表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界から帰ってきたら元の世界がとんでもないことになっていた件  作者: 会長


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/10

9

 戦場を横断し、森の中へと入る。

 もうすぐ夜明けが迫っているのか、空は白み出している。

 それでも暗く、足元は見えない。

 義香は自分の経験から北方にある守人の城に続く道を探ったのだが、やはり勢いには欠けた。


「下がれ! 道を開く!!」


 反論する余地もないよく通る声で、ハルヤは馬を加速させた。

 義香に並び、容易く追い抜く。

 ハルヤにとって、為嶺が呼び寄せた源家の馬は乗り心地の良いものだった。足腰が鍛えられ、獣道でもびくともしない体幹がある。

 数年以上は訓練を受けているであろう義香のテクニックもなかなかだが、それよりも山や砂漠、沼地も走らせたことのある数十年の経験の方が優っていた。


『軌道修正完了! 最低限の動線を確保し、予定地点まで切り開きます!!』

「『エアロブレード』! 『アークヒール』!!」


 闇を揺らす空気の刃がハルヤの手から飛び出す。

 それは進行方向の木々の枝を落とし、幹を断ち切り、根を弾き飛ばした。

 三人が乗る馬の走りに邪魔になる地点を狙い撃ちにし、蹄が確実に土を踏み締め、植物の弾力で負担を軽減して最速を出せるように計算された軌道だった。


 それだけではない。

 切り落とされた木々は、三人が通り過ぎたと同時に元の位置に風に弾かれて戻る。さらには、続け様に放たれた治癒魔法が木々の繊維同士を繋げ、樹皮に多少の傷跡だけを残して元に戻っていく。


「そのまま走らせろ! 下手に避けようとせず、直進するんだ!」

「なに指図して…………いや、わかったわよ!」


 ハルヤの後ろ姿に抗議を投げつけようとした義香だったが、頭振って飲み込んで、政音の方に意識を向けた。

 政音は馬術も武術も、一通りの訓練を受けてはいるが、それでもこんな実戦の只中で馬を走らせる経験は義香と比べると乏しい。転ばないまでも、遅れる可能性を気にするべきだった。


『索敵範囲に敵影確認! 前方二キロ地点! 索敵範囲を前方九十度に限定して範囲を拡大します!』


 エコが脳内でハルヤの術式を操作し、索敵魔法としてレーダーのように飛ばしている魔力の波を、遙か前方に拡大させる。

 魔物の影が一つ入るごとに、ハルヤの鳥肌が一つ増えていくような感覚があった。


『数を特定します! 二百……五百……九百……千五百……索敵範囲内の敵総数特定完了! 合計二千五百四十二体です!!』


 報告の二千よりもかなり多い。

 いくら凶暴化した魔物といえど、ここまでの規模になるのだろうか。


『マスター! 索敵範囲に異様な反応があります! 最前列を走る魔物の一体のすぐ近くに、これは……人です! 人の反応が三人分あります!! どれも微弱! 瀕死と思われます!!』


