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81話 町歩き、着物と食事そして図書館

「ヤマトさん、これからどうしますか? 予定よりも早く、商談がまとまりましたよね」

「町を見て回りましょう」


 それから昼食だな。今日の夜は、またサクラさんの家に厄介となる。夕食は一緒にいただくが、昼は外で食べると伝えた。

 町を歩いていると、本当に道場が多い。ほとんどは、秘刀術に関連しているみたいだ。たまに別の道場もあるけど、競合が大変ではないだろうか。


「……少し雰囲気が変わりましたね」

「サクラは三年以上、帰っていなかったのだろう。変化もするさ」


 ピヌティさんは、周囲に視線を配りながら会話をしている。きっと珍しい風景を、楽しんでいるのだろう。俺も昔の邦画に入った気分だ。ただ内部は非常に発達している。魔導文明の影響だと思う。


「気になるのは、武装した人間の多さでしょうか」

「さっきから、よく見るよね」


 迷宮を目当てに、集まった人たちか。


「揉め事が起こらないと、いいのですけど」

「俺たちも、気を付けましょう」


 自分から騒ぎを起こす気はないが、いざこざに巻き込まれる恐れはある。危険な人物には、近寄らないようにしなければ。


「ところで近くに図書館はありますか?」

「少し遠いですね。食事を先にした方が、いいかもしれません」

「なら買い物して、お昼ごはん。それから図書館だね!」


 マリアさんの言う順番で、異存はない。各種の商店が集う通りに行き、売り物を眺めていく。気になる店があったら入り、手に取ってみる。食料や日用品は注文してあるから、見ているのは趣味の品だ。


「サクラの着ている服。売っている場所はあるか?」

「あたしも知りたい!」


 ピヌティさんとマリアさんが、和服に興味を持ったようだ。


「ありますよ。近いです」

「それじゃあ、行きましょうか」


 サクラさんに続き、歩いていく。時代を感じさせる呉服店に到着した。さっそく中に入ろう。ただ俺は見ているだけかな。


「ヤマトさん、他人事のように考えていますね。あなたも一着、仕立てませんか? 正装を用意しておくと、いざというときに役立ちますよ」

「……そうですね」


 心配なのは予算か。正装となると、安物は止めた方がいい。ただ罰金の支払いは、まだまだ続く。予定外の出費は避けたい。行商の利益は、大半がチームの資産だからな。勝手には使えない。相談してみるか。


「せっかくなので、みんな一着ずつ買いませんか。予算は共有資金から出すということで」

「あたしは賛成!」


 マリアさんが、まっさきに声を上げた。


「商売の利益も大きかったしな。構わないだろう」

「素晴らしい考えですよ!」


 二人の同意も得られた。俺は正装を探す。サクラさんが、手伝ってくれた。黒羽二重五つ紋付と呼ばれる、男性和装の第一礼装を購入する。彼女自身は、普段は着ない色の服を選んでいた。ピヌティさんとマリアさんは、祭で着るような服を買ったみたいだな。




「少し時間が掛かりましたね。遅くなりましたけど、昼食にしましょう。案内しますので、希望があれば言ってください」

「ヤマト君に決めてもらったら? 故郷と文化が似ているのでしょ」


 嬉しい気遣いだな。たしかに食べたい物は、たくさんある。何をリクエストしようか。


「今日の夕食は、お寿司を頼む予定です。それ以外に、しましょうか」

「ワサビ丼は、ありますか?」


 この地方では、山葵(わさび)が特産品と聞いた。


「すぐ近くの蕎麦屋で、出していたはずです。行ってみましょう」

「聞き慣れない料理だな。ワサビというのは、東方の調味料だったと思うが」


 魔導通信販売機でも売っているけど、かなり高価だった。香辛料は高い傾向にあるし、仕方ないと考えよう。

 蕎麦屋へ入ると、四人用の席へ通された。時間が遅かったからか、店内に人は多くない。メニューを見たら、和佐比(わさび)丼の記載がある。これだな。生ワサビは付かないのか。


「私もワサビ丼にしましょう。ソバや天ぷらは、アキツ国の外でも食べる場所がありますので」

「ふーむ。私はワサビ丼と十割そばを頼もう」

「あたしは、ワサビ丼の小盛り。それと、ざるそばかな」


 俺はワサビ丼の大盛りにした。あと四人で食べるように、天ぷらの盛り合わせだ。注文を済ませ、しばし待つ。――来た! ご飯の上にカツオ節とワサビが乗っている。味噌汁も付いてきた。


