97話 改造、金色の竜人船
財宝に潰される夢を見て、飛び起きた。もう、朝か。今日は炎雷丸にアカリさんが来る予定だ。移住の打ち合わせだと思う。自分の支度を整えたら、出迎えの準備をするか。――四人で甲板に出た。
「来客の対応を考えていませんでした」
「大型飛空船の中にいると、声が届きませんよね」
サクラさんは困った顔をしている。そして俺も同様だろう。
「甲板にいれば、人が近付くのは分かるが……」
「それだと急に人が来たとき、やっぱり困るよ」
今まで利用していた停泊所の格納庫だと、魔導通信機があった。しかし、ここは整備されていない停泊所。そんな便利な魔道具はない。
アカリさんなら魔力量ですぐに分かる。だけど大きな力を持たない人では、気付くことが困難だ。
「とりあえず結界の感知能力を高めます。人が触れたら、すぐに分かるでしょう。ただ他の連絡手段も考えるつもりです」
「入口に魔導通信機を設置するか?」
「そうしましょう」
ピヌティさんの案は実行確定だな。
「それと、入口が分かりにくいと思う! 通路を開かなければ、壁にしか見えないから!」
「言われてみたら、慣れないと入り方に困りますね。これも対策を考えましょう」
分かりやすく入口と表記して、魔導通信機を用意しておけばいいかな。そんな話をしていると、結界に人の反応があった。魔力の様子からして、アカリさんで間違いないだろう。毎度おなじみ風魔法で連絡し、甲板まで来てもらった。
「すみません。少し時間を、お借りします」
「構いませんよ。今日は予定もありませんので」
強いて言えば、休息を取るのが予定か。俺は水竜の素材で、飛空船の強化をするつもりだったけど。これは後でもいいしな。ちなみに素材は格納庫に落ちていた。水竜の鱗を発見したときは、その場で酒盛りをしたくなるほど喜んだ。
「アカリ殿の用件は、移住の件だろうか?」
「それもありますけど、他の用事もあるのです。ヤマトさんに、渡す物があって来ました」
俺に? なんだろうな。アカリさんは自前の異空間倉庫から、一片の羽根を取り出した。金色に輝く羽根。秘めた魔力は、水竜の鱗に匹敵している。
「まさか守護聖獣の素材!?」
「レッサーキンシの羽根と呼ぶそうです」
気になる名称だな。神話や伝説の生物と似ている魔獣に対し、レッサーの名を付けることが多い。ただし姿が類似しているだけで、ほとんどは強い力を持たない。場合によっては、蔑称で使われてしまうことも。守護聖獣の名前として適切かは、疑問が残る。
「……もう少し神聖な名前でなくて、大丈夫でしょうか?」
「守護聖獣様が、自身で名乗られたのです。村長に伝えたら、微妙な顔をされましたよ」
話を聞くと守護聖獣の存在は半ば伝説で、名称までは伝わっていなかったらしい。先日の託宣で、初めて名前を聞いたとか。
「そのレッサーキンシ様は、どうされました?」
「浄化を続けたことで、大きく力を失ったそうです。今は力を取り戻すため、故郷の聖地に戻られました。いつの日か、カナトビ島に帰還されるでしょう」
結界を張り直さない理由の一つかもな。守護聖獣が島へ帰還したとき、入るのに困らないようにと。
「さて本来なら伝承に倣い、この羽根で武具を作り授与するつもりです。ただヤマトさんであれば、素材のまま渡した方が活用できると考えました」
「ありがたく、飛空船強化に使わせていただきます!」
これは予想していなかったな。財宝よりも嬉しいかもしれない。なかなか金では買えない素材だろうし。
「良かったね、ヤマト君! 売ったら、いくらになるんだろう?」
「マリア! 失礼ですよ!」
「あ! ごめんなさい、アカリさん!」
サクラさんの叱責が飛んだ。マリアさんは、頭を下げて謝罪をする。自分の失言に気付いて、反省しているみたいだ。
目の前で守護聖獣の素材を売る話をしたら、さすがに怒ると思う。そっとアカリさんの様子を窺うが、気分を害した顔は見せていない。とりあえず、一安心だな。
「価格は分からないそうですよ。ただ売るときは魔獣狩り協会を通すといい、そう仰っておりました」
