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89話 再突入、カナトビ島

 カナトビ島を撤退してから、一週間が経った。今日は二度目の挑戦をする日だ。俺の浄化魔法は、一段階上の階梯(かいてい)を昇ったといえる。アカリさんも太鼓判を押してくれた。


「世の中には、理不尽なくらいの才能が存在するのですね。実戦に耐えるだけの、浄化魔法でしょう」

「ご指導ありがとうざいました!」


 アカリさんから、お褒めの言葉を頂いた。多分、誉め言葉だよな。


「くれぐれも残りの魔力量には、お気を付けください」

「承知しました。危なくなったら、また撤退することにします」


 このあたりは臨機応変に対応しよう。改めて挨拶を交わし、アカリさんが立ち去るのを見送った。


「こちらの準備は完了です」

「それなら出発しましょうか」


 今日のサクラさんは、左頬に紋様が描かれている。浄化や魔除けに効果のある聖化粧術と聞いた。(さか)さにした植物のように見えるけど、抽象化されて判別できない。魔除けなら紫陽花(あじさい)かな。


「フェリーでの突入かぁ。ワクワクするよ!」

「安全運転で頼みます、マリアさん。それと場所によって、風雷号と炎雷丸を使い分けましょう」


 炎雷丸は大型飛空船(フェリー)の名前だ。実戦へ投入するにあたり、名称を決定した。カイス王国に戻ったら、正式に登録する。フェリーの大きさだと、森の中では使えないはず。そのときは風雷号の出番となる。


「訓練の通り、戦闘は甲板が中心だな。必要に応じて、竜人船も出すのか?」

「そのつもりです」


 未開空域で竜人船トライバスターの実戦を行った。防御面に不安はあるけど、攻撃と機動は頼りになる。もう少し魔力消費が減れば、常用もできるのに。それより俺の魔力量が、跳ね上がる可能性を信じるか。


「マリアさん、よろしくお願いします」

「うん、任せて!」


 炎雷丸が発進しギントビ島を後にした。目的地は隣のカナトビ島。近いから、すぐに着くだろう。




 俺たちは、再びカナトビ島に突入した。導きの(さい)を確認しながら、エンバー・Pの欠片を目指す。


「浄化結界、発動!」

「綺麗な光ですね。何度も見ても美しいと思います」


 サクラさんが感嘆の声を上げた。ピヌティさんは結界を気にしつつ、警戒に専念している。マリアさんは操舵室で、甲板にはいない。


「上空にも魔獣が多いな。迂闊に高度を上げられないぞ」

「分かりました。森の上空を進めたら、楽だったのですが」


 魔獣の中には、自分たちのテリトリーに敏感な種が存在する。下手に縄張りに入ると、一気に群れが襲ってくるだろう。


「そこは予定通り、風雷号で進むしかないな」

「ええ、そうですね。ピヌティさん。引き続き警戒を、お願いします」


 しばらく進むと、魔獣の群れを発見した。仮称、カナトビ毒ガエルだ。瘴気で姿が変質して、魔獣の種類が特定できない。それで名前を付けた。まあ、毒ガエルだけでも分かるか。


「ヤマトさん、どうするのですか?」

「炎雷砲を使いましょう。その後は、竜人船トライバスターで各個撃破します」


 毒ガエルの群れは、一ヶ所に固まっている。かなりの数を減らせるはずだ。


「了解、マリアに伝える」


 話を聞いていたピヌティさんが、マリアさんに連絡をしてくれた。今から五分後に、戦闘開始とする。


「サクラさん、行きましょう。攻撃は、お願いします」

「お任せください!」


 二人で竜人船に乗り込んだ。甲板に出て、戦闘開始時刻を待つ。操縦席内の時計を確認した。残り三十秒。十秒。五、四、三、二、一。


『炎雷砲、発射だよ!』


 雷撃角から、炎雷弾が撃ち出される。直線攻撃の雷撃砲と違い、炎雷砲は榴弾型だ。着弾地点を中心に、周囲へ炎と雷を発生させる。毒ガエルの大半は、今の攻撃に巻き込まれ消失していく。


