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桜の森  作者:
3/7



 朝まだ暗いうちに家を出ても、詩緒の実家に着く頃には日は傾き始めている。後部座席で仲良く互いに頭を預け合いながら寝てしまっている子供たちを振り返り、詩緒は小さく息を吐き出した。祐一はその妻を目の端で捉える。

「大丈夫だよ。何とかなるもんだ」

 気楽な夫の言葉に小さく笑みをこぼし、詩緒は頷く。


 古い大きな日本家屋の玄関に横付けして祐一は車を止めた。途中で私道に入り、山茶花の垣根の内側に入ってからも少し走る。大きな家だ。

 車を止めてから後部座席の樹と葵を揺り起こした。

 寝ぼけ眼をこすり葵は車の外に目を向ける。山に囲まれた景色と大きな家に思わず口を開けた。

 成木村は山に囲まれている。棒つきキャンディーの棒のように村の中を流れる川が山から突き出し、村の四方はその一本の出口をのぞいて全て山に囲まれている。囲まれた山の窪地に成木村はある。山を越えるか、川沿いに下るかしなければ村の外には出られない。外から村に来る者は川沿いの道を来る。囲む山々は淡い桃色に染まり始めていた。


 通夜は短かった。

 村の中でも大きな家の本家筋に当たる詩緒の実家の通夜には村中の人間が顔を出した。親戚筋が座る広い座敷に通された村人達は焼香をすると裏に回って手伝いをして帰っていく。組内の衆は明日の手伝いを約束して出ていった。

 村の者たちが檀家となっている寺からは三人の坊主が来ている。一人は住職。一人は住職の息子でまだ二〇代の若さんと呼ばれる青年だ。

 樹は喪服になり、まだ締め慣れないネクタイをしてその流れを見守った。隣には制服姿の葵が座っている。棺に納められた曾祖母の顔を見たが、やはり、知らない人だった。すすり泣きが所々から聞こえる中、視線を膝頭に落としたまま樹は伏し目がちにしていた。


 通夜が終わると集まった親戚で座敷で少し遅い夕飯にする。そこで他の親戚達を詩緒が樹と葵に紹介した。

 その多さに目を見はる二人に少し赤くなった目を向けながら詩緒は久々に顔を合わせる兄弟や従兄弟達などと挨拶を交わしている。この大半がこの村の中に住んでいるのだ。

「お父さん」

 会ったことがあるというが顔も覚えていない伯父達と酒を酌み交わす父の袖を、葵はそっと引いた。

「ちょっと外に出ていい?」

「ん?」

 祐一は少し難しい顔をした。時計を見る。

 向かいに座っていた詩緒の長兄が微笑って言った。

「心配しなくても大丈夫だよ。気詰まりなんだろう。少し息抜きしてくるといい」

 気さくに言う伯父に笑みを見せて軽く頭を下げると葵は、もう一度うかがうように祐一を見る。祐一は苦笑いして頷いた。

「一緒に行くか?」

 腰を浮かしかけながら樹が言う。樹もまだ未成年だが少しだけと言ってそこに入っていた。動くのが面倒そうな樹の顔を見て葵は首を振る。

「いいよ。お兄ちゃんはお父さんのお目付役」

 冗談めかして言う葵の言葉にその場にいた男達が笑い声をあげた。祐一も一緒に笑いながら軽く葵を睨んだ。



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