第一層
警告:本ウェブノベルには過激な暴力描写が含まれております。全ての方には適さない可能性がございます。
目を開けると、そこは純白で、果てしなく、息が詰まるような世界が広がっていた。窓も、明確な出口も、影すらもない。ただ、白だけがそこにはあった。つるつると磨かれた床の冷たさが、裸の足の裏に伝わる。
鈍い頭痛が、こめかみを脈打つ。まるで古い悪夢の名残のように。
突然、ホログラムのような青く透明な画面が、視界に直接現れた。そして、白いテキストの行が、その上に素早く表示され始める。
[ システムへようこそ、プレイヤー様 ]
[ あなたは『神話の塔』で目覚められました ]
[ 目的:上へ。階層ごとに。頂点へ至るまで ]
[ 警告:塔は無限です。各階は果てしなく広く、唯一無二の世界です ]
[ 警告:安全な階層は存在しますが、その安全性も相対的なものです ]
[ ルール:各階層を突破するには、その“試練”をクリアしなければなりません ]
[ ステータスとレベルシステムを起動しました ]
[ スキルシステムを起動しました ]
[ アイテムシステムを起動しました ]
[ ユニークな固有特性を確認:“無限の容量” (パッシブスキルスロット: ∞) ]
[ 警告:現在の第1層生存率:73% ]
[ 初期ステータスを割り振りました。ステータス画面を表示しますか? Y/N ]
まだ混乱している。この光景はどこか覚えがあるような…しかし、なぜか何も思い出せない。
数分間、ただ茫然とするだけだったが、ついに、この既視感を無理に理解しようとするより、目の前のホログラムに集中することを選んだ。
そして、最終的に「Y」の選択肢に意識を集中させると、新たなホログラムが空中に現れ、情報が表示された。
[ プレイヤーステータス ]
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名前: ??? (未設定)
レベル:1
未割振ステータスポイント:0
知力: 5
幸運:3
魔力:20/20
敏捷:6
速度:5
筋力:4
耐久:5
固有特性:
· 無限の容量:無限のパッシブスキルを学習・保持可能。(ユニーク - 確認済み)
アクティブスキル: 0/10
パッシブスキル:1/∞ (無限の容量 発動中)
スキル強化ポイント(SP): 0
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[ 分析:君は英雄でも選ばれし者でもない、ただの一般プレイヤーだ。だから、ただ生き延びることに集中しろ。 ]
ステータスは実に惨めだ。全ての値が平均的か、あるいはゴミ同然。ただ一つ、まだ理解できていない項目がある。
「スキル」だ。
それが何で、何に使われるのかわからない。
固有特性もほぼ意味不明だ。とにかく、この浮かんだ画面の指示に従って動けば、これらの疑問への答えが見つかるかもしれない。
[ 警告:間もなく第1層の試練が開始されます ]
[ 試練:襲来する魔物を倒せ。 ]
「は? でも、ここに他に――」
しかし、言葉を終える前に、背後で何かが床に着地するような音がした…しかし、本当に恐ろしかったのは、その後に聞こえた声だった。
「ギリリリリ!」
硬直しながら、ゆっくりと音のした方へと振り向く。
完全に後ろを向いた時、そこには醜く気味の悪い魔物がいた。ずんぐりとした小柄な体、傷だらけの緑色の肌、フクロウのような黄色い目、長く尖った鼻。そして、肉切り包丁のようなナイフを手にし、腰にはぼろ布一枚が巻かれているだけだった。
[ 屠殺ゴブリン (Lv. 2) が戦闘エリアに登場! ]
本能が、私をその存在へと引きずり込む。あの魔物を殺さなければ、その包丁でズタズタにされる――そう本能が告げている。
