ドラゴンは驚いた。
「ルイ2世の斧」というタイトルと迷いました。
ドラゴン優先しました。
正教(異世界)とキリスト教(地球)は別物です。
けれど、似ている部分もあります。シンボルとか。
王城の居館では、王様は妻や息子に穏やかに別れを告げていた。
王妃は北方蛮族の大族長の娘である。
年齢は王様より一回り下、おおよそ20前後。正確な生年月日は王妃も知らない。
彼女は正教から獣人と呼ばれ蔑まれる種族である。
獣人と正教の王の結婚は困難であった。
しかし、王が教皇に土地を寄進し、教会を建て、王国の大司教(王と同年代の叔父でよき相談相手)が根回しを続けるうち、奇跡的に獣人に対する聖典の正しい解釈が発見された。獣人は人類の友であった。
王妃は大司教のもと正教の洗礼を受け名を授かった。
王妃の虎の瞳は洗礼を経て輝きを増した。
王妃は、大柄な王様より頭一つ背が高い。身に着けた修道服は装飾は最低限で、黒衣は高級で艶があり、衣装は白い髪と小さく丸い獣の耳を際立たせていた。
品のあるケモミミ修道女コスである。良い。
王と王妃は一度抱き合うと短い言葉を交わした。
その後、身を低くし、もう一度抱き合う。夫と妻と息子の3人でだ。
5歳の幼い王子とその両親は3人で互いを抱き合った。
王子の頭には母譲りの小さな丸耳があった。
家族のそばの机に白猫がのっていた。
「急いで逃げる」「急げ」「早く」「来たら死ぬ」「急げ」
白猫が言った。耳が忙しなく動いている。
人よりも大きな魔力を持つこの白猫は、聖獣として王家に献上された。
魔力での意思疎通ができる賢い白猫は、王妃と同じ名を持っていた。
王様の戯れである。
名を聞いたとき王妃は王様を殴った。王様は笑った。
(猫の名づけ当時は王太子と姫であるが、いいでしょ)
この白猫は王妃と王子ともに、王城からの逃亡と、王子の北方蛮族を率いた凱旋の長い旅路を共にする。この猫は約50年生きた。
頑丈な主塔の中、王様は近づく強大な魔力を睨みつけていた。
教会で祝福された銀(魔力の伝達率が高い)の甲冑を身に着けて立っている。
傍らの侍従は布に包まれた斧型の王笏を持ち、唾を飲み込む。
叫び声のような斉射の号令が聞こえた。塔の外では近衛兵がドラゴンに攻撃をはじめた。
ドラゴンは近衛兵を無視し、塔の周りの広場に着地する。
身を低くし、塔を両手で掴むと、頭から突っ込んだ。そこに大きな魔力の持ち主、つまり王がいるからだ。
轟音、衝撃と揺れを受け、よろけた侍従を王様は支える。降りかかる粉塵と瓦礫、差し込む光、天井から入る大きな影、巨大な、赤いドラゴンの顔。
王様は侍従から受け取った王笏を、両手で握り、魔力を込める。布が魔力で焼け落ちる。
前述のとおり、王笏(以降戦斧と呼ぶ)は戦斧(これは北方蛮族の象徴的な武器)の形をしている。
戦斧の先端の装飾は、金製の精緻な魚が立ち、銀製の猫が支える意匠である。
両手持ちの大斧、柄も、刃も、素材は銀製のため、魔力無しでは武器として使えない。
が、魔力を込めれば、鉄より硬くなる。
最大の効果は、王様に、騎士の王、領民、信仰の守護者に相応しい力を与える。
つまり、元気玉みたいな感じに強化される、元気王になる。
侍従は部屋の隅、瓦礫の山に身を隠す。ドラゴンはその様子を眺めている。
王様は深呼吸を3回し、体の震えを収める。そしてドラゴンを仰ぎ見て、睨む。
