雪原。
雪原
雪が降っている。ボスッボスッっと雪を踏みながら歩く。景色は見渡す限り白い。周りには雪以外何もない。見渡す限りの白。この土地もはじめはふんわり柔らかで人肌のような温かさの茶色の土が見えていた。春を歓迎し、柔らかく受け入れるように、芽生え始めた新しい命、春の暖かく和やかな風の息吹。新緑の、ひょっこり顔を出した双葉、木々には飾りが添えられているようにそっと、小さな葉が身を乗り出す。
そして、少し前から降り始めた雪が今、この平原を純白に彩る。ゆっくり、ゆっくりと降り行く中、景色が全く違う風になる。景色は見渡す限り白い。残酷なほど真っ白で、雪の影でさえも白。色にはたくさんの種類がある。ひとつとして同じ色がないと言えるほど。だが、白は白以外他にない。全てが一色、白。白だけに囲まれた四方は圧迫感があり、時間も、空間も、何もかもを歪める。本来は他色をじわじわと淡く滲ませる受動さをもつのに、今は真逆の強制さを持つ。
眺めていたのは、景色が白になる様子。眺めていたのは、雪が景色を覆う様子。眺めていたのは、景色が純白に塗られていく様子。白は強制的で、圧迫と孤独と感動を与える。我はそのことを知る者。
雪は見た目は儚く、気高いイメージを与える。そして、触るとふわりと冷たい。だがそれも一瞬後には、手の熱で溶けて、跡形もなくなってしまう。後に残るのは、雪とは対照的な、熱。雪があったところだけ、熱くなる。雪が、そこに存在したということを、熱が伝える。熱のせいで消えるのに、熱のおかげで存在したとわかる。
雪は、不思議だ。幻想的で美しい。
身の内から出る息は空気に接するとすぐさま白くなり、寒さを物語る。その過程一つ一つに見惚れる。
私は思う。雪の白さは無をもたらす。雪の白さは時に残酷で、時に慈悲深く、そして、常に無を愛する。あるのは眼から見える雪景色と寒さに胸を貫かれる、感覚だけ。
降り終え、雪が溶け始めるとガラス細工で精巧に、端正に、ひとつひとつ心をこめて作ったように光り輝く。でもそれは、その美しさで感動を与えると同時に物悲しさと空虚さをも与えてしまう。
雪とは、何なのか。白とは、何なのか。 雪は、不思議だ。幻想的で美しい。そして儚く、気高く、時に残酷で、時に慈悲深い。受動さと強制的という表と裏を持ち、ただ一色だけの純白さ。
それは自然独自の力か。人外のものであり、人には決して超えることのできない壁。超えてはいけない禁忌。だからこそ、求める。永遠の希求であり、永遠の希求であるからこその美しさ。雪、それは原理のわかる、底無き不理解と奥深き色合いの白。季節は移り変わる。だが、願わずにはいられぬ。雪の永遠よ、ここにあれ。雪の熱よ、すべてを凍りつかせるのだ。―――汝、雪に魅了される事ここにあり。