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第1話「転生の契機」

宴の賑わいの中、リリア・ヴァルハラは食事を楽しんでいた。

王国の繁栄を祝うために集まった貴族たちの笑い声や音楽が宮殿の中に響いている。

しかし、王女はどこか心が沈んでいるような感覚を覚えていた。


「こんなにも賑やかなはずなのに、どうして私は心から楽しめないのだろう?」


無意識のうちにその言葉が口をついて出る。宴の華やかさに反して、リリアの心はどこか重く、空虚な感じがした。


その時、彼女は特別に運ばれた料理を一口食べた。だが、その瞬間、体に異変を感じた。

首筋に冷たい汗が流れ、視界がぼやけていく。体が急にだるくなり、立ち上がることすらできない。

彼女は自分の体が言うことをきかないことに気づく。


「姫様、大丈夫ですか?」


侍女の一人が駆け寄ってきたが、リリアはその言葉に答えることなく、座席に支えられるようにして身をよじった。


「少し、お疲れなのでは?」


別の侍女が心配そうに顔を覗き込む。

「姫様、今すぐお部屋へお休みいただきますか?」


だが、その時、リリアの継母であるベアトリス・ヴァルハラがその場に現れ、冷たい目で侍女たちを一瞥した。


「大丈夫よ。」ベアトリスは声を低くして、命令するように言った。「私が部屋まで連れて行くわ。」


「でも、それは私たちが――」侍女が口を挟もうとしたが、ベアトリスはにらみつけて言った。


「大丈夫よ、私に任せて。」


侍女たちはその威圧的な言葉に言葉を飲み込むしかなかった。

ベアトリスは強引に王女を支え、部屋へと連れて行く。


「姫様、無理をなさらずに。」侍女たちは遠慮がちに声をかけるが、ベアトリスは何も言わず、冷徹な表情で王女を自分の腕に支えながら歩き出す。


その時、リリアはただひたすらに力なく継母に引かれ、部屋へと運ばれていった。

体の力が抜け、足が動かない。意識がどんどん薄れていく中で、彼女は何とか声を絞り出した。


「……あ……なぜ……」


しかし、ベアトリスはその言葉を無視するかのように、ただ冷徹に歩みを進めた。


リリアはほとんど意識を失いかけながら、ベアトリスの腕に支えられて部屋へと運ばれた。ベアトリスの手が冷たく、強引に彼女を引っ張る感覚があるたび、リリアは無力感に苛まれていた。


部屋に到着すると、ベアトリスはリリアをベッドに横たえ、冷静に顔を見つめた。

リリアの息は次第に弱まり、顔色も悪くなっていく。ベアトリスは王女の顔に目をやりながら、静かに頷いた。


「……もう、終わりね。」


ベアトリスはリリアの首に手を触れ、心臓の鼓動を確かめるようにして、指先で軽く触れた。

その瞬間、リリアの体から温もりが失われていくのを感じ取る。

ベアトリスは無表情で王女の瞳を覗き込む。リリアの瞳はもう何の反応も示さなかった。


「これで、この王国は私のものよ。」


ベアトリスは小さく笑みを浮かべながら、リリアの死を確認する。その笑みは、王位を手にするための手段を達成した満足感に満ちていた。王女リリアの命は、完全に絶たれ、証拠を残すことなく計画通りに成し遂げられた。


「王位は、私の娘たちのものよ。」


そして、部屋を出る前、ベアトリスはリリアの顔を最後にもう一度見つめ、心の中で静かに言葉をつぶやいた。


「さようなら」


その言葉とともに、ベアトリスの野望がひとつ、実現したかにみえたのであった。




莉愛は、朝の陽射しが差し込むキャンパスを歩いていた。大学生活も、もう何ヶ月かが過ぎ、すっかり馴染んでいた。友人たちと一緒に昼食をとる時間が、いつもの楽しみだ。


「莉愛、これ食べてみて!めちゃくちゃ美味しいよ!」


友人の恵理が手にしているのは、見慣れた学食の定番メニュー。恵理はいつもお勧めしてくるタイプで、莉愛はその軽い調子にいつも笑ってしまう。


「ありがとう。でも、私はこっちの方がいいかな。」莉愛は少し笑いながら、おにぎりを手に取った。


「ほんと、莉愛っておにぎり好きだよね。」恵理が呆れたように言ったが、莉愛はそれに素直に頷いた。おにぎりの味が、どこか懐かしくて落ち着く。


その後、莉愛は友人たちと一緒に図書館に向かう。試験が近づいてきているため、勉強もしなくてはならない。しかし、日常の一コマがこうして続くことが、どこか幸せだった。


「莉愛、授業後にカフェ行かない?気晴らしにもなるし。」恵理が提案する。莉愛は少し考えてから、頷く。


「いいね、久しぶりに行こうかな。」


午後の講義が終わり、二人はカフェに足を運ぶ。カフェの中は穏やかな雰囲気で、暖かな照明と音楽が流れていた。莉愛はコーヒーを一口飲んで、心地よいリズムで会話を楽しんでいた。