「オオ!」と声を出し、更に魔力をたぎらす。全力である。
青白い燐光が部屋を満たし、さらに光は増し、ドラゴンが割った塔の上部から、吹き上がった。
外からわかるほど輝いた。
王都を抜け、街道を走る馬車。大司教領へ移動している王妃と王子にも、青い光が見えた。
「あれは私のモノだ。私たちの光だ」王妃は牙を剥きだして叫び、泣いた。
王子は母の背を撫でながら、青い光をジッと見つめていた。
王様がドラゴンに名乗りを上げた。
「我はフランヴァル王ルイ、正教の守護者にして、王国の騎士を統べる者」
そして、とルイは続けてこう言った。「獣人の友である」。
斧を肩に担ぎ、構える。精強で恐ろしい蛮族の戦士の構えだ。
戦斧は蛮族の武器だし、王国の騎士の型を使うのは違う。
王国騎士よりも蛮族の戦士が強いとルイは思っていた。
実際に1対1の近接戦なら、蛮族が勝つ。王国の勝利は人数と武装と策謀によるものである。
北方蛮族を従えるなら、最も強い戦士であるべきだとルイは妻から教わった。
勤勉な王はそうあろうと努めた。堂に入った構えで、ドラゴンと対峙している。
「ルイ、ルイ」ドラゴンは王様の名前を覚えた。
ところで、ドラゴンは壁から首を抜こうともがいていた。お尻に衝撃を受けたからだ。何度も。
城外の兵がドラゴンのケツにバリスタを打ち込んだのである。
これは別の塔に設置してある儀仗兵器である。
ドラゴンは尻尾を振り、うっとうしい外の奴ら、近衛兵や他の塔を蹴散らした。
その隙をついて、ルイ2世王は跳躍、ドラゴンの鼻っ面に戦斧を叩き込んだ。青い閃光と金属同士がぶつかる音がした。反撃のないうちに、と一方的に斧を振るった。
ドラゴンは眩しくて目を細めた。そして、ルイと名乗った人間の攻撃の威力に驚いた。
あの、投石器よりも大きな力をルイ2世王は振り回し、叩きつけてきている。
鼻下の鱗が1枚割れた。
こいつ、ドラゴンに一太刀いれたぞ、おう、面白いな、ドラゴンは楽しくなった。
だいたい30分後が経った。
ルイ2世は王笏で集めた魔力も使い果たし、頭痛や吐き気、寒気などの魔力欠乏症の諸症状に死を感じながらも、戦斧を杖とし、体を支えながらドラゴンを睨んでいた。
髪は白くなり、手は肉が落ちくぼみ、急激に老いたような姿となった。
「おい!ドラゴン!この国から失せろ!」
ルイ2世は最後の魔力を込めて怒鳴った。ぐらっと倒れそうになる。侍従が駆けよって王様を支える。
ドラゴンは驚いた。人間の行動で感情が動いたことに驚いたのだ。
ちっぽけな人間の勇気に?決死の気迫にか?
何にせよ、怒りより呆気と、素直な賞賛の気持ちが沸いた。ドラゴンは愉快な気持ちになった。
「ルイ2世よ、ドラゴンはこの地から去る。愉快だからだ。けれど、お前は殺す。ドラゴンに歯向かったからな、気に入ったが殺す。」
「好きに殺してくれ!それで国が守れるなら異存はない!」
「ぐはは、ドラゴンは約束を守る。安心しろ」
ドラゴンは塔から顔を抜き、鼻から息を吐き出す、そのあと天を仰ぎ、ゆっくり目一杯に吸う。
そして塔の上から炎の息を吐きかけた。炎は塔を焼き尽くした。周辺の兵や兵器も。
ドラゴンは炎を眺め、頷き、そこから飛びあがった。
山に帰ろうと思ったのだ。
ドラゴンは大きく羽ばたいて、西へ向かった。
人に興味を持ったので、ドラゴンは名を覚えました。




