95話 宝物庫、奇跡の秘薬
今日は皆が疲れている。一度、夢幻島へ帰還することにした。一晩、ゆっくりと休む。――魔力は十分に回復した。転移扉を通り、カナトビ島に入った。
ギントビ島へ戻る前に、寄る場所がある。甲板で三人を見渡す。真剣な表情で、声を掛けた。
「宝物庫へ行きましょう!」
「賛成! 炎雷丸、動かすよ!」
「お願いします、マリアさん! 浄化結界は、任せてください!」
エンバー・Pの欠片を回収したけど、まだ周囲に瘴気が満ちている。欠片を回収したら全て解決、とはいかないみたいだな。だが、とにかく宝物庫だ。朽ちた王宮に眠る宝。心が躍る。
「真剣な顔で、言うことでしょうか」
「言うことですよ、サクラさん!」
いや、浮かれてはいけない。魔獣も瘴気も、まだ健在だ。この場が危険であることに、変わりはないのだから。
「では改めまして。宝物庫の探索を開始しましょう。マリアさん、舵を頼みます。ピヌティさんは、警戒と進行方向の確認を。サクラさんは魔獣との戦闘に備えてください」
全員から了解の声を聞き、炎雷丸が出発した。道中で魔獣と遭遇したが、誰も傷を負うことなく勝利している。そして待望の宝物庫が見えてきた。風雷号に乗り換え、壁の穴から部屋に入る。
「浄化魔法を使いつつ、片っ端から財宝を回収しましょう!」
「やった! あたしたちも大金持ちだよ!」
マリアさんが、歓喜の声を上げた。
「これは島の所有物だと思います。返さなくては、いけません」
「その通りですね。俺も異論は、ありません」
誰が宝物庫の継承者かと考えれば、ここの子孫だと分かっているギントビ島民だろう。守り人として、カナトビ島の監視役を務めている。そして結界の保持を行ってきた。労に報いる意味でも、すべからく返却するべきだ。
「ところでサクラさん。この建物を見て、どう思いましたか?」
「え? 荒れ果てていると思いますけど……」
よし、想定した答えだ。
「そうでしょう。荒れ果て、誰も管理しておりません。宝物庫も同様です」
「なんとなく、言いたいことは分かったな。つまり管理をされていない財宝なら、遺失物と同義であるということだろう」
さすがはピヌティさん。すぐに理解してくれた。
「えっと。落とし物を返して、報労金を受け取ろうと言いたいのですか?」
「正当な報酬だと存じております」
ここまで来るのに、金も時間も掛けている。命の危険さえあった。報酬を求めることは、自然な行為だろう。そもそも遺失物として扱えるのかは知らない。重要なのは、自分と相手が納得するかだ!
「いいじゃないか、サクラ。落とし物を届けて、お礼を貰うだけだ。違法な行為ではない」
「俺は遵法精神に富む人間ですから! まだ罰金の支払いも残っていますし、財宝の分け前を願い出ましょう!」
「はあ、分かりました。でも強く要求するのは、やめてくださいね」
そこは気を付けよう。金は人を変えるからな。
「それでは始めましょうか。まずは台座の上にある魔石を浄化します。その後に、少しずつ対応するつもりです」
「まとめて浄化は無理そうか?」
「瘴気の量が多く、ちょっと難しいでしょう」
繊細な宝石なんかだと、浄化魔法の反動で壊れかねないからな。とはいえ浄化しないで持ち帰るのは、非常に迷惑を掛ける。そして瘴気に満ちた物を、異空間倉庫に収納したくない。
「まあ、仕方ありません。地道に作業します。魔獣の警戒は、頼みました。それとマリアさんは、浄化した財宝の選別をしてください。ある程度で構いませんので」
「任せて!」
それからは、ひたすら浄化魔法を使う。マリアさんは鑑定だ。それと希少な魔物素材もあった。こちらはピヌティさんに、目利きを任せる。武器や防具は、サクラさんと一緒に見ていたな。
通常の芸術品や美術品は、瘴気の影響でボロボロだ。それでも原形が残っているのは、物体を保護する魔法が掛けられていたのだと思う。少しでも動かすと崩れそうだ。持ち出すのは無理と判断した。
一番、気になったのは魔法薬セットだな。瘴気の影響が消えれば、ぜひとも確保したい。中には奇跡の秘薬と呼ばれる、極めて貴重な品もあった。それ以外にも、上級の魔法薬が何本か。
「貴重な武具がありますね。込められた魔力量が相当なものです」
