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新章「砂の海と、黄金のジャガイモ ―地球丸ごとリフォーム開始―」

 神界と呼ばれた「未来の地球」の空は、数百年ぶりに本来の青を取り戻しつつあった。  かつて多次元宇宙開発局の管制室だった場所は、今や「引場建設・神界本店」の事務所と化している。


「……ひどいもんだな。こりゃ、やりがいがあるどころの騒ぎじゃないぞ」


 インバは、かつての局長――今や現場の事務員としてこき使われている「おっさん」に用意させた、地球全土の環境データを見つめていた。  窓の外に広がるのは、異常気象による砂漠化と、無計画な開発で汚染された泥の海。かつて日本と呼ばれた場所も、その大半が砂に埋もれるか、淀んだ水に沈んでいる。


「インバ! 大変よ、リリィが『砂漠を爆破してオアシスを作る』って聞かなくて……! 止めてきて!」


 ジャージ姿……ではなく、インバにお揃いの作業用ベストを新調してもらったニーナが、ドタバタと駆け込んできた。  神の権能は失ったが、インバが世界の理を繋ぎ直したおかげで、彼女たちの「魔法」は現実世界でも有効なエネルギーとして機能している。


「砂漠を爆破か……。砂の粒子を細かくしすぎて粉塵被害が出たらどうするんだ、あの馬鹿。……ニーナ、測量機器を持ってこい。現場に行くぞ」


「了解! 助手ニーナ、いつでも行けます!」


第一幕:現場は「砂漠化した東京」

 インバたちが向かったのは、かつて大都会と呼ばれた場所。今はビル群の残骸が墓標のように砂に突き刺さっている。


「……ひどい。これが、インバのいた『本当の世界』なの?」


 ニーナが絶句する。  かつては人々の活気に溢れていたはずの場所が、温暖化による乾燥と、管理を放棄されたインフラの崩壊で、死の世界と化していた。


「ああ。俺たちが箱庭でぬくぬくしてた間に、こっちは末期症状まで進んでたらしいな。……だが、地盤そのものはまだ死んでない」


 インバは砂の上に膝をつき、拳を地面に押し当てた。  レベル20から25へと至った「事象の固定」の力が、砂の層を突き抜け、その下の深い岩盤へと伝わる。


「リリィ! 闇雲に爆破するなと言っただろ。……やるなら、あのビルの残骸の真下にある地下貯水槽を狙え。クラリス、お前は爆発の衝撃に合わせて、浄化の魔法を水脈に流し込め」


「任せてください! インバ様の指示なら、地球ごとひっくり返してみせますわ!」  リリィが杖を掲げ、超高圧縮された魔力を一点に集中させる。


 ――ズ、ドォォォォォン!!


 爆裂魔法の衝撃が、地表の砂を吹き飛ばす。同時に、クラリスの放つ聖なる光が、地下に溜まっていた数世紀前の汚染水を一瞬で清らかな水へと変えていく。


第二幕:不都合な「楽園」

 水が噴き上がり、砂漠に一筋の川が生まれようとしたその時。  空間がゆらりと歪み、ホログラムのようなバリアが展開された。砂の中から、最新鋭のドローンと、清潔な防護服を着た一団が現れる。


「……何をしている、野蛮人ども。このエリアの資源は、我々『エリュシオン居住区』の管理下にある。無断での地形変更は認められない」


 現れたのは、地球の崩壊を見捨てて、自分たちだけが閉鎖されたドームの中で「贅沢な箱庭生活」を続けている、旧時代の特権階級の末裔たちだった。


「管理? ……笑わせるな」  インバは、砂まみれのシャベルを肩に担ぎ、ドローンの一団を睨みつけた。


「お前たちが自分たちのドームを冷やすために外に排熱を垂れ流してるせいで、この周りの砂漠化が加速してるんだぞ。……これ、明白な『施工不備』と『近隣トラブル』だ。即刻、排熱システムを止めて、地元の緑化に協力しろ」


「フン、下卑た職人が何を。我々の科学こそが正義だ。……排除せよ」


 ドローンから放たれる高出力レーザー。  しかし、インバは動かなかった。


「……ニーナ。防御の『固定』、いけるか?」


「任せて! ……神様の力はなくても、インバが教えてくれた『理屈』ならわかるわ! ……物理障壁、固定開始!」


 ニーナが地面に魔法陣を描くと、レーザーはインバの数センチ手前で、まるで目に見えない壁に当たったかのように霧散した。  神の奇跡ではない。インバが繋ぎ直した「魔法と物理が融合した新しい法則」を、ニーナが使いこなした結果だ。


「……おい、お前ら。……俺は、この地球を丸ごとリフォームするって決めたんだ。……邪魔するなら、そのドームごと『不法占拠』で更地にするぞ」


 インバが一歩踏み出す。  砂漠の大地が、彼の「質量」に呼応して、かつての力強い鼓動を刻み始めた。


第三幕:芽吹く黄金

 特権階級の一団を(物理的に)追い払った後、インバは浄化された水のほとりに、一粒の種を埋めた。  それは、神界から持ち出した「黄金のジャガイモ」の種だ。


「インバ、本当に育つかしら……?」


「ああ。地盤は整えた。水も引いた。……あとは、お前の『応援』次第だ」


 ニーナが照れくさそうに微笑み、種を埋めた土に手を添える。  数分後。砂漠の真ん中で、奇跡のように青々とした芽が顔を出した。    それは、滅びかけた地球に打ち込まれた、最初の「希望という名の杭」だった。


「……よし。次は、あっちの沈没しかけてる都市の排水工事だな。……行くぞ、ニーナ。残業代は、このポテチで我慢しろよ」


「もう! ブラック社長なんだから! ……でも、ついていってあげるわよ。あんたの助手は、私しかいないんだから!」


 二人の影が、広大な砂漠の向こう、沈みゆく太陽へと伸びていく。  地球丸ごとリフォーム――その壮大な工事の初日は、まだ終わったばかりだ。

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