素早くゴブリンへ走り寄り、顔面へパンチを放つ。だが…。
拳が顔に届く寸前、突然、それはかわした。攻撃をかわした瞬間、私はあることに気づいた…。
奴は既に包丁を振りかぶり、攻撃の準備を整えていた。目は光景を捉え、脳は処理するが…、身体は反応できず、腕は攻撃を伸ばしたままの状態だ。
全ては一秒にも満たないうちに起こった…。
ゴブリンは耳障りな声で笑いながら、右手に持った肉切り包丁を垂直に振り下ろした。
「キキキキキ!」
包丁が振り下ろされた時、鮮やかな赤いしぶきが空中に散り、真っ白な壁と床に染みついた…。
「な…にが…?」
ゆっくりと頭を下げ、包丁が通った場所を見る…腕を伸ばした先、しかし…なぜ、なぜ、なぜ手首の先には何もないんだ?…
「ぎゃああああああああああ!!」
ゴブリンはその包丁で、私の手を手首から切り落としていた。切り口からは血が噴き出している。
[ 異常状態:出血 ]
[ 速やかに止血しなければ、失血死します ]
「くそっ、くそっ、くそっ、くそっっ!!」
ゴブリンは鼻を上げ、包丁の血を舐めとる。その目は、嘲笑を浮かべて私を睨みつけている。
[ 塔入場報酬を解放! ]
[ 報酬その一:アクティブスキル “掌打” 。
クールダウン:十秒
説明:本能的に急所へ放つ、通常より強力な素早い掌打。 ]
[ 報酬その二は敵性目標撃破後獲得 ]
[ スキルを起動しますか? ]
その瞬間、頭の中には一つの考えしかなかった。「生き延びなければ!」
素早く頭の中でスキル名に意識を集中させ、起動する。手を切断された時、私は床に膝をついていた。今、奴の急所を攻撃するには最高の姿勢だ。
パキッ
「キャアアアアアアッ!」
掌打スキルを使い、ゴブリンの股間へと打ち込む。手の下で何かが砕ける感触がある。
「グエフゥ…」
ゴブリンは息の詰まるような咳をし、緑色の血を数滴零しながら地面に倒れ込む。
[ レベルが2に上がりました ]
[ ステータスポイントを5獲得しました ]
[ 祝賀! 第1層の試練を無事完了されました ]
[ 獲得アイテム:
錆びた肉切り包丁. ランク: F
ボロ布. ランク: G ]
これらのメッセージを受け取ると、私は安堵の息を吐きながら地面に座り込んだ…。
身に着けていた白い一体型の服は、今や赤と緑の染みで彩られていた。
その瞬間、ゴブリンの死体から眩い光が放たれ、私は光の強さに目を閉じざるを得なかった。光が消えた時、ゴブリンの死体もまた消え去っていた。
「あっ…早く止血しなければ!」
素早くゴブリンが残していったボロ布へと走り寄り、血流を止めようと手首に強く巻きつける。
[ 塔入場報酬その二:パッシブスキル ]
[ パッシブスキル “生命喰らい” を獲得されました ]
[ 説明:肉を食べることで、身体、たとえ失った肢体でさえも、毎分1%の速度で再生できます ]
[ 注記:肉を十分に摂取し続ける限り、再生は持続します ]
[ “肉…肉さえあれば…” ]
このシステムメッセージを目にした時、私の目は輝いた。
「こ、これは凄い!これで手を再生できる…だが…肉はどこから手に入れれば?」
最後の部分を小声で呟きながら…その真白で不気味な部屋の中で…私の目は、自分自身の切断された手へと向けられた…。
「他に手段はない…」
ゆっくりとそれへ近づき、手を地面から拾い上げる。
「ちくしょう…ただの普通の肉だ、自分の手じゃないと思え…」
嫌悪感で目を閉じ、ゆっくりと歯を手のひらの肉へと食い込ませる…硬い、しかし噛み千切れないほどではない…歯に力を込め、最初の肉片を噛み千切る…歯の間で破裂する毛細血管の感触がはっきりと分かる…嫌悪感を催すが…これが生き延びるための手段だ…。
その時、私はまだ知らなかった。これが、私の人間性から遠ざかる第一歩だったことを――。