87話 強化、炎雷砲と黒雲転移
早朝、出発の準備は整った。カナトビ島へ出発する。昨日、アカリさんから島の名前を聞いた。ちなみに今いるのは、ギントビ島と呼ぶらしい。
「それでは出発しましょう。ただし今日は、様子見に徹します」
「承知しました。無理は禁物ですからね」
サクラさんの言う通り、無理はしない。賽を取り出し、行先を確かめる。相変わらず隠蔽効果の高い結界だ。俺だと、まったく見えない。ただし魔力は感じる。
「風雷号、発進!」
賽の導きに従い、一直線に船を飛ばす。進路方向には、何も見えない。大丈夫だろうか。しばらく進むと、目前に島が現れる。
「結界内に入りました!」
「中は瘴気に満ちている! ヤマト殿!」
「結界、強化!」
魔力が変質し周囲に害を及ぼすと、瘴気と呼ばれるようになる。見紛うことなき瘴気だ。少しでも気を緩めると、一気に結界が侵食されるだろう。結界の維持が大変だな。
瘴気の影響か、辺りは薄暗い。魔獣の姿を見落とさないように、気を付ける。
「マリアさん、操船を交代してください。俺は結界に専念します」
「了解!」
俺の使う結界には、浄化の力が備わっていない。魔力で無理矢理、瘴気を弾いている。だが弾いた瘴気は、結界に纏わりつく。移動すればするほど、影響が大きくなる。魔力の消費が、時間が経つに連れ激しくなるだろう。
「動物も植物も、濁った色をしていますね。斬ったら、刀に悪そうです」
「うーん、触りたくないね」
「エンバー・Pの欠片が、影響しているのだと思います」
この島にある大罪の欠片は、エンバー・Pだ。この状況なら、ほぼ確定だろう。欠片を回収すれば、元の島に戻るのだろうか。
「魔獣、発見! 一体!」
「マリアさん、止めてください!」
風雷号が停止した。魔獣の姿を確認。暗い紫色の身体をしたカエルだ。見た目からして、毒がありそう。
「大きいカエルですね」
「毒々しい色で、気持ち悪いよ」
二人とも感想を言いながら、戦闘態勢を取っている。近接戦は避けるか。遠距離からの攻撃で、一気に仕留めよう。
「マリアさん、合わせてください! 火の矢、七連!」
「任せて!」
カエルは飛び跳ねながら、まっすぐ向かってくる。五発の魔弾が当たる直前、大きく跳ねた。俺は火矢の軌道を変更。空中のカエルに向ける。空では身動きできなかったのだろう。七本の火矢が全て命中。火だるまにした。魔石と素材が落ちる。
「ヤマト殿。回収、どうする?」
「ちょっと無理ですね」
結界の外に出たら、一瞬で瘴気の影響を受けそうだ。瘴気も魔力の一種である以上、解呪魔法は通用するだろう。だが結界の中から、解呪魔法を使うのは難しい。制御を誤れば、結界の魔力が消えかねない。
「あ! 導きの賽が動いたよ!」
「六の目が光っています。かなり近いみたいですね!」
島に入ったばかりで、賽の目が変化するとは。今までの感触からすると、飛空船で一日くらいだろうか。
「行ってみますか?」
「いえ、撤退しましょう」
サクラさんの問い掛けに、首を横に振った。
「この瘴気ですと、結界が持ちません。対策を考えましょう」
「そうだな。島の中が、ここまで酷い状況とは思っていなかった」
「風雷号、反転するよ!」
俺たちは、そのまま引き返した。出発して二時間も経っていないけど、安全こそが第一だからな。
「港の近くまで来ましたよ」
「ちょっと緊張するけど、結界の中に入るね」
入港は少し難しい。操作をしくじれば、結界に衝突だ。緊張しない方が、おかしいと言える。
「お疲れ様でした、マリアさん」
「無事に着陸しましたね。ただ刀を振るう機会が、ありませんでした」
次に行ったとき、存分に振るってください。さて今後の予定を、考える必要がある。だけど、その前に飛空船や結界の様子を確認しよう。瘴気を持ち込んだら、大変なことになるからな。――よし、問題ない。
休憩室でお茶を飲みつつ、作戦会議をする。