「最近、どうしてるの?」恵理がふと莉愛に問いかける。


「うーん、普通だよ。何か特別なこともないし。」莉愛は答えながら、窓の外を眺めた。外は晴れ渡り、平穏無事な日常が広がっている。


けれど、どこか心の隅で違和感を感じるような気がしていた。普段と変わらないはずの毎日が、急に重く感じることがある。それが何なのか、まだ理解できなかった。


「莉愛、大丈夫?」恵理が心配そうに声をかけてくる。莉愛は一瞬だけ顔をしかめ、笑顔を作った。


「うん、ちょっと疲れてるだけ。」


莉愛は軽く笑ってそう言った。友人たちは心配そうに見守っていたが、彼女はそれを気にせず、無理に笑顔を作った。


「最近ちょっとバタバタしててさ、疲れが溜まってるだけだから。」


そう言いながら、深いため息をついてからカフェの椅子に座った。恵理が「無理しないでね」と言ってくれるが、莉愛はそれを気にせずコーヒーを一口飲んだ。大学生活は楽しいし、毎日忙しいけれど、何だか心にぽっかりとした空洞を感じることが増えていた。


「今日はもう帰るかな。」莉愛は言いながら、ぼんやりとカフェの窓の外を見つめた。春の陽射しが心地よい。しかし、その心地よさに包まれているにもかかわらず、どこか違和感がつきまとっていた。


「でも、なんだか心が落ち着かないな。」


莉愛は自分でも気づかないうちに、深く考え込んでいた。何かがずっと胸の中で引っかかっているような感覚が拭えない。それが何なのかは分からないけれど、その不安が次第に大きくなっていく。


立ち上がろうとした瞬間、ふとめまいがした。突然のふらつきに莉愛は思わず手すりに手をつく。まるで世界が回っているかのような感覚。


「うーん、どうしたんだろう。」と、莉愛は自分の体調に違和感を覚えながらも、特に気にしないようにしていた。


「帰ったら寝れば、きっとすぐ良くなるはず。」そう自分に言い聞かせ、カフェを後にして、帰路に着く。


だが、次の瞬間。信号を渡ろうと歩道を歩いていた莉愛の目の前に、急に車が飛び出してきた。すぐに反応しようとしたが、間に合うはずもなく、そのまま強い衝撃が体を貫いた。


「えっ…?」


その言葉が莉愛の口からかろうじて漏れたかと思うと、目の前が真っ白になった。意識を失う間際に、莉愛はただ一つ、思った。


これで終わりなのだろうか?


意識が完全に消え去ると、その後は何も感じることはなかった。



目を開けると、見慣れない天井が広がっていた。部屋は豪華で、どこか異国の宮殿のような雰囲気が漂っている。手元には見覚えのないドレスがしっかりと纏われていて、体を動かすたびに、重さと柔らかさを感じた。


「ここは……?」


莉愛は戸惑いながらも、自分の姿を鏡で確認した。見慣れたはずの自分の顔ではなく、完全に異なる顔が映っている。自分の顔がどこか美しく、豪華な衣装に包まれていることに驚き、思わずその姿をじっと見つめてしまった。


「私、どうしてこんなところに…?」


頭がぼんやりとして、体が言うことをきかない。何が起こったのか分からず、ただただ混乱する。大学生だった自分が、なぜこんな豪華な部屋にいるのか、その理由が全く分からない。


その時、扉がノックされ、静かに開かれた。


「姫様、目を覚まされましたか?」


入ってきたのは、見知らぬ侍女のような女性だった。優しげな顔で微笑みかけてくるが、莉愛はその笑顔に思わず戸惑った。


「姫様、お加減はいかがですか?」


その言葉に、莉愛は一瞬考え込み、すぐに反応できなかった。お姫様?自分がそんな存在であるはずがない。そう思いながらも、どうしてこんな服を着ているのか、何も理解できなかった。


