伸びる推進機関と船首側へ上下から伸びた艦首、全長七〇m程の艦船だ。その形状から見ようによっては食器のフォークのように見える。
「まずはこの艦で稼働情報を収集したいと思います。次に巡洋艦、その次に戦艦の建造に入る予定です」
「ふむ。では過不足なく最短ではどの程度で戦艦規模が作れそうかね?」
必要なのは駆逐艦ではなく戦艦だと暗に言う総責任者に開発部局長は暫し考える。
帝国海軍で戦艦とは力の象徴とも言える船だ。艦船の中では防御力、打撃力共に優れた能力を発揮するからだ。
「おそらくですが情報収集の場に事欠かないので大体三年ほどですか。問題がなければ必要な運用情報は蓄積できるものと思われます」
「おおよそ三年、か」
総責任者が何の感慨も無く呟いた。
連合の魔導機械技術は帝国に一歩も二歩も遅れている。連合空軍はグリフィンやペガサスなどの騎乗兵や高位魔法師が主力で戦闘機の配備もまだ不十分だ、というのが調査した帝国情報局の予測だ。
今は駆逐艦規模でも十分と言えるが技術は日々進歩するものだ。いずれは連合も機動力と打撃力に優れた戦闘機を開発するかもしれない。いずれは帝国と同様に航空艦を作るかもしれない。
いずれは、いずれは、いずれは……帝国の脅威になりえるかもしれない。
故に常に最悪を想定する総責任者は、帝国は一歩でも上を行くために戦艦規模の航空艦を、力を求める。
「なにぶん新しい分野なので必要情報の蓄積が不十分でして。今は海軍と空軍の協力で流用できるものはありますのでそこから切り込んでいこうと考えています。少しは必要技能の習得を短縮できるかもしれません」
元々は海軍の軍艦を設計していた第三設計局だ。艦の運用については海軍から技術情報を吸出す事は比較的容易だった。問題は空軍の航空技能についてだったのがこちらも航空艦が新規戦力になるという打算もあり協力的だった。
お陰で開発部局長はホクホク顔だったが総責任者は信じられないような目で見ていた。
「海軍と空軍が、協力を?本気か?万年不仲な三軍の内二つが仲良く協力するとは俄かには信じられんな」
「はっはっはっ。皇帝陛下の強い後押しがあった結果ですよ」
「なんと!皇帝陛下御自らお下知されたのか!」
流石にこの言葉には目を剥いて驚いた。帝国主義者の総責任者には遥か高みにある皇帝陛下から直接激励を賜る事は何よりの栄誉であるからだ。
だからこそその栄誉を得たという開発部局長に対して驚きと歓喜を感じつつも内心では強い嫉妬心がチリチリと炎のように燃えていた。
「ええ、そうです。詳しくは知りませんがなんでも南へ、正確には南東部へ進軍するために航空戦艦を使いたいとの事でした」
「この時機に南東部へ?……いや、確かにそんな侵攻作戦を耳にした事があったかもしれん。だが成功させるには多くの問題がある」
「確かに。南方部との国境線上は常に不安定ですからね」
開発部局長が言うように帝国は幾つかの元小王国領を様々な形で占領しているがまだ数年しか経っていない占領地もあるために情勢的には不安定だ。その事には総責任者も同様に懸念していた。
しかし逆に考えると帝国領域だからこそ治安維持のためにある程度は強権を発動させる事も可能であるのもまた事実だ。それだけに小さな問題は多いが致命的な問題は少ないとも言えなくもない。
大きな問題は国境線から先にある。
開発部局長が世間話でもするように戦況について触れた。
「あれでしたか?大森林地帯に住む亜人が必死の抵抗をするのも原因ですが、私はあの森に生息する多くの大型魔物が問題だと聞いていますよ」
「うむ、その通りだがやはり問題は亜人どものほうだ。やつらは森の開拓を妨害するだけに飽き足らず他民族連合国家と名乗って帝国に反抗してくる始末。まったくもって不愉快極まる連中だ」
総責任者の声色には栄えあるミロス帝国の前に他種族が連合を組み他民族連合国家と名乗って立ち塞がる事に憤懣遣る瀬無い思いを募らせていた。
それに対して愛国心よりも探究心という開発部局長は曖昧に頷いている。
