第4話・周辺諸国
途中挿入です。
今までも考えていたのですが”外”の事にも少しは触れておきたいなと思いました。
熟慮に熟慮を重ねてこのようになりました。はい。
一応は幕間の亜種です。
お陰でお話の続きを書くペースがガクンと落ちました。えぐえぐっ。
それでもがんばってますよ?ええ本当に。
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続きをどうぞ。
アース大陸の西方部に位置する国家群、その中でも一際強大な国家がある。その国の名をミロス帝国。アース大陸の西方諸国から火と鉄の国と呼ばれる大国だ。
周囲を多くの小国に囲まれた帝国はその全てを武力で制圧または政治力で捻じ伏せた大国だ。属国か植民地に成り下がった諸国から資金や資源を吸い上げて搾取した事で更に国力を増した。
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ミロス帝国の軍令部にある帝国情報局特務二課にての事だ。
その部屋には大きく重厚な執務机、黒い革張りの椅子にソファーがあり控えめの照明が薄暗く照らしている。家具や部屋そのものは重厚な作りだが質素な印象がある。
今その部屋に二人の人間族が執務机を挟んで向かい合っていた。一人は椅子に深く腰掛ける壮年の男、もう一人は正面に直立不動の体で立っている若い男だ。
壮年の男は若い男が持ってきた報告書を読みながら口頭にて説明を受けていた。
「――これは事実なのだな?」
報告が終わると壮年の男、帝国軍の上級将校が最後に確認をした。
若い男、情報局に所属する局員がそれに対し背筋を伸ばして答える。
「はッ。情報部の調べでは事実のようです。今も追跡調査をしておりますが状況は難しいと思われます」
「良い。そもそも“やつら”は神出鬼没だ。どこからともなく現われ、どこへともなく消えていく。厄介な存在だな」
ミロス帝国が建国されてから千年以上が経つがそれ以前から出没しているとある男女の姿が確認されていた。規格外の力と資金力を持つ存在として帝国だけでなくアース大陸に存在する国々が最優先で注意している。
壮年の上級将校もその厄介な存在に頭を悩ませる一人だ。
「ですが閣下。皇帝陛下からは特に調査するようにと念押しされており今では専門の調査機関まで立ち上がっていると聞きます。それでも結果は芳しいものではありません」
内心で頭を抱える壮年の上級将校を前に若い局員が何かを含んだ言い方をする。それ以上を口にする事を躊躇しているようにも見えた。
壮年の上級将校が鼻を一つ鳴らしてから椅子に深く身体を預けた。
「貴官は何が言いたい?多少の無礼は許そう」
「……では僭越ながら。閣下、“やつら”とは一体なんなのでしょうか?」
これだけではどうとでも取れる言い回しだ。核心は含まないが広い範囲では受け取れる言葉だった。
壮年の上級将校は然も何の事かわからないというように先を促した。
「それはどういう意味かね?」
「私は長い事この調査に関わっておりますが調べれば調べるほど非常識の塊のように思えます。今回の元クリューレ王国領で起きた被害も大きすぎる。これならまだ強大な力を持つ上級悪魔が複数召喚されていると言われたほうが納得できます」
若い局員が提示したのは先ほど報告を受けた事だった。
壮年の上級将校が表面では笑顔を浮かべていても内心では苦い思いを噛み締めていた。
クリューレ王国とは十年ほど前に帝国が武力によって平定した小国家の一つだ。天然資源が豊富な国だったために勢力を拡大化する帝国に目を付けられたのだ。
その元クリューレ王国領で頻発する抵抗軍の集落を現地の帝国軍が襲撃する作戦計画があった。
当初は不穏分子の排除が目的だったのだが戦場で流れる血と狂気に興奮した現地の帝国軍兵士が集落に居た老人や女子供に非道を働いた。
そのために“やつら”の片方“女”が出てきた。どこから聞きつけてきたのかは知らないが突如として現れたかと思えば抵抗する帝国軍兵士の事如くを排除してしまったのだ。降服した者は抵抗軍に身柄を引き渡し取り押さえられたと聞く。
