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正妃は起きた。

短いです。百合の香りがしますね。

 遠くからの喧騒で、寝室の正妃が目覚めた。股座が痛い。

出産やばいな、生きてるのか私は、などと感慨にふける。

のどの渇きに気づき、ベッドから身を起こし手をたたく。

すぐに侍女が気が付き、水を運んできた。

「男児か?」

正妃は出産の際、意識を失っていた。

「麗しい姫様です」

そうか、また産まねばならんか、まぁ、いいか、私は産める女だと証明された。今は喜ぼう。正妃は喜ぶことにした。だはは。

 部屋を見渡すと、乳母(正妃の国元から連れてきた)が乳飲み子を抱いている。

乳母は正妃のもとへ姫を運んできた。洗練され優雅な歩みだ。

正妃には、それがおかしかった。

 この女は、乳母としても完璧なのか、無理を言って連れてきて正解だったな、と正妃は思う。長年の友人が娘の洗練された乳母として目の前に立っている。なんか、変で、おもろ。

 正妃が寝ている姫を愛でる。具体的に言うと、つついたり、ほっぺをいじるなどする。鼻をつまんだあたりで、姫は目を覚まし、ぎゃーと泣き出す。乳母が優雅に姫を魔の手から救い出し、相変わらずだ、とか一言かます。正妃は笑う。だははと内向けの笑い方だ。


 侍女は水を下げ、酒を取りに行く。正妃は酒好きだからだ。幼馴染の乳母と飲みたいだろう。乳母は、少し前に屋敷に来た。たしか偉い貴族の娘で、夫を戦で失い、実家への帰路で子を流し、屋敷でふさいでいるところを無理矢理つれてきたのだとか、聞いた記憶がある。 乳が出るなら来いと。手紙を無視されれば、領軍を率いた妊婦が屋敷に押し掛けると脅したらしい。馬鹿な話だ。だがあの正妃ならば、と人に思わせる。過去の実績に基づく信憑性があった。侍女が部屋を出ると正妃の笑い声が聞こえた。続いてよく抑制された笑い声も。


 寝室に辺境伯が運ばれてきた。

ここは正妃の寝室である。なんでやねん。正妃はぎょっとした。赤子もおるんやぞ。

乳母は自身の顔色が変わることを自覚、やば、キレそう。

大きな魔力の辺境伯は、生まれたばかりの赤ん坊へ悪い影響を与えかねない。常識だろ。

父の魔力を吸収して、男のような心の姫になったらどうする。だれが責任を取る。

あるいは、過度に男の魔力に惹かれ、淫蕩な娘になったらどうする。

正教会で司祭に習わなかったのか、このバカが。辺境伯を運び入れる侍女らを怒鳴りつけたかったが、姫を起こさないほうを優先した。この時、乳母は近年まれにみる感情の動きを自覚した。自分に感情が蘇るのを感じた。


 姫は乳母に笑顔を向けていた。少なくとも、乳母はそのように感じた。乳母は姫のためのベッドを、酔っ払いたちのベッドから遠くへと配置を変えるよう命じた。遠く、つまり部屋の隅である。侍女が、小さめの卓に蝋燭台を乗せ、一脚の椅子と姫のベッドを部屋の隅に置くと乳母は椅子に座り、再びぐずりだした赤子に乳をやった。持ちえた魔力が大きいのか姫は、がっつくように乳を飲む。すごい食欲、生命力だ。胸元から生命の熱を感じる。乳母は、感情の高ぶりが収まったと感じた。ぼんやり蠟燭の火を見ながら、眠気が近づくのを感じた。すると姫は大声で泣いた。うぎゃー。乳母は眠気がとび、育児やば、と思った。


 月が星々にせっつかれた感じの空。

結構、月、追いやられてますね。みたいな。

 城外では篝火が燃え、兵士が立ち、差し入れのご馳走をかじったり、寝ずの番ってまじで一番嫌いやわ、みたいな話をしていた。

 城内では多数の酔っ払いが寝たり、暗がりで男女がヤったり、ヤり終わったりしてた。


 側妃は片付けの指示を終え、自分の寝室へ向かっていた。気を遣う仕事を終えて、あー、マジ、頑張ったわ。私、偉すぎ。人手が足らんから、家から人呼んでいいか、辺境伯の機嫌のいいうちに許可もらうか、てか、男児産みてぇ、産んだら祭りやってほしいよなぁ。などと思いながら自分の寝室に向かっていた。すると、進行方向の反対、つまり正妃の部屋の方から辺境伯のご機嫌な声が聞こえてきた。続いて赤子の鳴き声と女の声(乳母は最近、城に来たため側妃と関りが希薄であった)が聞えてきた。やば、あっちの寝室に運ぶとか信じられへん。まじで人手が足らん。常識のないやつばっか、あー、もう、ええか、寝よ。側妃は今日一日、本当に頑張っていたので、これ以上の面倒ことは勘弁であった。故に寝ることにした。明日も誕生祭は続くのだ。

側妃さん、まじでえらい。寝ていいよ。

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