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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編百合

ベゴニアを貴方に

作者: 風土帽

 『シバザクラは隠して』の続編です。前作を呼んでいない方は、先に其方を読むことをお勧めします。




「さて、どうしようか……」



 バレンタインデー前日の夜、私はチョコたちを前にして悩んでいた。

 毎年何か作ってはいるが果たしていつもと同じでもいいものか、答えは否。しかし、今まで本命など作ったことはなく、何を作ればいいものかと、そもそも本当に渡してもいいものかと。



「あれ?アンタが台所にいるなんて珍しい……って明日バレンタインか、友チョコ?」

「お母さん……」

「どうしたの?さっさと作っちゃえばいいじゃない」



 私が悩んでいると、後ろからお母さんが話しかけてきた。

 相談……いや、こんなのできるわけない。自分が同性から告白されて、ましてやそれをOKしようとしているだなんて知ったら親はどう思うだろう。



「なーに?まさか本命でもいるの?」

「—————ッあ、っだ、なんっで!?」

「動揺しすぎ。そっかー、好きな人出来たかー青春だねー」



 自分でも驚くほど動揺してしまった。

 まだ何も話していないのに、心臓がバクバクしている。



「んで、どんな子?ほれほれ、お母さんに教えてみ?」

「う………こんな地味な私と一緒にいてくれて、可愛いのにかっこよくて、優しくて大好きな……」



 大好きだ。

 いつも皆とはしゃいでいるとこも、私と一緒におしゃべりして笑っているとこも、お願いする時に不安そうにこちらを見る仕草も、こまっちって嬉しそうに呼びかけてくる声も、二人だけの時にする真面目な顔も、大したことじゃないのにすごく心配してくれるとこも…………あげていったらキリがないくらい。



「本当に好きなのね、その子のこと」

「うん………」

「それで、何が不安なの?」



 言ってもいいのかな?

 でも、今なら言ってもいい気がした。



「もし……もしさ、その子が女の子だとしたら、お母さんは私のこと、気持ち悪いって思う?」



 お母さんはキョトンとした後、笑った。



「いんや。別にいいんじゃない?アンタが誰を好きだろうとお母さんには関係ないし」

「…………」

「好きになった人が女の子だった、ただそれだけのことでしょ?」



 今度は私がキョトンとしてしまった。

 ただそれだけ……いやまあ、確かにそうだけどそれで済ませられるもんなん?



「何?それとも好きじゃないの?」

「いや、大好きだけど……?」

「ぷっ!はっはっはっは!そう、それでいいじゃない!今もこの先も、誰を好きになるかなんてわからないし、そこに性別も何も関係ない。だって好きなんだもん。でしょ?」

「…………うん!」



 さっきまでゆらゆらしてたものが、ストンと落ちてきたみたい。

 お母さんに相談してよかった。



「お母さん」

「ん?」

「ありがとう」

「付き合ったら、お母さんに紹介しなさいよ~」



 お母さんはそう言い、私の返事を聞かぬままソファの方まで歩きドラマを見始めてしまった。


 よし、作ろう!

 結局あまり時間がなくなってしまったので、作り慣れているレンチンチョコブラウニーにした。奈奈さんのはちょっと豪華に、チョコ掛けナッツトッピングにしよう。








 バレンタイン当日、いつものスクールバスだったが奈奈さんが乗ってこない。

 どうしたんだろう?と心配になったが、スマホにメッセージが入っていた。



【今日寝坊した(´;ω;`)市営バスで行く!】



 珍しい、夜更かしでもしたのだろうか。とりあえず、今日も学校にくるようなので安心した。

 


【了解(`・ω・´)ゞ】



 返信っと。すぐに、ごめんというスタンプが送られてきた。

 謝らなくてもいいのにと思ったので、頭をよしよししているスタンプを送ってあげた。


 読書でもしようかな……あ、今日英単語のミニテストあったわ。しょうがない、覚えるか。








「小鞠、おはー。およ?今日は奈奈一緒じゃないん?」

「来楽々おはよう。今日寝坊したみたい、市バスで来るって」

「へー珍し。あ、そだ、はいこれ!チョコ!」

「ありがとう。じゃあ、私もはい」

「やった!小鞠のお菓子おいしんだよね~」

「んな、大げさな」



 ホットケーキミックスと市販チョコとココアパウダーを混ぜてレンチンしただけだ。失敗が少ない簡単お菓子だ。スマホで検索すれば、レンチンでもなかなかのクオリティが出せるレシピが多くて助かる。