 その時、ハルヤの脳裏に嫌な記憶が過った。

 とある王国の内戦だ。

 その時の反乱軍は、王都を攻めるために魔物の群れを誘導し、関所の一部を潰したのだ。ハルヤは、幸いにも部外者であり、被害がある前に脱出に成功していた。


 そして、誘導の餌として使われたのは――瀕死の人間だった。

 一度魔物の縄張りを荒らして食べ物を減らし、飢えた魔物たちの中心に血だらけの人間を晒して、追いつかれない範囲で逃げる。

 小規模ではあるが、生態上これで魔物の群れは誘導可能なのだ。


 もしも、そうだとすれば……


「義香! 政音! 魔物の群れの最前列に人の反応が複数あった!」

「人!? まさか守人の城にいた兵たちじゃ……!」

「可能性としては十分ありますね! 逃げているのであれば、救わねばなりません!」

「正体はわからないが、そっちの救助をお願いしたい! 反応は三人! 政音! 君の魔法は他人を連れて飛べるのか?」

「可能です! しかし、飛距離も高度も落ちます! 三人ともなれば、五十秒が限界でしょう!」


「それで大丈夫だ! 後ろの群れは俺がやる! その三人を連れてる可能性のある魔物だけは残して、群れと分断する! 二人で倒して救出するんだ!」

「群れをやるって……あんた一人でどうする気!?」

「いいから! やれるな!?」

「ああもう! わかったわよ! やってやるわよ!」

「政音! 救出完了次第、義香とその三人を連れて出来るだけ高く飛べ! 大規模な魔法を使う!!」

「っ!? しょ、承知致しました!」

「これを使えば俺の魔力はほとんど残らん! 義香! あとは君を頼る!」


 ハルヤはそう言うと、手綱から手を離し、鞍を強く蹴って跳躍した。

 即座に風魔法を使って足元で空気を破裂させて前方向に進みながら急上昇する。

 そして、上空で結界魔法で空気を固めて高度を維持した。ハルヤが考え出した、最も省エネな擬似的な飛行魔法である。


『マスター! 恐れながら、その作戦は穴だらけです! まだ魔物の種類すら特定してもいないのに、無茶苦茶です!!』


 ハルヤの相棒はご立腹だった。急上昇しながら今からやろうとしていることを伝えた結果だ。

 無茶であることはハルヤだって百も承知である。


「わかってるよ。でも、もしかしたら人命が懸かってるんだ。背に腹は変えられない!」

『またそんなことを言って……今の魔力残量で成功するとは思えません! それに、マスターがそこまでする理由はどこにも……!』

「エコと一緒ならいけるさ。ごめんな、助けられる可能性と力があって、見向きもしないのは……あっちの世界で出来なくなっちまった」


 冒険者として、魔術師として、そして一人の人間として。戦いに溢れて命の危機のある世界だったからこそ、誰かに助けられ、誰かを助け、そうして今のハルヤがある。

 ある意味、五十年かけて養われたハルヤの悪癖だ。


『ああもう! 本当にもう!! わかりましたよ!!!! ただし、戦闘演算は義香さんと政音さんの不確定要素も多分に含んで行います!! 軌道演算にリソースを割く分、術式修正も大部分はマスターにお願いしますからね! いいですね!?』

「やっぱり、義香と政音を前提にしないと無理かな?」

『当たり前です!! あんぽんたんなんですか!? マスターの魔力残量なんて三%も残りませんからね!?』

「わかったよ、覚悟はできてる。よし、始めるぞ!」

『はいっ!! 演算開始! 軌道を含めた各種情報を視覚情報に投影します!!』


 空中にいるハルヤの視界に情報の洪水が現れる。

 暗視と遠視による魔物の姿が、まるでサーモグラフィーのように表示される。

 その中で、一番初めに注目したのは先頭を飛ぶ怪鳥の魔物だ。

 南国を思わせる派手な翼に、大き過ぎる足。木々のスレスレを飛びながら、何かを運んでいる。


 それは、網に入れられた三人の人間だった。成人と思われる男女が一人ずつ、十歳にも満たない見た目の男の子。

 さすがに体の状態までは見ることはできないが、魔力の反応から見ても明らかに弱っている。子供がいるということは、守人の城とやらの兵ではないのだろう。

 まずは、あれを孤立させるところからだ。

 ハルヤは両手で輪を作り出すと、三人を連れて飛ぶ魔物の姿が、指の輪に入るように覗き込んだ。


自動術式(オートスペル)完全追尾(フルホーミング)』を起動します!』

「最前列は機動力は高いが防御は薄いはずだ! 最低でも足を止める威力で構わない!」

『マスターの指示に合わせて威力を再計算、魔力配分を調整……完了しました! 前列五百二十体を魔力マーカーでターゲッティング……再調整……もう一度……ロック完了です! いつでも撃てます!!』

「義香と政音があの魔物に接近するまで待て! ……………………あと少し……今だ!!」


 直後、ハルヤの指の間に出現した光の玉を中心に、夜明けの空に流星と見紛う程の光線の嵐が駆け抜けた。

 光属性の貫通特化魔法『アローレイ・ライトニング』。

 魔力によって質量の塊となった光線は、まるで弾丸のように回転しながら、目標に向かって白い尾を引いて音速を超えた速度共に突進する。


 エコの『完全追尾(フルホーミング)』により、それは予め設定された魔力マーカー目掛けて、地獄の果てまで追いかける。

 その威力が故に迎撃はまず不可能。地獄の果てまで逃げられるほど遅い速度でもない。

 つまり、その魔法は見事に五百二十体の目標に余さず着弾し、その脳天を、体の中心を、あるいはその他の命に関わるあらゆる部位を精密に撃ち抜かれた魔物たちは、次々と生命反応を消失させていく。

