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執筆練習~文章力向上への道~  作者: 丘源


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10/10

最高の朝


朝のランニングは嫌いじゃない。起きるのは面倒だけど。

僕はまだ肌寒い風に少し身震いしながらつま先で地面をたたく。信号はまだ赤になったばかりだ。

昨晩の就寝時間は結局0時を回ってしまった。そのとき読んでいた父親に勧められた小説がなかなかに面白かったのだ。

だが、目を覚ました時刻は、5時23分。

腕に肌身離さずつけているランニングウォッチを見て、僕はため息をつきたい気持ちを抑える。

やけに目がさえてしまった。このまま起きるのもやぶさかではないが・・・。

近頃、朝早くでもかなり明るくなってきた窓の外をちらりと見る。

うん、あと40分寝よう。

「おーい。6時だぞー」

父親の声で目が覚めた。あと、5秒・・・いや10秒・・・。

「おい10分だぞ。起きろー!」

僕はぼんやりと目を開けた。

やばい。寝すぎた。

慣れた感覚が僕を襲う。うん、そろそろ起きないと時間がやばいんだけど。

いや、でもあと1ミクロン秒くらい・・・。

「起きろ!!」

OKはい。起きました、今。

と言う訳で、現在僕はシューズをバチッと決めてランニングウォッチがGPSを補足してくれるのを待っている。

このランニングウォッチは白いバンドとボディーに、黒のボタンが4つ側面についたウェアラブル端末だ。要するに走った距離とか心拍数、ラップ等を勝手には買ってくれるという優れもの。

親からのプレゼントだが、高い。案の定というべきか。やはりこれは結構お値段が張ったらしい。もらった時に恐々と値段を聞いたらパソコンの注文画面を見せられた。

あー。ほんほん。それくらいね~。・・・怖すぎて普段使いしたくねぇ。

と、その時はそんなことを思ったものの、慣れというのは恐ろしいもので、今では全く気にならなくなってしまった。

次の曲が流れ始めるのと同時にGPSが補足され、ピッと音が鳴って画面上部の赤いバーが緑に切り替わる。

この時計にはランニングに欠かせない音楽プレイヤーとしての機能も搭載されている。

聞きなれたそのイントロとともに僕は走り始めた。




ふう。今日は割と調子よかったな。

僕はシャワーを浴びながら思った。

今朝はなんだか体の調子が良かった。走り終わったときもそこまで足が疲れた感じがしなかったし、心拍数が低すぎないか心配になるほど肢体の感覚も楽なものだった。

後から見たら心拍数はいつも通り上がっていたものの、走っている最中はそのことに気付かなかったのだ。

絶妙なバランスで夜更かしすると、逆に調子が良くなる。

僕の体にはよくあることなのだが、いったいどういったメカニズムなのだろう。どこかの大学とかで研究してくれないかなぁ。

キュッと音が鳴ってシャワーが止まる。

僕は湯船にゆっくりと体を浸した。

シャワー近くの小物置き場に置いておいた眼鏡をかけると、視界にツイッターイラストのような華やかなフィルターがかかる。

普段はあまり風呂の中では眼鏡はかけないのだが、これからはちょくちょくかけてみようか。

そう思うくらいその朝の光景は幻燈のようで、魅力的だ。

明かりをつけていない風呂場は青白く、神性すら帯びているような朝日にのみ照らされて、触れがたいほど白く映っていた。

普段とはまるで別世界のように見えるその不思議な空間を僕は陶然と眺める。

ふと、その光景に指で作った額縁を置いた。

少し右か?いや、ちょっと下・・・。

うん。なかなかにいい絵だ。

これで下の方に映りこんでいる足が野郎の物じゃなければ満点だが。

まあ、ともすればやや扇情的になってしまうかもしれないし、これくらいでちょうどいいかもしれない。

さっき洗ったから野郎の足でもきれいな野郎の足だ。別にいいだろう。俺が許す。

僕はその肌色の額縁に沿って、白い空間にいくつも置かれた被写体の配置を丹念になぞる。

左上の隅に窓の下の縁がちょっとだけ入っていて、その下に見える湯葢の上には水たまりと水滴でぬれた時計。右の真ん中よりちょっと上くらいにおいだきボタンなどが搭載されたコンソールがある。