相手は亡国だ。捕虜交換などの交渉時の事を考えると頭の痛い問題だった。
壮年の上級将校が顔に笑みを張り付かせて話の続きを聞く。若い局員は緊張から喉を鳴らした。
「……それで?」
「一番古い確認情報だけでも既に千年以上も前のものです。これは明らかにおかしい。目撃情報を元にした似顔絵や立ち姿は同じ人間ですが私にはとてもではありませんがやつらが同族だとはどうしても思えません」
全てではないがおおよそは話し終えた若い局員がそっと内心で息を吐く。
壮年の上級将校は笑顔を変える事無く若い局員を眺め見て一つ考える。
「なるほど、大変興味深い話だった。ふむ……貴官は二級騎士だったな?」
「は?はい。昨年に従軍した時の功績を機に昇進しましたが」
「そうか。では明日からは一級騎士だ。……この意味がわからない貴官でもあるまい?」
それ以上を囀るな。黙っていれば良いのだ。
昇進を餌にした体のいい口封じ。命をとらないだけ穏便な方法とも言える行ないだ。
若い局員が渇いた喉を鳴らした。目前の上司が浮かべる笑顔が一瞬だけ不気味に見えた。
「そ、それは……いえ、了解しました。申し訳ありませんでした、閣下」
「なに、気にする事はない。報告は以上だな?では下がれ」
「はッ。失礼します」
若い局員が部屋を出て行き、残った壮年の上級将校が笑顔のまま右手を挙げた。
すると彼の背後で動きがあった。姿は見えないが影が身動ぎするように蠢いていた。
「始末せよ。方法は任せる」
壮年の上級将校が言うと影は一言も声を発する事無く静かに消えた。
影の気配がなくなると壮年の上級将校は立ち上がり大窓から帝都を見下ろした。
誰が言ったか火と鉄の国という言葉が表すようにミスリルやオリハルコンを使用した鉄鋼業と炎を活かした魔導機械産業が盛んな帝国首都だ。装飾美よりも実用美を前面に出された帝都は美しさよりも剛健さが見て取れる。
帝都を見下ろす壮年の上級将校のその顔には先ほどまで浮かべていた張り付いたような笑みは欠片もない。
「ふん。仕事はできるが優秀すぎるのも考え物だ。帝国の人的資源が無駄に消耗されているではないか」
吐き捨てるように言う言葉には悔恨と諦めの色が見て取れたがそれも直ぐに消え去った。
暫く帝都を眺めていた壮年の上級将校は大窓に背を向けると次の仕事に取り掛かろうと動いた。
まずは皇帝陛下にご報告に上がらねばならないな、と内心で芳しくない現状報告で怒りを買わないかと不安になった。
「嵐が、大きな嵐が来るかもしれんな……」
ぽつりと呟かれた言葉は誰にも聞かれる事なく消えていくのだった。
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明くる日の事。今朝未明に若い二級騎士の訃報を耳にした壮年の上級将校がミロス帝国の皇帝陛下へ内々の謁見の栄を賜っていた。
ただし場所は謁見の間のような荘厳な部屋ではなく皇族のみに許された生活区画の直ぐ隣にある応接室にて行なわれている。
このように隠れて行なわれる謁見には当然だが理由がある。あの時若い局員が口にした専門機関の統括官がこの壮年の上級将校のもう一つの顔だからだ。
ミロス帝国の皇帝は老齢に迫ったとは言え金髪碧眼の美丈夫だ。だがその目だけは華美に着飾った外見とは異なり野心に満ち溢れ汚泥のように濁っている。
テーブルを挟み互いにソファーに腰掛けている中で壮年の上級将校が一通りの報告を終えて最後に皇帝陛下が最も気にしている事柄を出した。
「――以上を持ちまして今月の報告を終わります。最後に、陛下がお目に掛けておられる彼の軍神の片割れでございますが元クリューレ王国領にてその姿が確認されましてございます」
「お、おおっ!それではついに捕らえる事ができたのだな!」
ミロス帝国皇帝が期待に胸を膨らませる。
若き日に見た時の事を思い出す。まだ第一皇子としてあったあの日に軍神の片割れ、彼の傍にある美しくも勇ましき戦女神の姿を見た。