「ワサビにかからないように、お醤油を回しかけてください」


 店員の言葉を聞き、実行する。準備は整った。それでは、いただきます! 美味い。シンプルに美味い。味噌汁もいいな。ときおり天ぷらを交えつつ、ワサビ丼を食べていく。


「美味かった! いい店ですね、サクラさん!」

「そうでしょう。よく昔は通ったものです」


 話をしていると、年配の女性店員が近付いてきた。机の上に袋を置く。けっこう大きいな。


「やっぱりサクラちゃんだね。帰ってきてたの。お父さん、良くなったと聞いたわ。これ、主人から快復祝い」

「まあ、ありがとうございます!」


 ご夫婦で経営しているのか。店の主人に頭を下げる。袋の中身は天ぷらみたいだな。しかし図書館には持ち込めない。断りを入れて、異空間倉庫に収納した。

 でも、ちょっと待て。なぜ昨日の今日で、快復したと知っているのか。商店会のネットワークかな。


「ごちそうさまでした」

「よかったら、また来ておくれ。サクラちゃんを、よろしくね」


 しっかり食べて、腹がくちくなる。今から図書館に向かおう。少し遠いらしいけど、腹ごなしの散歩にちょうどいい。




 図書館に到着する。和風の建物で、雰囲気も良さそう。入る前に、調べる内容を相談しておくか。


「まずは伝説の島について、調べましょう。それと封印を監視する、守り人の一族もです」

「島の場所は分かるんだよね」

「厳密には、欠片の場所が分かるだな。島に欠片があるというのは、我々の推測でしかない」


 ピヌティさんの言葉を聞き、ふと思った。


「昔は島にあったけど、今は外に出ていることも考えられます」

「先に守り人を探しましょうか。詳しい話を聞けるかもしれません」


 島の様子を知っているのは、その一族だからな。欠片のことも、聞いてみる価値はある。サクラさんの提案に乗るか。俺は彼女の言葉に頷いた。


「ただし大っぴらに探すのは、控えましょう。もし隠れ住んでいたら、迷惑を掛けるので。それと敵に回す恐れもあります」

「人に聞くのは、慎重にした方がいいのですね」


 秘密を暴こうとしてズンバラリンとか、笑い話にもならない。まずは紙の資料を探してみよう。手分けして、情報を集めていく。――しばらく単独で調べた後、会議用の小部屋を借りた。


「思ったよりも、しっかりした記録がありますね」

「そうだな。有力な手掛かりもあった」


 封印の島が見える所で、守り人は暮らしている。隣り合った島みたいだな。ただし、どちらの島にも結界がある。通常の方法では入れない。結界を張る担当者は、聖女と呼ばれ敬われた。強い魔力を持った女性が、聖女の役目を引き継ぐ。


「まずは賽の示す方角に行きましょう。もし島があっても入らずに、周囲を探索します」

「結界の解除方法も書かれていましたけど、信用できるのですか?」

「公表していたら、隠れて暮らす意味が無いよね」


 サクラさんとマリアさんの懸念は理解できる。だけど俺は信じても構わないと、そう思う。


「守り人も一枚岩ではないみたいですよ」

「著者は一族の人間だが、他者との交流を主張していたのか。それで島の外に出て、守り人の存在を記した」


 ピヌティさんは、俺の書いたメモを見ながら呟いた。今のままだと一族の衰退が免れない。そのため外に出て、打開策を探そうとしたらしい。

 そして外部の人間が守り人と会えるように、結界を通る方法を残した。どうやら外に出るときに、特定の言葉で通れるよう細工をしたみたいだ。


「結界無効化の言葉は『我は一族を去りし者、されど一族の繁栄を願わん』です。信じてみませんか?」

「分かりました。行ってみましょう」


 俺の言葉に、サクラさんが頷く。他の二人も賛成してくれた。話がまとまったところで、そろそろ戻るとしよう。手早く片付けて、図書館の外に出た。




 俺たちはサクラさん宅に戻る。道場でムラクモさんとソウセキさんが、剣の稽古をしていた。休憩時間を見計らい、外出から帰った旨を伝える。そして居合の指導を、してもらえることになった。形稽古用の鞘付き木刀が大活躍だ。晩御飯までの時間、ひたすら訓練に励む。


 今日の夕食は、弟さんと妹さんがいる。合計九人の賑やかな時間となった。寿司が美味い。昨日は飲みすぎたし、酒は控えめにする。緑茶と寿司も、いいものだ。今日は落ち着いて、食事を楽しもう。

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