90話 発見、宝物庫
まずは作戦を考える。状況は毒ガエル戦に似ていた。ならば最初に大きい一撃を与えよう。まとまっているため、被害は大きいはずだ。
「マリアさん。炎雷砲の発射準備を頼みます。こちらの合図で撃ってください」
「任せて!」
風魔法による会話で、操舵室に連絡した。
「残った敵――毒ナマズは、炎雷丸に引き込んで倒しましょう。相手が土魔法を使うのなら、地面から遠ざけた方がいいと思います」
「同感です」
サクラさんも、同じ考えのようだ。土魔法が最大の効果を発揮するのは、地面に接しているときだ。船の高度を上げて、敵を呼び込めば土魔法は半減する。
「船の下は警戒が難しい。まともに攻撃を受けるのは、危険だからだな」
「その通りです」
俺が乗る飛空船の底は、防御を固めてある。どうしても真下は死角になるから、かなり強固な装甲と結界で守ることにした。しかし攻撃をされないに越したことはない。おおむね方針は決まった。マリアさんに発射の合図を送る。
『炎雷砲、当たれ!』
本日、二回目の発射。毒ナマズの群れを目掛けて、炎雷弾が飛び込んでいく。――次の瞬間、予想外の事態が起きた。魔獣の体が光り、土の壁が出現する。
「土魔法で防御だと!? こちらに気付いていたのか?」
「魔力に反応したとも考えられます」
強大な力が近付いたら、防衛反応が働くだろうしな。ただ土魔法の発動が早く、強力だったのは気になる。再び撃っても、また防がれるだけだろう。マリアさんに連絡し、炎雷丸の高度を上げてもらう。そして毒ナマズの群れに近付いた。
「毒ナマズが動き出した!」
「少数ずつ結界内に入れます!」
心配なのは浄化の魔力が続くかだな。場合によっては、魔力回復薬の世話になるかもしれない。
「まずは三体ですね。最初は一体で様子を見なくて、大丈夫でしょうか?」
「一体だけ入れるつもりでした。ただ近くにいた毒ナマズも、一緒に入ってしまったのです」
苦笑いを浮かべながら、サクラさんに答えた。まあ、入ったものは仕方ない。こうしている間にも、船の結界は外から攻撃されている。早めに終わらせよう。
「麻痺針、三体分だ!」
「雷の衝撃!」
ピヌティさんの針と、俺の雷魔法で攻撃を仕掛けた。二体の動きを止めることに成功する。残った一体は空中に土塊を作り出し、三人に向けて撃ち放った。しかし一直線の攻撃だ。俺は魔力の流れを感じながら、確実に避けることができた。二人も無事、回避している。
「秘刀術、一刃二鳥・浄!」
サクラさんの右手が光っている。正確には右手の甲だ。手背に左頬と同じような紋様が描かれていた。魔除けや浄化の力を込める術だろう。
刀の一閃で、一体が消滅。同時に周囲へ衝撃が走り、他の二体を巻き込む。しかし消滅には至らない。
「貫け!」
「浄化の矢、三連!」
俺とピヌティさんは、それぞれ別の毒ナマズを狙う。どちらも行動が封じられており、回避行動は取れない。難なく、討伐が完了した。
「この調子で、魔獣を倒していきましょう! また敵を入れますね!」
一声かけて、結界の一部を緩める。おかわりは、たくさんあるからな。テキパキいこう。
それから一時間弱。入れては倒すの繰り返しだ。あたりに魔石と素材が散らばっているな。ざっと見た感じ、希少な素材も落ちているみたいだ。このままでは次の戦闘に支障をきたす。素早く異空間倉庫に収納した。
『マリアさん、魔石の近くに寄ってください』
『了解!』
今は魔導無線機で通信している。普段は風魔法で連絡しているが、少し魔力を使い過ぎたため節約だ。
炎雷丸が瘴気の溜まり場を進んでいく。中心と思われる場所へ行くと、台座の上に魔石が置かれていた。
「ところでヤマトさん。どうやって浄化するのでしょう?」
「……大型飛空船からだと、魔石まで遠すぎますね」
サクラさんの問い掛けに、少し言い淀む。遠いなら、近付くしかないか。
「風雷号に乗り換えましょう。皆は炎雷丸で、待っていてください」
