ドラゴンと全裸中年男性(善)
スピキ好き
ドラゴンは祭りのあと、夕暮れの中、教会へノシノシ歩き、人々に囲まれている司祭と話をした。
また少しの興味を持って、その中年の司祭を観察してみた。
その司祭はまったく良い奴で驕りもなく穏やかに敬虔に振舞い、街のものに好かれている様子であった。
ドラゴンは気をよくした。ドラゴン教会の司祭に相応しい奴だと、名をつけてやってもいいと思ったので、聞いてやった。
「名が欲しいか?」
「光栄ですが、身の丈に合いません。ただの司祭とお呼びください」
司祭が提案を拒否したので、周囲の人々は顔面蒼白、酔いが覚め、逃げる準備を始めた。
しかし、ドラゴンは、あ?と感じなかった。アラン(辺境伯)には、あ?と引っかかったのにである。
これは、ドラゴンに対する敬意というか、尊崇の念のようなものが司祭から感じられ、本心から自分にドラゴン様に名を頂くなんて光栄すぎるが、まだまだ私なんか未熟者、ドラゴン派を起こした先生すら名を頂いていないのに、貰えませんよ、そんな、みたいな本心をドラゴンが察したからである。
ドラゴンは人語を発す器官を持っていない。つまり、魔力を用いた念話のような方法で人と話をするのである。ドラゴンはデカい(今は魔法で4mほどに縮んでいる)ため、人は言葉に魔力(意思)を込めでドラゴンに声をかける。ドラゴンが聴くのは魔力にのった意思である。そのため、司祭の謙遜は正しく伝わったのだ。
また、アランの、娘を特別な存在にしたいという父としての思いと、ドラゴンを権威付けや周囲への威圧に利用したいんよな、てか、ドラゴンから土地を預かった身としては当然の権利ですよね、みたいな意思をドラゴンは受け、後者にひっかかりを覚えた。なんやねん、当然ですよねて、殺すぞ。まぁ祭りやし、気分ええから許したるけど、みたいな。
それと、花子とマルグリットも、この意思疎通の結果である。
ドラゴンが白い花を見て、花子と名づけたので、アランはマーガレットのような娘つまり、マルグリットであるか、ふむふむ、よろしい、いや、よかった!まじ、ドラゴン様もまともな感性の持ち主でありますな、自分はてっきり、肉!とか破壊!酒!殺戮丸!みたいな名前になるかと戦々恐々、前日も可愛い姫を膝にのせて晩酌、都市破壊殺戮ひめとかなったらゴメンな、みたいにおもて、ちょっと涙、でてもて、怖くて、そこにマルグリット姫!まじで安堵したんです。ドラゴン様ってやっぱ、神っつーか、ヤバいよな。ウロコも紅玉みたいに綺麗やし、親父が信心深かったのも分かるわ、俺も子供のころは初代アランお爺様の武勇伝とかドラゴンとの和解や盟約みたいな話、めっちゃ好きで、ドラゴンに乗ってフランヴァルの奴らやっつけまくる妄想しとったし、ドラゴンってかっけぇし、間近で見たらやっぱ、神々しいんやな、はぁー、やば、俺も祈ろ。みたいに辺境伯は胸をなでおろし、部屋に祭壇を置き、朝晩ドラゴンにお祈りをすることにした。みたいなことが起こるのである。
話をドラゴン教会に戻すと、司祭は顔色も変えずに立っている。
ドラゴンは、ふむ、立派なやつであるなあと感じ、それはそれとして人間のくせに俺の申し出を断るとは如何な理由があろうとも許せんな、食ったろうか?みたいな気持ちが沸いてきた。
「おい、食ってやろうか」
司祭は黙って服を脱ぎ、四つん這いで「ンエー」と甲高く鳴いた。
それは子羊の鳴き声、この土地のご馳走で柔らかな肉の鳴き声だ。
司祭は動物の鳴きマネの達人であった。
人々は周囲を見渡し、場違いな子羊を探した。
「ンエー」「ンエー」人々は声の主が裸の司祭であることに気が付いた。
ふざけているのか、いや、真剣に鳴いている。
ドラゴンに身を捧げようと司祭が子羊の真似をしている。
人々は自然と膝を折り、祈りを捧げた。
ドラゴンは「ンエー」司祭を口に入れた。頭から。
人々はビビった。ほんとに食べた!まじ?やば!みたいな感じである。
ドラゴンは司祭を一度嚙んで吐き出した。甘噛みしてゆっくり口から出した。
司祭は、唾液と血にまみれて床に倒れている。息も絶え絶えといった様子。
ドラゴンは屈み、首を伸ばして司祭に顔をつけた。