「まあ私ども研究者は少しでも優れた兵器を作るだけですからどうもでもいいのですがね」
「貴様は……研究者どもはなぜこうなのだ」
「はっはっはっはっはっ」
眉間を歪めて渋い顔をする総責任者と然も褒め言葉だと言うように大笑いする開発部局長。
開発部局長は真っ当な研究者ではあるが部下の若い設計士も似たような手合いだけにこれはもう研究者特有の感覚だろう。
「まあ良い。だが皇帝陛下の栄光を汚す事だけはしない事だ。わかるな?」
念押しした確認。具体的に言葉にしなくとも総責任者からの威圧は重く苦しい。
それでも開発部局長は平然としている。少なくとも表面上は。
「わかっておりますとも。今できる範囲でできる限り不備は取り除きましたので後は実際に運用しながら随時修正するつもりですよ」
「そうか。ならば良い」
帝国の国民は帝国と皇帝陛下に服従し尽くすのが栄誉であると真剣に考えていた。
だからこそ釘を指す事だけは忘れていない。
今の開発部局長、というよりも自分の探究心を満たす傾向にある研究者を部下に持ってからは欠かさずに行なってきた事だ。
部下全員は既に耳にタコができるほど言われているために少々辟易していた。
そんな部下達の気持ちなど歯牙にもかけない総責任者は徐に固定された航空駆逐艦を見上げた。
「新たな力、か……」
その呟きには期待と希望、それに僅かな不安が見て取れた。
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アース大陸の西部に覇を称えるミロス帝国と南部の他民族連合国家の国境線上。前者は人間族が中心となり一部の獣人族や亜人族からなる巨大国家であり、後者は多種多様の亜人族や一部の人間族の小さな集落が集まってできた南部最大の巨大連合国家だ。
今連合国側の西方前線司令部は帝国の進攻を察知、危機に曝されていた。
そしてそれは連合軍所属の翼人族からなる偵察部隊が敵進攻を察知した事から始まった。
「偵察部隊より入電!敵帝国軍戦車部隊を大隊規模で発見!随伴歩兵部隊も師団規模で確認!グローニャ平原より我がほうへ向けて進攻中!即時対応の必要ありとの事です!!」
魔導通信機器によって偵察部隊から齎された報告内容に前線司令部の誰もが唖然とした。
だがそれも前線司令官が逸早く立ち直った事で他の職員が訓練通りに動き出す事となる。
「クッ、こんな時に……!!待機中の部隊員を緊急出撃させろ!!迎撃に向かい遅滞戦闘に徹して応援を待て!至急応援部隊の編成を急げ!非番の連中も呼び戻せ!」
「了解!」
連合の前線司令部は蜂の巣を突いたように大慌てになった。
ここ数週間ほど帝国からの攻撃がなかったために前線勤務の兵士達に交代で休暇を与えていたために兵力が減少していた。
「チィィッ!暫く大人しかったと思えば帝国人どもめがやってくれる……!!」
将兵の内三分の一が休暇で帰省していたのが痛いと前線司令官は歯軋りした。
この進攻も今日の事態を考えて実行してきたとするなら相当にいやらしい作戦だ。
だがしかしおかしな部分もあると前線司令官は考えていた。帝国が今日の進攻作戦を考慮していたのなら戦車部隊が大隊規模、随伴歩兵部隊が師団規模というのは少なく思えてならなかった。帝国の国力を考えるなら今の三倍から五倍は兵力を抽出してもまだ余力があるだろうに。
今回の帝国の進攻はやはりおかしいと前線司令官は理屈ではなく勘で思った。
それから一時間後には連合軍の応援部隊の集結が完了した。これで帝国軍部隊と戦力で拮抗した。戦線が維持できた事でとりあえずの緊急性は回避したと連合側の誰もが安堵した。
「一時はどうなるかと思いましたがこれなら追い返す事も可能ですね司令」
「いや、気を抜くには早い。戦闘はまだ終わっていない」
「っ、すみません司令」
「落ち着け。それよりも敵陣の動きには目を配ってくれ。不意をつかれたとは言えこれ以上の被害は勘弁だからな」
「了解です」