あの時に皇帝は恋に落ちたのだ。狂おしいまでの思いは時が進むに連れて今では歪み、ただその身を蹂躙したいと思うようになっていた。
「……申し訳ございません陛下。残念ながら応援部隊が駆けつけた時には既に集落は蛻の殻でした。また陛下のお探しになられている軍神の女も姿を消しております」
「なんだと?先発部隊は何をしておった!?全滅したわけではあるまい!!」
「その事についてですが先発部隊の約半数が抵抗軍の捕虜となりました。中には上級将校や貴族位を持つ方々も居りますので順次捕虜交換の交渉に入りたいと考えております」
「クッ!ならぬ!!戦わずに敵の虜となる者なぞ我が帝国には不要!!そのような些事は捨て置け!!それよりも我が戦女神だ!行方は!わからぬのか!?それでも貴様は栄えある帝国の上級将校か!!」
冷静に感情を出さないように淡々と報告する壮年の上級将校を前に皇帝が立ち上がると癇癪を起こしたように怒鳴り散らした。
自国軍の捕虜を見捨てるなど今後の統制を考えると問題が多すぎて放って置く事などできはしない。下手すると軍内で反乱の芽になる可能性もあるのだから捕虜交換という繊細な交渉作業は確実に遂行しておきたかった。
だが皇帝は捨て置けなどと無茶を言う。
それでも彼は軍人だ。帝国軍人はミロス帝国と皇帝陛下に忠誠を誓う人間なのだから命令は反故にはできない。
まったく、頭が痛い問題だと壮年の上級将校が内心で頭を抱えていた。
「申し訳もございません。ですが先程も申し上げましたように集落は蛻の殻でございました。追跡調査させておりますが前回と同様に結果は芳しくないものと思われます」
「ええいっ!この役立たず共が!!」
この瞬間に皇帝の怒りが火を噴いた。
テーブルの上にあったカップを壮年の上級将校の額に投げつけたのだ。
「ッ!!……申し訳、ございません」
カップが当たった瞬間に激しい痛みが襲ってくる。咄嗟に声を上げそうになるのを精神力で捩じ伏せて我慢する。
額から血を流していたがそれでも見た目だけで傷そのものは深くないようだ。
「もう良い!貴様は出て行け!!だが次こそはッ、次こそはあの者を捕らえるのだ!!良いな!?」
「はッ……」
額の傷を抑える事もせずに静かに出て行く壮年の上級将校を皇帝は見送る事もしない。思いを馳せるように天井を仰ぎ見る姿から別の事を考えている様子だ。
「未だ我が手を逃れるか。まこと忌々しい事よ……」
ただ独りになった皇帝が未だ逃れたる戦女神を思って呟かれた。
その声色は愛しき者を思う気持ちとも憎き宿敵を恋焦がれたようにも聞こえた。
「だが捕まえてみせるぞ。必ず、必ずだ」
必ず必ずと繰り返し呟かれる言葉に野心を宿した目の濁りが一層増した。
最早老齢に差し掛かっている皇帝は未だ少年のように憧れの女性に思いを馳せるように目を暗く輝かせる。
「おお、戦女神よ。必ず我が物としてくれるぞ。きっと、きっと……!」
暫く経つと皇帝も部屋を出るべく歩き出した。
皇帝がクククと暗く嗤う。
「クク、クハーッハッハッハッハッハッ!!」
その笑い声はとても楽しそうで、どこか暗い愉悦を含んでいた。
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帝国戦略研究部に所属する兵器開発局。その第三設計局での事だ。
主に海軍の戦闘艦を設計する第三設計局で一人の若い設計士がとある設計図を手に開発部局長に直談判しに来ていた。
「――航空戦艦?馬鹿馬鹿しい。そのようなものを作るくらいなら一機でも多くの戦闘機、一台でも多くの戦車を作ったほうが戦力となるとは思わないか?」
そう言いつつも目は設計図に目を走らせていた。
直感的に言えば面白いと開発部局長は思った。一研究者としてもこれが実現したなら戦略に大きな変革が起きるとも考えた。
「ですが!ですがこれが実現すれば戦略の幅は大きく広がります!最前線で安全な橋頭堡が確保できると考えてみて下さい!兵を無駄に消耗する事も減る事でしょう!」
