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序
あれほどにきれいな場所を他に知らない。幼い日に見たあの光景はずっと記憶の中に残って離れない。その思い出は全て、淡く鮮やかな桃色に塗られている。見上げた空は抜けるほどに蒼い空色。その空に向けて風が駆け昇っていく。
その日は高祖父の葬式だった。母の、父の祖父という人で、大往生だった。けれど、まだ幼稚園にさえ上がっていないわたしにそんなことは分からない。母方の親戚と顔を合わせたのもそれが初めてだったように思う。
暖かい、よく晴れた春の日。
幼かったせいだろうか。通夜も、葬式も覚えていない。覚えているのはただ一つ、どこまでも続く、満開の桜の森だけだ。