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第十八章:夢の中のデート、女神の奮闘と、破滅の足音

 その夜、インバが意識を暗闇に沈め、明晰夢の領域へと足を踏み入れた瞬間――。  彼の目に飛び込んできたのは、いつもの殺風景な修行場でも、前回の乙女チックな寝室でもなかった。  そこは、煌びやかな光に満ちた「王都の夜景」だった。


「わ、すごい……。これ、ニーナが作ったのか?」


 インバが呆然と呟くと、隣から、とびきりお洒落をしたニーナが、恥ずかしそうに彼の手を引いた。  今日のニーナは、フリルのついた豪華なドレスに身を包み、髪にはきらめく飾りをつけている。その姿は、まさしく神話のお姫様そのものだ。


「え、ええそうよ! ここは私が、あんたのために特別に作り上げた『夢の王都ナイトクルーズ』よ! さあ、インバ。今夜は、この美しい夜景を二人で――」


 ニーナの言葉が途切れた。  視線の先で、王都の目抜き通りを、まるで自分の家のように悠々と歩いてくる人物がいたからだ。  それは、真紅のローブを纏ったリリィと、純白の聖衣を纏ったクラリス、そしてメイド服姿のエルだった。


「……なんでお前らもいるんだよ!?」  インバが叫んだ。


「なに言ってるのインバ! あんたが夢の中でニーナなんかとこそこそデートなんてするから、私が偵察に来たのよ!」  リリィが杖を構える。


「あらあら、ニーナ様。お一人でインバ様を独占なさるなんて、聖女として見過ごせませんわ。インバ様のような素晴らしい方は、広く人々に愛されるべきですものね?」  クラリスが、インバに媚びるように寄り添う。


「皆様、ご安心ください。私はただ、インバ様の『夢の中での行動パターン』を記録しに来ただけでございますわ。……ポテチ片手に」  エルが、夢の中だというのに、現実と同じようにポテチの袋を抱えている。


「あーもう! あんたたち、本当に邪魔! これは私とインバの『特別』な時間なのよ!」  ニーナが地団駄を踏んだ。彼女の努力で作り上げたロマンチックな夜景が、一瞬で修羅場と化した。


第一幕:恋の駆け引きと、インバの鈍感力

「いいわ! それなら、あんたたちも参加しなさいよ! ただし、インバの隣は私が死守するんだから!」  ニーナは、まるで子供のように言い放つと、インバの手を強く握り、王都の噴水広場へと走り出した。


「わ、待ちなさいよ! インバのデートは私がエスコートするんだから!」  リリィが爆裂魔法の火花を散らしながら追いかける。 「ふふ、聖女としての慈愛で、インバ様をお守りいたしますわ!」  クラリスが優雅な笑みを浮かべ、インバのもう片方の腕に抱きつく。 「私も、インバ様の夢の中での行動記録を続けますわ。ついでに、王都の屋台のポテチも全種類試してみます」  エルが、淡々と記録用端末を操作しながらついてくる。


 夢の中のデートは、インバを中心に、四人の女性が火花を散らす地獄絵図と化していた。


 ニーナは、インバを夢の馬車に乗せ、空中散歩を誘う。 「ね、ねえインバ! この馬車は私が魔法で作ったのよ! 二人きりで、空の旅なんてロマンチックじゃない!」


「おお、すごいなニーナ。これで工事現場まで一直線だな」 「(ちがーう!!)」


 クラリスは、夢の中のレストランで、インバに手ずから料理を振る舞う。 「インバ様、これは王都の最高級食材を聖なる力で調理したものですわ。私の愛の味、ご堪能くださいませ」


「美味いなクラリス。これ、現実で作り方教えてくれないか? モコが喜びそうだ」 「(私の愛は、妹さんの喜びに繋がるのですか!?)」


 リリィは、夢の中の遊園地で、インバをジェットコースターに誘う。 「どうよインバ! たまにはこうやって、スリルを味わうのも悪くないでしょ! 私のビッグバンより、もっと刺激的な体験をさせてあげるわ!」


