96話 移住決定、ギントビ島の住民
「夢幻島に移住ですか。理由を教えてください」
「守り人の役目は、結界を維持することでした。大罪の欠片を外に出さない、それが目的。しかし状況は変わりました」
エンバー・Pの欠片を、回収したからだな。俺は話の続きを促す。
「瘴気の大元が無くなった今なら、カナトビ島を浄化することも不可能ではありません。元の姿を取り戻せるかもしれないのです」
「ギントビ島で生活したままでは、駄目なのでしょうか」
今の暮らしを捨てることになる。一から生活基盤を整えるのだ。どう考えても、大変だろう。
「私たちでは、結界を通過できません。導きの賽が必要となります」
「しかし結界を消滅させ、張り直すことは可能です。そのときに新しい鍵を用意するのは、どうですか」
この方法も大変ではある。しかし一度だけ行えば、後は保守すればいい。総合的な労力は、比べ物にならない。
「できれば、あの結界は維持したいと思います。何代も前の聖女様と守護聖獣様が、協力して張ったものと伺いました。私たちの都合で、勝手に消すのは忍びないのです」
「承知しました。夢幻島の移住の件、進めていきましょう。俺たちにとっても、ありがたいことです」
結界は守護聖獣も関わっているのか。だから通過することが、できたのだろう。それはともかく、移住の方法を考える必要があるな。
「ありがとうございます。頂いた財宝は、移住のために使う所存です。ヤマトさんが必要な物は、ご自由にお持ちください」
「それなら魔法薬の半分と、夢幻島の生活では活用しにくい換金物を頂戴します。よろしいでしょうか?」
特に前半は譲れない。サクラさん達の生命に関わることだ。アカリさんは、村長を見た。
「もちろん構いません。守護聖獣様が認められたヤマト殿には、財宝を自由に扱う資格がございます」
無事に村長から許可をもらった。助かる。ただ気になるフレーズが聞こえたな。守護聖獣様が認められた、というのが分からない。感謝するとは言っていたから、そのことだろうか。
「疑問に思ったでしょうから、補足しますね。先日のことです。守護聖獣様から、託宣を賜りました」
そして静かに内容を語り出す。厳粛な雰囲気で、思わず背筋を伸ばしてしまう。表情も怖いくらい真剣だ。
遥か昔に守護聖獣は大木と同化し、島の浄化を続けていた。しかし水竜に宿った欠片は厄介で、どんどん島の瘴気は増えてしまう。なんとか水竜の動きは封じたものの、自身も大木から移動することはできなかった。
「そんなとき俺たちが来て、欠片を回収したのですね」
「その通りです。欠片を支配したことに、たいそう驚いていました。感謝の念を忘れぬようにと、仰せつかっております」
まあ、俺に不利益な話ではないか。
「夢幻島の開拓とカナトビ島の浄化は、両立できそうです?」
「当面は無理だと思います。浄化要員は、私を含めて数名しかおりません」
数名とは、ずいぶん少なく感じる。しかし島の人口は、そんなに多くないはず。専門の魔法教育機関もなしに、数人がいるだけでも大したものだな。
「瘴気は周囲に影響を与え、どんどん増えていきますからね。確かに少人数では、困難でしょう」
「ですので、まずは夢幻島の開拓を手伝わせてください。少しずつ浄化要員を増やして、いつの日かカナトビ島を復活させます」
気の長い話だけど、不可能ではないな。新たに発生する瘴気より、浄化する量が増えれば達成は可能だ。やっぱり一朝一夕には、いかないだろうけど。
「聖女様とヤマト殿のお力添えで、希望が生まれました。村長として、厚く御礼申し上げます」
結果として、島の助けになったのなら良かったと思う。
「聖女として、私も力を尽くすつもりです。いずれはカナトビ島に常駐して、浄化作業を続けましょう」
「そこから先は時間を掛けて、瘴気を払っていくのですね。一日に千の瘴気が生まれるのであれば、一日に千五百を浄化する」
険しい道だろうけど、真っ暗闇ではない。俺も応援したいと考えている。いつか真のカナトビ島を見る日まで。
話がまとまった気分だけど、まだ財宝の確認は終わっていない。魔法薬の半分は貰うと確定した。後は換金物や魔道具、そして武具か。要相談だな。
「見てください、東方の刀もありますよ」
「回収しているときに、サクラさんが興味深そうに見ていた刀ですか?」
「気付いていたなら、声を掛けてください!」