そして若い設計士も同じ考えのようだった。
故に開発部局長は否定するだけではなく肯定的意見も織り交ぜて注意点を洗い出す。
「確かに実現できれば強力なカードになる事は想像できる。だがそれ以上に問題が多い」
「それはっ、そうでしょうが、しかしっ!」
空飛ぶ艦隊。これが実現するなら脅威となりうるだろう。
だがそれにはまずこの設計図の示す規模が問題だった。全長五〇〇m以上の戦艦を飛ばせるなど現時点の魔導機関では出力的に難しい。既存の魔導機関を連結しても並列しても到底不可能だ。
何よりも……。
「わかっているのだろう?費用が掛かりすぎる。建造費だけでなく維持費も膨大だ。今の帝国には無駄に消費する資金も資源もないのだ」
「っ……」
悔しそうに顔を歪める若い設計士を開発部局長は若いなと内心で笑いながら見た。
調子に乗らないように釘を刺したがこれ以上は余分だ。ここが潮時だろうと考えた。
「だが設計自体は面白い」
「っ!では!」
「規模を縮小、半分くらいにして再設計しておけ。再来週の定例会で議題に出す。それまでに間に合わせろ。頼むぞ?」
一転して顔を輝かせる若い設計士に開発部局長はにやりと人の悪い笑みを浮かべて発破をかけた。
「はっ、はいっ!それでは失礼します!」
慌てて出て行く背中を唖然としながら見送った開発部局長は残していった設計図をもう一度流し見ながら思いを馳せる。
「くくっ。やれやれ」
本当に困った部下だ、と楽しげに笑う。
それは面倒を押し付けられた上司のようでいて新しい玩具を与えられた子供のような笑みだった。
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時間が経ち再来週。開発部局長は帝国戦略研究部の総責任者へ定期報告を終えていた。
いつもならそこで軽く談話して終わるのだが今日は違った。開発部局長がとある設計図を手に相談を持ちかけたのだ。
「第三局長。疑うわけではないが、この航空戦艦とやらは本当に実現可能なのか?」
「総局長。必要な浮力を得るために新型の魔導機関を設計中です。理論上は航行可能になるとの試算も出ています。装甲や武装も海軍のものが流用可能なので生産費用を抑える事もできるかと思われます」
問題は必要となる初期開発の資金と資源それに時間だ、と開発部局長が締めくくった。
実現の目処は立っていると理解した総責任者は暫く唸りながら考える。
新しい分野ともなると初期開発だけでも費用は莫大なものになる。今回は規模が規模だけに万が一にでも失敗しましたでは被害総額は大きなものになるし帝国戦略研究部の面目が丸潰れだ。
そうして暫く考えていた総責任者だが一つ大きく息を吐くと腹を決めたように眼光が鋭くなった。
「実現できるなら航空戦艦は帝国の新たな力となる、か。次の定例幹部会議で議題に出してみよう」
「ありがとうございます!これを設計した設計士も喜びますよ!」
もろ手を挙げて喜びを露わにする開発部局長。
もう決まったかのように喜ぶ開発部局長を総責任者は苦笑しながらも注意する。
「まだ早いだろうが。まずは軍事議会で可決してからだ。実際に作るかどうかはその時に初めて決まるのだぞ?」
「あっ、いや申し訳ありません。ですがこれはもう決まったものだと考えます。理論は出来上がっていますし後は実物を作るだけなのですから」
バツが悪そうにしながらも湧き上がってくる喜びは隠しきれていない姿を見て総責任者はもう呆れていた。
「それこそ気が早いというのだ。議会の可決もそうだが軍上層部の許可を得られなければ意味がないのだぞ。少しは落ち着きたまえ」
「はッ。ですが部下がこのような面白いものを挙げてきたので私も一研究者として本当に楽しみなのです」
楽しい題材を前にしてワクワクしている研究者を前に総責任者は呆れながらも同じく想像力を働かせた。
帝国の威を示すように空に浮かぶ艦隊群の姿は周辺国にはさぞかし偉大に映る事だろう。
「ふむ、空飛ぶ艦隊か。確かに帝国軍人としては胸が踊らないでもない」
