82話 買取、農工具と装飾品
朝が来た。布団から出て、身支度を整える。これからサクラさん以外は、風雷号に移動する。明日の出発準備があるからだ。彼女だけは引き続き実家に泊まってもらい、早朝に合流の予定である。朝食の後、ムラクモさんに挨拶へ伺う。
「いろいろと、お世話になりました」
「こちらこそ世話になったな。また、いつでも来るといい」
そして他の人たちにも、別れを告げる。町へ出たら、まっすぐに飛空船発着場を目指した。格納庫に入り、風雷号の近くまで進む。
「今から点検と調整だったな」
「そうですね。道中での損傷は、修復していますので」
ほとんどは自己修復機能だけで、問題がないからな。直接、修復したのは数えるほどだ。
「なら私は動作の確認作業に回ろう」
「あたしも手伝うよ!」
「お願いします。マリアさんは確認した項目の、記録を取ってもらえますか」
しばらく三人で動き続け、ようやく作業が一区切りついた。だが今日の本番は、これからだ。
「風雷号に、新しい機能を付与します」
「何を追加するのだ?」
「雷撃砲の発射装置を創るのです」
今は俺だけしか雷撃砲を使えない。それを改善したい。
「具体的には、操舵席に雷撃砲用の引き金を設置します」
「もしかして、あたしでも使えるようになるの?」
魔導銃を使うマリアさんだ。やはり射撃に関することは、気になるのだろうな。興味を持ってくれた。
「もちろんです。誰でも使えることを、念頭に置いていますから」
「凄い! どうすればいいの!?」
俺は操舵席に行って、飛空船創造スキルを発動する。操舵輪の右側に、拳銃型の発射装置を創った。
「これを使えば、撃てます。魔導銃と一緒ですよ」
「じゃあ、さっそく!」
いや、ちょっと待った!
「そのまま撃ったら、危険すぎます! 格納庫の壁を壊しかねません!」
「そ、そうだよね。試射は止めとくわ」
「魔力を調整すれば、試し撃ちも可能です。もう少し待ってください」
言ってから気付いたが、ここは特別枠の格納庫だよな。結界も相当に強固だ。高威力の雷撃砲でも、防ぐかもしれない。万が一を考えたら、試すことはできないけど。実際に使うまでは、念のためロックを掛けておくか。
「ところで訓練場はどうする?」
「そちらも手を加えます」
専門のトレーニングルームが欲しかったのだ。今なら屋内プールなんかも作れそうだ。娯楽専門の部屋も作りたいけど、まだ少し魔力が心許ない。しばらく、お預けだな。
「大型飛空船も改造しましょう。風雷号で可能なことは、フェリーでもできるようにしたいですね」
「上位互換を目指すわけだな」
もう少し魔力に余裕があれば、それぞれに特化した船も面白そうだけどな。娯楽施設だけを強化した船とか。
「格納庫が広くてよかったよね。大型船も召喚できるわ」
「本当に助かりますよ」
ということでフェリーを召喚。細かな改造に着手する。魔力を使って疲れはするが、楽しい時間でもある。しばらく作業に没頭した。気付いたら、魔導通信機から呼び出し音が聞こえる。小走りで移動し、手に取った。
「こちらヤマトです」
「受け付けでございます。タツオ様とユリエ様が面会に来られているのですが、いかがいたしましょうか」
「知り合いですので、通してください」
どうしたのかな。とりあえず大型飛空船は送還しておく。見せたことは一度もないからな。いきなり船が増えたら、疑問に思うだろう。
――来たみたいだ。中に入ってもらおう。ピヌティさんとマリアさんは、風雷号で作業を続けている。ちょっと手が離せないらしい。
「ヤマトさん! お邪魔します!!」
「うるさくして、すみません。タツオ、静かにね」
「構いませんよ。他に人もいないですし」
格納庫は防音も完璧だ。騒音問題には強い。
「それで、今日はどうしました? 遊びに来たなら、歓迎しますよ」
「いえ、報告です! 俺たち、迷宮へ挑戦することにしました!」
これ、止めた方がいいのかな。しかし強く言ったら、反発すると思う。それとなく、言ってみよう。
「危険だと思いますよ。鍛冶の腕を、活かさないのでしょうか」
「迷宮の噂を聞き、国中の鍛冶師が集まっているようでした。俺たちには、人脈もありません。働き口を探すのは、難しそうです」
