84話 炎雷、装備談義
結界の前方部分を弱めた。正面から、鵺を船内へ進入させる。突撃に合わせて、風雷号を動かす算段だ。
「ピヌティさん。魔獣の位置確認を頼みます。後方は無視して構いません。前方に現れたとき、教えてください」
「了解」
出現から突撃までの時間は短い。正面に捉えるために、前方のどこかに出現するまで待つ。また高度も重要となる。高すぎても、低すぎても駄目だ。飛空船の上昇下降には、少し時間が掛かる。無理に船体を傾ければ、戦闘に支障をきたす。
「10時の方向、角度80!」
「駄目です! 高すぎます!」
やはり、そう都合よく出現しないか。何度か繰り返すが、上手くいかない。飛空水晶収集を思い出すな。ただ一つ違うのは、敵からの攻撃があるということ。まだ結界は大丈夫だが、無限に耐えられるわけではない。
「1時の方向、角度10!」
「来た! 風雷号、方向転換!!」
雷撃砲は使わない。あれは魔力消費が激しいからな。そして鵺に有効か分からない。雷で身体を強化していた。耐性があると考えた方がいい。
「来ましたね。斬り伏せます!」
「高度が下がった! 射撃は無理だよ! みんなに当たっちゃう!」
完全に射線が通らない位置だ。俺の魔法も工夫する必要があるな。
「氷の槍、発動! 八連!」
鵺の上空に氷槍を発生させた。数は八。飛空船内は俺の領域。どこにでも魔法を発動させることが可能だ。はっきり気付いたのは、最近のことだけど。
何発か命中した。氷の力で、動きが少し鈍くなる。その隙にサクラさんが動く。
「秘刀術、抜きの技、一刃専心!」
鵺の突撃に合わせ、居合術で切り裂いた。だけど敵の勢いは止まらない! 防御魔法を使う!
「光の鎧!」
「ぐっ! 助かります!」
発動速度を優先した魔法だ。衝撃を緩和するのが精一杯だった。とにかく追撃を防ぐ。魔獣を吹き飛ばそう。俺が魔法の発動を意識したとき、鵺が自ら距離を取る。刀の間合いから逃げるように、高度を上げた。
「ヤマト殿! 黒雲だ!」
「解呪魔法、発動!」
ピヌティさんの言葉を聞き、瞬時に魔法を発動した。解呪系は力を入れて訓練している。無事に黒雲の発生を阻止できた。
「これなら撃てるよ!」
マリアさんの援護射撃。五発、また五発。予備の魔導銃を使ったみたいだ。半分以上は当たった。傷も負わせている。だが倒れない。
鵺の鳴き声。そして魔獣の目前に、巨大な炎が現れる。また炎の周囲には、蒼い稲妻が走っていた。炎と雷。双方の力を、兼ね備えた魔法だろう。
「光の壁!」
俺が作った魔法障壁は、たやすく突き破られた。だが炎雷の威力は削いだはずだ。あとは各自の魔法防御力に頼るしかない。
魔法の着弾点は、俺とピヌティさんの間。そこを中心に、炎と雷が広がる。全員が被害を受けていた。皆が身に着けている服は、魔法の威力を軽減する特殊効果を持つ。それでも傷を負っていた。
「嘘! 二発目!?」
「飛空魔法、発動!」
傷を癒す時間は無い。さきほどの炎雷を連続で受ければ、重傷者が出る恐れがあった。俺は風魔法で、空中に移動する。魔獣の近くで静止した。上から見ると、船の床が完全に破壊されているのが分かる。
鵺へと突撃。相手の注意を引く。この高度なら、全員で範囲魔法を受けることはない。俺か船の三人か、片方だけが対象になるはずだ。つまり全滅は免れる。無事な方が、治療に回るだろう。眼前に炎雷が迫る。速すぎて、防御魔法は間に合わない。全身の魔力を高め、敵の魔法から身を守った。
「ヤマトさん!?」
「サクラはヤマト殿を連れて、後方に下がれ!」
「マリア! 魔導治療薬をサクラに!」
「今、出すよ!」
――気付いたら、船の床にいた。三人の慌てている声が、うっすらと聞こえていた。ピヌティさんが、指示役を務めてくれている。高速思考術を再発動した。普段から使っているが、魔法攻撃のダメージで途切れたらしい。
「爆裂針! しばらく私が相手をする!」
回復の時間を稼いでくれているのか。俺を抱きかかえているのは、サクラさんだな。高速思考術の効果で、はっきりと意識はある。だけど身体が付いてこない。
「治療薬あった、使って!」
「はい! ヤマトさん、飲めますか!」
大丈夫です――言葉にしたつもりだが、まともに口が動かない。半開きになったくらいだ。
唇に柔らかな感触。直後、液体が喉を通った。少しだけ力が戻る。左手をサクラさんの頭に回した。後ろ髪を撫でながら、軽く頭を押さえる。それだけで、意図を察してくれた。身体の内側から、命の力が溢れ出す。命力増幅の発動。
「癒しの光よ、皆に届け!」
上級範囲治癒魔法の発動。命力増幅なしでは、まだ使用不可能な魔法だ。
「助かる!」
「ピヌティ! 下がってください!