「そうでしょう!」
「だがまずそれは実物を目にしてからだ」
「あっ」
現実主義の総局長は同意を示しつつも実物を見るまでは信じきる事はない。
全面的な後押しが欲しければ結果で示せと言っているのだ。それでも帝国軍人として新たな力は歓迎してもいる事もまた事実だ。
「くはははっ。その設計士にも発破をかけておけ。私がなんとしても議会に通してみせよう。私の努力を無駄にしてくれるなよ?」
「はいっ!お任せ下さい!」
総責任者が豪快に笑いながら最後の念押しをした。
開発部局長は駆け足であの若い設計士に激励に行くのだった。
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更に数ヶ月と数週間後。第三設計局にて開発部局長と若い設計士がまたも向き合っていた。
呼び出された若い設計士はソワソワと落ち着きがない。逆に開発部局長はニヤリと笑っている。
「喜べ。お前が設計した航空戦艦の開発許可が下りたぞ」
「は?え?本当ですか!?嘘だったら絞め殺しますよ局長!!」
「ほ、本当、だっ!だっ、だからその手をはな、放せ!苦しいだろうが!?」
豹変したように首を絞めにかかった若い設計士を無理矢理に引き剥がした開発部局長は苦しそうに咳を繰り返した。
若い設計士は自分が何をしたのか今頃になって理解したようでオロオロと慌てている。
「ああっ、すみませんすみません!嬉しくてつい手が!!」
「ごほごほっ。まったく、しょうのないやつだ。ともかく本格的に開発に入るわけだが設計はできているのだろうな?」
「それはもう!新型魔導機関の重要部分の設計を残すのみですので後二週間以内には仕上げてみせますよ!」
若い設計士が自信も露わにしながら言い切った。
そもそも許可が下りる事を前提に指示して動いていたのだからその程度はできていないと困る。
開発部局長は満足そうに頷いていた。
「よろしい。これは年単位の仕事だ、ジックリ攻めるとしよう。失敗は許されないのだからな」
「わかっていますよ局長。実は以前からこっそりと小規模の実験機関を作って実証試験は完了しているんです。ですから後は簡単なものですよ」
実証試験が成功しているのだから実物を作っても本番は成功したも同然だ、と若い設計士が息巻いていた。
「そうかそうか……あ?ちょっと待てや、おい。その実験機関の費用はどこから出したんだ?」
実験機関とは極小規模な実験で使われる。実証試験でしかないが実施するだけでも安くない費用が掛かる。設計段階では紙と鉛筆、文房具くらいだが実験となると段違いの費用が掛かるのだ。
ではその費用はどこから捻出したのか?
「どこって開発局の機密費からこっそりと……あ゛っ」
「き・さ・ま・はああああっ!!あの費用はいざという時の資金だぞ!何で貴様が知ってる!?」
開発部局長の顔から色が消えて蒼白になった。
怒鳴っているのに赤くならずに蒼白になるとは器用だな、と若い設計士は何とはなしに思った。
それでもバレたからには素直に謝罪する他に道はない。これを切っ掛けに航空戦艦建造計画から外されてしまっては堪らないのだから尚更だ。
「す、すみませーん!ですが局長のデスクに無造作に放り投げられていましたから局長の横領金だと思いまして、それならいいかと。あははは……」
「ばっ、ばっ、ばっ……!!」
「バルキスの勇者?局長この歳で童謡はちょっと恥かしいですよ」
そして今切れてはいけない何かがブチッと切れた音が盛大に響いた。……開発部局長の脳内で。
「ばっかものがあああああっ!!!!」
「アーーーーッ!!!……あふんっ」
若い設計士に黙祷!
男として再起できる事をここに深く深く祈るものである。
いきなりの展開だけど所詮は幕間の亜種ですからね。気にしないように。
一応は本編でもそれとなく触れているのでまったく未知というわけではないのですよ?
本当ですよ?ええ本当。
今後もこんな感じで”周辺諸国”を途中挿入していきたいと思います。
ではでは。




