2024/4/9トンネル
昨日も同じような夢を見た気がする。
暗いトンネルの中を歩く夢。薄暗くてあまり遠くまでは見通せないこの道を私はいつも歩いている。
どれだけ歩いても誰もいないし、車もバイクも通らない。
きっとこの場所は私だけのものなのだろう。
カツーンカツーンと響く私の足とサッサッと擦れる靴とズボンの先。
この暗くて冷たい空間は私を柔らかく抱きしめてくれる。
闇に包まれて、闇に抱かれている安心感。先ほどまで脈打つようにうるさかった鼓動が静かに、静かになっていく。
たまに明滅する暖色のアルゴンランプ。天井のシミ。壁には消えかけた落書きの跡。
超人のように飛び上がって天井のランプを叩き壊したらどうなるのだろう。
きれいなあのオレンジ色がキラキラ零れ落ちてくる光景に私はうっとりとするのだ。
つま先に小石がカツンと当たって私は現実に引き戻される。
整備用のドアが少し前の壁にあることに気づいた。何か文字が書かれているがかすれていて読めない。
読めそうで、読めない。
「〇〇マデ」?
どこかへの行き先を示しているのだろうか。この扉を開けた人はどこに行ったのだろう。私はこれからどこに行くのだろう。
何となくドアノブを掴む。回らない。
逆向きに回すと、長い間使われていなかったはずのドアは音もたてずに開いた。
こんな簡単なことなのに、何かを成し遂げたような達成感を感じる。
中には階段がらせん状に下に続いていた。壁についた蛍光灯はこうこうと輝いておりその押しつけがましさに足を踏み出すのを少し躊躇する。
やっぱやめよう。私は扉を閉じて元のトンネルに戻る。
最初から分かっていた。きっと私はもう踏み出せない。踏み出したくない。
知らないところに入ることが怖くて、心地よくない空気が体に触れてくることが怖くて、逃げて逃げて逃げてここまで来たんだ。
それを認めると、心の重しがかすれて消えていくような気がした。
別に逃げてもいいじゃないか。何を怖がっていたんだろう。
さあ、逃げるための一歩を踏み出そう。
私はまだ見えないトンネルの先に向かって一歩を踏み出した。