「これだけの瘴気に耐える武具だ。確かな逸品だろう」
鑑定をしながらも、必ず誰か一人は警戒に当たっている。だから俺も安心して、浄化魔法を使える。ある程度の選別ができたら、異空間倉庫に収納。ひたすら浄化と収納を繰り返す。――作業が終わったのは、真昼が過ぎた頃だ。
「終わりました! 撤収します!」
「休まなくて、大丈夫ですか? ヤマトさんは、ずっと浄化魔法を使っていましたよね」
魔力が大量に減っており、かなり疲れているのは事実だ。
「この場で休憩も、少し落ち着きません。ギントビ島に戻ってから、休息を取るつもりです」
「わかりました。でも無理はしないでください」
サクラさんの心遣いに感謝しつつ、帰路を急いだ。大きな問題も無く、カナトビ島の外に出る。隣のギントビ島まで、あと一歩だな。
炎雷丸は無事に島へ帰還した。マリアさんが、張り切って操船している。
「よーし! 港にとう~ちゃ~く!」
「む? 小屋から人が出てきたな。こちらに向かっているようだ」
ピヌティさんの言葉を聞き、俺は目を凝らして小屋の方向を見る。
「もしかして村長でしょうか」
「そうだな。間違いない」
何か用かな。とりあえず船を停めて、陸地に降りるか。ふと見たら、村長は早足で移動していた。急ぎの話だろうか。とりあえず近付いてみる。
「戻られましたか、ヤマト殿! 話は伺っております。大罪の欠片を回収されたとのこと。きっと島の環境も改善するでしょう。島民を代表し、お礼を言わせてください!」
「お気になさらず。こちらの都合で動いただけですから」
本当に自分たちの都合だからな。それはともかく、やけに情報が早い。俺たちは戻ったばかりなのに。
「ところで誰から聞いたのですか?」
「カナトビ島の守護聖獣様から、託宣が御座いました。詳細は聖女様に、お聞きください」
一つ、心当たりがあるな。
「もしかして金色に輝くトンビの姿をしていますか?」
「そうです! 伝説の守護聖獣様を、この目で見られるとは思いませんでした!」
ちょっと興味が湧いてきた。まずは託宣の内容を聞いてみるか。聖女――アカリさんを探そう。あ、先に財宝を渡すべきだな。
「ところで崩壊した王宮の宝物庫から、使えそうな物を持ち出しました。返却しますので、ご確認ください」
言ってから気付いたけど、王宮で合っているのかな。宮殿みたいだから、なんとなく呼んでいた。分かってくれたら、いいのだけど。
「瘴気の中でも、残っていたのですか。それを引き渡していただけるとは。ご厚情痛み入ります」
「喜んでいただけたなら幸いです。財宝に付着した瘴気は、こちらで浄化してあります。すぐに倉庫へ向かいましょうか?」
「ご迷惑でなければ、お願いします」
さりげなく浄化したことをアピールしておく。俺の浄化魔法は、アカリさんから指導してもらったもの。しかも、ほぼ無報酬も同然に。瘴気を払ったから報酬くれとは、ちょっと言い出しにくい。
村長と一緒に倉庫へ行く。分類しながら置くとなると、少しスペースが心配だ。決して狭い倉庫ではないが、財宝の量も多いからな。
――宝物庫から回収した品を、全て出し終える。途中でアカリさんも合流した。そして鑑定役の人たちも来ている。
「何ともはや、壮観な眺めですな」
「気持ちは、とてもよく分かります」
村長が困惑したような声を上げた。回収するときは、浄化しながら異空間倉庫に収納した。本来の輝きを取り戻した財宝の山。まとめて観察するのは初めてだ。
「感心するのは後にして、分配を考えましょう。ヤマトさんも親切心だけで、回収したわけではないですよね」
「肯定します」
報酬の件を切り出す前に、アカリさんから話題を振られる。最初は交渉する気に満ち溢れていたけど、宝の山を見てたら冷静になってきた。自分が小さい人間に思えてくる。それはそれとして、交渉を止めるつもりはない。活動資金も必要だし。
「まず島民からの希望を聞いてください」
「どうぞ」
島の生活に役立つ魔道具でも、あるのかもしれない。魔法薬だとすると、交渉が難航しそうだ。特に奇跡の秘薬は、お互いに有用だろう。
「私たちは、夢幻島への移住を願っています」
……財宝の希望ではないのか。急に話が飛んだ気がする。