あまりに目が本気だったから、話し掛け辛かったのだよな。
「我らの祖先が島に着いたとき、すでに刀鍛冶師の夫婦が住んでいたと伝わっています。その弟子たちの作品でしょう」
「無人では、なかったのですね」
未開空域とはいっても、誰かしら人がいることもあるか。
「カナトビ島やギントビ島の名称は、その二人が付けたと聞きました。そして子孫の一部は、東方に帰ったとの言い伝えもあります。島で発展した鍛冶技術を、外に広めるため旅立ったとか」
「じゃあアキツ国に、子供たちがいるかも!」
マリアさんが、感動の声を上げた。その子孫たちは、無事に東方へ着いたのだろうか。もし今でも鍛冶の技術を伝えているとしたら、夢のある話だな。
「直系の子孫なら、この島にいるのですけどね」
「なるほど。ちょっと家系図が気になります」
きっと長い巻物に違いない。ふと横を見たら、ピヌティさんが短剣のような物を持っていた。じっと見つめている。
「どうしました?」
「ああ、ヤマト殿。気になる武器があってな」
手にした推定・短剣を見せてくれる。大きさは8センチメートルくらいか。後部が輪になっているのが特徴だな。あ、もしかして。
「これクナイでしょうか」
「ああ! 聞いたことがあるな。親戚に使い手がいたはず。私は一度も姿を見たことがないが」
たしか登器として使われていた道具だよな。他にも投げたり、穴を掘ったりと色々な用途があったとか。
「今、クナイと聞こえました。危険な物があるのですね」
「え? 危険?」
まあ武器としても使えるし、安全とは言えないと思うけど。サクラさんは、鋭い目付きで重々しく頷いた。
「苦しむ時間すら無く、あの世に送る。そこから苦無と名付けられました。伝説の暗殺者が使っていた武器です」
「そ、そうでしたか」
俺の認識とは、全く異なる見解だ。絶対に違うと思うけど、ここは異世界。安易に否定できない。
そして目の前には、そんな武器が十本もある。五色で二本ずつ。それぞれ緑、赤、黄、白、黒だ。
「宝物庫にあったのだから、特殊な武器なのだろう」
「魔導武器でしょうか」
魔力の流れを感じる。どうやら色によって、属性が異なるみたいだ。
「おそらく魔道具だと思います。魔力を込めると、色が示す属性の力を扱うことができそうです」
「ほう。面白そうだな。どんな属性を使える?」
「緑が風、赤が火、黄色が土、白が金、黒が水でしょう」
魔力を感知して調べた結果だ。
「風や火は理解できる。金が分からないな」
「金属を意味していると考えられます。物を硬くしたり、土と合わせ鉱物を探したりが可能みたいです」
「なるほど! ちょっとした魔法使いになれそうだ」
似たような魔道具はあるが、その中でも群を抜いて魔力の変換効率が良さそう。宝物庫に保管されていただけある。
「ヤマト殿。このクナイ、私が使っても構わないか?」
「大丈夫だと思います。念のため、村長とアカリさんに確認しましょう」
開拓にも使えそうだけど、必須というわけではない。拠点には代わりの魔道具も結構ある。二人に聞いたら、問題ないそうだ。
「ところで俺たちが扱えそうな防具、見当たりませんね」
「ホントホント! 鎧や盾ばかりだよ!」
宝物庫には、服系統の装備が無かった。保存魔法と相性が悪く、朽ちてしまったのかもしれない。保存する物の強度により、効果に差が出ると聞いたことがある。
しばらく財宝の確認が続く。利用できそうな物が多くて、本当に助かる。不要な物は換金して、開拓資金に回すつもりだ。それとサクラさんの見ていた刀だけど、秘刀術には向かなかったらしい。
「使えそうなのは、魔導装飾品くらいだな」
「あ! 良さそうな腕輪がありました。魔法抵抗力を高める効果があります。数も揃っているから、四人で持ちませんか?」
「賛成します。仲間の証ですね」
サクラさんの考え方もありだな。チームメンバーを示す腕輪。団結力が高まりそうだ。他の二人も同意してくれる。
日が沈みかけた頃、確認が終わった。すぐに使わない物は、再び異空間倉庫に収納してある。
それにしても各種魔法薬は、本当にありがたい。全員が貰った腕輪も気に入っている。ピヌティさんの魔道具も、応用が利きそうで素晴らしい。名前が分からないから、五行クナイと呼ぶことにした。そして換金用の宝石も貰っている。今日は良い夢が見られそうだな!




