94話 水竜戦、刺突奥義
「爆裂針!」
「バンバン撃つよ!」
「秘刀術、雲刃飛動!」
「炎と雷の円舞、激しく踊れ!」
三者三様の攻撃が、水竜を襲う。避けるか防ぐかすると思ったけど、予想外の行動に出た。攻撃を受けながら、反撃をしたのだ。大量の氷槍が、向かってくる。
「避けてください!」
「ちょっと無理!」
マリアさんが避けるのは、かなり難しそうだな。本人も慌てているし。
「炎の壁!」
「あ、ありがと!」
前衛の二人は、上手く避けたようだ。ただ飛空船内のあちらこちらが、凍り付いている。
「足下、危ないです! 滑りますよ!」
「なに、問題ないさ」
「秘刀術には特殊な歩法も、あるのですよ!」
足を取られずに、移動できるのか。凄いな。そのまま二人は、水竜に攻撃を仕掛けた。今度も魔獣は、防御や回避をしない。ただ攻撃だけを行っている。急に大気が震えた。鋭い音が、周囲に響く。
「水竜の咆哮か!」
竜種の多くは、力持つ声を発する。目前の竜も、例外ではないのだろう。素早く被害を確認する。ピヌティさんとマリアさんが、少し体を揺らした。だけど二人とも、すぐに立ち直ったようだ。
よし、戦闘を続行しよう。そう思った瞬間、周囲から魔力の動きを感じた。俺は警戒の声を上げる。
「氷の近くは、危険です!」
凍り付いた場所から、氷柱が撃ち出される。俺は魔力の流れを感じたとき、全身に魔力を張り巡らせる。さすがにノーダメージとは、いかなかった。だけど行動に支障はない。他の皆は!?
三人とも、多かれ少なかれ傷を負っていた。だが重傷者はいない。マリアさんが動揺しているな。咆哮の直後に、不意打ちの魔法攻撃だ。無理もないだろう。
「癒しの光よ、我が同胞に救いを与えん!」
「助かります!」
サクラさんは言いながら、水竜に斬りかかった。鱗を切り裂き、血と瘴気が流れ出る。待てよ、瘴気だと!
「マリアさん、浄化弾を! 思い切り撃ってください!」
「わ、わかった! ありったけ撃ちまくるよ!」
想像した以上に、魔獣と瘴気が結び付いているようだ。浄化の力が、特効になるはず。
「くっ、浄化針を持っていれば!」
ピヌティさんが、悔し気な声を上げた。浄化針の作成には、特殊な加工が必要である。扱っている店も少ない。
「秘刀術、有刃無常・浄!」
聖化粧術の浄化に、秘刀術の魔力消失を合わせた技のようだ。瘴気の元が魔力である以上、十分な効果を見込めるだろう。サクラさんの一撃で、かなりの傷を負わせた。この隙を見逃さない!
「炎雷!」
「貫け、直刀!」
俺とピヌティさんの連続攻撃だ。しかし倒れる様子は、感じられなかった。それどころか反撃までしてくる。敵の動作に注意しながら、全員で攻撃を続ける。
動きが大雑把だから、なんとか致命傷を負わずに済んでいた。しかし軽傷は何度も受けており、そのたびに回復魔法を使っている。
「なんで倒れないの!?」
「与えた傷が、消えていくのですよ!」
マリアさんに答えながら、水竜を改めて観察した。瘴気が身体を再生している。だが決して癒しているわけではない。傷から瘴気が入り込んで、無理矢理に身体を動かしているようだ。
「ヤマトさん、大技を使いましょうか? 敵の回復速度を上回る力が必要かと」
「いえ、今は温存してください」
俺もサクラさんと、同じことを考えている。だけど単独で大技を使っても、中途半端になる恐れがあった。風魔法で会話を補助し、動きながら相談を続ける。
「最後は俺たちのできる、最大威力の技で決めましょう。それまで耐え忍んでくれますか?」
「はい!」
問題は、いつ仕掛けるかだな。防御も回避もしていないのに、致命傷を与えられなかった。自身の攻撃で、こちらの魔力を削いでいるからだ。
「何か不意を付く方法があれば、いいのですけど」
「毒ザメみたいに、腹の内側から爆破はどうだ?」
「あれは偶然の産物ですから。狙ってするのは、難しいと思います」
ピヌティさんの提案は、ちょっと無理がある。
「黒雲転移で、お腹の中に魔石を移動できませんか?」
「残念ながら、それも不可能です。体内は敵の魔力が、満ちていますから」
直接の転移は、最上級者でも困難だ。
「竜人船に乗ったまま転移して、敵の背後に回るのは?」
「転移すると、竜炎牙刀の強化が解けます。奇襲をしても、十分な威力が出せないかと」
相手は水竜だからな。魔法防御力が高い。生半可な攻撃では、通用しないはず。もう少し慣れていれば、竜炎牙刀を強化したまま転移ができたと思うけど。一週間の訓練だと、実現できなかった。
「それなら水竜本体の転移はどうかな。あらかじめ必殺技を準備して、発動直前に目の前へ移動させるの」