 因みに来楽々やほかの子達にあげるのはブラウニーだけ、奈奈さんのはテンパリングしたチョコをかけてナッツ類をのせたものだ。テンパリングなんて初めてやったよ。面倒だったけど、努力相応な見た目にはなったと思う。



「来楽々のもおいしいよ?」

「うちのは手抜きだよ?でもありがとー」



 チョコクランチも簡単な割においしい。チョコとマシュマロレンチンに、お好みのシリアルやポップコーンを混ぜて冷やすだけでもうできる。混ぜるのを変えるだけでいいから、アレンジもしやすいのでおすすめだ。

 クラスに着いてからも、他の子にチョコを渡したり来楽々とだべったりとだらだらと過ごしていたが、一向に奈奈さんがくる気配はなかった。






「セーフ!」

「アウトだ」

「何で!?あと数秒ありましたよ!?」

「そうか?じゃあギリギリな、席付け」

「っしゃ!はーい!」



 あ、奈奈さん間に合ったみたいだ、よかった。

 席に着いた後、小さく手を振ってくれたので私も振り返す。それ自体はいつも通りなはずなのに、今日は妙に嬉しく感じた。

















「ばいじゃねー」

「ばーい」

「じゃねー」



 きてしまいました、放課後。


 いつも通り、私の席の前に奈奈さんが座る。

 いつもと違い、何も会話がない。

 本来なら勉強に集中できるような状況なのに、さっきから一文字も進まない。



「「あの……!」」



 話すタイミング被った。

 普段なら絶対ない。いや、普段は私から話しかけることないから当然か。



「えっと、奈奈さんからどうぞ」

「いやいや、こまっちからどうぞ」



 双方いやいやというやり取りを何回か繰り返した。



「んじゃ、うちからね。はい、バレンタイン。本当はもうちょっと凝ったもの作ろうとしたんだけど、失敗しちゃって……それで今日寝坊しちゃったんだ」

「あ、ありがとう、開けても?」

「うん」



 中を開けるとチョコがサンドされているクッキーだった。

 え、これが凝ったものではないと?お店のクオリティじゃん。

 あんまりにもおいしそうだったので、何も言わずに1個食べてしまった。



「え、うっま!」

「本当?」

「うん、すっごくおいしい!これ本当に手作り?」

「そだよー。あ、ちなほかの子には生チョコだよ。こまっちだけ特別」



 特別………その言葉にあまりの美味しさで忘れていたことを思い出した。

 私も、伝えないと。この前の私の答えを。



「あ、あの、奈奈さん!」

「なーに?」

「えっと、あの……これ、バレンタイン……一応、手作り…………」

「ありがとう。開けても?」

「う、うん」



 奈奈さんは私が渡した包みを開けるとそんな大したものじゃないのに、まるで宝物を見つけた子供みたいに目をキラキラさせた。



「きれー。ねね、これテンパリングしたっしょ?」

「え、何で分かったの?」

「だってこんなに光沢があるチョコ、ただ溶かしただけじゃ無理だもん。大変だったっしょ?」

「奈奈さんほどじゃないよ。それに、ほかの子のにはやってない。奈奈さんのだけ」

「……わっふー」



 気のせいかな、なんか変な声が聞こえたぞ?

 まあいいや。チョコは私なりの特別ってやつですよ。


 ちょっとした静寂。窓越しに部活をやっている生徒の声が、ひどく大きく聞こえる。

 でも今は、それ以上に私の心臓の音が大きく聞こえる。



「あの、さ……この前の返事だけど……」

「ん」

「私も、奈奈さんのこと…………………」



 まただ、また”好き”の一言が出てこない。

 喉元まで出かかっているのに、何で出てこない!?このヘタレめ!!

 大好きだってわかったじゃないか!今も口をパクパクさせているだけの私を、彼女はずっと待ってくれているじゃないか!