新しく発生した大規模迷宮だ。これをチャンスと捉える人も多いだろう。目前の二人も、似たような感じだし。
「避難した人を目当てに、農工具を販売すると言っていたのは?」
「国からの援助が出て、必要な道具は支給されると聞きました。それと避難した人の中には、鍛冶師もいるそうです。働く場所を斡旋しているとか」
ああ、それはそうか。流通の少ない農村だと、鍛冶師の存在は必須だよな。自分たちで道具を賄わなければ、仕事にならない。そして避難民の仕事がなければ、国も困ることになる。支援はするか。
「さらに貸工房を借り上げて、村の鍛冶師に安く貸し出しているようです。正直、当てが外れて困りました」
「差し出がましいとは思いますが、故郷に戻り準備を整えた方がよろしいのでは。そこまで送りましょうか」
故郷まで送るのであれば、数日ここに泊めても問題ないしな。手紙くらいは、出してもらう必要があるけど。二人は揃って、首を横に振った。ユリエさんが、静かに口を開く。
「私たちの生活は、始まってもいないのです。今のまま戻ることは、できません」
「それで少しでも生活の足しにするため、迷宮に行こうと考えました」
本気で迷宮を攻略する気なら、構わないとは思う。というか、俺が口を出すことでもない。しかし二人は生活のために、仕方なく挑むらしい。こうなると話は少し違う。このまま見過ごして重傷でも負ったら、寝覚めが悪い。
「販売用に持ち込んだ品物は売れましたか?」
「農工具は少しだけ売れました。ただ大量に売るのは、難しいですね」
「私の製作した武具は、まったく売れていません。わずかに装飾品だけは売れましたけど」
二人は異空間倉庫袋の中に、販売用の品を持っていた。道中で少し見せてもらったけど、良い出来だったと思う。しかし実際に売るとなれば、大変だろう。飛び込みでの商談は難しい。とりわけ武具は、命に関わるからな。新規の契約は、困難を極める。
「まだ品物は残っているのですよね」
「たくさん、あります。俺とユリエで時間を掛けて、作り続けましたから」
「大変でしたよ。家の資材を使えば、絶対に疑われます。外で働いた収入で材料を購入し、製作を行いました」
本来なら少しずつ資金と販売品を用意して、準備が完了してから二人で独立する予定だったとか。ただ新しい迷宮が発生したと聞いて、自制が効かなくなったみたいだ。
「それなら手持ちの農工具と装飾品は、俺たちが買い取りますよ。見本分を残して、全てです」
「いいのですか! ありがとうございます!」
「ただし大量購入ですから、多少の値引きはしてください」
これは夢幻島の開拓資金から出すつもりだ。使い方は任されているし、事後承諾でも問題ない。値引き率によっては、俺たちも助かる。
「もちろんですよ! だけどヤマトさんは、大丈夫でしょうか。売れなかったら、在庫を抱えることになります」
「俺は開拓の支援をしているので、そちらで農工具は使います。装飾品は小物が多いですから、異空間倉庫魔法なら十分に保管が可能です」
いざとなれば、大型飛空船に積み込んでもいい。フェリーの積載量なら、相当に余裕がある。あとはユリエさんの武器や防具か。夢幻島の現状だと、使えないだろうな。全員が自前の武具を持っている。メンテナンスを担当してくれたら、助かるのだけど。いっそ二人をスカウトするか。……さすがに遠すぎて無理だな。保護者の許可を得れば別だが。
「残念ですけど、武具は買い取れません」
「そう……ですよね。いえ。農工具や装飾品を、引き取ってもらえるのです。本当にありがとうございます!」
言いながら、タツオさんが頭を下げる。ユリエさんも続いた。頭を上げてもらい、さっそく取引に移る。その場で品物を受け取り、代金を支払った。ずいぶんと単価を安くしてくれたようだな。
無事に商談は成立した。しかし根本の解決には、なっていない。時間を稼いだだけだ。迷宮に入るなら、ちゃんとした訓練をした方がいいとは伝えた。今の料金だけで、数ヶ月分の生活費と訓練費用にはなる。
次の日、サクラさんと合流した。実家を満喫できたらしい。家族との時間は大切だよな、多分。それと新しい技を覚えたと聞いた。ちゃんと身体は休めたのだろうか。少し心配だ。欠片の件が片付いたら、スンシュウ町で長めの休みを取ろうと思う。さて、そろそろ出発しようか。