意外とコンソール大きいな。ふと、新鮮な驚きを感じた。

まぁ、実際に絵を描くかどうかはどうでもいいのだ。半分遊び。絵は好きだけど、あんまり上手くない。

ツイッターで流れてくるようなキラキラした絵が描けたらどれほど楽しいだろう、とは思うものの、一念発起して描くたびに自分のレベルの低さに悲しくなってきてやる気がうせてしまう。まぁぼちぼち頑張るしかないのだろう。

風呂から上がったらもう7時20分だった。さっき風呂に入っているときに見た時計から何となくの時間はわかっていたが、それにしても時間が過ぎるのは早い。さっさと朝ごはんを掻き込んで、教材をバックに詰めないと。

本日の朝食はいつも通りのセルフスタイル。

パンでも米でもシリアルでも勝手に食べてといった感じだ。

でもパンは準備が面倒な割に腹にたまらないし、そもそも腹持ちがよくない。シリアルは楽だけど少し前に食べ過ぎてやや食傷気味だ。

まあ、いつも通り米だな。

ポンと勢いよく開いた炊飯器の中には、昨日の残りの米が入っていた。が、ややすくない。困ったことに少なすぎるわけでもなくてギリギリ行けそうなくらいの量だ。

でも、沸き立つコメの香りの蒸気と5キロの走行距離に奪われたカロリーは僕の頭を一瞬でジャックした。

僕は炊飯器の保温を切り、その横のバスケットに突っ込まれているふりかけとお茶漬けキットを横目に冷蔵庫を開ける。

卵はあるが、TKGはもう昨日食べたんだよなぁ。いや、もうちょっと前か?

そう思いながら横にずらした目にあるものが飛び込んできた。

キムチだ。

一食分ずつ小分けされた使い切りタイプ。下のチルド室にはコンビニのカットねぎのパックもある。

卵、キムチ、ネギ、米。

卵、キムチ、ネギ、米。

その時、冷蔵庫の奥から後光を纏った天使が僕に祝福を与えるように舞い降りてきた。手には八角形の深皿を抱えていて、その上に乗った半球状のソレは―――。

―――キムチチャーハンだ。

7時27分。いけるか?いけないか?

しばし逡巡した後、丁度真下をさした長針を見て僕は決断をした。

よし、つくろう。

茶碗に米に卵とキムチの半分を突っ込んで混ぜる!混ぜる!混ぜる!

レンジに突っ込んでチン。あー、1分20秒!

学校の準備だ!準備!

1限ダルい、2限普通、3,4限おもろい、午後は寝る、っと。

遠くで催促するようにレンジが鳴っている。

僕はバックを指に引っかえるようにして持ち、キッチンにバタバタと戻る。

僕は、そっとレンジの扉に手をかけた。

どうだ・・・?

扉を開けるも意外と匂いはない。茶碗の上の見えている表面部分は、ちょっと生っぽいか?

失敗の2文字が一瞬脳内を通り過ぎたが、僕はそれを振り払うように勢いよく鍋を取り出す。

僕はそれをIHヒーターの上にゴッと置いた。

いや、あきらめるな。こうなりゃやけだ。徹底的にやってやる!

ガチっと着脱式の持ち手を取り付ける。

パチッとスイッチを入れて―――。

強火!強火!

ごま油を引くとジュワーッと音がして香ばしい香りが立ち上ってくる。

うん。チャイニーズな感じで大変よろしい。

ごま油は好きだ。旨そうに見えるし、実際美味いし、ごま油を加えるのってなんだか上手そうだし。

油の音を楽しみつつ茶碗をひっくり返して米を投げ込む。

うおっ。

思っていたよりもぼろっという感じで器から塊になったコメが落ちた。

ちょっと乾燥しすぎてるか?ラップをかけた方がよかったのかも・・・。

そう思いつつも僕はヘラでその塊をできる限りバラしていく。

米をつぶさないように押し切るようにわけて、細かくして・・・。

うーん、いや、意外と悪くない、かも?

ちらっと腕時計に目をやる。

今7時32分だ、か、ら―――。

33分まで炒めよう。

さらに火力を上げた僕は一心不乱にチャーハンに成ろうとしている米を掻きまわし続けた。

そして。

―――ついにできた。

僕は一人食卓で感動に打ち震えていた。

目の前には再度器に盛られたチャーハンが自信ありげな笑みを浮かべている。

どうや?ワイ、チャーハンやろ?

そう語りかけてくるかのように、そのチャーハンの見た目は美味そうだった。

もう一度言おう。見た目はうまそうに見えるのだ。確かに。

おま、お前チャーハンだよな?チャーハンなんだよな!?信じるぞ???