「護衛で一緒に行きますよ。何があるか分かりません」
それもそうか。サクラさんなら聖化粧術で、浄化も可能だしな。いざというとき、頼りになる。二人で風雷号に乗り込み、台座へ近付いた。手を伸ばし、魔石へ触れる。
「浄化の力よ、瘴気を消し飛ばせ!」
魔石を中心に、瘴気が浄化されていく。目論見通り、瘴気の流れが止まった。そして浄化された魔石が、再び周囲の瘴気を取り込み始める。
「どうやら魔石には、瘴気を取り込む性質があるようです。一定量が溜まったら、大木へ瘴気が流れる仕組みと考えられます」
「何のために、そんな仕掛けがあるのでしょう?」
「推測ですが、瘴気を浄化するためかと」
ただ瘴気が強すぎて、浄化が追い付いていないのだと思う。エンバー・Pの欠片が、浄化を邪魔しているとも考えられるな。
「もしかして放っておいたら、また瘴気を流すのですか?」
「おそらく、その通りだと思います。次の地点へ急ぎましょう」
俺たちは炎雷丸に戻り、今の状況を説明した。
「ならば急いで湖へ向かい、また瘴気の流れを遡るとしよう」
「ちょっと、待ってください。さっき魔石に触ったとき、同じような反応を、他に三つ感知しました。直接、魔石へ向かいます」
これで多少は時間の短縮になるな。時短、最高です。何より移動距離が短くなれば、魔獣との交戦が少なくなるだろう。
マリアさんに進行方向を伝えながら、まっすぐ進んでいく。数時間ほど経過したところで、ピヌティさんが声を上げる。
「遠方に建物を発見! 一つじゃない。あれは町だ!」
「もしかしたら町のどこかに、魔石があるかもしれません」
この瘴気の中でも原形を留めているとは、重要な町だったかもしれないな。
「あるとしたら神殿や宝物庫でしょうか」
「町の中心に置いてあるかも! ほら噴水みたいに!」
「いずれも、可能性は十分にあります」
それより今は入り方を考えるか。炎雷丸だと小回りが利かない。風雷号かボートの出番だな。そのまま町の入り口まで向かった。道の広さを鑑みると、中型飛空船でも通れそうだ。
「全員で風雷号に乗り換えましょう。それでも駄目なら、ボートを使います」
「炎雷丸は終わりか、ちょっと残念」
「また操縦する機会は、ありますよ」
マリアさんに慰めの言葉を掛けつつ、移動を完了した。改めて町に入る。
「前方に大きな建物が見えるな。宮殿みたいだ」
「そちらの方向に、魔石の存在が感じられます」
瘴気で汚染された町を慎重に進む。町の中にも魔獣がいる。厄介だな。宮殿の前まで来たら、大型のワニがいた。瘴気の影響を受けた毒ワニである。
「一体か。ヤマト殿、どうする?」
「毒ワニに風雷号の側面を向け、風刃翼を展開します。そこに誘き寄せて、戦いましょう」
「わかったわ。操船は任せてね」
マリアさんが船の動作を担当してくれれば、俺は結界と戦闘に集中できるからな。本当に助かる。さっそく準備して、作戦開始だ。
「風雷号、九十度旋回するよ!」
「ここで風刃翼、展開!」
後は船に引き入れる。
「貫通針、くらえ!」
見事に、命中。毒ワニがピヌティさんを狙い、結界内に突入した。そして目に見えて、動きが鈍る。浄化結界のおかげだろう。
「光の矢、三連!」
「合わせます! 斬!」
三本の光矢が魔獣の身体に、傷を負わせた。鈍い動きが、さらに鈍重となる。そこをサクラさんの斬撃。毒ワニが消滅していく。
「さすがに宮殿内は、風雷号が入りません」
「歩くしか、ないよね」
浄化魔法を維持しながら、徒歩で移動か。少し大変だが、文句を言っている場合ではない。先に進もう。建物内だから、一直線に魔石へ向かえない。回り道をしつつ、着実に目的地を目指す。
やがて壁に大きな穴が空いた、広い部屋が見えた。中心には台座があり、魔石が置かれている。そして周囲には、宝石や魔道具らしき物体があった。他には武具や魔法薬なども。それらが部屋中に、溢れている。瘴気に汚染され、詳細は分からない。宝物庫の、成れの果てか。