 さらに一発。問題の人を連れている魔物には別の魔法を撃ち込んだ。



――――――――――――――――――――



 たったこの数十秒で、政音は人生で初めての光景を二度も見た。

 まず一度目は、あの"特異点"とされる男が、翼を持たずに空を飛んだことだ。

 飛行というものは翼が無ければ出来ないはずだということは、翼を持ち、飛ぶことができる政音だからこそよくわかっているものだった。

 なのに、彼は見えない手に支えられているかのように空を駆け、政音にすら出来ないほどに精密な滞空を見せた。


 次に、彼の放った流星だ。

 宙に浮いたハルヤの手から、百などではきかない量の白の閃光が夜空を埋め尽くした。

 一つ一つが独立したように屈折しながら、時に螺旋を描きながら飛んでいき、遥か遠くで轟音と魔物と思われる生物の悲鳴を生み出している。

 もしもあれが攻撃だとすれば――いや、間違いなくそうではあるのだが――、一つの戦場を単騎でひっくり返すことなんて容易いのではないだろうか。


「見えた! あれよ!!」


 前を走る義香が上方を指差しながら叫んだ。


「あれは鳥? ……あ! 人が!!」


 そこには、人影らしいものが入った網を掴んで飛ぶ鳥の魔物の姿があった。

 こんな暗闇ではすぐに見失ってしまいそうだが、ハルヤの放ったと思われる小さな光の玉が、魔物の周りを旋回していた。先程の戦場で、彼が『スカイルクス』と呼んだ魔法に似た見た目の光だ。


「やるわよ!」

「私が受け止めるから思い切りやって!」

「言われなくてもやってやるわよ!」

「『瑞祥の白鷺』! ――導け!!」


 暗闇の森を照らし出すかのような、純白の翼が政音に現れる。

 舞い散る羽根は目標である魔物までの間を漂いながら、空中で固体化した。

 義香は何の躊躇いもなくその羽根を踏みつけると、全開にした身体強化を使って大きく跳躍した。

 さらに次の羽根へ、そして次の羽へ。ジグザグに上方向へと伝っていく。

 魔物までの道に散らすように用意された羽根の道を、義香は地面を走るのとほとんど同じスピードで駆け上がる。

 ものの三秒で鳥の魔物の高さまで到達した義香は、刀を抜き放って大きく振りかぶる。


「ギャギャッッ!!」


 当然、魔物もそのまま斬られるのを待つわけではない。

 飛行に急ブレーキをかけると、網を持っている方とは反対の鉤爪を義香に向かって突き出した。

 矢よりも鋭利。そして鈍い輝き。それに掴まれれば、骨ごと肉を抉られてもおかしくはない。

 しかし、音を置き去りにするほどの速度で下方から飛来した純白の羽根を、義香は迷うことなくドンピシャで踏んで体を捻った。


「残念! 外したわね!!」


 既に義香には魔物の背中が見えていた。どんな攻撃でも、この体勢で繰り出せるものはない。

 義香は相手の二枚の翼、そして背骨を断つように合計三連撃を放った。

 次は油断しない。

 さらに彼女が次に狙いを定めたのは、魔物の喉元だ。鋒を突き立て、背後から頚椎を貫き、気管を裂いて反対側まで貫通させる。


「落ちろぉぉぉおおお!!」


 背中にのしかかられ、翼を斬られた魔物に、もう飛行を継続する力は残っていなかった。それどころか、もう既に命すらも残っていない。


「義香!!」


 地上で政音の声が聞こえた。

 戦うことにおいて絶対の自信と誇りを持つ義香だが、もう長い付き合いだ、政音のことだって認めている。

 彼女が受け止めると言ったのだから、それを信じる。

 義香は刀を引き抜くと、魔物の体を空中で蹴り飛ばして距離を離し、転がり落ちるように地面へと落下を始める。

 その際、すれ違いざまに魔物の足と網を繋ぐ縄を斬り、捕らわれていた三人も自由落下に加わった。


「政音!!」


 網を掴んで手を伸ばした義香の目の前に、巨大な翼を広げて飛翔した政音の姿が映る。

 あと少し、もう少し……!!

 政音と義香の手が触れ合い、互いに掴んだと同時に、翼が強く羽ばたいた。

 さらに、周囲に舞い散った羽根も全員を包み込むように体を支える。

 万能的な浮遊感はない。無理やり上に吊り上げているような不安定さだが、それでも空には浮いている。

 政音は僅かでも上空に行こうと羽ばたきを続け、ハルヤの方に視線を向けた。

 ――その瞬間、辺り一帯を、この世の終わりかのような大爆音が包み込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