「残り三体!」

「竜人船、発進! 浄化魔法、発動!」


 ピヌティさんが、素早く敵の数を把握してくれた。結界の外に出る直前、竜人船の全体を浄化魔法で包む。これで攻撃に、浄化の力が付与された。


「まずは徒手格闘を試してみます!」


 飛び跳ねた毒ガエルを狙い、竜人船の拳による攻撃。右ストレートが決まった。浄化の力に包まれ、魔獣が消滅していく。


「ヤマトさん、通用しているみたいですよ!」

「よし! サクラさん。後は竜炎牙刀(りゅうえんがとう)で、お願いします」

「承知しました!」


 まず一体を上段からの斬り下ろしで討伐。続いて二体目、横一文字に一閃。毒ガエルは消滅していく。気のせいか竜人船が近付くと、動きが鈍くなったような。浄化魔法の効果だろうか。


「未開空域の魔獣より、動きが遅いですね」

「おそらく竜人船の周囲は、浄化の力が働いているからだと思います」


 魔石と素材を回収しよう。瘴気を払いながら、異空間倉庫にしまっていく。よし終わった、先へ進もう。すでに導きの賽は、六の目が光っている。炎雷丸で急げば、今日中に目的の場所へ着くかもしれない。


 ――しかし俺の希望的観測を嘲笑(あざわら)うかのように、多くの魔獣が立ちふさがった。共通する特徴として、瘴気の影響を受け変質していること。そのため明確に魔獣の名称が特定できない。大雑把な種族なら分かるけど。


「今日は、ここで休息を取りましょう」

「魔獣の襲撃も、一段落したからな」


 とはいえ、あくまで一段落。このままでは、夜の襲撃もありそうだ。結界を強化して、対処するしかないな。


「マリアさん、魔石を出してもらえますか。中の上あたりで」

「けっこう、奮発するんだね!」


 売れば相当な値が付く魔石だ。ちょっと惜しいけど、安全と安心には変えられない。一晩くらいは、十分に持つはず。結界を強化し、ゆっくりと休む。




 次の日、何事もなく目覚めた。魔獣が来たみたいだが、浄化結界に阻まれたのが分かる。だが魔石も潤沢(じゅんたく)にあるわけではない。今日明日にも片を付けたいと思う。手短に、出発の準備を済ませた。


「さて、出発します」

「今日中に欠片の場所まで、到着するでしょうか」

「おそらく、着くと思います」


 サクラさんの質問に、はっきりとは答えられない。だけど昨日と同じくらいのペースを維持できれば、到着するだろう。何度か魔獣と遭遇しつつ、船を進める。


 半日後、大きな湖に辿り着く。中央には大木が存在している。もしかして湖の底から生えているのだろうか。特筆すべきは、その瘴気量だろう。まだ距離があるはずなのに、近付いたら危険だと本能が警鐘を鳴らしている。


「ヤマト殿! 大木に魔獣が巻き付いている!」

「え!? 本当だ。瘴気に紛れて見えにくいですが、かなり強力な魔獣です!」


 ようやく姿が確認できた。巨大なヘビの胴体に四肢があり、頭には角が生えている。導きの賽は、あの魔獣を指していた。


「あれは、水竜か!」

「動く様子がありませんね、ヤマトさん。なぜでしょうか」

「瘴気と欠片の支配に抵抗しており、動くだけの余裕がないと考えられます」


 近付いて欠片を回収したいが、その前に解呪が必要だ。そして解呪のためには、周囲の瘴気を払わなければならない。どこかに突破口がないか、周囲の魔力と瘴気を探る。すると瘴気の流れに、気になる点があった。


「水竜に向かって、瘴気が四方から流れ込んでいるようです。先に瘴気の流れを止めましょう」

「場所は分かるの?」

「瘴気の流れと、反対方向に進もうと思います」


 正確な距離は分からないけど、近い場所のような気がする。


「なら先を急ごう。ここに留まれば、また魔獣に襲われそうだ」

「それは勘弁ですね。出発しましょう」


 それから数時間後、俺たちは瘴気の溜まり場を発見した。中心には核と思われる魔石がある。あれを浄化すれば、一時だけ流れが止まりそうだ。しかし周囲には、魔獣の群れがいる。


「大きいナマズでしょうか」

「地震とか起こしそうですね」

「土魔法を使うとは、聞いたことがあります」


 サクラさんの言葉を聞き、思わず顔をしかめた。異世界のナマズ、怖いな。しかも当たり前のように、空を飛んでいるし。とにかく戦闘準備だ。まだ向こうは、こちらに気付いていない。先制攻撃を仕掛けよう。

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