91話 未回収、瘴気に満ちた財宝
宝物庫はともかく、今は魔石の浄化が先だ。
「瘴気よ、消し飛べ!」
よし、成功。それで周りの物をどうするかだな。瘴気にさらされても、形を維持してきた逸品だ。浄化をすれば、途方もない価値の品になるだろう。とりあえず壁に空いている穴は気にしない。
「ねえ、ヤマト君。もしかして湖の大木から瘴気の流れを辿れば、この宝物庫まで来られたのかな」
「……そうですね。少なくとも毒ワニとは戦わずに、辿り着いたと思います」
マリアさんのことだから、皮肉ではなく純粋な疑問だよな。俺は壁に空いている、中型飛空船が通れそうな穴を見た。多くの瘴気に触れたため、他の壁よりも脆くなったのだろう。
「しかし移動の時間が短縮したのは事実だ」
「まあ湖に戻らず魔石へ向かって、正解だったことにしてください。それより財宝のことを考えませんか」
「瘴気まみれの宝物。ヤマトさんの異空間倉庫に入れても、危険な気がします」
おそらく大丈夫だとは思う。けど率先して収納したくはないな。サクラさんの言うように、危険が無いとも言い切れないし。
「エンバー・Pの欠片を回収してから、考えることにしましょう」
「賛成だな。まだ浄化地点は残っている」
財宝の回収は、後回しだ。とりあえず壁の穴から出て、広い場所まで出る。炎雷丸に乗り換えて、次の魔石へ向かった。
「あった! 台座と魔石だ!」
「周囲には魔獣の群れですね」
魔力量からすると、大物はいない。ただ数は多い。物量は恐ろしいからな。油断はできない。
「また炎雷砲で蹴散らしますか?」
「魔力量が心許ないと思います。なんとか船上で、戦い切りましょう」
問題は魔獣の種類だな。多様な魔獣が群れを作っている。薄々分かってはいたが、この島全体が迷宮のようになっているのだろう。それも暴走に近い状態だ。
「地道に削るしか、なさそうだな」
「よし、戦闘開始です!」
やはり単独で強力な魔獣は、一体もいなかった。これなら十分に対処が可能だ。時間は掛かったものの、魔獣の殲滅を完了した。同時に魔石の浄化も済ませる。
「次に行きましょう! 最後の魔石です!」
「浄化の後は、本命の水竜が残っているだろう。長丁場になることを見越し、交代で昼食を取らないか」
ピヌティさんの進言に、否やはない。順番で食事と休憩を取った。仮眠もしたいけど、さすがに無理だな。
数時間後、瘴気の溜まり場に到着した。これで四ヶ所目。今までで一番、瘴気が濃い。広い範囲で見通しが悪く、状況の確認も一苦労だ。
「魔獣か、一体いるな。――あれはサメだろうか?」
「相当な魔力ですね。いったん止まって、作戦会議を行いましょう」
運が良かったのか、周囲に魔獣の姿は見えない。話し合いをする時間くらいなら、なんとか確保できるだろう。
その前に魔獣の確認だな。ピヌティさんの言う通り、サメに似ている。……もしかしてオオジロザメかな。図鑑で見たことがある。やはり瘴気の影響を受けていた。毒ザメと呼ぼう。当たり前のように、空を飛んでいる。
「仲間の姿は見えないな。単独でいるみたいだ」
「一匹だけなら、何とかなりそうですね。あ、魔獣なら一体と呼ぶのが適切でしょうか」
たしか魔力を持った存在は、一体二体と数えるのだったな。大半の人は、あまり気にしていないみたいだけど。
「数え方は置いといて、対策を考えます。できれば近付かずに、討伐したいです」
「雷撃砲を使ってみる?」
マリアさんも操舵室から会議に参加だ。こういうとき風魔法は便利だと感じる。これもリモート会議と言うのだろうか。
「毒ナマズが炎雷砲に対処していました。毒ザメにも通じない恐れがあります。回避能力が高そうですし」
「あ、そうか。避けられたら、完全に魔力の無駄だもんね」
魔力の高さは、毒ナマズや毒ワニを遥かに超えている。おそらく回避能力も高いだろう。そして高い魔力を持っている魔獣は、行動を封じるのも一苦労だ。搦手は難しい。相談を続けたが、良い案は出なかった。情報も全く無いし、仕方ないか。
「とにかく正面に立つのだけは、避けてください」
「噛みつかれたら、危険ですよね」
サクラさんも、サメが苦手そうだな。いや、得意な人も珍しいだろうけど。よし度胸を決めて、進もう。マリアさんに頼み、炎雷丸を発進させてもらった。
「毒ザメが気付いた!」
「全員、警戒してください!」
ピヌティさんの緊迫した声が響いた。皆に注意を促しながら、俺は毒ザメから大きな魔力が放たれるのを感じる。魔力の行先は、遥か頭上。
「まさか隕石召喚!?」
「速いですよ!」
サクラさんが空を見上げながら、驚きの声を上げた。自然落下の速度とは思えない。防御魔法では遅いな。飛空船創造スキルを使おう。
「ボート、召喚!」
込められた魔力量からすると、伝説級の魔導師が使うほどではないだろう。だが、それでも十分な脅威だ。盾にしたボートから悲鳴が上がる。何度も酷使して、すみません!
