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86話 手土産、大放出

 少し考えて異世界の件を(のぞ)き、事情を話すことにした。特に夢幻島については、伝えた方がいいだろう。ソウルスキル・飛空船創造についても話した。この島には格納庫が無い。人目を忍んで、スキルを使うのは難しい。――少し時間が掛かったけれど、おおむね島に来た事情を話し終えた。


「個人のこと意外は、全て話しました。様子見だけでも、させてもらえますか?」

「分かりました。ただ十分に、お気を付けください。それと大型飛空船を、召喚するのですよね。島民に連絡します。しばし、お待ちを」

「ご迷惑をお掛けします」


 万全の準備を整えるため、フェリーも使う。格納庫には竜人船トライバスターが置いてある。鵺の素材で強化すれば、ワンランク上を目指せるはずだ。


「ねえ、聖女様! どうして貴女は、この島に来たの?」

「できればアカリと呼んでください。同年代の方に言われると、仲間外れみたいで寂しいです」

「じゃあ、アカリちゃん! どうして島に来たの?」


 その理由は、俺も気になる。彼女が島に来てから、一年も経っていないと聞いた。新参者と言うわけだ。自動車の運転免許だったら、初心者マークが必須だな。


「名誉聖女の称号を(たまわ)ったとき、先祖のことを思い出しました。意味は異なれど、聖女の名を冠したのも何かの縁かなと。それで一目、島を見てみようと思い立ったのですよ」

「思い切りましたね」


 サクラさんが、感嘆の声を上げた。


「こちらでも聖女の名を受け継いだのだろう。そして、ここに留まっている。大変ではないのか?」

「私よりも大変な方が、多かったのです。それに先代の聖女は高齢で、無理をさせては倒れてしまいます」


 アカリさんが来たとき、魔獣との傷が癒えない者も多かったらしい。治療をしているうちに、評判が鰻登り。先代からの指名もあって、聖女の役目を受け継いだと語った。


「よく島まで、辿り着きましたね。未開空域は危険だったでしょう」

「私のソウルスキル・安らぎの声があればこそ、なんとか到着できました」


 やはりソウルスキルの使い手か。この魔力量だからな。不思議とは思わない。


「私たちに話しても、構わないのですか?」

「ヤマトさんは、正直に話してくださいました。私だけ隠すのも、感じが悪いと思いますので」


 しかも詳細な内容まで、教えてくれた。声が届く範囲に、特殊な効果を及ぼすスキルだ。対象は選別できて、魔獣を回復するなどは避けられる。安らぎに属するなら、様々な効果が発揮可能だ。たとえば寝る前にリラックスしたり、傷を癒したりだな。そして敵に対しては闘争心を鎮めたり、永遠の安らぎを与えたり。ちょっと待った。永遠の安らぎ?


