西方辺境地に姫は生まれ、紀元前が終わった。
長いので分けました。
紀元前500年ごろ、ドラゴンが生まれ、いくつかの国が滅んだ。
キリストはいないが、ドラゴンと人を結ぶ存在はいた。
ドラゴンは、その娘が生まれる以前と以後で暴れ方が変わった。
けれど、そんなことは現在、ドラゴンにも逃げ惑う人々にも関係はない。
ドラゴンは戯れに人を殺し、村を焼き、町を壊し、国を滅ぼした。
ドラゴンに、中年男性のころの倫理観、自制心は欠片もない。
ただ、怠惰であることは共通していた。
ドラゴンは最強の存在に相応しい自我に自尊心を備え、尊大な振る舞いをした。
どのような振る舞いかというと、ドラゴンは気が向いたら暴れ、火を吹き、破壊した。
そして空を飛んで、でかい動物を食って、寝る。自堕落な生活。
気ままなドラゴン生活は500年続いたとされている。
だいたい500年、正確ではない。わかりやすいので後世ではそのように習う。
500年が経ち、赤子が生まれた。
夜明けとともに産声を上げた。そして紀元前が終わった。
日が昇ったのは、西方辺境地とよばれる土地である。
フランヴァル王国に属し、西の海に伸びる半島とその根元の地域である。
強大な領主、西方辺境伯とその正妃の初めての娘として彼女は生まれた。
正妃は、王様の腹違いの妹であるため、たいへんなお姫様だ。
また、港からの交易品と富により、この領主は国内有数の金持ちでもある。
実質的に公国あつかいであるが、フランヴァル国に警戒され公爵を名乗っていないのだ。
実り豊かな春、森から木の実と大物の肉、畑には作物が実り、家畜は肥え、祭りもたびたび催される。
もちろん、お姫様の生誕祭は盛大に催され、近隣の貴族も招待された。
今日から1週間はお祭りである。
使者から招待の手紙を受けた招待客は祝いの品を携え、大急ぎで城へ向かった。
招待客は、魔法で馬や馬車を強化して慌てて向かった。強行軍である。
遅参して、辺境伯に睨まれたくないのである。
辺境伯の城は、砦としての機能は捨て居住区を重視した。
過ごしやすい宮殿のような城であった。門には美しい装飾が施され、庭師が整える花園があった。
戦への備えが無さすぎでしょ、ウソでしょと近隣の貴族はビビるが、辺境伯は余裕である。不思議。
数年前まで、辺境伯は、先祖から受け継いだ難攻不落の山城に住んでいたが、今はその城は辺境伯の妹の夫が差配している。『誠実と忍耐と勇猛を煮詰めた男』と評された妹婿は、目視できる距離なのに代理人を出席させた。あほだ。城を空けることはできないと代理人は言った。辺境伯はあきれ、代理人こと妹と甥が頭を下げる様子を眺めていた。
いや、やはり、あいつはそうじゃないといけない。ここまで、頑迷だからこそ、信頼し城を預けたのだ。うむうむ、良きかな。まぁ、今は姫の誕生祝いが大事。姫、ふぐ、ぐふふ、あの女は俺の子を産んだぞ。王家と俺の血が混ざった子だ。やば、上がるわ。おほほ。などと辺境伯は思った。
辺境伯の浮かれようは、異常で、我が領地でみな喜ばねばならぬ、などと考え、命じた。
領内の村々に使者が走り、今年の税(現物地代)を半分にすると告知される。
村民歓喜、領民はみな大歓喜。姫の誕生をまじで祝福した。
当日中に、早馬に乗った招待客たちが汗みずくで到着した。
信じがたいが当主は全員揃った。やや離れた土地の貴族もいる。馬をつぶして、乗り換えてきたのだ。
妻は従者と馬車であとから来させる。祝い品も馬車の中である。辺境伯様の領地には賊がでませんからねぇ、ぺこぺこ。みな、恐れすぎである。
あと、南方の隣国から招待された者もきちんと来ている。
馬で来たり、海路できたり、空路できたり、とにかく焦ってきたのはよくわかる。
南方の隣国と王国(辺境伯の属している国)は敵国である。今もふんわり戦争している。
けれど、南方の隣国と辺境伯領は割と仲がいい。
太陽は中天に至り、つまり昼になり、妹婿が守る山城を照らしている。
広場で兵の練兵がおこなわれている様子だ。兵は武具をつけ、延々と走っている。
やや狭い山城の一室で、妹婿は、地図を眺めていた。西方辺境地の地図だ。
自分を引き上げて、崇拝すべき妻を与えてくれた恩人、辺境伯様の領土。
まず、神聖な山が地図の中心にある。不自然なほど独立し、そこにある。
山のふもとに、この山城と町があり、向かいに宮殿(辺境伯の城)がある。
宮殿の周囲には区画が整備された、新しい町がある。人口は5万人以上の活気ある街。
地図に戻る。
東は王国領と接する。
味方だが辺境伯は砦を築いている。念のための備えだ。
北の山向こうは山林が広がる。
そこは蛮族の生活圏らしく、開拓が進まない。
西の先には海、湾曲した土地が左右から海を挟むように内海をつくっている。
大切な港は内海に面している。海軍は弱いが、近隣の海賊どもと友好関係を築けている。
南へ進めば敵国に接する。敵はここからくる。戦に備えなければならない。
当然、大規模な城塞がある。そして城塞と宮殿に、儀仗技師(魔法道具をつくる人のこと)が、馬に頼らない連絡手段を作った。これは辺境伯家の伝統魔法(声を伝える魔法)との組み合わせで、簡単には真似できないはずだ。
西方辺境領は金持ちで、軍事物資も豊富、近隣領主も辺境伯様を畏怖している。
装備はよく、恐れからか兵士の規律も高い。指揮に従う強い軍隊だ。兵糧も十分。
国境の小競り合いも負けなし。大勝あり。
領土を広げた勝ち戦で、男は勇敢な騎士から辺境伯の妹婿に成り上がった。この城を守り、辺境伯のために戦い、勇敢に死ぬ。それが使命だ。と妹婿は信じている。熱い男だ。
妹婿は先日、教会へ便りを出し、学識ある司祭を城へ呼んだ。妹婿は領地経営のために算術を学ぼうと考えたのだ。
司祭は、穏やかで賢い師であった。算術の理を、会話の中で戦に落とし込んで教えてくれた。学習意欲は増し、それ以上に戦に出たくなった。
妹婿はむんむん唸りながら、地図を見て、古戦場を指さしたりしながら、昔の西方辺境領に思いをはせた。やっぱ、算術より戦が好きなのだ。
西方辺境地にも歴史がある。
辺境伯が近隣の貴族に、王国の王様よりも、重要視される理由がある。
2/9 土地をわかりやすく、規模を小さくしました。公爵でない理由も付記しました。
牛→家畜へ変更しました。土が豊かである設定を変更しました。