前線司令官に注意されて気が緩み掛けていた職員が慌てながらも戦況分析に注力した。
今も偵察部隊から送られてくる戦況情報と魔法師の遠見の水晶からの情報収集と分析から情報を整理している。
その中で遠見の水晶で敵後方に目を配っていた魔法師の一人が弾かれたように立ち上がった。
「敵航空部隊が接近中!数は大隊規模!十分後に味方上空に達すると予測されます!」
「こちらも航空部隊を出せ!緊急発進だ!」
「了解!」
帝国の戦闘飛翔機、略して戦闘機。帝国が誇る魔導機械技術の粋を凝らして作り上げた魔導機関搭載型の全長八mの航空戦力だ。
搭乗席の魔導球を中心に軽量合金で作り上げたその姿は雀のようにずんぐりしている印象がある。装備変更で攻撃機にも迎撃機にもなる帝国空軍の主力機としている正式戦闘機だ。
完全に魔導機械化された帝国の空軍戦力は侮り難い。
魔導機械技術で作られた戦闘機の操縦者は訓練次第で質と量が均一化されるために大戦力を用意できる。戦争は技術も勿論だが数こそが脅威だ。
今回の数はそうでもないがその脅威に何度も曝されている連合は堪ったものではない。
アース大陸北部のカルレア皇国とも帝国は戦線を開いているのに、巨大国家を南北に二国も相手取っているのに帝国には揺るぎがないのは脅威を通り越して畏怖すら感じさせられる。
このまま敵の援軍が続くのではないかと戦々恐々としていた司令部にて敵情を分析していた職員の一人がとある事に気がついた。
「これは……待って下さい!敵航空部隊の中に未確認の反応を一つ確認!大きいです!」
「大きな反応だと?帝国が新しく魔導機関搭載型の戦闘機を開発したとは聞いていないが。何かの間違いではないのか?」
「いえ、反応は確かにあります!発生する魔力数値が大きいです。これではまるで艦船規模の魔導機関反応としか思えません」
分析していた職員の報告を耳にした者達は一瞬だけ何を言ってるのだと身を硬くした。
戦車や戦闘機に使われている小規模の魔導機関反応ならともかく地上でそれ以上に巨大な魔導機関反応があると聞けば誰でも身を強張らせる。
「そんな馬鹿な事があって堪るか!ここは地上だ、船などあるわけがない!もう一度確認しろ!」
「りょ、了解!」
前線司令官の怒鳴り声のような命令に職員が慌てて再確認する。
海上なら艦船に使われている強力にして大型魔導機関の反応も納得できる。だが地上ではそのような大型魔導機関を使用する存在はなかった。
――今までは。
「偵察部隊より入電!我空飛ぶ戦艦を認む、との事!」
「空飛ぶ戦艦だと?何を馬鹿な事を!もう一度だ!もう一度確認させろ!」
「っ、了解!」
前線司令官は命令を下しながらも歯噛みする。
戦場を監視していた職員が大きな魔導機関の反応を察知したと思えば報告で何の冗談か空飛ぶ戦艦が出たときた。
魔法技術があるこの世界でもその報告は非常識だった。前線司令官が歯噛みだけでなく眉間に皺が寄るのも仕方のない事だろう。
「司令!遠見の水晶と光学望遠で確認が取れました!間違いありません、確かに飛んでいます!規模は帝国軍艦船と比較して駆逐艦規模かと思われますが先の魔導機関反応も観測できます!」
余りの非常識が実現した報告に皆が一秒二秒呆然とした。
報告を聞いて唖然としていた前線司令官は内心の焦りを無理矢理押さえつけて手元にある遠見の水晶へ映像をまわすように指示した。
そして“それ”を目にする事になる。
「ば、ばかな。帝国軍は出鱈目だ……」
その日、連合軍は戦線を後退する事になる。
帝国が新たな領土を得た瞬間だった。
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帝国の進攻に曝された西方司令部はやむなく後退する事になった。
これには連合総司令部も頭の痛い問題として会議が紛糾している。
今回の軍事会議には連合軍の上層部と今回の失態について西方前線司令官が召喚されていた。
「空中船とは凄まじいものだな、帝国の魔導機械技術とは侮り難いものだ」