サクラさんが最前列に出て、入れ替わりにピヌティさんが中央へ行く。
「マリアさん。残っている魔石を、燃料に変えてください」
「了解!」
俺はサクラさんのサポートだ。彼女が接敵するまで、わずかな時間がある。
「束縛を招く、極光の鎖!」
「後は任せてください!」
光属性の上級拘束魔法。光の鎖が、鵺の動きを封じた。赤、青、緑。鎖は常に色を変え、鮮やかな光を放ち続ける。
「秘刀術、刺突奥義、刃突猛進!」
魔力を最大限まで込めた、渾身の一突き。吸い込まれるように、鵺の身体を貫いた。サクラさんが刀を納めるやいなや、魔獣の身体が消滅していく。魔石と複数の素材。回収だけして、後で確認だな。
「終わりましたね」
「無事ですか! ヤマトさん!」
「問題ありませんよ。当たる瞬間に、全力で防御しましたから」
しかし、あの炎と雷を合わせた魔法。厄介だったな。単純な足し算ではなく、別の属性を生み出したように見えた。勉強になる。
それより、急いで飛空船を動かすか。未開空域だと、一ヶ所に留まるのは危険だ。周辺に魔獣の姿は見えないけど、油断はできない。
「もう、びっくりしたわ。でも大丈夫なら、良かった!」
「空から落ちたときは、どうなることかと。心臓に悪かったぞ」
マリアさんとピヌティさんにも、心配を掛けてしまったな。ただ話をするのは、後にしよう。
「とりあえず、風雷号を動かしましょう。それから順番に着替えますよ」
みんな服がボロボロだ。それだけ炎雷の威力が大きかった。さて命力増幅の効果が残っている内に、可能な限り進もう。
――着替えも済み、心が落ち着いてきた。警戒を続けながら、今回の戦闘を、振り返ることにした。例によって、風魔法で会話をしやすくしている。
「俺から二つ、提案があります。まず大型飛空船の実用を考えましょう」
「賛成だ。一度の範囲魔法で、全員が効果の対象となったからな。チームが壊滅する恐れもあった」
同感です。
「それから防御面の向上です。今までは機動性を理由にして、防具を疎かにしていました」
「そうだよね。あたしも今の装備だと不安だわ」
マリアさんは、主に後方担当だ。そして本業は商人である。近接戦を専門にする二人よりも、装備が劣っているのは否めない。
「ヤマトさんは、どうですか? 普段着と戦闘服で、あまり変化が見られないのですが」
「実際、ほとんど変わっていませんよ」
時間を見つけて、探してはいる。ただ一つ問題があった。
「俺の場合は、魔力干渉を起こしやすいみたいです。そのため戦闘用でも、魔力の弱い服を着ています」
「なるほど。潜在魔力が高い者ほど、干渉を受けると聞いたな」
中途半端に強い防具ではなく、干渉を受けない弱い装備にしていた。今回のような強敵でなければ、自身の防御強化だけでも十分だったからな。干渉を受けない強い防具になると、オーダーメイドになりそうだ。
「いずれ夢幻島の魔獣と、戦うときが来るでしょう。しかし、このままでは不可能です」
「優れた防具なら、ミディフラ共和国が有名だよ!」
「私も知っています。アキツ国から見て、西の大陸にある国ですね」
「レイシア大陸のことか。ただ現在、封鎖中だな」
俺たちが通過する予定だった大陸か。一ヶ月ほど前のことになるし、封鎖が解けていればいいけど。話を続けながらも、飛空船を動かし続ける。