司祭が青く輝き、その後、立ち上がった。ドラゴンが魔力で治癒したのだ。
人類史初の出来事である。
「お前は子羊だ」
アニョー司祭は、自分の身体を指で撫で、肉のへこみを感じ、ドラゴンの歯形が残っていることに気づいた。聖痕だ、とアニョーは思った。つまり神との繋がりを示す印である。
アニョーは臨死体験による衝撃で瞳孔が開いた状態、つまり極度の興奮状態の中でドラゴンの言葉を聞き、何か、自分でも異常なほどの歓喜が、全身を、足先から脳天へ突き抜けるのを感じた。
ドラゴンからの強引に魔力をぶち込まれ回復させられたため、出血でフラつくはずの身体から力が溢れる。とにかく、この誠実で謙虚な中年司祭は混乱し、叫んだ。
「グロオオオオオオオオオオオオ」
ドラゴンの鳴きマネである。あふれる魔力を込めて何度も吠える。
「グロオオオオオオオオオオオオオ」
周囲の人々もマネし始める。いつの間にか人数も増えている。街の人々が教会にドラゴン来てるらしいよ、と集まっていたのだ。奇跡を目撃し。人々は熱狂した。笑っている人もいるし、泣いているやつもいる。人々は必死に吠えている。
ドラゴンは周りの人間が吠え始め、つまり狂った行いを始めたことに感心、うんうん、これはドラゴン教会らしくてええやん、もっとドラゴンを讃えよ、わはは。みたいな感じのことを思った。つまり、ドラゴン教会の在り方に関心を向けたのだが、ドラゴンは自覚していない。それはそれとして、一発かましたろかな、みたいにドラゴンは思った。
「ぐごおおおおおおおおおおおおおお」
ドラゴンが吠え、教会が震えた。鳴き声もいろんな種類があるので、最近気に入ってるやつを披露してやったのだ。司祭がマネてるのは空の散歩中にやるやつ、今、ドラゴンが吠えたのは、デカい建造物をを破壊する等のテンションが上がった際に叫ぶやつである。つまり、ドラゴンは気分よく吠えたのである。
「花子も噛んでやろうか」
アニョー司祭は感激感謝大号泣で、感激の理由である聖痕の意味などを伝えた。あと名前も有難がった。
ドラゴンは、今日名づけた小娘にもつけてやろうと思った。アニョーが言うなら、人間は喜ぶのだろうし、一層、ドラゴンを讃えるはずだ。人々に讃えられることは、気分が良いのだとドラゴンは実感した。まぁ、ムカついたら焼き殺してもいいんだがな、とも思った。だとしても、ドラゴンを讃える者は後回しにするかなぁとも思った。とにかく極めて短絡的にドラゴンは姫を噛むことにした。
ドラゴンは最強なので、疑問や困難にあったことがほとんどない。そのため、生まれてこのかた数百年、考えて行動する必要がなかったのである。なので考えが足りないのである。
「姫は小さく、ひと噛みで死んでしまいます」
アニョー司祭は当然の指摘をした。そして服を着た。
「ドラゴン様、聖痕をつける道具を用いてはどうでしょうか?例えば、この服を縫う針のように小さな傷をつけるモノを」
ドラゴンは口を大きく開けると、牙を1本落とした。牙は床に突き刺さった。白く艶やかな牙だ。
その後身震いすると赤いウロコがいくつか落ちた。ドラゴンが青く光るとすぐに牙もウロコも生えた。便利な生き物である。
「おい、アニョー、牙をウロコで削り、針を作れ、それで姫を刺すのだ」
ドラゴンは気になった人間をいちいち噛んで回るのが面倒であることに気づいた。
そのため、アニョーに任せることにした。別に姫をかみ殺してもよかったのだが。
夜、人々の「ぐごおおおおおお」の声に送られてドラゴンは山へ去った。
山へ帰る途中、街を見ると、人々が宿す青い光の中(ドラゴンは人の魔力が見える)、アニョーの光がなんとなく判別できることに気づいた。つまり、聖痕のついた人間は見分けがつきやすいということだ。
ドラゴンは「ぐろおおおおおお」と一鳴きして、クソをした。今日はいろいろ食べたからである。
アニョー司祭はドラゴンに言われた通り、牙を削り針を作った。艶やかな白い針を。
マルグリット姫はもちろん、アラン伯にも求められたので聖痕をつけた。
アランは家宝にその針を求めたが、一言で断られドラゴンの針は教会の祭壇に安置されることになった。
ドラゴンは神ではないのでうんこをします。