「確かに。わかっていたとは言えここまでとはな。して、被害はどの程度になる?」
「連合空軍の少なくない戦力が撃墜されている。建て直しには相応の時間と資金が必要だ」
連合軍の上層部連中が苦虫を噛み潰したように事実を言葉にする。
連合軍の空軍戦力は元々飛べる翼人族やグリフィンやペガサス、飛竜に騎乗した騎乗兵が主力だ。
今でこそ帝国から連合へ様々な理由から亡命した技術者が居るために少しずつだが技術力の差も改善しているが連合が帝国に魔導技術関連で並ぶにはまだ時間が必要だ。
それでも連合製の戦闘機や戦車などの魔導機械兵器も生産されており少しずつだが戦力化も進んでいる事が救いとも言える。
しかしながら兵器の質と量も帝国が圧倒している事が軍事力の格差に繋がっているものまた事実だ。
「こちらの技術者連中はあれをどう言っている?記録はしていたのだろ?」
「はっ。装甲と武装は帝国海軍のものを流用している事と従来よりも強力な魔導機関が使用されているだろうとの事でした。性能比較は帝国海軍の駆逐艦を基準としておおよそですが防御力は同等で打撃力は二割増し、そして機動力が二倍と推測されます」
軍事会議に召喚された前線司令官が連合上層部に今回の先頭で収集された情報を読み上げた。すると連合軍将校達は誰もがその脅威を前に息を呑んだ。
海上で艦船が巨砲の力を発揮するのはわかる。しかし地上、それも上空から砲撃してくるのだから堪ったものではない。
あれが量産されたなら今後の被害は目を覆いたくなる規模に膨れ上がる可能性が高いのはここに居る皆が理解している。
「こちらでも同じものを作るわけにはいかないか?駆逐艦規模であの被害となると今後が思い遣られる」
「今直ぐには無理だ。従来のものよりも出力が倍も違うらしいぞ?連合の技術者達もそうだが帝国からの亡命技術者も頭を抱えている」
連合軍上層部の将校達が散発的に意見を交わすが状況は芳しくない。
強力な魔導砲と頑丈な装甲を兼ね備えたものが駆逐艦の二倍の機動力を発揮し、それが上空から一方的に攻撃してくるなどどのように対応しろと言うのか。
誰も彼もあの非常識な空中船の対応に頭を抱えていた。
「それでもだ。なんとかならないか?」
だが連合最大の危機だ。故に今こそが連合が一丸となって対処する必要性がある。
このまま手を拱いていれば被害は今後も広がる一方なのだから必死にもなる。今会議している時も流れているのは連合軍将兵の血なのだから。
「今の連合の魔導機械技術では帝国よりも一回り大きな戦闘機程度ができれば上等というところだ。格段の性能向上は期待できない」
連合の魔導機械技術ではそれが現状では限界だった。それも生産体制も未整備で実戦配備数は決して多くはない。
皆が皆、危機を前にして表情が暗い。
「対応策を模索する必要がある。それも早急に」
「わかっている。わかっているとも……」
搾り出された声を最後に会議は終了した。
これより連合は敗戦が続き大きく後退する事になる事は想像に難くなかった。
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航空駆逐艦が戦線から航空造船場に帰還したその日に艦長兼試験運用部隊の長の男と帝国戦略研究部の総責任者が事後報告を行なっていた。
「素晴らしいな!駆逐艦規模でこれだけの戦果か!わっははははっ!」
艦長兼試験運用部隊の長の男が豪快に笑う。今日上げた戦果に殊更上機嫌のようだ。
それに対して大声に顔を顰める総責任者は報告書に目を通しながらも釘を刺すように言う。
「だが艦にも損害はある。火の魔法と雷の魔法によって装甲が焼け焦げた程度らしいが」
こうして苦言を言って水を差すのも今計画を完璧に完遂するためだ。何よりこの大声の男はこうして注意しておかないととんでもない失態を犯す事が時たまある。
昔から変わらないやつだ、と懐かしくも苦い記憶に内心で苦笑していた。