「姫様?」


侍女がもう一度名前を呼ぶ。


「…え?誰それ?」


思わず口からその言葉が漏れた。頭の中で何かが引っかかり、ふと名前が浮かび上がる。「リリア・ヴァルハラ」――それが自分の名前だと分かる瞬間があった。しかし、その名前が何を意味するのか、どうして自分にそれが結びつくのか、全く理解できなかった。


「姫様、大丈夫でいらっしゃいますか?」


その問いかけに、莉愛はますます混乱した。自分が姫だという感覚が、急に頭の中に湧き上がる。けれど、どこか遠い記憶のようで、どうしてそんな名前が自分に繋がるのかは全く分からない。


「姫?……リリア・ヴァルハラ…?」


もう一度呟くように言うが、言葉の意味がはっきりと分からない。自分が誰で、どこにいるのか、その全てを知りたかった。


侍女は優しく微笑んだまま、「姫様、しばらくお休みになられてください。」と続けた。


莉愛はその優しさに少しだけ安心感を覚えたが、それでも心の中では何かが引っかかっていた。リリア・ヴァルハラという名前が何度も繰り返し頭に浮かんでくるが、それが現実であるとはどうしても思えなかった。


意識が少しずつはっきりしてきて、現実を受け入れようとする自分がいた。

しかし、その感覚はあまりにも遠くて、完全に受け入れることができない。

自分がリリア・ヴァルハラという王女であるという現実が信じられないのだ。


「私は……リリア?」


その問いかけは、頭の中で繰り返されるばかりだった。記憶は断片的に浮かび上がり、誰かが「姫様」と呼ぶたびに、無意識のうちにそれに応じてしまう自分がいた。




朝の光が差し込む、豪華な食堂。

ベアトリス・ヴァルハラは優雅に朝食をとっていた。王国の繁栄を祝う宴の後、気品を保ちながら、ゆっくりと紅茶を啜るその姿は、まるで王妃そのものだった。


「今日も素晴らしい天気ですね。」


食事を運んできた侍女に話しかけながら、ベアトリスはその手を止めることなく、ゆっくりと食事を楽しんでいた。だが、その穏やかな時間が突然、途切れた。


ドアが静かに開き、そこに現れたのは――リリア。


ベアトリスは一瞬、手を止めてその姿を見つめた。


「リ…リリア?」


心の中でその名が響く。だが、目の前の王女は、どこかいつもと違う雰囲気をまとっていた。ベアトリスは一瞬だけ目を見開き、思わず息を呑んだ。


(どうして……生きて)


心の中でその言葉が浮かんだ。リリアは、自分の死を確認したはずだ。あの夜、確かに命を奪ったはずだった。だが、今ここに、リリアがいる。


ベアトリスは何とか冷静を保ちながら、微笑みを浮かべて言った。


「お、おはよう、リリア。どうしたの?体調が良くなったの?」


リリアは何も言わずに歩み寄り、静かに座った。ベアトリスはその態度に少し違和感を覚えながらも、必死に表情を作り続けた。心の中で、どうしてこんなことが起こったのかを整理しようとしていた。


(なぜ生きている……薬が弱かったのか)


その言葉を心の中で呟き、ベアトリスは冷静に紅茶を一口飲んだ。リリアの存在が、ベアトリスの計画を大きく揺るがすものだった。


だが、表面には出さず、優雅に微笑み続ける。


「朝食をお召し上がりになって。体調も戻ったようで、良かったわ。」


リリアは何事もなかったかのように、ベアトリスを見て微笑みながら答える。


「おはようございます、お継母さま。」その言葉には、まるで何も問題がなかったかのような落ち着きが感じられた。


リリアの表情に浮かぶのは、まるで元気を取り戻したかのような穏やかな笑顔だった。

ベアトリスの心の中では、次第に不安が広がっていったが、外面では一切動揺を見せず、静かに朝食を続けた。


「そう……元気そうで何よりね。」ベアトリスは優雅に紅茶を飲みながら、リリアの動きを注視した。リリアが自分に何も言わず、静かに食事を取っている様子に、ベアトリスは内心で何もかもを計算しているような気配を感じ取った。


だが、リリアの目には不思議と普通の朝食を取る一人の王女として、何もおかしなことはないように映った。その態度に、ベアトリスは思わず深呼吸をし、心の中で決意を新たにしたのであった。


(仕方ない、次の計画を実行に移すわ...)

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