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第十二章:爆炎の残響、そして旋風の連撃 

その日の午後、クリープ街の外れにある「古戦場跡」は、異様な熱気に包まれていた。  事の始まりは、リリィの突飛な思いつきだった。


「いい? インバが手伝ってくれないなら、私が先に魔王軍の斥候を全滅させて、あんたが戦う必要がないくらい世界を平和にしてあげるわ!」


 そう息巻いて飛び出していったリリィだったが、運悪く遭遇したのは魔王軍の精鋭魔獣『ディザスター・ウルフ』の群れだった。   「ちょっ、ちょっと待ちなさいよ! 宇宙の真理を凝縮……『ビッグバン』!!」


 轟音とともに爆炎が上がるが、魔獣たちは影に潜む能力で爆心地をすり抜け、リリィを包囲していく。 「う、嘘……当たらない!? 誰か、誰か助けて――っ!」


 絶体絶命の瞬間。そこへ、待ってましたと言わんばかりの派手な演出とともに、あの男たちが現れた。


「――案ずるな、麗しき魔道士よ! 勇者ガレウス、推参!」


 またしても復活したガレウスと、そのパーティメンバーたちだ。インバの初恋の相手である聖女、そして重戦士の男が武器を構え、魔獣の群れに斬りかかる。


「さあ、聖なる光よ! ガレウス様と共に――!」


 聖女が祈りを捧げ、ガレウスが大剣を振り下ろす。彼らにとっては、これこそが「勇者としての正しい見せ場」だった。しかし、魔獣の素早さは彼らの予想を超えていた。


「ぐわっ!? なんだ、この速さは……! 聖剣が、追いつかない……っ!」


 勇者一行とリリィが、魔獣の群れに揉みくちゃにされ、泥まみれになって絶叫を上げた、その時。


 ――ズ、ン。


 空気が、一瞬で重くなった。  街道の先から、肩に壊れたシャベルを担ぎ、不機嫌そうに歩いてくる男の姿があった。


「……リリィ、お前、今日の現場に使うはずの『土留め用の石材』、どこにやった。お前の仕業だろ」


「イ、インバ!? 助けて! 石材ならあっちの谷底に……ああっ、今はそれどころじゃないわよ!」


「……はぁ。またかよ。おい、お前ら。そこ、どけ。俺は急いでるんだ」


 インバの言葉に、魔獣たちも、ガレウスたちも一瞬動きを止めた。


「ククク……愚かな人間め。昨日までの我らとは違うのだぞ!」  魔獣たちが一斉にインバへと飛びかかる。同時に、ガレウスも叫んだ。 「インバ、下がっていろ! ここはレベル50の私に――」


「(……五月蝿い)」


 インバは、一歩だけ踏み込んだ。  レベル15。15倍に更新された加速機能が、世界の時間を「完全停止」に近い領域まで引き延ばす。


 インバは、腰を深く落とした。拳ではない。今、この苛立ちを叩きつけるのにふさわしいのは、大地を支える「脚」だった。


「(撫でるように……一気に、掃き出す……!)」


 ――ドォォォォン!!


 一撃。  インバの右足から放たれた回し蹴りは、衝撃波となって扇状に広がった。  それはもはや「攻撃」ではない。巨大な台風が局所的に発生したかのような、圧倒的な「質量の暴力」だった。


 飛びかかってきた数十体の魔獣、そしてその背後にいたガレウス一行。  彼らは、何が起きたのかを認識する間もなく、インバの蹴りから生じた突風に飲み込まれた。


「あべしっ!?」 「ひでぶっ!?」


 魔獣たちは空の彼方へ消え去り、ガレウスたちは再び街道沿いの泥沼へと、頭から垂直に突き刺さった。    静寂。  インバは蹴り出した足をゆっくりと地面に下ろした。その一歩だけで、街道の地面には放射状の亀裂が走った。


「……ふぅ。よし、リリィ。石材拾いに行くぞ。手伝え」


「……。……。……あ、あんた……今、足だけで……」  腰を抜かしたリリィの傍らで、ニーナがポテチを頬張りながら呆れたように言った。 「だから言ったじゃない、今のインバは『鋼の脚』なのよ。アンタのビッグバンより、よっぽど宇宙の誕生に近い破壊力ね」


 その時、泥の中から聖女(インバの初恋の相手)が這い出してきた。彼女は泥に汚れながらも、インバの圧倒的な力に目を輝かせ、その手を取った。


「……インバ様! 素晴らしい力です……! 貴方こそが真の勇者……。ねえ、ガレウス様のような出来損ないは捨てて、私と一緒に王都へ行きませんか? 私の聖なる力で、貴方を更なる高みへ――」


 リリィの顔が、一瞬で真っ青になった。 「な、ななな……何を言ってるのよこの泥聖女!! インバは、インバは私のパーティの……!!」


 リリィが絶叫しようとしたが、それよりも早く、インバは聖女の手を「優しく」解いた。   「断る。……俺、泥がついたままの手で触られるの、あんまり好きじゃないんだ。あと、俺は王都に行くより、今夜中に石垣を直さないといけないんだよ」


 あまりにも事務的で、一ミリの未練もない断り文句。


「……っ!!」  リリィは、今の言葉を聞いて、胸の奥で大きく安堵の溜息をついた。 (よかった……。インバはやっぱり、インバだわ……!)


「さあ、行くぞ。……ニーナ、お前もだ」 「えー、私はここでポテチ食べてるわよ。応援の女神(笑)として」 「創造神様にチクるぞ」 「はい、働きますぅ!!」


 こうして、魔王軍の斥候と勇者一行を一蹴した「最強の土木作業員」は、夕闇が迫る谷底へと、重い石材を拾いに行くために歩き出した。  その後ろを、誇らしげな顔のリリィと、渋々ついていく女神、そして心配そうに兄を見守るモコが追いかけていく。


 世界を救う力を持っていても、彼の目的は「壊れた石垣を直すこと」からブレることはない。  インバのレベルが上がるほど、彼の「日常」は、さらに誰も追いつけない領域へと加速していくのだった。

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