「ハッ!その程度は損害とは言えんよ!駆逐艦規模でこれだけの戦果が出せるのなら巡洋艦ならどうか?戦艦ならどうだ?クク、ククク。笑いが止まらぬわ!」
戦果戦果と口にするが実際は連合軍を敗走させて戦力を削っただけで獲得した領土も価値が低い。獲得したものと言えば精々が豊かな森林資源だがそれさえも軍事行動を起こした手前採算が悪い。辛うじて均衡が取れるかどうかといったくらいだった。
「落ち着け。まだ試験運用段階なのだぞ。それには試験運用部隊の長である君にあの航空艦を慎重に且つ最大限に運用情報を収集してもらう必要があるのだ。いいか?くれぐれも慎重に且つ最大限に、だ」
そもそも今回の進攻作戦も領土獲得や連合軍の撃破が目的ではない。航空駆逐艦の実戦運用の情報収集が目的だ。目標は航空駆逐艦そのもので連合軍を撃破したのはオマケ程度の結果でしかない。
逆に考えれば航空駆逐艦を撃沈されてしまうと全てがご破算になってしまう可能性すらあるのだ。だからこそ総責任者は目の前の豪快な男に注意するのだ。
「なんともまあ、帝国戦略研究部の総責任者の言葉とは思えないほど消極的ではないか!帝国士官学校の同期生として言わせて貰えばこれだけの戦火を出したのだから胸を張ればいいものを!」
「それはわかっているとも。だが油断してあの艦を落とされたではマズイのだ。せめて必要情報が全て収集できてからでなければ採算が取れん。何よりも後継艦の事もある」
収集された情報を元に次の艦船を建造する。最適化された新たな艦は更に効率的な戦闘艦となるだろう。
だがそれも無事に情報が蓄積されていればだ。何度も言うが撃沈されてしまえば意味がない。
総責任者が重ねて言い聞かせるが豪快な男はわかっているのかわかっていないのか今も嬉しそうに大声で笑っていた。
「そうか、後継艦!それはいい!それでは順調にいったとしてどの程度でできそうだ!?こんな時代だからな、情報収集に必要な戦場には事欠くまいよ!わっはははっ!」
「さてな。次が巡洋艦となると、そうだな……半年、いや四ヶ月もあれば図面が引けるはずだ」
今の新型魔導機関の出力にも余裕があるから一年以内には巡洋艦規模の一番艦を造れるはずだ、とは言葉にせずに総責任者は内心で算盤を弾いた。
そうとは知らない豪快な男が更に大きな声で笑う。上機嫌の度合いも大きく増していた。
「ほう!思っていたよりも大分早いな!わっははははっ!実に結構!結構な事だ!だが意外だ!なんというか兵器開発とは年単位の時間が必要だと思っていたのだがな!」
総責任者は目を丸くして目の前で笑う豪快な男を見た。
珍しくも的を射た物言いに驚いたと同時に明日は攻撃魔法が降ってくるのかと不安になった。
「本来はその認識で間違いないとも。だが今は多発する戦争や紛争が技術更新を加速させている。そのためにある程度の時間短縮ができているのだよ。それでも異常な速度なのだがね」
「ふむ!技術革新は日進月歩か!帝国の未来は明るいな!わっははははっ!」
絶対に総責任者が言った事の半分も理解していない。豪快な男とはそういうやつだと説明した総責任者も半ば諦めていた。
それでもこの両者の関係が切れないのは豪快な男も熱心な帝国主義だからだ。尤も深く考えての事ではなく純粋に帝国を愛しているからだが総責任者はその気風を好んでいた。
だからこそ豪快な男に『そうだな』と同意し珍しくも口元を歪めて笑った。
そしてそうだといいなとは口にはしない。総責任者の胸に漠然とした不安があるために。
「ああ、そうだ。これはどうでもいいのだが」
「む!なんだ!?」
「貴様は相も変わらず喧しいくらいに煩いな。もう少し声量を落とせないのか?」
「ぬおっ!?」
これ以降の帝国軍は連合軍を航空戦力で圧倒する事になる。
第一章のメインは西方部と南方部の戦争になります。
よって北方部の詳しい描写は省きます。少しは書くかもしれませんが。
あっ、それと明確な名称付けも一部を除き省きます。
だって第二章でアース大陸は……っとと、いえまだまだ秘密ですよ?ええ、秘密です。
ではでは。