「砕けた!」
「隕石も、ボートもですか! 結界強化!」
ピヌティさんの声を聞き、急いで炎雷丸の結界を強化した。砕けた隕石にも、油断ならない魔力が感じられる。
隕石の破片が、雨霰と降り注ぐ。数が多い。避け切れない! 咄嗟に魔力で身体を強化した。普段の数倍くらい魔力を使う。それでも威力を削り切れなかった。
「癒しの光! ピヌティさん、マリアさんに連絡を!」
「了解!」
結界強化の際に、風魔法が途切れた。だけど今は回復魔法が最優先だ。操舵室にいるマリアさんにも、掛かるようにする。彼女も傷を負った恐れがあるからな。
「マリアは無事だ! ケガも無いとのこと!」
「良かった! 二人も大丈夫ですか?」
操舵室は特に防御を固めている。そのおかげかな。
「多少の傷は負いましたが、今の魔法で回復しましたよ」
「サクラに同じく」
二人とも無傷とは、いかなかったか。あれだけの数が降り注いだのだから、当然の話だろう。上を見ると、ボートが落下していた。地面へ落ちる前に回収する。
「とにかく反撃――」
「待った! 毒ザメの様子がおかしい!」
反撃開始と言い掛けた俺を、ピヌティさんが遮った。自分の目で、魔獣の様子を確かめる。
「魔力が溢れています! 何か仕掛ける気です!」
「見ろ! 小さいサメが増えた!」
毒ザメの周囲に、小型のサメが出現した。少なくとも十体はいそうだな。分身体と思われる。
「十三体いるな!」
ピヌティさんが正確な数を把握してくれた。大本の毒ザメに比べると、個体の魔力は低い。とはいえ、あれだけの数だ。無視することは、できないだろう。
再び風魔法を発動し、マリアさんに連絡をする。
「雷撃砲を使ってください。本体より回避能力が低そうです。おそらく何体かは、巻き込めるでしょう」
「わかった!」
小型化で機動性がアップとか、あったら泣くぞ。魔力の量は、全体の能力に影響がある。おそらく小型サメの方が、機動力が低いと思う。
「準備できたよ! 雷撃砲、発射!」
「あ! 毒ザメは逃げました!」
サクラさんの視線を追うと、確かに毒ザメが退避している。逃げ足、速いな! それでも小型のサメは、傷を負う。三体は消滅した。残りは十体か。
「マリアさん、浄化砲を使いましょう」
「あれ使うと、炎雷丸の魔力が大幅に減るよ?」
「魔石で補給ですね。そこそこ良い魔石を使ってください」
操舵室にも、魔石を燃料に変換する装置を付けてある。こういうときのためだ。そして俺とサクラさんは、竜人船トライバスターの操縦席に向かう。浄化砲の発射指示は、ピヌティさんに任せた。
「マリア! 撃て!」
「浄化砲、発射!」
雷撃角が輝き、前方に光が広がっていく。効果範囲は、扇形といえば分かりやすいか。
「竜人船、発進!」
「心の準備は万全ですよ!」
心強い限りだと思います! 浄化砲により、小型サメの動きが鈍くなっている。そこに斬り込む!