「こまっち、無理しなくても——————」

「無理じゃない!私は、奈奈さんが好き!大好き!付き合ってください!」



 好きと伝えた勢いのまま、反射的に頭を下げてしまった。

 さっきまで聞こえていた音が、全部なくなったみたいに静か。自分が息をしているのかもわからない。

 

 ズズッと前から椅子をずらす音が聞こえた。

 え、奈奈さんどっか行っちゃう?



 ぎゅっ



「……え?」

「もー、小鞠ったら勢い良すぎ。もちろん、喜んで」



 耳元で聞こえた声は、震えていた。

 その震えは嬉しさからくるものだと、今なら自信を持って言える。

  


「ありがとう」

「それはこっちのセリフ。これからも、よろしくね」

「うん」



 後ろから抱き着かれたままなので、表情は見えないけど今は笑っているような気がした。

 しばらくそうしていたけど、いつまでたっても奈奈さんが動こうとしない。



「奈奈さんや、そろそろお顔が見たいんですが?」

「ダメッ今ヤバい顔してるからッ」

「奈奈さんはいつも可愛いので、ヤバくはないですよ」

「ほわっえ、その、え?」



 奈奈さんが抱き着いていた手を放して、いつもの私みたいにどもってる。

 手が離れたのでチャンスと思い、私が勢いよく後ろを振り向くと、そこには耳を真っ赤にして顔を覆っている奈奈さんがいた。



「奈奈さん、手、どけて?」

「やっだから、今顔ヤバいからッ」

「え~?奈奈さんの顔、見たいな~」



 こんな奈奈さんは初めてだったので、ちょっと悪戯心が芽生えてしまった。

 ゆっくりと私が近づくと、同じ距離後ろに下がる。ちょっとずつ近づいていくと、奈奈さんはとうとう後ろの壁に背が付いてしまった。

 あっと驚いているすきに、素早く手を取り顔から放す。

 真っ赤な顔をして、涙目で此方を軽く睨んでいる奈奈さんがそこにいた。



「……あ、えっと、その」

「ヤダって言ったのにッ。こんなの、全然可愛くないッ」

「むしろ可愛すぎて言葉が出ないんですが?」

「え……?」

「……あ」



 ついつい心の声が出てしまった。

 どうしよう、今の自分めっちゃキモくない!?いやだって、そう思うじゃん!真っ赤な顔して涙目で睨むJK、しかも元がかなりいいときた!私が男だったら襲っている!いや私はそんなことしないけど!?てか再度言おう、自分キモいな!

 こんなキモい奴に触られたくないよねと思い、掴んでいた手を放し即座に謝る。



「ご、ごめん!でもそれ他の人の前ではしない方がいいと思う!」

「……他の人の前ではこうならないよ。こまっちの前だけだよ?」



 私の心に会心の一撃、葛葉小鞠は瀕死状態になった。

 今度はこちらが顔を覆うことになってしまった。



「こまっちー、顔みーせて♪」

「や、ですッ」



 明らかに楽しんでる声が聞こえる。

 さっきの仕返しか!と思っていると、すぐに手を取られて奈奈さんに顔を見られる。



「顔まーっか」

「うぅ、奈奈さんもですよ?」

「あはは、そうだね」

「……ふふっ」



 なんだかこの状況がおかしく思えてしまったので、何方ともなく笑い始めて二人してしばらく笑っていた。



「あー笑った笑った!っと、バス乗る前にこの顔はどうにかしないとね」

「あーそうだね。目は……腫れてないから、顔だけ拭けば大丈夫だね」

「ん。じゃあちょっとお手洗い行ってくるね」



 いてらーと見送って一息つく。

 私もこの顔の熱、早く覚まさないと。






 この恋に気が付いてほしいと願った臆病な心は、君からの愛の告白によって片思いから両想いに。


 



 最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

 ついに両想いになれました。せっかくバレンタインなので何かやりたいと思い、気が付いたらこの話が出来上がっていました。小鞠と奈奈の物語は、これからもちょくちょく書いていくかもしれないので、うpされたときは気が向いたときに読んでいただければ幸いです。

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