「最後、怖いのですけど」

「安心してください。危険な魔獣か、悪党にしか使いませんよ」

「それなら大丈夫だね!」


 マリアさんが、本当に安心している。それから、しばらく話を続けた。他愛のない会話で、盛り上がっているな。




 やがて、村長が戻ってきた。


「お待たせしました。今いる住民には、もうすぐ伝達が行き届くでしょう。空魚漁(そらうおとり)に出ている者たちは、細かいことを気にしない性格なので問題ありません」

「さすがに大型飛空船があったら、驚くと思います」

「大丈夫ですよ。先日から周辺空域の主が姿を見せず、はりきって外に出ています。豊漁で帰ってくれば、大型船の一つや二つは気にしないでしょう」


 そうなのか? 島の歴史上、大型船の来訪は無かったみたいだけど。まあ、村長が言っているのだ。大丈夫だろう。それより主というのが、気になる。


「ヤマトさんは、見ませんでしたか。(ぬえ)と呼ばれる魔獣です。機動性が高く、神出鬼没で困っています」

「奴のせいで、空魚も取り辛いのですよ」


 アカリさんと村長の言葉で、思い当たる。あいつか。危険な魔獣だった。


「回復魔導師労働組合の情報によると、魔法攻撃や機動能力に優れます。特に黒雲を利用した空間転移は、極めて厄介。反面、耐久力は低いみたいですね」

「それなら途中で討伐したな」

「結構な被害を受けましたけど」


 一歩間違えれば、大惨事だったな。


「再び相対したくは、ありませんね」

「ホント。もう二度と会いたくないよ!」


 サクラさんとマリアさんに、心の底から同意したい。ふと気付くと、アカリさんが目を見張っていた。


「結構な腕前で。天時(てんじ)級上位の魔獣を倒したのですか。鵺は身の危険を感じると、全力で逃げます。討伐の難しさでは、地利(ちり)級に匹敵すると聞きました」

「完全に劣勢からの、紙一重の勝利でしたよ。ところでアカリさんも、その魔獣区分を知っているのですか」


 魔獣狩り協会などで、使われている区分だ。下から人剣(じんけん)、天時、地利、人和(じんわ)となる。個人が倒せるのは、地利級が限界と聞く。人和級は、国家が総力を挙げて挑む存在だ。


「治療した人から、聞き取り調査も行いますから。各組織の区分は、だいたい頭に入っていますよ」

「それは凄いですね」


 俺たちに気を遣って、この区分で説明してくれたのかな。所属組織については、村長が戻ってくる前に話した気がする。


「もう、あの魔獣に怯える必要は無いのですな! いや、めでたい。感謝します、ヤマト殿!」

「別の魔獣が、新しく主になると思いますよ」


 喜びに水を差して申し訳ない。


「奴が現れる以前は、警戒を立てることで上手くやっていたのです。いきなり黒雲に覆われ、気付いたら襲われる恐怖。それが解消されるだけでも、ありがたい」


 神変出没こそが、最大の恐怖か。分かる気がするな。黒雲を利用した瞬間移動は、本当に脅威だった。


「お役に立てて何よりです」

「ヤマトさん。例の物を、お渡ししませんか」

「あ、そうでした。村長、手土産を用意しております。どうか、お納めください」


 交渉が難航したときの、買収用も兼ねているからな。良い物を準備した。印象も良くなるだろうし、全て渡してしまおう。迷惑料の代わりだ。島で余った魔獣素材を融通してもらえるかも、という下心もあるけど。


「これは、ご丁寧に。ありがたく、いただきましょう」

「どこか広い場所は、ありますか?」


 この部屋では、入りきらないだろう。隣の倉庫に案内してもらった。異空間倉庫から、土産品を出していく。場合によっては、島民を一人ずつ懐柔していく気だったからな。量は十分だ。


「手土産という規模でしょうか。離島に対する支援物資ですね」

「呼び方は、ご自由に」


 アカリさんが驚いているな。そして村長は固まっている。この土産のほとんどは、夢幻島への物品寄付で集まったものだ。事情を説明して、流用させてもらった。意外なほど、快く許可を出してくれたな。


「本当に頂いても、よろしいのですか?」

「どうぞ遠慮なく。はるか西の国から、いろいろと持ってきましたよ」


 もう少しスンシュウでの滞在が長ければ、東方の品も多く用意できたのだけど。一日の仕入れだと、限界があった。

 あらかた用事は済んだので、飛空船へ戻ることにした。未開空域は緊張の連続だ。今日は身体を休めたい。アカリさんと村長に挨拶をしてから、この場を立ち去ろう。




「ここが風雷号の休憩室。良い部屋ですね」

「ありがとうございます」


 アカリさんに飛空船を見たいと言われ、案内することになった。興味深そうに、辺りを見回している。そして脱衣所に気付いた。船の設備について、説明する。


「大浴場、素晴らしい!」

「自慢の風呂ですよ」


 完成するまでに、莫大な魔力を使ったからな。


「よろしければ、ご利用ください」

「いいのですか!? ありがとうございます!」


 島の設備では、風呂に入るのも一苦労だとか。お湯は魔法で何とかなる。問題は排水らしい。ここに魔導通信販売機があれば、お風呂セットを用意できたのだが。


「お礼に健康診断をしましょうか。もちろん治療も。明日は手が離せませんけど、明後日以降なら大丈夫だと思います」

「医療の知識が、あるのですか?」


 どうやら彼女の両親が、医師夫婦だったらしい。母方の家系に医者や回復魔導師が多く、アカリさんは両方の知識や技術を磨いたとか。さすがは聖女の一族。血の成せる(わざ)か。いや本人の研鑽(けんさん)があってこそだな。話を聞いて、そんな風に感じた。


 アカリさんは他の皆と風呂に入ったあと、夕食を共にした。明日は朝から隣の島に行く。そのためにも今日はしっかり食べて、しっかり休む。酒は止めておこう。酒は止めよう。……でも一杯くらいなら、いいかもしれない。

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