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6 断罪

王宮に招かれたアンジェリカは有頂天になっていた。


「まさか、あの王子様が娘を見染めてくれるなんて」


連れてきたオリガ、レイラは今まで以上に念入りに着飾っている。どちらが選ばれても悪くない。彼女らにはたっぷりとお金をかけている。何とか元が取れそうだ。


アンジェリカはあまりに領民から過酷に取り立てるので、領地経営がうまくいかなくなっていた。しかし、これで安泰だ。アンジェリカはほくそ笑んでいた。


「それにしても、あらかじめどちらを選んだか言ってくれればいいのに」


レイラが少し不満げだ。


「私に決まっているじゃない。あんたは私の引き立て役よ」


オリガはレイラを見下した様子で言った。


「後で慰めてあげないわよ。八つ当たりされたらたまったものじゃないわ」


「何を!」


「これこれ、やめなさい」


アンジェリカの唯一の気掛かりといえば、クリスティーナが指名されないかどうかだけだった。


ニーナの代わりとして、急遽、クリスティーナに病弱な格好をさせ、顔色を青白くメイクし、咳込むマネまでさせていた。


妃は何より健康であることが優先される。これだけアピールすれば大丈夫だろう。そう自分に言い聞かせていた。


もちろんクリスティーナは今日連れて来ていない。


「もうそろそろ、謁見の時間よ。二人ともみっともないから喧嘩しないでちょうだいね。どちらが選ばれても恨みっこなしよ」


不服そうに二人はうなずいた。



ニーナは朝から部屋に閉じこもっていた。ノックの音が聞こえクリスティーナが入ってきた。


「まだ閉じこもっていたの。きっとキールさんが助けてくれる。約束したもの」


クリスティーナは優しく声をかけた。


「私が幸せになろうとすると、皆不幸になってしまう。父も母も私のせいで亡くなってしまった。今度はキールさんにまで迷惑を…… 私はもう絶対に幸せになんかなりたくない。誰も傷つけたくない。クリスももう私に関わらないで」


「そんなことない。そんなことないから」


そこに、訪問客が現れたと知らせがやってきた。


「誰から?」


「第三王子 アレクセイ様の使者でございます」


「通してください」


そこに現れたのはなんと従者の格好したキール(本物の方)だった。



王の前に通された3人。謁見の間では王マクシムが威厳を持った姿でこちらを見ていた。3人は王の前に進むと礼をした。


「うむ。王子からよく聞いているぞ。この度は大変なもてなしを受けたようだな。アレクセイに代わって礼を言うぞ」


「過分なお言葉、誠にありがとうございます」


「この一年、領内をまとめ上げるのは大変じゃったろう。わしもあいさつにいけばよかったが、何しろ忙しゅうてな」


「王子様が来ていただけただけでも、大変光栄に思っています」


「それにしてもなかなか綺麗な娘じゃのう」


王はジロリと二人を見た。


「オリガでございます」「レイラでございます」


二人が一歩前に出て挨拶をした。王は満足げに頷いている。


「それにしてもなんじゃ、娘は3人いたと聞いているが、もう一人はどうなったのじゃ」


「末の娘は病弱ゆえ、王宮にも来られない状態でした。あのような様ではとてもとても妃になるような資格はありません。この場に連れてきたとしても哀れなだけでございます」


「そうか、じゃが、報告とはちょっと違うようじゃなあ」


「どう言うことですか」


「末の娘はとても働き者で、たいそう気立てがいい子だそうじゃないか。病弱な人間にそんな仕事が務まるとは思えないのじゃが」


「ど、ど、どう言うことでしょうか」


「おお、やっときてくれた。噂に違わぬ美しい娘じゃなあ」


その時背後からニーナが現れた。純白のドレスに身を包み、髪は結い上げている。おどおどしてアンジェリカの方に近寄ってきた。


「あなた一体どうしてここへ」


「私もわからないんです。お継母様。わからないまま、連れてこられてしまって……」


「役者は揃ったようじゃな。そろそろ出てこんか、アレクセイ」


そこに現れたのは、何と赤い礼服で身を固め、サラサラとした金髪をした青い目の青年だった。見覚えのある顔を前にして、四人全員が絶句している。


「お久しぶりです、皆様。僕が第三王子 アレクセイです」


彼は爽やかな笑顔を浮かべてはいたが、目は全く笑っていなかった。



「どうも、この間は大変お世話になりました。アンジェリカさん」


「あう、あう、あう」


口をぱくぱくさせて、声になっていない。


「アンジェリカさんは、僕に特別な場所を提供してくださったんですよ。父上」


「ほう、どんな場所じゃ」


「物置小屋になっているボロボロの納屋でしたね。泊まる準備をするのに一苦労でした。天井には穴が盛大に空いていて、星空がとても綺麗でしたよ。雨が降ったら大変なことになっていたでしょうがね。それと、そうだ。晩餐会で出た残飯整理もさせられましたよ。大変美味しくておかわりしたかったんですが、余っているのがそれだけだったのがとっても残念でした」


アンジェリカは冷や汗をダラダラと垂らしている。


「そうだ、レイラさんはなかなかユニークな方ですよね」


レイラがビクッと身をすくめた。


「僕のことを下賎なやつと言ってののしってくれたんですよ。あんなことを言われるなんて初めての経験でした。そうだ、のぞきや告げ口も趣味みたいで」


「そうか、なかなか悪趣味な人間じゃな」


レイラはうなだれた。


「何と言ってもオリガさんが最高でした」


オリガは唇を噛んで震えていた。


「何度も僕にむちを打ってくれたんですよ。この下男めとか何とか言って、おかげさまで、まだ腫れが引いていません」


アレクセイが右腕を捲ると、そこには痛々しい傷跡がまだ残っていた。


「それで、どうしたいのじゃ、お前は」


「そうですね。全員処刑するのは当然として、まあ、領民全員からのむち打ちなんてどうでしょうか。最後までもつかなあこの人たち」


その言葉を聞いた途端、レイラとオリガが一緒に泣き崩れた。アンジェリカは王に嘆願した。


「どうかお慈悲を、何でもします。反省も致しますから。何とぞ寛大なる処置を」


王は難しい顔をしたまま、豊かな白い髭をしごいていた。


アンジェリカに促され、オリガもレイラも皆土下座をし、王や王子に慈悲を乞うた。しかし、アレクセイの表情は全く変わらず、虫ケラでも見るような冷たい眼差しをしていた。


哀れな継母や姉の姿を見て、ニーナは心を揺さぶられた。こんな姿を見たのは初めてだった。何とかしてあげなくてはと言う気持ちが彼女に湧いてきた。血はつながっていなかったが、なんと言っても彼女に残された唯一の家族だったからだ。


「私からもお願いします。継母や姉たちをどうか許してあげてください」


アレクセイは少し驚いた表情をして彼女を見た。

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