よし。いただきます。

時刻はもう37分をさしている。急がねばなるまい。

肝心のお味は・・・。

緊張で震える手を抑えつつ、僕はそれを慎重に口元に運んだ。

失敗していませんように―――。

そう祈りながら一つ、二つとかみしめる。

米は固すぎないし柔らかすぎない。よし、まずは第一段階は突破だ。

そして、味は・・・。

うま、ん?―――いや、う、ま―――。

―――うん。いったん落ち着こう。

僕はラックから取り出したコップに水を注ぎ、ぐびっと飲んで、座った。

水うめぇ。

いや、そうじゃない!僕はコップを机にたたきつけた。

結論を言おう。

―――味がない。

いや、正確には味はあるのだが。薄い。

あと、米はある程度水分が抜けててもチャーハンっぽくていいのだが、キムチまで水分が抜けてしまっていてやや物足りない。

僕の頭はいつにもまして高速回転した。

逆再生された動画のように僕の脳裏にキッチンでの僕の行動がよみがえる。

卵入れて、キムチ入れて、米チンして、炒めて、茶碗にイン。

味付け、してないですね。

塩もコショウも入れてねえわ。

ゴキブリが現れた時の妹の叫び声よりも早く、塩と胡椒とパックに半分残ったキムチを手元に招集した僕はそれを突っ込んでかき混ぜた。

混ぜ終わったチャーハンはコンマ数秒もかからずに僕の口の中へ直行。

僕はもう緊張も糞もないという様に無造作にレンゲを口元に突っ込んだ。

あ、おいしい。

キムチはちゃんとみずみずしいし。ちゃんと塩コショウがついていて、米の水分のなさは時間をかけていない割に本格チャーハンの雰囲気を醸し出すことに一役買っている。

そしてこだわりポイントのごま油は今回もちゃんと仕事をしてくれたようだ。

香ばしい香りと、パラパラした食感を見事に作りあげてくれている。

僕は味のついたキムチチャーハンを堪能して、次なおした水を一杯飲み、一息ついた。

時間は7時42分。全然余裕で間に合う時間だ。

僕は既に教材を詰めておいたバックを肩に担ぎ、玄関へ悠然と歩みを進める。

やばい。今日は過去一でレベルの高い朝だ。

こんなに完璧でいいのだろうか。

走って、芸術的な風景を鑑賞し、自分でチャーハンを10分弱で創成。しかもその工程は今思えば最適効率にかなり近かったと思う。

混ぜてレンチンしてから炒める。なんだか自炊にこなれた社会人みたいでかっこいいな。

そう、今のオレは、無敵だ。

と、これで終わればよかったのだが。

「じゃ、いってきま―――――――――ぁ」

僕が機嫌よく伸ばした手の先には、いつもあるはずのものが消え失せていた。

定期入れが無い。

定 期 入 れ 無 い

ちくちょう。ちくちょう・・・。

鍵置き場にはなかった。自分の部屋にもなかった。もちろんバックの中にもなかった。ああ、あそこだろ、どうせ。

僕は涙をぬぐいつつ、昨日の洗濯物からズボンを引っ張り出し、濡れた定期を片手に家のドアを閉じた。

エレベーターの中で鏡に映る自分を眺める。

キムチのにおい、残ってないかな。

ちょっと心配に思いつつも僕はイヤホンを耳に着ける。

ポケットの中の定期入れはやや濡れてはいるものの、そこまでびしょびしょでもなかった。

まあ、こんくらいなら、まあ・・・。

電子音が鳴って無機質な女の人の声が流れ出してきた。

『―――接続しました』

僕は小さく鳴り出したドラムロールの合間をすり抜けるように、すっと開いたエレベーターから、一歩踏み出した。


(ほぼほぼ)ノンフィクションです。

一部の行動を追加したり、実際はしてなかった思考の変遷等を追加してます。

ただ、この行動に、走った後ノートに思い付いたアイデアを書きなぐっている部分を追加したら、ほぼ僕の今日の朝の行動になる、というのは嘘じゃないです。

追伸

最近投稿全然してませんでしたが、今GA文庫新人賞に向けて長編を書いてるところです。間に合うかどうかは怪しい・・・。いや、間に合わせる!間に合わせて見せる!

ということで、締め切りの5月31日23時をすぎるまで、投稿は多分消えますので、そこのところよろしくお願いします。

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