「おそらく転移失敗となるでしょう。敵から魔力の干渉を受けたら、さすがに抵抗すると思います。防御行動と魔法抵抗は、別の話ですので」
そして水竜の魔法抵抗力なら、俺が使う時空魔法を打ち消すことも容易なはず。だけど必殺技を準備しておくのは、いいかもしれない。隠蔽結界で気配を消して、目の前を通ったら奇襲するとか。
……駄目だ。大技の魔力を、隠し切ることは不可能だろう。相談をしながらも、魔獣の攻撃を捌いていく。途中から水竜は甲板に降りて、近接戦も仕掛けてくるようになった。飛行に使う魔力を、攻撃と再生に回しているのだと思う。
「尻尾、気を付けろ!」
「わわ、危ない! 穴が空いているよ!」
ピヌティさんとマリアさんの会話を聞いて、甲板の床に視線を走らせる。本当に穴が空いており、格納庫が見えていた。甲板の端だから、落ちる心配はないか。あ! 奇襲、できるかも。
「一つ、思い付きました。サクラさん! 協力してください!」
「もちろんです!」
それから全員に、作戦を説明する。風魔法を活用し、敵に悟られないように気を付けた。魔獣の中には、人語を解する者が存在するとか。目前の水竜が言葉を理解するとは思えないけど、万が一ということもある。
「作戦、開始します! 黒雲転移!」
俺とサクラさんは、格納庫にある竜人船の操縦席へ移動した。この格納庫は時空魔法により、一種の独立空間となっている。そこに隠蔽結界を張ることで、膨大な魔力を気付かれないで済む。
「命力増幅と魔力合一、今回は両方とも使います」
「承知しました」
操縦席の中で、そっと彼女を抱きしめる。ゆっくりと、二人の唇が重なる。身体に暖かさが満ちていく。命力増幅の発動だ。そして闇と光が混ざり合う。相反する魔力が、一つに融合していく。魔力合一、無事に成功した。
「サクラさん。攻撃の準備を、お願いします」
「お任せください」
俺は甲板の様子を確かめる。命力増幅の効果で、感知能力も上がっている。マリアさんとピヌティさんには、水竜の相手を頼んだ。かなり危険な役目だが、きっと遣り遂げてくれるだろう。
竜人船トライバスターを操作しつつ、竜炎牙刀に浄化の力を付与した。魔力合一により、かなりの強化が見込める。
「ヤマトさん。いつでも大丈夫です」
「こちらも問題ありません」
俺たちの準備は整った。甲板の様子を把握しながら、機を待つ。かなり激しく動いているな。
実際に待ったのは、わずかな時間のはずだ。しかし極めて長い時間でもあった。ようやく、その時が訪れようとしている。――来た!
「飛空船、改造! 甲板の一部を消す!」
甲板の下は格納庫だ。二人には魔獣の誘導を頼んでいた。水竜は足下が消失し、竜人船の頭上に落ちてくる。飛行の魔力を、別へ回したのが仇になったな。
「これで終わりです! 秘刀術、刺突奥義! 刃突竜進!」
竜人船を飛翔させ、水竜に向かう。両手で竜炎牙刀を構え、全力で突き上げた。刀が首元を貫き、体内に魔力を送り込む。
「全力の浄化魔法! 骨の髄まで、瘴気を払え!」
身体の内側から、浄化の力を満たす。水竜は刀に貫かれたまま、静かに消滅していった。
「今のが叢雲流の刺突奥義ですね」
「ええ。貫通力では、秘刀術の中でも最高峰でしょう」
かつて叢雲流秘刀術には、刺突奥義が存在しなかったらしい。別の流派から取り入れたのが、鵺に致命傷を与えた刃突猛進だ。そして叢雲流独自に発展させた奥義が、刃突竜進と聞いた。
とりあえず降りるか。竜人船を格納庫に戻そうとしたとき、湖の異変に気付く。瘴気が水に宿り、激浪を作り出していた。
「急に荒波が発生しましたよ!」
「おそらく、水竜の消滅が原因でしょう」
影響下にあった湖が制御を離れたことで、暴走しているのだろうな。遠からず、炎雷丸が波に飲み込まれそうだ。急いで船へ戻ろうと思った瞬間――突然、周囲に光が満ちた。
「ヤマトさん、見てください! 大木の方に、何かがいます!」
「金色のトンビ?」
――感謝する。欠片の主よ――
声が聞こえた。そして光が収まると、湖の瘴気が浄化されていた。トンビは高く鳴き声を上げると、飛び去っていく。あちらの方向には、ギントビ島があるな。
「欠片の主とは、あなたのことですよね。感謝していると、言っていました。悪い存在ではないのでしょうか」
「少なくとも、敵意は感じられませんでした」
サクラさんにも声が聞こえたのか。炎雷丸に戻り、他の二人にも確認する。どうやら全員が聞いたようだ。最後に不可思議な存在を見たけど、無事にエンバー・Pの欠片は回収した。帰還の準備をしよう。