「浄化魔法の訓練をします。結界に浄化力を付与できれば、最善ですね」
「結界の強化だな。しかし、そんな簡単に可能なのか?」
もちろん簡単ではない。ただカナトビ島の探索をするなら、最低条件だと思う。
「期限は一週間。それで駄目なら、他の手を考えましょう」
「ヤマトさんが魔法訓練をするなら、私たちも個人で技を磨きますね」
「待ってください。浄化の訓練は、朝と夜に行うつもりです。昼間は未開空域で、魔獣を狩りましょう」
訓練の時間が短くなるのは、かなり痛いけどな。アカリさんに指導を頼めないか考えているけど、報酬をどうするかだな。専門技術を教えてもらうのに、無報酬はないだろう。
「魔石が足りないからだね」
「その通りです」
浄化魔法を覚えても、結界の維持が困難だ。魔石で必要なエネルギーを賄う。未開空域なら、多くの魔獣が生息している。討伐が可能であれば、魔石の入手には困らない。
「それと飛空船の強化もします」
「まだ鵺の素材も、使っていませんでしたね」
大型飛空船のことを、周知されてからと考えた。村長は島民に伝えたらしいけど、一日くらいは置いた方がいいと思ったのだ。サクラさんから話題も出たし、鵺の素材を使ってみるか。
「そろそろフェリーを召喚しても構わないでしょう。飛空船強化、試してみます」
「船の強化、楽しみ!」
中型船から降りて、素材を取り出した。意識を集中し、魔力を高める。
「飛空船、強化!」
風雷号が光を放つ。どんどん力が流れ込んでいく。強化する前とは、一味違う船になったのを理解した。
「見た目は、変わっていないな」
「ですが中身は別物ですよ」
ピヌティさんの言葉は正しい。外観は変化していない。だけど俺には分かる。今の船は、さっきまでとは比較にならない。
「二つの新能力が、使用可能となりました。まずは炎雷砲」
「もしかして鵺の魔法攻撃ですか!」
サクラさんが驚愕の声を上げた。雷撃角が赤く染まり、周囲に蒼い稲妻が走る。だが、ここで発射するのは危険だ。すぐ元に戻した。
「そして、もう一つ。黒雲生成!」
「あの嫌な雲!」
率直な感想だな、マリアさん。だけど今度は、俺たちが利用できる。黒雲が風雷号の周りに広がった。
「風雷号、転移!」
「魔獣が使っていた高速移動か! いや待て、転移だと?」
ピヌティさんは、少し誤解をしていたようだ。
「これは闇と時空の属性を持つ、空間転移のようです。黒雲がある場所ならば、どこでも移動ができます」
「ほう、なるほど。便利そうだな」
考えてみたら、アカリさんは明確に空間転移と言っていた。
「一つ試したいことがあります。格納庫に行きましょう」
「大型飛空船を召喚するのですね」
騒ぎにならないことを祈りつつ、フェリーを召喚した。事前に連絡してもらったし、大丈夫だよな。飛空魔法を発動し、四人で前方の甲板に乗り込んだ。そして格納庫に降りる。竜人船トライバスターが、変わらず存在していた。
「ここで何を試すの?」
「ちょっと見ててください。黒雲、生成!」
黒き雲を作り出す。場所は自分の周囲と、竜人船の操縦席内。直接は見えないが、無事に成功したのが感覚で分かる。今度は飛空船ではなく、自分自身の移動に挑戦だ。
「転移!」
瞬間、目前の景色が変わる。黒雲の中だから少し分かりにくいが、俺は操縦席に移動できたみたいだな。
「黒雲、転移」
そして元の場所に戻った。
「これは凄い。直接、搭乗できるのか」
「私も一緒に移動できますか?」
「可能だと思いますよ」
さっそく試してみよう。サクラさんと二人で、黒雲の中に入る。操縦席の雲は維持してあるから、そのまま空間転移を発動。成功したのを確認し、元の位置へと戻る。異常は無さそうだ。
「不思議な感覚ですね。迷宮の転移とは、また少し違うような」
「そのうち慣れると思いますよ」
次は竜人船ごと転移できるかだな。魔力の消費に気を付けつつ、挑戦してみる。




