88話 練度向上、竜人船と大型飛空船
黒雲を生成しようとして、ふと気付いた。ここは大型飛空船の中だ。どうせなら外で試そう。飛空船の結界外に出ると、転移の難度が上がるはず。訓練するには、ちょうどいい。
「今から外に行きます。ピヌティさんとマリアさんは、人が来ないか見ててもらえますか」
「承知した。行こう、マリア」
竜人船の操作中に、人が近付くと危ないからな。俺たちは全員で外に出た。島民が何人か、様子を見に来たようだ。お騒がせしてすみません。
「始めましょう。黒雲、生成!」
人型飛空船を中心に、黒雲が広がる。
「転移!」
十分に広がったところで、空間転移の発動。
「わ、成功だよ!」
「この巨体が瞬時に移動するのか。脅威だな」
二人の声が聞こえた。どうやら上手くいったようだ。魔力の消費は大きいけど、実戦でも使えると思う。それでは次の段階に進むか。
「今度は離れた場所に、黒雲を生成するつもりです」
「私は攻撃の準備をしますね」
転移で現れた瞬間、奇襲をするわけか。鵺にやられた方法だ。
「サクラさんも不意打ちが好きになりましたか?」
「なりません! 戦闘で選り好みは危険だと、悟っただけです!」
なんだ。二人で奇襲談義ができると思ったのに。残念だな。そういえば秘刀術では不意打ちの方法とか、教えてないのだろうか。一つや二つは、ありそうな気もするけど。
「それはともかく開始しましょう」
「はあ、分かりました」
軽口を止め、自身の魔力を高める。
「黒雲転移!」
「切り裂け!」
移動の直後に、竜人船の斬撃が走る。成功だ。しかし魔力の消費が大きすぎる。連続での発動は難しいな。
「ヤマトさん。なかなか良かったのでは、ありませんか?」
「そうですね。切り札として使えると思います」
そろそろ竜人船トライバスターも、実際の魔獣狩りに運用してみるか。大型飛空船の操作は、マリアさんに頼もう。そのためには、フェリーの改造が必須だな。竜人船から降りて、他の二人と合流する。
「マリアさん、フェリーの操舵室に行きましょう。ピヌティさんの見張りと合わせて、二人で運用できるようにします」
「それなら魔導無線機の出番か。夢幻島で行った訓練が、役に立つときがきたな」
操舵室に向かいながら、大半の箇所を自動で動作するようにしていく。魔力の消費が増加しているけど、これは仕方ない。一通りの改造が終わり、試験運用を開始する。ピヌティさんは前方の甲板に行き、警戒についた。そこが魔獣との戦闘場所でもある。
「それでは、お願いします」
「大型飛空船、発進するよ!」
『了解』
魔導無線機も問題ないみたいだ。ピヌティさんの声が、クリアに聞こえる。マリアさんの操作で、フェリーが動き出す。消費するのは、俺の魔力だ。これくらいなら、実用も可能だろう。
「ヤマト君、平気?」
「問題ありませんよ。俺は竜人船に乗ります。そのまま、ゆっくりと動かしてください」
「わかった!」
俺はサクラさんと一緒に、格納庫へ向かうことにした。
「ここから黒雲転移を試してみましょう」
「かなり距離があると思いますが、大丈夫ですか?」
「鵺は前方から後方まで、転移していました。きっと成功しますよ」
飛空船内なら、黒雲の生成は難しくない。きっと上手くいくはずだ。――よし、転移成功。
「本当に操縦席ですね」
「サクラさん、動かしますよ」
残りの魔力量にだけは、気を付けなければ。操作中に魔力が切れたら、大変な目に合う。
「格納庫入口、開放!」
天井部分が動き出し、空が見えるようになった。
「しばらく操縦訓練を行います。気合を入れましょう!」
「もちろんです!」
早ければ明日にも、フェリーで未開空域へ行く。可能な限り、練度を高めておきたい。わずかな操作ミスが、自分も仲間も危険にさらす。しばし慣熟訓練の時間が続く。集中を維持しての操作だ。さすがに疲れが出てきたな。サクラさんに休憩の提案をしよう。
