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第三章:神界のニート、強制退去

 インバという「最後の駒」を盤上に放り出した後。  この世界の命運を握る女神――ニーナは、神としての威厳など塵ほども感じさせない姿で、神界の特等席に寝そべっていた。


「ふぁ~……。あ、この漫画の最新刊、やっぱり最高。異世界の文化って、どうしてこうも『堕落』に特化してるのかしらね」


 彼女が読みふけっているのは、あろうことか異世界から(勝手に)取り寄せた娯楽の数々だった。周囲にはスナック菓子の袋が散乱し、最高級の神酒はただの炭酸飲料のごとくガブ飲みされている。  そんな生活を続けてなお、彼女の肢体は彫刻のように美しく、肌は陶器のように滑らかだ。天界の不条理を感じさせるその美貌。だが、口元にポテトチップスのカスがついている時点で、その価値は暴落していた。


 かつて、彼女も真面目だった時期があった(かもしれない)。だが、五百年という歳月は長すぎたのだ。勇者を選んでは挫折され、期待しては逃げ出され……そんな繰り返しに嫌気がさした結果、彼女が行き着いた先が「適当な神託のバーゲンセール」と、このニート生活だった。


 だが、そんなニーナの「悠々自適な終末」も、本日、唐突に終わりを告げる。


「……ニーナ、そろそろ世界の救済はできたのだろうな」


 その声は、神界の空気を一瞬で凍り付かせるほど重厚で、絶対的な圧を孕んでいた。  ニーナの背中に冷たい汗が伝う。漫画をめくろうとした指先が、目に見えて震えだした。


「そ……そそそ、創造神様……!!??」


 恐る恐る振り返った先には、宇宙の理そのものを体現したかのような巨人――創造神が、腕を組んで仁王立ちしていた。その眼光は、ニーナの背後の隠し持っていた「未完結の長期連載漫画」までをも見透かしている。


「五百年だ。ニーナ、お前はこの五百年、一体何をしていた?」 「え、えっとぉ! それはもう、精鋭の勇者を次々と選別し、多角的なアプローチで魔王軍に揺さぶりを……!」 「黙れ。神託をバーゲンセールのごとくバラ撒き、勇者の安売りをして神界の威厳を地に落としただけでなく、この体たらく……。神界の監視ログには、お前の読書履歴と昼寝の記録しか残っておらんぞ」


「ひっ、それは……その、リサーチです! 異世界の文化を学んで、新機軸の勇者を育成するための!」


 必死の弁明も虚しく、創造神の指先がパチンと鳴らされた。


「責任をとりなさい。お前が最後に選んだあの『ドリーマー』……インバだったか。奴の補佐を直接行い、この世界を救うのだ」 「えっ、直接!? いやいや、神が直接介入するのはルール違反じゃ……」 「特例だ。もし、世界を救えなかった場合――お前はそのまま神の座を剥奪し、人間として一生を過ごすがいい。寿命という概念に怯えながらな」


「えええええええええ!?」


 ニーナの絶叫が神界に響き渡る。だが、創造神に慈悲はなかった。  彼女の足元に巨大な魔法陣が展開し、逃げ場のない眩い光がその美しい(が、堕落しきった)体を飲み込んでいく。


「ちょ、ちょっと待って! まだ最新刊、読み終わってないの! せめて、せめてポテチの袋を片付けさせて――っ!」


 抗議の言葉も空しく、光の奔流がニーナを神界から弾き出した。


 ――数分後。  始まりの街「クリープ」の安宿の一室。    夢から覚め、呆然と自分の拳を見つめていたインバの目の前に、光とともに一人の女が「上から」降ってきた。


「ふぎゃっ……! い、痛たた……腰が、神の腰が……!」


 インバは、目の前で尻餅をつきながら涙目で悶絶している絶世の美女を見て、思い切り顔を引き攣らせた。  どこかで見た顔だ。いや、つい数分前まで夢の中で「スパルタ修行」をつけてきた、あの女神である。


「……女神、様?」 「あーっ! インバ! 見なさいよ、アンタのせいで私、クビになっちゃったじゃないのよ!」


 指を差して喚き散らす彼女に、インバは深い溜息をついた。  どうやら、自分が「モブ」として平和に暮らせる日々は、夢の中だけでなく現実でも完全に終わってしまったらしい。


「……はあ。俺、やっぱり今日から、別の街に引っ越してもいいかな」 「逃がさないわよ! 絶対に世界を救わせるんだからね、このドリーマー!!」


 こうして、最強の「夢」を持つ凡人と、下界に落とされた「元」ニート女神の、前途多難な救世の旅が幕を開けた。

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