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7話

 俺たちの初夜は、控えめに言って「激戦」だった。

 翌朝、キングサイズを遥かに超える巨大なベッドで俺が目を覚ますと、両脇には美しき二人の妻が、まるで燃え尽きたかのようにぐったりと眠っていた。氷の令嬢である輝夜は、眉間の力が抜け、どこか幼い寝顔を晒している。合理主義の天才科学者ソフィアは、眼鏡を外したまま、満足げな笑みを浮かべていた。


 昨夜、俺はこの世界の常識を、また一つ破壊したのだ。

 生殖という『義務』しか知らなかった二人に、義務から解放された純粋な『快楽』というものが、この世には存在することを、身をもって教えたのである。最初は戸惑い、恥じらい、抵抗していた二人だったが、最終的には未知の感覚に涙を流して喜んでいた。…まあ、俺の体力も限界ギリギリだったが。


「……ん」

 輝夜が、長いまつ毛を震わせて目を覚ました。俺の顔を見るなり、昨夜のことを思い出したのか、顔を真っ赤にして布団を頭まで被ってしまう。

「……あ、あんな、はしたないこと……わたくし、もうお嫁に行けないわ……って、もう行ってたんだったわ……」

「おはよう、輝夜。よく眠れた?」

「眠れるわけないでしょう! あなたが、その…あまりにも、その……! 破廉恥なんだもの!」

 布団の中からくぐもった声で罵倒してくるが、全く迫力がない。


 そこに、ソフィアもむくりと起き上がった。

「おはよう、ヤマト、輝夜。昨夜のあなたの身体機能、そして私の心拍数、ホルモン分泌量の変動データは、全て私のインプラントチップに記録させてもらったわ。素晴らしい臨床データよ」

 さすが天才科学者、言うことが違う。彼女は続ける。

「そして、非科学的な感想を述べさせてもらうと……純粋に、ものすごく、気持ちよかったわ」

「ソフィア! あなたまで、なんてことを!」

 輝夜の悲鳴がこだまする。だが、その声には、どこか同意の色が滲んでいた。

 俺は、そんな二人に微笑みかけた。

「だろ? この『快感』を、僕たちだけで独占するのは、もったいないと思わないか?」

 その言葉に、二人は顔を見合わせた。そして、ビジネスパートナーとしての、共犯者の顔つきで、強く頷いた。


 その日の午後、俺たちは早速、作戦会議室に集まっていた。

 俺は大型モニターの前に立ち、プレゼンテーションを開始した。

「題して、プロジェクト『エデン』! 全ての女性に、失われた快楽の果実を! 第一弾の商品ラインナップを発表します!」

 俺がリモコンを操作すると、モニターに最初の商品の画像が映し出された。


「まずはこちら。『ローター』です。キノコに似た可愛らしいフォルム。先端が細かく振動し、体の様々な場所に当ててリラックス効果を得られます。特に女性の…えーと、股間の最も敏感な突起部分に当てると、大変効果的です」

「ひゃっ!?」

 輝夜が、椅子から飛び上がりそうなほどビクッと体を震わせた。

「そ、それ以上、具体的に言うのはやめなさい! はしたない!」

「次に、『ハンディマッサージャー』。通称、電マ。見ての通り、マイクのような形状ですね。強力な振動で、肩こりにも効きますが、本来の用途は…まあ、ご想像にお任せします」

「……なるほど。振動周波数と振幅の最適化が製品開発の鍵ね。モーターの選定も重要だわ」

 ソフィアは、顔色一つ変えずに冷静にメモを取っている。この対比が面白い。


 俺はプレゼンを続けた。「陰核ダイレクト刺激マシン」「全自動乳首責めマシーン」など、俺が前世で聞きかじった知識を総動員した、言葉にするのも恥ずかしい商品群が次々と映し出される。

 ついに輝夜の羞恥心は限界を突破した。

「もうやめてえええ! 私の純潔な目に、そんな破廉恥な図形をこれ以上映さないでちょうだい! 目が! 私の目が穢れるわ!」

「落ち着け輝夜。これは崇高なビジネスだ」

「どこが崇高なのよ! ただの変態じゃないの!」


 ひとしきり輝夜が騒いだ後、彼女は経営者としての冷静さを取り戻し、深刻な顔で問題提起をした。

「ヤマト、あなたのアイデアは革新的だけれど、致命的な欠陥があるわ。この世界で最も重要な徳目は何か知っている? それは『貞操』よ。具体的に言えば、『処女膜』こそが女性の純潔の証。結婚のその日まで、それを守ることが至上の美徳なの」

 彼女は、モニターに映る器具のいくつかを指差した。

「もし、これらの器具で…その…内部を傷つけるようなことがあれば、それは婚前交渉と同じ。社会的に抹殺されるわ。ビジネスにはならない」

 輝夜の指摘は、この世界の根幹に関わる重要な問題だった。


 だが、俺は不敵に笑った。

「もちろん、その点は考慮済みだよ。この世界の女性たちの、涙ぐましいまでの処女信仰はリサーチ済みだ」

 俺はリモコンを操作し、最後のページを映し出した。そこに描かれていたのは、一本の万年筆のような、スタイリッシュなデザインの器具だった。

「そこで僕が提案するのが、これだ! その名も、『ヴァージン・キーパー オナニーペン』!」

「オナニー……ペン……?」

 二人が、呆然と商品名を繰り返す。


「そうだ! これは、内部に挿入するものではない。ペン先の部分を、下着の上からそっと当てるだけ。すると、先端から特殊な超音波と低周波パルスが照射され、処女膜を一切傷つけることなく、内部の神経だけを直接刺激する! これにより、安全かつ確実に、挿入に近い感覚とオーガズムを得られるという、画期的な貞操防衛型デバイスなのだ!」

「なんですって!?」

 今度はソフィアが椅子から飛び上がった。

「非接触で深部神経を刺激する技術ですって!? 理論上は可能だけど、実現には高度な生体工学と神経科学の知識、そしてμ(ミクロン)単位での精密な出力制御が……!」

 俺は、興奮する彼女にウインクして見せた。

「そのために、君がいるんじゃないか、ソフィア。君ならできる」

「……そうね。そうだったわ。不可能を可能にするのが、科学者だもの。やってやれないことはない…いいえ、絶対に私がこの手で実現させてみせるわ!」

 ソフィアの瞳に、マッドサイエンティストの炎が燃え上がった。


 輝夜も、そのアイデアの市場価値に打ち震えていた。

「処女膜を、守りながらイケるですって……? なんて……なんて、倫理的で、商売上手なのかしら、あなたは……! これなら、どんなに保守的な層にも売り込めるわ!『お嬢様の貞操教育に、まずは一本』というキャッチコピーはどうかしら!」

 すごい、輝夜の頭の中ではもうCMが流れているらしい。


 こうして、俺たちの目的は、完全に一つになった。

 俺が、前世の知識で「はしたないアイデア」を出す、司令塔。

 ソフィアが、そのアイデアを「常識をぶっ壊すテクノロジー」で形にする、開発責任者。

 そして輝夜が、その製品を「世界を変えるビジネス」として世に広め、莫大な利益を生み出す、経営責任者。


 俺は、熱い情熱に燃える二人の手を取った。

「さあ、始めようか。僕たちの、世界で一番はしたなくて、世界で一番優しい革命を!」

 三人の歪で、しかし最強のチームが、今、ここに誕生したのだった。

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