「すごいなリリィ。この速度、俺のレベル20の加速といい勝負だな。これ、空気抵抗の実験に使えそうだな」 「(あんたの脳は土木と物理でできてんの!?)」


 エルは、インバの行動パターンを記録しながら、時折ポテチを差し出す。 「インバ様、記録によると、疲労時には塩分と糖分が推奨されますわ。……あ、この夢の中のポテチ、意外と現実の味を再現しておりますわね」  彼女だけが、インバの「日常」に違和感なく溶け込んでいた。


第二幕:夢の境界線、破られる平穏

 賑やかすぎる(あるいは騒がしすぎる)デートの最中、インバはふと、空を見上げた。  夢の中の夜空は、いつもならニーナが完璧に作り上げた星空が広がるはずだ。  だが、その空の一部が、まるで絵画が引き裂かれたかのように、ギザギザと歪んでいた。


「……なんだ、あれは」


 インバが呟くと、ニーナの顔色がサッと青ざめた。 「い、インバ……。あれは……」


 歪んだ空間の裂け目から、漆黒の巨大な影が、ゆっくりと姿を現す。  その影は、魔王城の紋章を掲げた、数体の魔導戦艦だった。   「……馬鹿な。夢の中にまで、奴らが侵入してきたというのか!?」  リリィが驚愕する。 「ここはニーナ様が作り上げた空間のはず……。なぜ、魔王軍がここまで……」  クラリスも顔を青ざめさせる。 「興味深い。インバ様の『夢の引力』が、現実の魔王軍まで引き寄せるという現象でしょうか」  エルだけが、淡々と分析している。


「フン……。インバとやら。まさかお前が、夢の中でまで愚かな女たちと戯れているとはな」


 裂け目から現れたのは、魔王軍四天王の一人、冷酷な魔術師【アークス】だった。 「エルゼ奪還の準備を進めている間、貴様がこれ以上力を蓄えるのを看過できん。我が魔王様が直々に命じた。『インバの夢を破壊し、その精神を永遠に廃人にせよ』と!」


 アークスの言葉と共に、数千体の夢の魔族兵が、王都の夜景を蹂躙し始めた。


「インバ! 夢の中で精神を破壊されたら、現実でも廃人になるわ! 逃げるのよ!」  ニーナが叫ぶが、インバは動かなかった。


「……なんでだよ。せっかくニーナが作ってくれた王都だろ。汚すなよ」


 インバの顔に、いつもの「作業の邪魔をするな」という不機嫌な表情が浮かんだ。  彼は、夢の中の地面を、軽く蹴った。


 ――ズン!


 夢の中の王都が揺れる。  そしてインバは、空中へと舞い上がった。現実世界で覚醒した「空中歩行」を、夢の中で、さらに自由に操る。


「……ニーナ。お前が頑張って作ってくれたものだ。俺が、ここで綺麗にしてやる」


 インバは、上空に浮かぶ魔導戦艦を見据えた。  そして、レベル20の力を込めて、右拳を振り抜いた。


 ――ボォォォン!!


 それは、夢の空間を突き破る、「超圧縮空気砲」。  一撃で、先頭の魔導戦艦の夢の中の船体を粉砕し、アークスがいる裂け目へと直進する。


「な、馬鹿な! 夢の中でまで、この力を使うというのか!? これでは、私の精神が――」  アークスの悲鳴が、夢の空間に響き渡る。


「……邪魔だ。お前らも、デートの邪魔すんな」


 インバは、そのまま空を歩き、魔導戦艦の群れへと突入していった。  夢の中の王都に、無数の「空気砲」の炸裂音が響き渡る。


「……インバ……」  ニーナは、地上からその姿を見上げ、呆然と立ち尽くした。  インバは、自分のために怒り、自分のために戦っている。  それが、彼女にとって何よりも「最高のデート」だった。


「……インバは、やっぱり最強ですわ」  エルがうっとりと呟く。 「あれがインバの本気……。私が守るなんて、烏滸がましいにもほどがあるわ……」  リリィが、悔しそうに唇を噛む。 「インバ様は、私の聖なる力など必要としない……。でも、それがまた素晴らしいですわ!」  クラリスは、なぜか興奮した様子でインバの戦いを見つめていた。


 魔王軍の脅威すら、インバにとっては「デートの邪魔」でしかない。  夢の中の王都は、インバ一人によって、文字通り「掃除」されていく。  そして、ニーナの恋心は、その「最強の掃除」によって、さらに深く、強固なものへと変わっていくのだった。

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