「いったん、休みましょうか」
「そうですね。あ、昼食を取っていません」
しまった。集中しすぎて、忘れていた。いいことではないな。気を付けよう。
「二人に声を掛けて、昼休憩にしましょう」
「賛成です」
せっかくなので、フェリーの食堂を使おう。料理は自分たちで用意するけど、雰囲気は味わえる。食事の準備をしていると、船の近くに大きな魔力を感じた。結界の中からでも、はっきり分かる魔力。おそらくアカリさんだと思われる。
甲板から、外を確認する。どうやら推測が的中したな。風魔法で声を運ぶ。
「ようこそ、アカリさん。とりあえず中へ入ってください。ご一緒に昼食でも、いかがでしょう? 東方の料理を、用意してあるのです」
「あら、ありがとうございます。まだ私も食べておりませんので、お言葉に甘えますね」
彼女も昼食を取っていなかったのか。それは、ちょうどいいな。浄化魔法の訓練について、相談もある。全力で接待するとしよう。
「アカリさんは東方料理、大丈夫ですか?」
「ええ。苦手な人もいるようですが、私は好きな方だと思います」
生モノが得意でない人の話は、たまに聞く。世間話をしつつ、食堂へ向かった。参考にしたのは、高評価の船内レストランだから設備は立派だ。気に入ってくれると嬉しい。
「ここが食堂です」
「お邪魔しますね」
中に入ったら、すでに食事の用意はできていた。五人分があるな。俺が食事に誘うと、分かっていたのだろう。
「食事の前に、一ついいですか。今日の夜に、軽い宴を開きます。村長からの伝言で、ぜひ参加してくださいとのこと」
「喜んで参加させてもらいます」
アカリさんが来たのは、それが理由か。夜の宴会、楽しみだな。最近、その土地ならではの珍味が好きになってきた。未開空域の島だからな。とんでもない食材があるかもしれない。
なごやかに食事が進んだところで、浄化魔法訓練の話を切り出した。指導を引き受けてくれると助かるのだけど。
「話は分かりました。ただ浄化魔法の指導となると、相応の報酬を頂きます」
「無論、適切な報酬を支払う所存です。しかし我々は、相場に詳しくありません。その点に関しても、ご指導いただけないでしょうか」
浄化魔法の訓練料金とか、分からないからな。
「費用に関しては、こうしませんか。浄化魔法の指導を、回復魔導師労働組合から受けたと公言してください。それを指導料の代わりとします」
「その制度は知っています。優秀な魔導師との関係を繋ぐものですね」
要は未来を嘱望される魔導師に粉を掛けて、コネを作る制度だ。よほど優秀でなければ、適用されない。今の俺が該当するかと言われると、ちょっと微妙だ。
「当然、ヤマトさんには実力を付けてもらいます。私が飛空船に泊まり込んで、指導しますから安心してください!」
「そこまで、してくださるのですか。ありがとうございます!」
まさか泊まり込みで、指導をしてくれるとは思わなかったな。訓練は朝と夜を想定していたから、本当に助かる。
「あ、分かった! アカリちゃん、風雷号の大浴場が目当てだね! 泊まり込みなら、お風呂に入るのは当然だから!」
「…………ヤマトさんは、優れた能力を持たれた方です。回復魔導師労働組合名誉聖女が協力しても、まったく不思議はありません」
答えになっていませんよ! いや、俺に不利益は無いから指摘しないけど。
「快く承諾していただき、ありがとうございます。指導の時間ですが、アカリさんの都合を教えてください」
訓練の時間は、朝と夜の二回で問題ないらしい。昼は診療所に行き、島民の様子を診るそうだ。
夜になり、島の宴会に参加する。思ったよりも、歓迎してくれた。鵺の討伐が大きいみたいだな。飲めや歌えやの時間が過ぎ、俺たちは風雷号に戻った。いい時間だったな。