「ずいぶん親切な守護聖獣殿だな。それと人間の組織も知っているのか」
ピヌティさんが、感心したような声を上げた。少し呆れが混じっている気もするけど。聖獣は自身の素材を売ることも、想定していたのか。託宣の内容は、おおまかな部分だけ聞いた。とはいえ伝えきれないことも、きっとあるだろう。
「他に何か、お言葉を賜りましたか? 聞いたこと以外であったら、ぜひ教えてください」
「そうですね。しっかり睡眠を取るようにとか、今から湯治に行くが温泉はいいものだとか、拾い食いするときは浄化魔法を使うこと、などをお聞きしております」
温泉か、いいなあ。いや、そうではなくて! なんというか生活に密着した託宣だと思う。
「アカリさん、拾い食いをするのですか? お止めになった方が、よろしいのではないでしょうか」
「しませんよ! 人聞きの悪いことを、言わないでください!」
サクラさんの質問も、わりと失礼な気がする。本人は心配して、言ったみたいだけど。とりあえず話を進めよう。
「ところで移住の件について、お聞きしたいことがあります」
「なんでしょうか?」
「まずは移住希望者の人数を教えてください」
これを聞かないと、何もできないからな。
「それなら最初は300人の移住を、お願いします」
「けっこうな数ですね。……最初は?」
「あまりに希望者が多くて、何とか300人まで絞りました。様子を見ながら、次回の移住も頼みたいのです」
そんなに希望した人がいるのか。ちょっと意外だ。
「出発の時期は、どうしましょうか?」
「十日の猶予を頂けると、ありがたいですね」
さすがに早過ぎると思う。新天地に向かう、重大な引っ越しだ。しっかりと準備してほしい。
「余裕を見て、十五日後に出発としましょう。その間、俺たちはスンシュウの町で用事を済ませるつもりです」
「お心遣い感謝します。それと居住地ですが、本当に大型飛空船を借りても大丈夫なのでしょうか?」
昨日、作業の合間に話した件だな。無理をすれば、500人くらいは暮らせると伝えた。家が建つまでは、その船で暮らすことになる。
「問題ありません。今なら大型飛空船の二隻くらいなら、同時に運用できます」
「それなら、いいのですが」
しかも水竜の鱗や守護聖獣の羽根で、さらに飛空船創造スキルが強化されるはず。それからも細かい話を続ける。アカリさんは、正午前に帰った。これから別の仕事があるらしい。
俺たちは簡単に昼食を済ませると、炎雷丸から降りた。
「これから飛空船の強化を始めます。それに合わせて、改造も行うつもりです」
「大物の素材が二種類か。楽しみだな」
「あたしも気になる!」
ピヌティさんとマリアさんは、すでに記録を取る準備が完了している。強化したら操作実験を行うのが、恒例だからな。
「竜人船も変化しますよね。どうなるのでしょうか」
「改造の方向性は、考えました」
異空間倉庫を開き、複数の魔物素材を取り出す。道中で入手した分も、含まれている。だが目玉となるのは、やはり水竜の鱗と守護聖獣の羽根だ。
「飛空船、強化!」
素材が魔力に変わり、炎雷丸に流れていく。身体と飛空船が熱くなる感覚。油断すると気絶しそうなくらい、膨大な魔力が動いている。制御するのも、かなり困難だ。暴走の危険に冷汗を流しつつ、なんとか強化を終える。
「成功です」
「さっそく乗ってみよう!」
「いえ、まずは送還と召喚を試してみます」
申し訳ないけど、マリアさんの提案は却下させてもらった。召喚速度にも変化がある気がしたのだ。何度か送還や召喚を繰り返した。
「思った通り、召喚の速度が上がっていますね」
「戦闘中にも、乗り換えやすくなるな。いいことだ」
次は人型飛空船を確認しよう。この島なら格納庫に行かなくてもいいか。
「召喚、竜人船トライバスター!」
目前に現れる巨大な存在。見慣れた形ではあるけど、以前と違う点が一つ。全身を黄金色の輝きが包んでいる。今までの竜人船は、赤色を主としていた。それを、金色に変えたのだ。




